英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

『Q.E.D 証明終了』 最終回「立証責任」

2009-03-14 23:24:29 | ドラマ・映画
【あらすじ】(番組ホームページより)
 もうすぐ春休み。可奈(高橋愛)たちの高校で、裁判員制度導入のための模擬裁判が行われることになった。クラスの代表として想(中村蒼)が裁判員に選ばれた。しかし想はMITの研究プロジェクトの誘いを受けてアメリカに帰ることになり、模擬裁判の日が最後の登校になるという。
 想が学校を辞めてしまうと知った可奈は、「燈馬君の人生なんだから。」とあっさり答えるが、本当は心穏やかではない。可奈も裁判員になり自分の頭だけで想と同じ答えが出せたら、想を止める権利が与えられるのだと衿子(ちかげ)に背中を押される。
 ある春休みの日、模擬裁判が始まった。裁判長(田村亮)は「有罪を立証しない限り、無罪である」と可奈たち裁判員にルールを説明し、ある強盗致傷事件の審理が進められる。借金を抱えた青年が女性を殴り、現金を奪ったというが、事件そのものを目撃した証人はいない。検察官(飯田基祐)と弁護士(原千晶)が証言をめぐって尋問するのを目の前にして、可奈はなんとか自分の力だけで結論を導こうとする。評決で無罪に手を上げる可奈。果たして想は!?

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 最終回は裁判員制度の模擬裁判と、想がアメリカに帰ることになり、揺れる二人の気持ちがテーマ。

 模擬裁判は面白かったです。

★裁判員制度のルール(裁判のルールと言った方がいいかもしれません)
(模擬裁判が始まる前に裁判長が説明した)
1.被告人は有罪判決が下るまで無罪と考える〔無罪推定の原則〕
2.被告人の有罪を証明する全責任は検察側にある(被告人は無罪であることを証明する必要はない)
3.有罪とするには「合理的疑いを挟まぬ証明がなされればよい」。(被告人が犯罪を行ったのは、まず間違いないと自分自身確信することができ、他の者もそう思うだろうなあと思える程度の証明)

裁判中に説明
4.黙秘権…質問に被告が答えたことは、被告にとって有利にも不利にもなるので、質問に答えない権利がある

★冒頭陳述 検察官

Ⅰ 被告の経済状況。鹿児島より上京後、コンビニ店員、ホストなど7度職を変え、収入が安定していない上、故郷の音楽仲間と再会し、バンドを組むことになり、ローンにてギターを購入、35万の借金があった。

Ⅱ 事件の状況。被害者を殴り、現金の入った銀行の封筒を奪おうともみ合いになる。通報で駆けつけた警察官が公園で被告人を発見、犯人と背格好が似ていたため職務質問をしたら、突然逃走した。捉えてみると、盗まれた銀行の封筒入りの現金15万円を持っていた

Ⅲ 被告人は身勝手な理由で、罪もない被害者を傷つけ、お金を奪った

★冒頭陳述 弁護人

 動機の否定。被告人は自分のやりたいことを探すため、いろんな職に就いて頑張ってきた。今回、夢だった音楽を再びやろうと決心した。そんな矢先に犯罪など犯すとは思えない

 盗まれたお金を持っていたのは、道に落ちていたお金を拾っただけ

 被告人は無実だ

★証人尋問

1.木下(学生)の証言
 部屋でインターネットをしていると、鹿児島なまりで「放せ、ババア!放せちゆうちょっとが」と男性の声が聞こえた。被告人の声だった。

[弁護人の質問]
・似た声は多い。外から聞こえてきた声を、被告人の声と断言できるのか?
・被害者の写真を見せ、この美しい女性を見て、「ババア」と言うか?
・女性の悲鳴を聞かないのはおかしい

2.井端(保険外交員)の証言
 午後5時ごろ、銀行前で様子のおかしい被告人を目撃した。

[検察官の主張]
・銀行の防犯カメラにはATMに並ぶ証人の姿と、その3人前に被害者が写っていた。被告人は被害者がお金を下ろしたのを確認し、あとをつけた計画的な犯行

[弁護人の主張」
・配置図を使って、被告人が座っていた銀行前の位置からでは、ATMコーナーは見えない。さらに、どの防犯カメラにも被告人が銀行内に入っている姿は認められない。被告人は、銀行の外にいて、被害者がお金を下ろしたのか、預けたのか、何をしていたのかは分からなかった

3.被告人の証言
・携帯電話は停められていたが、固定電話がある。家賃は滞納していたが、大家が待つといってくれていた。借金も少しずつ返していた。

[弁護人の主張]
・ローンがある(借金がある)だけで、犯罪者扱いするのはおかしい

[検察官の反論]
・携帯電話や家賃の他にも、お金がないと困ることはいくらでもある。
・お金を拾っただけなのに、警官から逃げたのはおかしい。「以前つかまったことがあるので信じてもらえないと思った」という被告人に対して、犯人に背格好も声も似た人物が、たまたま大金を拾ったというのは、(疑わしくて)信じるものはいないだろう

★論告求刑
[検察官の被告人の有罪立証の根拠]
① 被告人は動機があった (冒頭陳述のⅠ)
② 銀行前で被告人が目撃されている (証人尋問2)
③ 犯行現場での犯人の背格好、声、鹿児島なまり (冒頭陳述Ⅱ 証人尋問1)
④ 警察官から逃走し、盗まれた封筒入りの現金を持っていた(冒頭陳述2)

 被告人が犯人であることは、疑いようのない事実だ。懲役6年を求刑する。

[弁護人の最終弁論]
⑤ 悲鳴は聞いていないのに、証人は本当に犯人の声を聞いたのか(証人尋問1)
⑥ 銀行で被害者がお金を下ろしていたとどうやって知ったのか(証人尋問2)
⑦ 警察官から逃げたのは、以前つかまったことがあるから(被告人の証言)

 検察側の論拠は、「合理的疑いを挟まぬ証明」には至っていない。無罪である。

★評議
モルダー「有罪。なんとなく」
シルキー「無罪。音楽をやるやつに悪い奴はいない」
ホームズ「有罪。銀行にいたこと、背格好が似ていること、お金を持っていたこと。これらは状況証拠に過ぎないが、これだけ証拠が積み重なれば、合理的な証明と言える」
クイーン「無罪。有力な証拠と言えるのは、警察官から逃げたことと、お金を持っていたことだけ。これらの状況証拠2つだけでは、無実の一般市民を刑務所に送るのと同じ」
加奈「無罪。夢をつかもうと、これからと思ったときに、強盗なんかしない」
想「とても際どい立証だと思う」

★評決
有罪4人…モルダー、ホームズ、副?裁判長、裁判長  (想は手を上げかけるが下ろす)
無罪5人…クイーン、シルキー、副?裁判長、加奈、想(迷った末)

 評決……無罪


 放課後?想は裁判長に尋ねられる。
「実際の裁判でも、自分が担当して、有罪の判決を下している。また、今まで3回の模擬裁判でも有罪になった。判決には自信があり、自分の心証は完全に有罪。しかし、君(想)は、私の判断に強い関心を示し、君自身は確信を持って無罪にした。なぜか?」


 想は「検察が大事な立証をしていないからだ」

Q1 なぜ、目撃者は被害者の悲鳴を聞いていないのか?
Q2 なぜ、被告人は銀行の中に入らなかったのか?
Q3 なぜ、犯人は被害者のことをババアと呼んだのか?


★想の推理
検察は被害者と被告人が顔見知りであることを見落としていた

A1 顔見知りだったから、被告人が近づいても悲鳴を上げなかった。
A2 給料日を知っていた
A3 ホスト時代に知り合っていて、表沙汰にはできない関係だった。
   陰では被害者のことを「しつこいババアだ」と言っていたのかもしれない


「判決はまちがっていなかった。しかし、(合理的疑いを挟まぬ証明がされていないので)、僕は有罪だとは言えない」

裁判長「なぜ、その話を評議の時にしなかったのか?少なくとも、有罪に手を上げるべきではなかったか」

想「それはダメだ。立証責任はすべて検察だけにある。裁判官および裁判員は提示された証拠のみで判断する。裁判の鉄則です」


 確かにそうかもしれません。でも、評議の場で自分の意見(推理)を言うのはいいと思うのですが。提示された証拠や証言をもとに、無罪か有罪を判断するのですから、現に、想も提示された情報だけで推理したのですから。

 まあ、これは、作者(主人公)のポリシーですから、私が口を挟むことではないんでしょうね。


 この裁判で、疑問に思ったことは、模擬裁判の場に被害者が立たなかった。被害者の証言がなかった。
 これは、被害者が証言席に立つと、被害者と被告人の関係が露わになる可能性が高いからでしょう。


 さて、今回のもう一つのテーマ「ふたりの気持ち」です。
 評決の時、想が悩みに悩んだのは、加奈が「無罪」を主張したので、「有罪」と判断したが加奈の意見を尊重しようかどうか迷ったのかと思ったのですが、全くの的外れでした。

 判断は想と同じでしたが、内容がまったく違うので、想に「アメリカに帰らないらで」とは言えず、「頑張ってね」と言う加奈はいじらしいですね。

 翌日(想が帰る日)、父が言う
・大好きな剣道の稽古をしない
・夕べから何も食べない
・レストランの誘いを断る
・花見にも行かない
・仲の良い想の見送りにいかなかった

「これだけ状況証拠がそろえば「合理的疑いを挟まぬ証明」なされていると思うぞ」

 おお!なかなか粋な指摘ですね。



 いつも一緒にいた屋上で涙を流す加奈。
 そこへいないはずの想が声をかける。

「やっと分かったんです。僕はお花見がしたくて日本に来たんだって。
 お花見って、花の一つ一つを見るわけじゃないでしょう。形のない全体があって、それがあるだけで楽しくなる。
 水原さんといると、毎日がお花見みたいなものなんです。この学校でお花見をすることに決めました。卒業するまでずっと」

 加奈が笑顔になる。

 その時、ガラスが割れる音が、
「事件よ、燈馬くん」
 加奈が、燈馬の腕をぎゅっとつかみ、引っ張っていく……【終り】


 いやいや、素敵なラストシーンでした。
 想が、加奈を花見に例えてました。一つ一つの細かいところを見るのではなく、それらをひっくるめた加奈が好きなんだ。加奈といると楽しいという告白でしたね。

 素敵なコンビでしたね。推理も面白かったです。
 続編を期待します。番組の掲示板に書き込まなくては!



【補足】
 この模擬裁判の題材は、無罪か有罪か(無実か犯人か)、どちらにでも取れるようなシナリオを作ったものだと思っていました。それで、被告人が無実かどうかを真剣に考えず、無罪とするか、有罪とするかのほうに関心が行ってしまいました。
 とは言え、想の感じた疑問を流してしまいました。一瞬、変だなと思ったのですが、不覚でした。


 私が、あの模擬裁判の裁判員だったら、どう裁定するでしょうか。
 被害者が給料を下ろした銀行の前にいたこと、被害者が襲われた付近にいてお金を拾ったこと、このふたつが両方起こるのは、「偶然」という範囲を超えているので、「犯人」だと推定します。
 しかし、裁判員として裁定を下すとしたら、それだけでは有罪であると立証できたとは言えないので「無罪」とします。

 想も言っていましたが、検察には「立証責任」があります。そもそも、あれぐらいの状況証拠で、立件するのは無理があります。私が検察(警察)の立場なら、想の疑問について、もっと突き詰めますし、被告人が現場付近の公園になぜいたのかや、被告人の銀行からの足取りを調べます。
 そもそも、「ババア」という言葉は、実際にそういう風貌でないのなら、顔見知りだったと推量するのは容易だと思います。


 裁判の場は、(ドラマなので見る限りなので本当のことは知りませんが)残念ながら「真実を明らかにする場」ではないようです。
 弁護士は被告人の罪を軽くすることや無罪を勝ち取ることに全力を尽くします。
 検察官も求刑を確定しようとするだけです。
 そして、裁判官も、弁護士、検察官の示した論証をもとに、どう判決を下すのが妥当かを考えるだけのようです。

 真実を明らかにすることまで求めるのは、無理なんでしょうね(無理なのでしょうか)。
コメント (12)
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