福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

海氷、そして解氷

2006-12-30 09:45:18 | 南極

天候悪化予報のため、スカルビックハルセンでの野外調査を諦め、砕氷艦しらせに戻った。帰還早々、ルンドボークスヘッタおよびスカーレンでの採取した試料の処理、01_35明けのスカルブスネスの調査の準備を行う。スカルブスネスでの調査に関して、昭和基地に戻った46次地学隊員の佐藤さんと打ち合わせが必要となったため、昭和基地に訪問することに。

しらせから昭和基地のある東オングル島の最寄りの陸地までは数百m離れており、01_37海氷上を徒歩で行かねばならな
02_19い。沈まない太陽の季節、海氷は解ける一方。至る所にアイスクラックが走っている。クラックに足を取られたら、危険だ。隊長から海氷上の行動訓練を受ける。注意深く海氷を歩く。アデリーペンギンの出迎えを受け、生まれて初めて東オングル島に上陸。基地に向かって歩いていると、町外れの工事現場か、廃坑になった町に来ているような感覚に襲われた。これまでの雄大な大陸調査地の印象とは大きく異なる。

        (『エコミクロ南極日誌』より)

意外かもしれませんが、野外調査中心の夏の研究観測隊員にとっては、昭和基地に滞在する機会は少ないのです。「しらせ」が昭和基地周辺の海氷で停泊する以前に私たちはルンドボークスヘッタへ調査に出かけたため、12月29日にようやくそのチャンスが訪れました。もし、スカルビックハルセンでの調査がキャンセルにならなければ、2月初旬まで東オングル島に立つことはなかったでしょう。

1年前の写真を眺めていたら、日誌に記載されていない事実が蘇って参りました。03_7海氷上に立つと強い紫外線の反射のため、サングラスをかけないと目が痛くてしょうがありません。デコボコとの海氷はとても歩きにくく、油断すると足が取られてしまいます。しばらく歩いていると、突然前を歩いていたAさんが視野から消えてしまいました。あれっ?アイスクラックにハマってしまったAさん、大丈夫ですか?い02_2004_1つも沈着冷静な彼でも、こんなことがあるんですね。クラックを良く見たら、ペールカラーに染まっていました、ヒャッ!

あれあれ、こっちを見ていたアデリーペンギンのカップルが何やらクスクス笑いで噂話しています。南極の海ではアデリーペンギンにはかないません!

僅か数時間の昭和基地での滞在を終え、さあ、海氷上をテクテク歩いて「しらせ」に戻05_1りましょう。年を明ければ、71歳の誕生日を迎える柴田鉄治さんの後ろを歩きます。おおっ、ザックの担ぎ方がナウいですね、柴田さん。若人顔負けの人生の先輩の情熱で、足下はどんどん氷解していきます。さあ、「しらせ」に早く戻ろう。そして、年明けの調査の準備をしなくては。短い夏の間、できる限りの調査をしよう。

一年経った今、こんな光景がすぐに思い浮かぶのは、どうしてでしょう?

<追記>
Aさんの名誉のためにおことわりしておきますが、彼はクラックにつまずいただけです(表現が多少誇張されています)。しかし、真夏の日中の海氷上が危険であると言うことに変わりはありません。


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