世界陸上が終わった。(←若干、旬を過ぎた言葉ですが、録画したのを昨日ようやく見終えました)。
開催中、当ブログの「2013世界陸上」関連の閲覧数が増えていました。「世界陸上 解説者」という検索ワードが多かったので、世間でも解説者に対する不満が多かったのかなと思っています。
ただ、前回の世界陸上に関する当ブログの記事は
『2013世界陸上 その1「新谷無念、絶望のラスト1周」』
『2013世界陸上 その2「やっぱりTBS……残念な中継、解説者、インタビュアー」』
『2013世界陸上 その3「解説者を解説?」』
の3記事で、競技内容に関するものは「その1」のみで、あとの2つは中継や解説者に関するものなので、世界陸上に関する世間の関心や不満が、解説者に対するものだけとは言えません。
それはともかく、私自身、今回も解説者や中継に対する不満を感じました。
増田明美氏
今までも何度も取り上げていて、言及する気にならないが、後に振り返ることなどを考慮して、記しておく。
氏の解説の特徴を一言で言うと、「“解説”ではなく、“おしゃべり”」であること。
選手の趣味や家族構成などの調査力は特筆すべきではあるが、解説者として要求されるのは、レースの分析である。ところが、選手の疲労度やペースの上下などにはほとんど触れず、“おしゃべり”に終始する。氏にとっては、自分の掴んだ情報を披露することが第一義なのであろう。
彼女の“おしゃべりぶり”は「第6回横浜国際女子マラソン」をご参照ください(今、読み返してみても、当時の私の怒りを読み取れる)
今大会においては、マラソンの解説でも不満を感じたが、酷かったのは女子5000m決勝。
スタート直後、尾西美咲選手と鈴木亜由子選手が先頭に立つのを見て、「すごい、すごい。世界のトップランナーに臆せず、先頭を引っ張る両選手の“度胸”が素晴らしい」とその積極性や度胸に感嘆した。このレースに限らず、増田氏は先頭に立つなどの積極性を高く評価する傾向がある。もちろん、先頭に立つことはレース戦略上の意味があるが、増田氏はその戦略性を深く考えているようには思えない。それが、顕著だったのは『2013世界陸上 その1「新谷無念、絶望のラスト1周」』。
その時も、増田氏は「新谷仁美選手の“度胸”が素晴らしい」と感心していただけで、新谷選手のレース戦略についての考察はなかった。今回、先頭を引っ張る日本選手を、前回大会の新谷選手の戦略とだぶらせており、増田氏の若干の改善を感じたが、新谷選手と今回の日本選手とでは、その意識の違いに差があり、同等扱いするのは妥当ではないと考える。(鈴木選手の戦略はやや新谷選手と近いものがあった)
長距離種目においてのレース戦略は、その選手の目標によって変わってくる。
①金メダル、あるいはメダル獲得などの順位優先
②自己記録の更新などのタイム優先
③経験を積む
短距離種目においては①と②は比例することが多く、よいタイムを出せば成績も上位に食い込めるのだが、長距離走はレース展開や駆け引きが重要な要素となり、よいタイムを出すことが順位に繋がらないことも多い。
順位を優先するならば、より自分の得意なレース展開にすることが第一になる。
タイプを大別すると
A.常時速いペースで走り、持ちタイム(ゴールタイム)も早い(ペースの上げ下げに弱い)
B.持ちタイムは遅いが、ラスト1周や最後の直線勝負が早い(ペースの上げ下げに強い)
となるが、もちろん、トップランナーはA、Bを兼ね備えている。
日本選手の場合はAタイプ。アジア大会では、気温の関係もあるが、遅いペースで走り、ラスト1周勝負で敗れてしまうことが多々あった(最近はカタールなどケニア、エチオピアからの移籍選手が多く、ハイペース勝負でも厳しくなってきている)。
前回大会・10000mの新谷選手は、かなりのハイペースで引っ張り、Bタイプの選手を振り落とし、トップランナーのラストの足を削ごうとしたが、敵わなかった(30分56秒70と自己記録を更新し5位入賞したが、失意の底に沈んだ)。
鈴木選手は「8位入賞、ベストタイムが目標」だったようだ。理想は「ベストタイムのペースでレースが推移し、先頭集団でついていく」展開だが、そう都合よく進むことは望めず、世界大会では順位優先のスローペースで進み、いきなりハイペースに切り替わることが多い。それなら、先頭に立ち、自分の設定したペースで走った方が力が発揮できるし、Bタイプの選手を脱落させることもできる。
尾西選手も、目標は鈴木選手と同程度だと思われるが、スタート位置がインコースだったので、普通に走っては集団に飲み込まれるという意識から、先頭に出たとのこと。しかし、「1000mを3分ちょいちょいくらいのペースで行けば」と語っていたので、先頭に立ったのは偶発的ではなく、主要レースプランだったのだろう。
③の経験の意義で、先頭を引っ張ってみるという選手も少なくない。
で、増田氏の解説(おしゃべり)であるが、1000m手前で
「鈴木選手が高校時代に手術を受けた際、夏目さんという陸上クラブの先生に一番お世話になっていて、鈴木選手が今あるのは、夏目さんのおかげ。
今回、夏目さんは鈴木選手の名前の「亜」の字をデザインしたポロシャツを応援団全員に作ってきている」
という情報を得々と語っていて、聞き手(実況アナウンサー)もやや辟易気味。
1000m通過後、男子高跳び決勝、女子やり投げ決勝に切り替えられ、レースは3000mを経過しており、2000m通過後アヤナ(エチオピア)がペースを1000m2分48秒に上げ、鈴木、尾西の日本選手はもちろん、トップ集団はどんどん脱落していく状況だった。
ここまで来ると、増田氏もさすがに情報の披露もすることもできないが、3600m辺りで1500mを制したゲンゼベ・ディババ(エチオピア)も振り切られる状況になると、
「ディババ得意のラスト勝負に持ち込めないハイペースとなり、このペースを呼んだのは、鈴木、尾西選手の積極的な走りですよ」
と語るが、それは違う。
今期のシーズンベストの1位がアヤナ(前回大会3位)が14分14秒31、で2位がディババで14分15秒41であるが、その差は約1秒とほぼ互角。ディババは今シーズン1500mの世界記録を更新、今大会でも優勝しているので、おそらく、ラスト勝負はディババが有利。そこで、ハイペースで展開し、ラスト勝負に持ち込ませないのが、アヤナの戦術であっただろう(この点は増田氏も同じ見解)。
そのハイペースは1000mを2分45秒程度で5000mに換算すると13分45秒。世界記録はティルニシュ・ディババ(ゲンゼベの姉)の14分11秒15であるので、超ハイペース。
鈴木、尾西選手が引っ張った2000mまでは、1000m3分2秒、3分4秒なので、レベルの違うハイペースで、日本の両選手がこのハイペースを読んだのかは疑問である。ただ、アヤナといえど、最初からレースを引っ張るのは無理で、ディババに軽い負担を与えつつ、ロングスパートの余力も残せる絶妙な2000mの入りだったとも考えられる(きっと、増田氏はそこまで考えていない)。
とにかく、そのハイペースが功を奏し、アヤナは14分26秒83で優勝。ディババはテェフェリ(エチオピア)にゴール直前で抜かれ、14分44秒14で3位に終わった。ディババは1500m予選、準決勝、決勝、5000m予選と合わせて、5本目のレースで疲労があったのかもしれない。
ハイペースにはついていけなかったものの、鈴木選手は3分2秒(~3000m)、3分1秒(~4000m)と踏ん張り、ラスト1000mは2分57秒と特筆すべき頑張りを見せ、15分8秒29の9位でゴールインした。この頑張りは、入賞に拘ったことによる(その点については後日)。
尾西選手もよく粘り、15分29秒63の14位だった。
鷲見梓沙選手は16分13秒65で予選敗退。
【参考:日本歴代10傑】 ウィキペディア・5000mの項より
1 14分53秒22 福士加代子 2005年7月8日
2 15分03秒67 弘山晴美 1998年8月5日
3 15分05秒37 小林祐梨子 2008年10月18日
4 15分06秒07 赤羽有紀子 2008年7月13日
5 15分08秒29 鈴木亜由子 2015年8月30日
6 15分09秒05 志水見千子 1996年7月28日
7 15分09秒96 絹川愛 2011年6月12日
8 15分10秒20 新谷仁美 2012年8月7日
9 15分11秒42 早狩実紀 2005年7月23日
10 15分12秒76 小崎まり 2003年6月8日
ほとんど解説になっていない(解説したとしても、適切ではない)。
鈴木選手のラストでも「現在8位ですよ(正確には8位争い)。8位…がんばれぇ~、ファイト…がんばれえ~!」と叫んだだけ。アヤナの残り1週から、3~5位がゴールするまで無言だった。(無言の方が有難いが)
増田氏の解説は女子マラソンだけにしてほしい。(本当はマラソンも勘弁してほしい)
次に、登場する解説者は……鋭い方は予想がつくかもしれません。
開催中、当ブログの「2013世界陸上」関連の閲覧数が増えていました。「世界陸上 解説者」という検索ワードが多かったので、世間でも解説者に対する不満が多かったのかなと思っています。
ただ、前回の世界陸上に関する当ブログの記事は
『2013世界陸上 その1「新谷無念、絶望のラスト1周」』
『2013世界陸上 その2「やっぱりTBS……残念な中継、解説者、インタビュアー」』
『2013世界陸上 その3「解説者を解説?」』
の3記事で、競技内容に関するものは「その1」のみで、あとの2つは中継や解説者に関するものなので、世界陸上に関する世間の関心や不満が、解説者に対するものだけとは言えません。
それはともかく、私自身、今回も解説者や中継に対する不満を感じました。
増田明美氏
今までも何度も取り上げていて、言及する気にならないが、後に振り返ることなどを考慮して、記しておく。
氏の解説の特徴を一言で言うと、「“解説”ではなく、“おしゃべり”」であること。
選手の趣味や家族構成などの調査力は特筆すべきではあるが、解説者として要求されるのは、レースの分析である。ところが、選手の疲労度やペースの上下などにはほとんど触れず、“おしゃべり”に終始する。氏にとっては、自分の掴んだ情報を披露することが第一義なのであろう。
彼女の“おしゃべりぶり”は「第6回横浜国際女子マラソン」をご参照ください(今、読み返してみても、当時の私の怒りを読み取れる)
今大会においては、マラソンの解説でも不満を感じたが、酷かったのは女子5000m決勝。
スタート直後、尾西美咲選手と鈴木亜由子選手が先頭に立つのを見て、「すごい、すごい。世界のトップランナーに臆せず、先頭を引っ張る両選手の“度胸”が素晴らしい」とその積極性や度胸に感嘆した。このレースに限らず、増田氏は先頭に立つなどの積極性を高く評価する傾向がある。もちろん、先頭に立つことはレース戦略上の意味があるが、増田氏はその戦略性を深く考えているようには思えない。それが、顕著だったのは『2013世界陸上 その1「新谷無念、絶望のラスト1周」』。
その時も、増田氏は「新谷仁美選手の“度胸”が素晴らしい」と感心していただけで、新谷選手のレース戦略についての考察はなかった。今回、先頭を引っ張る日本選手を、前回大会の新谷選手の戦略とだぶらせており、増田氏の若干の改善を感じたが、新谷選手と今回の日本選手とでは、その意識の違いに差があり、同等扱いするのは妥当ではないと考える。(鈴木選手の戦略はやや新谷選手と近いものがあった)
長距離種目においてのレース戦略は、その選手の目標によって変わってくる。
①金メダル、あるいはメダル獲得などの順位優先
②自己記録の更新などのタイム優先
③経験を積む
短距離種目においては①と②は比例することが多く、よいタイムを出せば成績も上位に食い込めるのだが、長距離走はレース展開や駆け引きが重要な要素となり、よいタイムを出すことが順位に繋がらないことも多い。
順位を優先するならば、より自分の得意なレース展開にすることが第一になる。
タイプを大別すると
A.常時速いペースで走り、持ちタイム(ゴールタイム)も早い(ペースの上げ下げに弱い)
B.持ちタイムは遅いが、ラスト1周や最後の直線勝負が早い(ペースの上げ下げに強い)
となるが、もちろん、トップランナーはA、Bを兼ね備えている。
日本選手の場合はAタイプ。アジア大会では、気温の関係もあるが、遅いペースで走り、ラスト1周勝負で敗れてしまうことが多々あった(最近はカタールなどケニア、エチオピアからの移籍選手が多く、ハイペース勝負でも厳しくなってきている)。
前回大会・10000mの新谷選手は、かなりのハイペースで引っ張り、Bタイプの選手を振り落とし、トップランナーのラストの足を削ごうとしたが、敵わなかった(30分56秒70と自己記録を更新し5位入賞したが、失意の底に沈んだ)。
鈴木選手は「8位入賞、ベストタイムが目標」だったようだ。理想は「ベストタイムのペースでレースが推移し、先頭集団でついていく」展開だが、そう都合よく進むことは望めず、世界大会では順位優先のスローペースで進み、いきなりハイペースに切り替わることが多い。それなら、先頭に立ち、自分の設定したペースで走った方が力が発揮できるし、Bタイプの選手を脱落させることもできる。
尾西選手も、目標は鈴木選手と同程度だと思われるが、スタート位置がインコースだったので、普通に走っては集団に飲み込まれるという意識から、先頭に出たとのこと。しかし、「1000mを3分ちょいちょいくらいのペースで行けば」と語っていたので、先頭に立ったのは偶発的ではなく、主要レースプランだったのだろう。
③の経験の意義で、先頭を引っ張ってみるという選手も少なくない。
で、増田氏の解説(おしゃべり)であるが、1000m手前で
「鈴木選手が高校時代に手術を受けた際、夏目さんという陸上クラブの先生に一番お世話になっていて、鈴木選手が今あるのは、夏目さんのおかげ。
今回、夏目さんは鈴木選手の名前の「亜」の字をデザインしたポロシャツを応援団全員に作ってきている」
という情報を得々と語っていて、聞き手(実況アナウンサー)もやや辟易気味。
1000m通過後、男子高跳び決勝、女子やり投げ決勝に切り替えられ、レースは3000mを経過しており、2000m通過後アヤナ(エチオピア)がペースを1000m2分48秒に上げ、鈴木、尾西の日本選手はもちろん、トップ集団はどんどん脱落していく状況だった。
ここまで来ると、増田氏もさすがに情報の披露もすることもできないが、3600m辺りで1500mを制したゲンゼベ・ディババ(エチオピア)も振り切られる状況になると、
「ディババ得意のラスト勝負に持ち込めないハイペースとなり、このペースを呼んだのは、鈴木、尾西選手の積極的な走りですよ」
と語るが、それは違う。
今期のシーズンベストの1位がアヤナ(前回大会3位)が14分14秒31、で2位がディババで14分15秒41であるが、その差は約1秒とほぼ互角。ディババは今シーズン1500mの世界記録を更新、今大会でも優勝しているので、おそらく、ラスト勝負はディババが有利。そこで、ハイペースで展開し、ラスト勝負に持ち込ませないのが、アヤナの戦術であっただろう(この点は増田氏も同じ見解)。
そのハイペースは1000mを2分45秒程度で5000mに換算すると13分45秒。世界記録はティルニシュ・ディババ(ゲンゼベの姉)の14分11秒15であるので、超ハイペース。
鈴木、尾西選手が引っ張った2000mまでは、1000m3分2秒、3分4秒なので、レベルの違うハイペースで、日本の両選手がこのハイペースを読んだのかは疑問である。ただ、アヤナといえど、最初からレースを引っ張るのは無理で、ディババに軽い負担を与えつつ、ロングスパートの余力も残せる絶妙な2000mの入りだったとも考えられる(きっと、増田氏はそこまで考えていない)。
とにかく、そのハイペースが功を奏し、アヤナは14分26秒83で優勝。ディババはテェフェリ(エチオピア)にゴール直前で抜かれ、14分44秒14で3位に終わった。ディババは1500m予選、準決勝、決勝、5000m予選と合わせて、5本目のレースで疲労があったのかもしれない。
ハイペースにはついていけなかったものの、鈴木選手は3分2秒(~3000m)、3分1秒(~4000m)と踏ん張り、ラスト1000mは2分57秒と特筆すべき頑張りを見せ、15分8秒29の9位でゴールインした。この頑張りは、入賞に拘ったことによる(その点については後日)。
尾西選手もよく粘り、15分29秒63の14位だった。
鷲見梓沙選手は16分13秒65で予選敗退。
【参考:日本歴代10傑】 ウィキペディア・5000mの項より
1 14分53秒22 福士加代子 2005年7月8日
2 15分03秒67 弘山晴美 1998年8月5日
3 15分05秒37 小林祐梨子 2008年10月18日
4 15分06秒07 赤羽有紀子 2008年7月13日
5 15分08秒29 鈴木亜由子 2015年8月30日
6 15分09秒05 志水見千子 1996年7月28日
7 15分09秒96 絹川愛 2011年6月12日
8 15分10秒20 新谷仁美 2012年8月7日
9 15分11秒42 早狩実紀 2005年7月23日
10 15分12秒76 小崎まり 2003年6月8日
ほとんど解説になっていない(解説したとしても、適切ではない)。
鈴木選手のラストでも「現在8位ですよ(正確には8位争い)。8位…がんばれぇ~、ファイト…がんばれえ~!」と叫んだだけ。アヤナの残り1週から、3~5位がゴールするまで無言だった。(無言の方が有難いが)
増田氏の解説は女子マラソンだけにしてほしい。(本当はマラソンも勘弁してほしい)
次に、登場する解説者は……鋭い方は予想がつくかもしれません。