福井 学の低温研便り

北海道大学 低温科学研究所 微生物生態学分野
大学院:環境科学院 生物圏科学専攻 分子生物学コース

みずうみ まほろば

2007-01-07 20:18:15 | 南極

2006.1.7(土)スカルブスネス・きざはし浜
         天候:快晴~くもり
5:30    起床
6:00    昭和基地との交信
・ 当地の気象を通知する
・ ヘリコプターのフライトは予定通り行うとのこと
6:30    朝食(ハムエッグ、ごはん、いつものワカメスープ)
8:26    ピックアップのヘリコプター到着
・ 47次の澤柿、桝、村上、46次の山崎、坂中、上村はヘリに搭乗
・ 46次通信担当小林隊員はヘリから降機。
9:00    小林隊員へ湖沼調査概要の説明
10:00    ○○池での湖沼調査開始(佐藤、小林、高野)
    福井はキャンプにとどまり、採取した湖水の濾過作業
12:00    昼食(冷凍焼きそば、お茶)
12:30    濾過作業再開
18:00    夕食(牛ヒレ肉のステーキ、トムヤンクン、ごはん)
20:00    昭和基地との定時交信
20:30    極地研工藤氏から依頼された湖沼係留計のセットアップ作業。しかし、クロロフィルのセットアップ用のソフトに不具合を発見。明日、極地研の伊村氏へ連絡をとり、解決策を検討すること。
23:30    就寝
<所感>
・今朝までは9人のパーティーであったが、4人のみとなる。平均年齢もぐっと高まる。小林さんとは初対面だが、無線を通して声をこれまで何度か聴いていたので、初対面と言う気がしない。しかし、無線の声から想像する姿と現物とは大違い。2度目の越冬経験を持つ小林さんは頼もしい限り。
・今日から、高野さんと私とで食事を担当することとする。

         (『エコミクロ南極日誌』より)

1_3正月明けの2日より、「しらせ」からスカルブスネスに移動し、きざはし浜に設置された観測小屋に滞在することに。最初は、地球物理のグループと合同のキャンプで、合計9名と随分賑やかだったのですが、この日からメンバーは4名のみ。

地球規模での気候変動や地殻変動等で様々な湖沼がこの地に点在しています。大陸からせり出して来る氷河の影響を受けている淡水湖沼もあれば、海水が入り込んで塩分濃度が濃くなった塩湖もあります。

こうした極寒で強い紫外線が降り注ぐ極地の湖沼には、どんな微生物がいて、どのような活動をしているのでしょうか?残念ながら、断片的なことしかわかっていません。

では、どうのように研究したら、その謎を解くことができるのでしょうか?オーソ01_4102_23ドックスですが、現地に行ってボートを浮かべ、湖水の物理化学的因子(たとえば、温度、溶存酸素濃度、各種化学成分濃度)や微生物を調べることです。調査の基本は、採水器を用いて湖水を採取すること。採取した湖水はすぐに滅菌した瓶にいれ、小屋に持ち帰りPhoto_50ます。微生物にとっては生息環境とはかけ離れた環境になってしまうので、瓶をそのまま放置すれば微生物の種類や個体数がどんどん変化してしまいます。変化してしまった湖水を解析した結果からは、現場の微生物の生態への理解は誤ったものになります。

したがって、湖水採取後は速やかに湖水を濾過して、フィルター上に微生物を濃集03_11し、保存液を加えなければなりません。微生物は顕微鏡で見てもどういう種類であるのか判別することができません。現在は、微生物が有する特定の遺伝子(DNA)の情報から同定(種を判別)します。そのため、数μmの小さな微生物の個体を0.2μmの穴の空いたフィル04_2ターで濾過することによって集める必要があります。1個体からは解析が困難ですので、できるだけ多くの微生物個体をフィルターに集めなければならないのですが、極地の湖沼の水には微生物の個体数が少ないので湖水の濾過量を多くしなければなりません。経験的には、1リットルの湖水が必要です。

生息している微生物の種類は湖沼の水深によっても変化します(垂直変化)。微生物の垂直変化を調べるには、深さごとに湖水を採水しなければなりません。大抵は01_43水深1m毎に調べるので、ある湖沼の水深が20mであったならば、21本の瓶が必要になります。スカルブスネスのキャンプ地(観測小屋)から調査湖沼へは1時間くらいの山道を歩いていかなければならないのですが、帰りは採取した試料の重量分(先の例では、21キログラム)が増えるのです。まさに、行きは良い良い、帰りは怖い、です。

湖水の濾過作業は、時間がかかりますし、手間がかかります。また、濾過中、空気Photo_51中からの雑菌の試料への混入を防がなければなりません。今回は、発電機がありますので、電動ポンプの使用が可能です。さもなければ、すべて手作業で濾過しなければなりませんし、数倍もの時間がかかってしまいます(もちろん肉体疲労も)。

湖水濾過処理を終えたフィルターに、保存液を加え、さらにラベルを貼って、冷凍01_42庫に保存すれば、完了です。一度凍結した試料は途中で融けないように砕氷艦「しらせ」に運び、速やかに第5観測室の冷凍室に保存します。「しらせ」が東京に戻った後、冷凍宅急便で試料を札幌に送ります。こうして、低温科学研究所の実験室でようやく解析をスタートさせることができるのです。長い長い道のりをへた、また、多大な手間ひまをかけた、貴重な試料なのです。

<追記>
毛利さん、昭和基地に無事到着したとのこと。


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