ゲリー・ウェバー・オープン ロジャー・フェデラー総括-3


 決勝 対ミハイル・ユーズニー(ロシア)

   6(5)-7、6-3、6-4

  両者の今までの対戦成績とか、ランキングとかに関係なく、この決勝はフェデラーが勝つと思っていましたよ。フェデラーって、絶対に勝ちたいと思っている試合には、絶対に勝つことが漠然と分かってきたから。

  この大会はATP250という低いランクに属しますが、出場選手の顔ぶれはすごく豪華でした。同時期にロンドンで開催されているクイーンズ・クラブ選手権(エイゴン選手権)の出場選手もすごい面子が揃ってたでしょ。数少ない芝の大会(ウィンブルドン選手権を含めて全部で6大会)だから、この大会で優勝することは「たかが250」とはいえない大きな価値があるようです。

  テニス雑誌『スマッシュ』7月号にフェデラーのインタビューが載ってて、それがとても興味深かったです。

  今から10年前の2003年、21歳のフェデラーは全仏オープンで1回戦負けして、メディアから総バッシングを受けたんだって。でもその直後、このゲリー・ウェバー・オープンで優勝して、それからウィンブルドン選手権で初優勝を遂げたという経緯があったそうです。

  今年に入ってからのフェデラーも、まだ優勝がないということでメディアから揶揄されてきました。

  フェデラー自身は、今年の出場大会数が少ないことについて、今年は来年への準備期間に充てるからだと明言していましたが、それでも優勝がないことはやはり気にしていたのでしょうね。ちょうど、10年前の今ごろみたいに、「谷底をウロウロ」しているような気分だったのかもしれません。辛い気持ちに陥ることもあっただろうと思います。

  だから、このゲリー・ウェバー・オープンでは、是が非でも優勝したいだろうと感じていました。「優勝したい度」を比べると、フェデラー>>>>>ユーズニーだったでしょう。

  ミハイル・ユーズニーは、去年のウィンブルドン選手権で準々決勝にまで進出した選手です。よく頑張ったと思います。特に第1セット。第1ゲームでフェデラーにいきなりブレーク・ポイントを3つも握られたのに、それをしのいだのはすばらしかったです。その後も自分のサービス・ゲームを凄い気迫とパワフルなプレーでキープし続けました。タイ・ブレークでも一進一退の攻防になりましたが、ユーズニーは5-5から2ポイントを連取して第1セットを取りました。

  フェデラーは、是が非でも優勝したいという気持ちのせいか、少し力みすぎていたようでした。ミスが多かったです。これはユーズニーの作戦が功を奏していたせいもあったと思います。強打したボールをフェデラーのバック・ハンド側のサイド・ラインぎりぎりに叩きこみ、フェデラーにラリーの主導権を握らせず、フェデラーのミスを誘うというものでした。ユーズニーのサーブもすばらしかったです。

  ところが、第2セットに入ると、フェデラーのプレーがやや持ち直しました。第1セットでもそうだったのですが、自分のサービス・ゲームは絶対に守ります。ユーズニーはフェデラーのサービス・ゲームをブレークするチャンスをつかめません。フェデラーもユーズニーのサービス・ゲームで、ブレークできそうなとこまでいくのですが、なかなかその機会を生かせませんでした。

  ただし、両者のサービス・ゲームの内容を見ていると、ユーズニーが徐々に苦しくなってきているらしいのが分かってきます。気づいたのは、ユーズニーはフェデラーに主導権を握られると、まったく歯が立たないことでした。

  ユーズニーの気合いや根性は充分で、ガッツ・ポーズや叫び声で自分を奮い立たせていましたが、なんというのか、フット・ワーク、反応の速さ、ショットの種類、ゲームの組み立てなどになると、フェデラーよりもはるかに劣ることは明白でした。フェデラーをパワーでなんとかねじ伏せようとしているけど、それだけでは無理な状況になってきました。

  フェデラーのサービス・ゲームでは、ユーズニーはまったくつけ入る隙がありません。フェデラーのサーブは最速でも時速206~207キロだったのですが、どういう理屈なのか、たとえば時速156キロのサーブでもエースを取れるか、ユーズニーのリターンがアウトになります。逆に、ユーズニーは徐々に自分のサービス・ゲームを守るのがしんどくなってきたようです。

  とにかくサーブを入れなくてはならない、ラリーで主導権を握らなくてはならない、そうした気持ちのせいか、ユーズニーにサーブやショットのミスが目立ち始めました。

  確かフェデラーが3-2と一応リードしての第6ゲーム、ユーズニーのサービス・ゲームで、フェデラーが1つブレーク・ポイントを取りました。よりによってこの局面で、ユーズニーはダブル・フォールトを犯してしまい、フェデラーにブレークされました。フェデラーは自分のサービス・ゲームを守り続け、第2セットを取りました。

  第3セット、互いが自分のサービス・ゲームを守り続け、ゲーム・カウントは3-3となりました。が、この間、ユーズニーにフェデラーを崩す力はない、フェデラーが自分から崩れず、ユーズニーをなんとか崩すことができればフェデラーが勝つ、と観ていて思えてきました。その途中で興味深い光景が見られました。

  休憩時間、ユーズニーがタオルを頭からすっぽりとかぶって顔を隠し、タオルの上から両手で顔を覆ったのです。ユーズニーはずっとそのままの姿勢でした。素人目には、またスコアでは拮抗しているかのように見えても、選手本人の感じ方は異なるようです。ユーズニーが精神的に、また状況としても追い込まれていることが分かりました。ユーズニーは打開策を考えていたのでしょう。この光景は印象的でした。

  第7ゲーム、ユーズニーのサービス・ゲームです。このゲームは落としてはいけません。ところが、大事なゲームだけに、ユーズニーは緊張してしまったようです。更に、例によって逆にこういう場面ではフェデラーが強くなるのです。フェデラーが40-0とポイントを連取し、2回目のブレーク・ポイントでこのゲームをブレークしました。

  第10ゲーム、フェデラーのサービス・ゲームになりました。ユーズニーは必死に食い下がりましたが、フェデラーは着実にポイントを重ねて40-0でこのゲームを守り、そして優勝しました。

  フェデラーは本調子ではなかったと思いますし、なかなかユーズニーを崩せないこと、自分にミスが多いことで、やや苛立っていたようでした。でも、プレーに大きく影響することはありませんでした。言いにくいことですが、フェデラーが好調ならば、ユーズニーなどは本来、……歯牙にもかけない相手なんですね(ごめんなさい)。

  あとはやはり、フェデラーの優勝したいという気持ちが非常に強かったことが、最終的にフェデラーの勝利につながったんだろうと思います。

  フェデラーはこれで気分がだいぶ楽になったでしょう。厳しい試合になったことも、逆にこれからのためには良かったに違いありません。

  優勝、おめでとう。


  おまけ:フェデラーが自身の公式ツイッターを開設してから3週間余、フォロワーはすでに37万人を超えました。たいていは「営業用つぶやき」(ファン向けのメッセージや近況報告、大会や開催地の宣伝など)ですが、ときどき暇にまかせた、あるいは突発的なつぶやきがあります。この決勝戦直後のつぶやきもそうで、大爆笑。

  "Yeeeaaahhhh, I am so happy winning the title in Halle. Thanks for all your support."

  "Yeeeaaahhhh"ってさ(笑)。グランド・スラムで17回も優勝してる「史上最高」、「歴代最強」の選手がさ、250の大会で優勝して"Yeeeaaahhhh"って(笑)。まるで初めてツアーで優勝した新人選手みたい。

  本当に永遠のテニス小僧なのね~。キュート


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