福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

心残り、そして除夜の鐘

2006-12-31 02:13:24 | 南極

年明け2日から始まるスカルブスネスへの調査機材及び食料の準備完了。3パレット分で945kgとヘリコプター搭載制限重量ギリギリだ。

「しらせ」艦内は年越しモード。昭和基地で夏作業にあたっていた47次隊全員が一旦「しらせ」に戻る。久しぶりに観測隊員公室に全員が集う。20:00より、忘年会が始まる。ビールを少しいただくが、なかなか酔えない。心に引っかかることがあるからだ。年明け早々、日本に残して来た修士2年の院生2名が修士論文を提出しなければならない。英語でうまく書けているだろうか?小島さんや松浦さんにも過重な負担をかけてしまっている。「しらせ」ではインターネットが自由に使えず、論文をチェックすることもままならない。あさってには、電子メールも使えない環境になる。インターネットが使えるようになるのは、2月初めに昭和基地に移動してからだ。彼らの研究内容のあれやこれやと思ったとしても、ここは南極。どうしようもない。まあ、彼らならばこの苦境を乗り切ってくれるに違いない。

南極における日本の研究観測は脆弱さを抱えている。大学院重点化した大学教員にとって、12月から4月にかけては猫の手も借りたい程忙しい時期だ。この時期、南極観測のために大学を離れることは本来許されないこと。特に卒業の院生がいたならば、なおさら。毎年院生が研究室に入って来る場合、教員は永久に南極観測には参加できない。私の場合、今年は博士課程修了の院生がいないのが救いだが、だからといって、修士の院生が犠牲になってはならない。本当にすまない気持ちでいっぱいだ。

あれこれ思案していると、公室内で若い人たちの賑わいが聞こえる。濃いウィス01_36
01_38キー(ニッカウィスキー鶴)を少しだけいただくことに。だからと言って問題が解決する訳でない。越冬する大学教員らと甲板に上がる。これは日の入りか、初日の出か?沈まない太陽の季節でも、太陽の高度が下がれば空は赤く染まる。時計を見ると、まだ年越し前。和尚に鐘のつき方を習い、修論を書いている院生のことを思いながら、除夜の鐘をつく。

               (『エコミクロ南極日誌』より)

いろいろな方のご支援のおかげで、今年、南極観測を無事に終えることができました。かの地で採取した試料を札幌の研究室に持ち帰って、今年入学した院生の皆さんと一緒に研究を進めています。南極以外のテーマも結構面白くなっています。

今年一年を一つの言葉で表すならば、迷わず、「感謝」です。みなさん、ありがとうございました。

今年も、修論と博士論文をまとめあげている院生たちがいます。彼らが、また、新しい一里塚を築こうとしています。


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