『兵士の物語』初日


  まず 朗報 です。


   「初日のアダム・クーパーはヘタレ」伝説が終焉を迎えました。



  アダム・クーパー、マジでキレッキレな踊りを初日から見せてくれました。10年前よりもバレエが上手くなってるんじゃない?(ごめんね思いっきり失礼且つ上から目線で)

  冗談はさておき、クーパーは去年の『雨に唄えば』時とはすべてが激変しておりました。完全にバレエのための身体と動きに戻っていました。

  このためにどれほどの凄まじい努力をして日本にやって来たのだろうと考えると…。本当にプロ意識の高い人です。心から彼を尊敬します。

  語り手役のサム・アーチャー、悪魔役のアレクサンダー・キャンベルは、驚いたことにセリフ回しもまったく問題なしでした。アーチャーの英語は、個人的にはウィル・ケンプの英語よりも聞き取りやすかったです(外国語の聞き取りやすさは多分に「相性」みたいなもんがあるので、決してケンプを貶めているわけではないですよ)。

  兵士の婚約者/王女役のラウラ・モレーラは、身体の柔らかさ、筋力の強さとテクニックでは初演者のゼナイダ・ヤノウスキーに敵わないと思いますが、演技のほうはヤノウスキーよりも説得性があるように感じました。特に婚約者の演技です。モレーラのセリフ回しはまだ棒読みでしたが、ヤノウスキーも初演時にはセリフが棒読みでしたから、数をこなせば解決される問題でしょう。

  兵士と語り手のセリフの分担部分に改変が加えられていました。兵士のモノローグが少なくなり、語り手と兵士がダイアローグ的にセリフを交互にしゃべります。結果、セリフの分担はかなり細かく、目まぐるしく交替するものになっています。

  演出にも変更があり、兵士と悪魔がカード・ゲームをする場面に音楽が入り、音楽と音楽の間に、また音楽をバックにセリフが交わされます。これは良い改変だと思います。音楽を入れたことで、兵士と悪魔の駆け引きがテンポよく進み、冗長さがなくなりました。

  会場の東京芸術劇場プレイハウスの舞台は、新国立劇場中劇場の舞台より大きいです。舞台の大きさを生かして演出を工夫していましたが、やはりこの作品にこの舞台は大きすぎる気がします。演者を間近に見られることで感じられる迫力が今いち薄かったです。

  オーケストラのほうですが、演奏が時にかみ合わない、キャストの踊りと演奏が時に合わないといった問題は、初日だから仕方ないといえるでしょうが、とりわけトランペットのあの演奏は、おそらく「初日だから」では説明できないし、「これから数をこなせば」で解決もできないように思います。演奏者を替えるのが無理なら、いっそのことトランペットは音出さないでいいです。聴いていてかなりなストレスだったので。

  大人数のオーケストラならなんとか耐えられますが、今回のような少人数編成(7人)で、しかも『兵士の物語』で最も重要な柱の役割を担っているトランペットがあれでは致命的な痛手です。

  2009年日本公演のオーケストラ(←今回と同じく全員が日本人奏者)の演奏は問題なかったように覚えているのですが、今回はどうしちゃったのでしょうね。

  というわけで、この公演は、良い演奏を聴きたいという方にはおすすめできませんが、踊りや演技をメインにご覧になりたい方にはおすすめです。それから舞台装置(レズ・ブラザーストンのデザイン)も非常に優れていて、独特の怪しい魅力にあふれています。

  そうそう、エンタメ情報サイト アステージ にアダム・クーパーとラウラ・モレーラの長いインタビューが掲載されているのでどうぞ。

  モレーラがロイヤル・バレエに入団したばかりのころ、団内での人間関係がなかなかうまくいかなかった(周囲と衝突してばかりだったらしい)というのには驚きです。今はロイヤル・バレエを引っ張っているベテランで、ダンサーたちの人望も厚いバレリーナなのにね。

  『兵士の物語』に関しては、ストーリー進行のテンポが速くなったのは、演出・振付者のウィル・タケットが企図してのことのようです。ただ初日の段階では、緊張感やスリリングさなどの効果を充分に発揮していたとは言い難いと思うので、これからどう変化していくか楽しみです。

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