「インテンシオ」(11月25日)-3


 第2部

  「雨」(振付:アナベル・ロペス・オチョア、音楽:ヨハン・S・バッハ)

   イザベラ・ボイルストン、ダニール・シムキン

  ボイルストンは肌色の胸当てとパンツ、シムキンは上半身裸でやはり肌色のパンツを身につけているだけでした。

  振付は90年代のウィリアム・フォーサイスの作品そっくりです。ボイルストンもシムキンも柔軟な身体能力を駆使して見事に踊っていましたが、なにせ振付そのものが新味に欠けるため、というかこの手の作品はもう見飽きているため、さほど印象に残りませんでした。

  第1部でシムキンが踊った「Qi(気)」も、このアナベル・ロペス・オチョアという人の振付作品です。昨今、野心的な「振付家」が人気ダンサーに接触し、そのダンサーに自作を踊ってもらうことによって、振付家として名を上げようとする風潮があるように思います。シムキンがそういった「振付家」に利用されないとよいのですが。


  「ジゼル」より 第2幕のパ・ド・ドゥ(振付:ジャン・コラーリ、ジュール・ペロー、音楽:アドルフ・アダン)

   マリア・コチェトコワ、ホアキン・デ・ルース

  コチェトコワがとにかくすばらしかったです。こんなに私個人のツボにはまったジゼルを観たのは久しぶり。森下洋子さん(←ルドルフ・ヌレエフと日本で踊った映像を観た)以来かもしれん。

  静謐な雰囲気、柔らかですうっとした、ぎこちなさが微塵もないなめらかな動き、重さを感じさせない、また音のまったくしない跳躍は、ジゼルがもはや生きた人間でない存在であることを強く感じさせました。同時に、アルブレヒトをなんとか助けようとするジゼルの心も伝わってきました。

  コチェトコワは本当に音楽を大事にするダンサーですね。音楽のツボをよく押さえているというか、音楽と踊りとの相乗効果が最大になるように踊ります。音楽に合わせることをよく考えているか、あるいは自然にそうした能力に恵まれているのだろうと思います。

  デ・ルースは…、すみません、コチェトコワのおかげでよく覚えてません。でも、アルブレヒトのヴァリエーションは、やはりちょっといっぱいいっぱいな感じがしたかなー。でもパートナリングはよかったです。


  「クルーエル・ワールド」(振付:ジェイムズ・クデルカ)

   ジュリー・ケント、コリー・スターンズ

  ケントは茶褐色を基調とした暗い色合いのワンピースを着て、スターンズはグレーのハイネックの長袖Tシャツにデニム調のズボンを穿いていました。

  作品名からしてどんな悲惨な内容なのかと思ってましたが、男女の恋の終わりを表現した作品のようです。振付家も音楽も違いますが、この作品はまるで、第1部でケントとスターンズが踊った「葉は色あせて」の続編のようでした。

  振付は基本的にクラシカルで、ケントもスターンズも暗い色の衣装と冴えない表情で、二人の関係が破綻していく様を踊っていましたが、切ないと同時に、とてもきれいでもありました。この作品でも、スターンズのパートナリングのすばらしさが際立ちました。


  「白鳥の湖」より 黒鳥のパ・ド・ドゥ(振付:マリウス・プティパ、音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー)

   イリーナ・コレスニコワ、ウラジーミル・シショフ

  休憩時間にずっと、「イリーナ・コレスニコワって、以前に観たことは絶対にない。なのに、名前は知っている。なぜだろう?」と不思議に思って考えていました。第2部の開始間近になってようやく思い出しました。

  コレスニコワの所属する「サンクト・ペテルブルグ・バレエ・シアター」って、「タッチキン・バレエ」のことだよ。数年前にこのバレエ団の日本公演『白鳥の湖』のチケットを取ったら、コレスニコワの妊娠で公演自体が中止になったんだった。だから彼女の名前を知ってたんだわ。

  コレスニコワのキャッチ・コピーは確か、世界最高速の32回転、とかでした。じゃあすごいラッキーじゃん。この公演で、彼女のオデットとオディールをいいとこ取りして観られるんだから。特にオディールの32回転ね、これは楽しみ。

  導入部、アダージョ、オディールのヴァリエーションとずっと観ていて、やはり踊り方に相当独特なクセのあるバレリーナだな、と思いました。振付も個人的に変えているのか、それともサンクト・ペテルブルグ・バレエ・シアター版『白鳥の湖』ではそういう振付になっているのか、いつも観るおなじみの振付とは異なる振りが処々に見られました。

  オディールのヴァリエーションでは、そのバレリーナのテクニックのレベルが分かりますから、注意して観ていました。そしたら、導入部とアダージョでも感じたことですが、テクニック的には意外と強くないように思えました。もっとも、非常にタフで難しいという箇所に限って、コレスニコワは振りを変えて踊ることが多かったので、断定はできませんでしたが。

  ところが、コーダの32回転になったら、確かにコマが回るようにくるくると、速く軽快に回っていました。「世界最高速」にするには、ダブルを入れるとスピードが落ちてその妨げになるためでしょう、すべてシングルで回りました。なるほど、32回転だけが得意なバレリーナっているんだな~、と勉強になりました。
  

  「ロミオとジュリエット」より 第1幕のパ・ド・ドゥ(振付:ケネス・マクミラン、音楽:セルゲイ・プロコフィエフ)

   吉田都、 ピート・サンプラス ロベルト・ボッレ

  やはり「バルコニーのパ・ド・ドゥ」になりました。うん、「寝室のパ・ド・ドゥ」は舞台装置的に準備が大変だからね。

  ボッレは第1部の『椿姫』の「黒のパ・ド・ドゥ」でも大熱演でしたが、このバルコニーのパ・ド・ドゥでも、にこやかに笑ってロミオを演じていました。踊りもパワフルで、パートナリングもすばらしかったです。

  いちばん凄かったのが、ロミオが正座(?)して、ジュリエットを頭上リフトしてから、そのまま膝から上を伸ばして何度か更にジュリエットを持ち上げるという、観ているほうがぎっくり腰になりそうなリフトです。あのリフトで、ボッレはなんと腕も伸ばして吉田さんを持ち上げていました。腕まで上げるロミオを生で見たのははじめてかも。いやはや、すごい。


  「レ・ブルジョワ」(振付:ベン・ファン・コーウェンベルク、音楽:ジャック・ブレル)

   ダニール・シムキン

  作品名はジャック・ブレルの同名シャンソン。シムキンは若干ヨレヨレな白いYシャツ、サスペンダー、黒いズボンという衣装で、メガネをかけてました。日本でいえば、新橋駅ガード下の立ち飲み屋で安酒を飲み、酔っぱらって帰る途中にテレビのインタビューを受けて寒いダジャレを言うリーマン、というところでしょう。

  シムキンの超超超超超絶技巧爆発しまくり、観客のテンションと頭の毛細血管も爆発しまくりな、トリにふさわしい盛り上がりとなりました。

  なんか、男子フィギュアスケートでよく見る技をやってました。上半身を床と水平にして跳び、空中で両脚をひねるようにして大きく旋回させるやつです。ググってみたら、フィギュアスケートでは「バタフライキャメルスピン」とかいうらしい(たぶん間違ってると思います。すみません)。この技は中国の革命バレエの映像版で見たことがあるだけで、生で見たことはありませんでした。シムキン、これを連続でやってました。物凄い迫力でした。

  途中でシムキン、タバコを口にくわえました。ダメだよ、中学生がタバコ吸っちゃあ、とつい思ってしまいました。ごめんなさい。

  歌の内容と振付がどう関連しているのかよく分かりませんでしたが、シムキンの技が凄かったからどーでもいいや。


  フィナーレ

  オープニングと同じ紗幕スクリーンが下り、再びシムキンの踊る映像が映されます。紗幕の後ろでは、出演したダンサーたちが次々と現れ、自分たちが踊った演目の一部を踊っては消えていきます。

  紗幕に砂のような粒子が集まっていく映像が映し出され、それらの粒子はやがて一気にシムキンの姿を形作ってフィニッシュ。最後まで凝ったCG映像でした。

  その後は紗幕が上がって舞台が明るくなり、普通のカーテン・コールとなりました。

  マリインスキー・バレエ日本公演とこの公演とが重ならなければ、もっとマシな感想が出てきたと思うんですが…。いずれまた同じ企画があったら、今度はゆっくり観たいです。

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