英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

女流名人位戦決着

2009-03-05 20:28:18 | 将棋
 最終局にもつれ込んだ女流名人位戦、右四間飛車で攻勢を取り続けた後手清水女流王将が制して、復位を決めました。
 毎回袴で決める矢内女流名人を応援していた私にとっては残念な結果です。実は残念な理由はもうひとつあります。それは、清水女流の将棋の質。年々劣化してきていると感じています。
 もちろん、A級リーグで、千葉女流、里見倉敷藤花らを押しのけての挑戦権獲得、5番勝負で矢内女流名人に競り勝っての復位、さらに各棋戦での高勝率など、その実力はトップにいるべき実力であるのは間違いありません。
 問題なのは、その質なのです。私が清水女流の将棋の質について疑問を持つようになったのはかなり前のことです。
 将棋SNS、2007年7月19日、22日付けの日記で、次のように書いています。

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 清水女流王位は、長年中井六段とともに女流棋界を引っ張って来ており、第一人者である。背筋がぴんと伸びた立ち居振る舞いは非常に美しい。
 棋風は居飛車本格派の将棋で、妥協を許さない深い読みで、多少の危険も見切って鋭く切り込んでいく将棋‥‥だった?
 ここ数年は、なんだか違う。研究が行き届いた序盤は以前と変わらないが、無理をしないと言うか中盤は踏み込みが浅くなっているように思う。そのため、却って反撃に遭い、形勢を損じてしまうことが増えたようだ。
 そして、終盤の驚異的な頑張り。《そんな屈服的な受けをするの》と言うような手順も甘んじるのだ。そのうち、攻め疲れた相手の焦りや乱れを一気に突き逆転、という将棋を目にする。たまたま私が目にするだけかも知れず、普段は以前と変わらない将棋なのかもしれない。
 私が目にするのは、挑戦者決定戦とかタイトル戦なので、相手が強いのでたまたまそうなるのかもしれない」。

 ここ数年の清水女流王位の将棋の変化は、「長手数になれば実力のあるものが勝つ。つまり、指し手が増えれば弱いものの方が間違える回数が多い」という思想が根底にあると考えていた。
 しかし、今回の将棋は、「簡単に負けてはいけない」という棋士のプライドや勝利への執念を感じた。

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 文中で、「ここ数年」と表現しているので、清水将棋の質の変化はかなり前と考えられます。
 正直に言うと、上記の傾向はさらに顕著になってきているように思えます。
 戦法的には、右四間飛車戦法の多用。戦術的には、自陣に大駒を引き付けたり、持ち駒の金銀を自陣に打ちつけるといったような戦いを長引かせることが多い。
それは「受け切って勝つ」というようなものではなく、「とりあえず長引かせれば負けない」というような思想がうかがえます。長引けば対局相手が焦ったり、根負けして崩れることも多いです。「長手数になれば、実力のある方が勝つ」というという自信の表れなのでしょう。また、短時間の将棋が多いので、残り時間の関係で、読み切って綺麗に勝つのは危険ということもあるでしょう。

 右四間飛車は、男性棋士間ではあまり見られません。攻撃力はあるものの、単調な戦い方となり、攻めきるのは大変というのが定説のようです。にもかかわらず、清水女流が採用するのは、その攻撃力が清水女流の棋風にマッチしているのかもしれませんし、主導権を握りやすいのと、連載することによって右四間飛車に精通することで、さらに右四間飛車における将棋観が確立し、手馴れた指し方ができるという理由なのでしょう。
 しかし、対局者としては、相手の戦法を絞れるので、事前の研究ができるはずです。もともと、戦法としてはやや損な戦法なので、逆に優勢に持ち込めると思うのですが、そういう結果には至っていないようです。プロの将棋として観ると、残念な結果です。
 そう言えば、矢内女流も対振り飛車戦で、左美濃(銀冠)を連採しますが、あまりうまく言っていないようです。

 長引かす戦術についても、最善手ではないのですから、逆にそれに突け込めば戦果を上げられると思うのですが、清水女流の地力がそれを許さないようです。
 ただ、倉敷藤花戦、清水×里見戦の中盤で清水女流が自陣に金を打ち付けて粘りに出たのに対し、里見女流はそれに焦らず、その金を相手にせず、龍を見事に転回させて見事に勝利しています。清水女流の金打ちは、当面は負けない手ですが、戦力不足に陥る手でした。並みの女流なら、その頑強な抵抗に辟易して、ペースを崩すのですが、里見女流は冷静に握手の烙印を押したといえます。


 ここ2、3年、清水×千葉、清水×石橋、清水×矢内を観ていると、逆転の連続であったり、長手数の熱戦であったり、勝負的には面白いものの、将棋として観たときには、疑問符をつけざるを得ません。
 清水×千葉戦は、乱戦模様の泥仕合傾向でしたが、一本筋の通ったコクのある将棋だったような記憶があります。清水×石橋戦は、特に石橋女流が王位を獲得したシリーズは、女流棋士会分裂後の師弟戦ということもあり、余計な力が入ったのかもしれませんが、逆転逆転の大波乱の連続でした。

 私は、清水女流の実力は認めています。しかし、その将棋には魅力を感じていません。今後、誰が清水将棋を打ち破るのか、あるいは、清水女流名人の地力がそれを跳ね返すのか、あるいは、更なる変貌を遂げるのか、興味があります。
コメント
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