英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

プロの矜持 その2「小林裕士七段 ~順位戦C級1組・対堀口七段戦」

2017-08-16 17:24:17 | 将棋
(関連記事『プロの矜持 その1「気象予報士」』

……堀口一史座七段……
 研究派であるが、その研究を実戦中の考慮で検証し、テーマを持って対局に臨んでいた印象がある。そのため、長考が多かった記憶がある。
 2005年9月2日の順位戦B級1組青野照市との対局で、56手目の一手に、昼食休憩を挟む5時間24分の記録的な大長考をしている。堀口七段は研究で負けになると結論していた局面に陥り、負けの結論を逃れるべく、大長考をしたが、結局、起死回生の手を見つけられず、研究通りに進め、敗れている。
 2013年ごろに体調を崩し、ほぼ一年間休場。その後は低迷している。通算成績は395勝338敗(0.539)、今年度は1勝5敗(0.167)。

……小林裕士七段……
 形に囚われず、切り込む読みで乱戦を指しこなす印象がある。通算成績は433勝298敗(0.592)で、かなりの高率。並の棋士はもちろん、時には、強豪棋士もぶっとばしてしまう棋力の持ち主。第26期竜王戦では木村一基(1回戦)、畠山鎮(2回戦)、松尾歩(準決勝)、豊島将之(決勝)を破り、ランキング戦2組優勝し、本戦出場。1組昇級した(現在は3組に在籍)。
 今年度は5勝3敗(0.625)。

 堀口七段も力戦を厭わないタイプなので、本局は激しい将棋となった。

 後手の小林七段が8筋に戦力を集中し突破を計ったのに対し、先手の堀口七段が▲2五飛と後手の攻めの主力である銀を攻める。
 第1図以下、△8六歩▲7五飛△8七歩成▲同銀△同角成▲8三歩△同飛▲8四歩△同飛▲8五歩(第2図)と、激しくやり合う。


 以下△7七馬▲同桂△8二飛と、一段落したかと思えたが、先手「角」対後手「金+歩2枚」、先手の歩切れに対し後手は歩を4枚保持と、やや分が悪い先手が▲8三銀と拳を振り下ろしたのが第3図。


 △8三同飛には▲7二角が厳しい。(1)△7二同金は▲同飛成が王手飛車取り。(2)△7三飛は▲同飛成△同桂▲6一角成で先手がよさそう。(3)△5二飛にはどうするか。(棋譜中継の解説を引用)
 まず、表記的に厳密に言うと、(1)△7二同金と(2)△7三飛は▲7二角に対する応手で、(3)△5二飛は▲8三銀に対する応手なので、正確な描写ではない。
 強引な▲8三銀を相手にしない△5二飛を主として考えたいところだが、小林七段は強く△8三同飛と応じる。
 以下、▲7二角△7三飛▲同飛成△同桂▲6一角成(第4図)と進む。


 しかし、この応酬は後手が損をしたと見る。
 後手は飛車交換に持ち込んだという利があるが、金銀交換のやや駒損の上、守備の一翼を担っていた後手の6一金の代わりに先手の強力な攻め駒の馬が占めているのが大きいマイナス(▲6一角成は▲5一角△3一玉▲4二金△同金▲同角成△同玉▲5二飛△3三玉▲5一馬以下の詰めろ)。

 5二に飛車が退くのが気に入らないのなら、▲8三銀に対しては△6四金とする手はなかったのか?
 ▲7六飛と逃げては△7五歩で悪いので▲8二銀成だが、△7五金と飛車を取り返しておけば、飛車交換は互角以上で、6一の金は健在、7五の金は先手玉への圧力になっている(次に△7六歩と打つ手が厳しい)。

 それはさておき、第4図以下△8八飛▲7八金△8九飛成▲7九金△9九龍▲7二飛(▲7一飛の方が良いような気がする)△3一玉と進み、▲4一角(第5図)が飛び出す!


 この角はタダであるが、取ると▲5二馬△3一玉▲7一飛成で詰まされてしまう。
 小林七段は、△9八龍▲5九玉を決めた後、△4二香(第6図)と受けたが…


 以下、▲5二馬△3三銀▲7一飛成で、後手小林七段が投了。


 この局面で小林が投了した。投了以下、▲3二角成△同玉▲3一金△2二玉▲2一金以下の詰めろが受けづらい。△1四歩には、▲3二角成△同玉▲4一馬がある。(中継解説より引用)

 華々しい乱戦、最後に小林七段の大技▲4一角が炸裂し、終局となった。


 しかし、第6図の△4二香では△4二金打と受ける手はなかったのか?
 棋譜中継解説でも、「△4二金打と受けるとどうするか。▲6三角成は△3三銀とされると寄らなくなってしまう。▲5一馬△3三銀▲4二馬△同銀の変化は、難しい」とある。
 △4二金打と受けていたら、おそらく熱戦が続いていただろう(一旦、△9八龍▲5九玉を決めて△4二金打もありそう)。


 さて、ここからが本題。

 後手の小林七段は、第1図の▲2五飛に対する△8六歩に昼食中継を挟んで48分考えて、通計消費時間は1時間17分となった。
 しかし、この後、投了時の通計消費時間は1時間34分。つまり、△8六歩の後は17分しか消費していない。
 早指し派の小林七段が△8六歩を指す時に48分考えているので、かなり先を読み込んでいたのかもしれない。
 ▲8三銀(第3図)に対しての△同飛(4分の考慮)も、指せると見通しを立てての指し手なのだろう。

 しかし、▲4一角(2分)に対する△9八龍(4分)▲5九玉(7分)△4二香(1分未満)▲5二馬(4分)△3三銀(1分)▲7一飛成(1分未満)に、投了(1分未満)。
 急転直下で敗勢となった△9八龍~△4二香はわずか5分未満の考慮である。
 プロの矜持があるとは、到底思えない!


 
 第1図の直後の△8六歩に対する▲7五飛に、堀口七段は2時間25分の大長考!
 また、第4図の直後の△8八飛に対する▲7八金(金を使うことで後手の詰めろがほどける)に1時間12分の熟慮しているが、その他はさしたる長考はない。相手の考慮中に考える早指し派は多いが、本局の場合は違うように思える。(堀口七段の2回の長考に嫌気がさしてしまったのだろうか?)
コメント
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