デビス・カップ スイス対カザフスタン-1


  「ホーム開催だしこっちはトップ選手が揃ってるから楽ゲー♪」と甘く考えてたら、相手が思いのほか強くて逆に追い込まれてしまった典型例では。


 1日目

  スタニスラス・ワウリンカ対アンドレイ・ゴルベフ

     6-7(5)、2-6、6-3、6-7(5)

  ワウリンカは現在シングルス・ランキング3位、ゴルベフは64位です。誰もがワウリンカの圧勝を予想してたでしょう。

  私もそう思って、フェデラー対ココシュキンの試合開始予定時間(現地時間4日午後3時半、日本時間4日夜10時半)にネット観戦しようとしたら、ワウリンカとゴルベフの試合がまだ終わってませんでした。しかも、ワウリンカが先に2セット取られちゃってる!「ええ~っ!?」ってパソコンの前で思わず声をあげちゃいました。

  試合はちょうど第3セットが始まったところでした。ワウリンカとゴルベフの試合は1時半から始まったので、2セットで2時間もかかったことになります。

  デビス・カップではランキングは関係なくなる、とWOWOWの実況中継が言ってました(日本対チェコの試合で)。そんなものですか。なぜなんでしょう。国を背負って戦うから、勝利への執念や試合にかけるモチベーションが高まるってこと?個人的な栄達欲とかのほうが、よっぽど強いモチベーションになると思うんですが。

  この試合、ゴルベフが強かったのか、ワウリンカが不調だったのか、よく分かりません。でも素人目には、ワウリンカが大乱調だった気がします。第3セットはワウリンカが持ち直し、ほぼ一方的な展開で取りました。あれが本来のワウリンカのプレーだと思います。

  ただ、ああいうラリー戦はワウリンカは得意だと思うのですが、ワウリンカはとにかくミスが多かったです。ひどくイライラしていたようで、試合中にラケットをコートに叩きつけて壊してしまいました。試合終盤になると、休憩中にキャプテンのセヴェリン・ルティからアドバイスされたワウリンカは、それにさえも苛立った様子で、荒々しく言い返していました。

  ゴルベフは一生懸命ワウリンカに食らいついていましたし、終始落ち着いてプレーしていた印象です。日本対チェコ戦1日目のシングルス2試合でも、伊藤竜馬選手(146位)がラデク・ステパネク(47位)、ダニエル太郎選手(190位)がルカシュ・ロソル(40位)らの格上選手を相手に、粘り強い見事なプレーをしていました。あれと同じ感じです。フェデラーも3日目にゴルベフと対戦します。ゴルベフは要注意な相手です。

  窮鼠猫をかむ、という表現は失礼でしょうが、負けて当たり前だと思われている選手が、勝って当たり前だと思われている選手と互角に渡り合うことは確かにあるんですね。でも、伊藤選手と対戦したステパネク、ダニエル選手と対戦したロソルはやはり一日の長があったというか、相手が死に物狂いで躍起になっているときには無理をせず、相手が隙を見せると、それに乗じて一気に勝つ流れを作っていきました。

  ダニエル選手とロソルの試合で解説をしていた松岡修造は、第5セットの中盤あたりからロソルが勝つ流れになっているのを悟ってしまって、ダニエル選手が負けるだろう的なことをつい口にしてしまいました。正直ですね。松岡修造の解説はうるさくてくどくて暑くて辟易しましたが、こういう正直なところが憎めません。なんだかんだいって良い人なんだよね。

  ロジャー・フェデラー対ミハイル・ククシュキン

   6-4、6-4、6-2

  フェデラーは今週発表されたシングルス・ランキングで4位に上がりました。ククシュキンは56位。

  この試合は、グランド・スラム1回戦か2回戦のフェデラーでした。無駄に長丁場となるプレーをせず、第1、第2セットでは的確に重要なポイントを見極めて、それを逃さずにセットを取りました。第1セットはフェデラーのセット・ポイントでククシュキンがダブル・フォールトをやってしまい、第2セットでもククシュキンがダブル・フォールトを犯したのに乗じて、フェデラーがブレークしました。

  第3セットではフェデラーがプレーの質を一段上げて、一気呵成にたたみかけて試合を終わらせました。試合時間は2時間かからなかったと思います。1セットあたり30~40分という時間配分も、いつものフェデラーです。

  ククシュキンはキャプテン(←プーチン似)から、とにかくフェデラーのバックハンド側を狙え、ラリー戦に持ち込めという指示を受けていたようです。しかし、第3セットではがっくりと頭を垂れてベンチに座り込んでしまいました。キャプテンもできるアドバイスがないようでした。

  カザフスタンは東西の挟間に位置する中央アジアの国だけあって、カザフスタン・チームには、東洋系の風貌を持つ人とヨーロッパ/ロシア系の風貌を持つ人が混在しています。カザフスタン・チームのキャプテンは東洋系、アンドレイ・ゴルベフはヨーロッパ/ロシア系です。ミハイル・ココシュキンはその中間のような風貌ですが、あの黒髪と顔つきからすると、おそらくはウクライナか東欧の血が入っているのではないでしょうか。

  一方のスイス・チーム、試合に出場しているスタニスラス・ワウリンカとロジャー・フェデラーの二人だけをとってみても、いろんな民族の血が混ざっています。ワウリンカはその名前からして東欧系だろうと思っていました。やはりお父さんがポーランド系ドイツ人なのだそうです。お母さんはフランス系スイス人。フェデラーのお母さんはアフリカーナー、またボーア人とも呼ばれるオランダ=フランス系南アフリカ人です。お父さんはドイツ系スイス人。

  おそらく、ワウリンカはスイスとドイツ、フェデラーはスイスと南アフリカの二重国籍を持っていると思います。フェデラーに関しては、ルネ・シュタウファーのフェデラーの伝記に、フェデラーとそのお姉さんのダイアナさんは南アフリカのパスポートも所持している、と書かれていました。ワウリンカに関しては憶測ですが、ドイツは二重国籍の所有が許可されているそうです。国籍は多いに越したことはないので、ドイツ国籍も持っている可能性が高いでしょう。

  日本代表として出場したダニエル太郎選手も、アメリカ、日本、スペインの国籍を自由に選べるそうです。日本は多重国籍を許可していませんが、事実上の多重国籍状態になっている、つまり正式な手続きを経て、日本を含む複数の国のパスポートを所持している「日本人」はいくらでもいます(別に犯罪がらみではないよ)。

  デビス・カップは長い歴史を持つ大会だそうですが、人種、民族、国籍のボーダーレス化が進んで、「○○人」っていう定義自体が曖昧になっている今の時代に、こんな大会を開く意義って果たしてまだあるのかな、とちょっと疑問に思いました。

  余談。フェデラーは対ククシュキン戦後、まず会場の観客に向けたインタビューに答えました。試合会場はフランス語圏のジュネーヴにあるので、インタビューはフランス語で行われました。フェデラーはフランス語で答えました。フランス語話者がほとんどなのか、観客がフェデラーの答えにドッと沸きました。

  その後、束ねた数本のマイクがフェデラーの前に差し出されました。これは世界中で放映されたテレビ中継に向けたインタビューのようです。記者がフェデラーに「英語で」と言っていました。フェデラーは英語で答えました。それが終わると、今度はスイス国内のドイツ語放送のテレビ中継向けのインタビューが始まりました。フェデラーはもちろんドイツ語で答えました。

  スイスの言語環境を反映したインタビューで面白かったです。

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