新国立劇場バレエ団『マノン』(7月1日)-1


  この国が「民主国家」などではないことは、昔から漠然と感じていた。それは去年の震災で確信となった。この国は北朝鮮や中国と何も変わらない。ただ国民を支配する方法が異なるだけである。

  問題は、「では、私たちはどうすればよいのか?」


  答えは、「ペシミズムに陥ってはいけない。現実を変えることは不可能ではない。」


  自信がないが、もうしばらく頑張ってみよう。


 『マノン』

   マノン:小野絢子
   デ・グリュー:福岡雄大

   レスコー:菅野英男
   レスコーの愛人:寺田亜沙子

   マダム:楠元郁子
   ムッシューG.M.:貝川鐵夫

   乞食のかしら:八幡顕光

   高級娼婦:厚木三杏、長田佳世、丸尾孝子、米沢 唯、川口 藍
   紳士たち:江本 拓、原 健太、宝満(←縁起の良い苗字だ)直也

   看守:山本隆之   

   ねずみ捕りの男:小笠原一真


  福岡雄大さんと八幡顕光さんがプリンシパルに昇進するそうです。八幡さんについては、「えっ、まだプリンシパルじゃなかったの?」とむしろ驚き。福岡さんについては、今日の公演を観て、確かにプリンシパルにふさわしいと思いました。おそらく、現在の新国立劇場バレエ団の王子を踊りそうな男性陣の中では、最も優秀なダンサーでしょう。

  デヴィッド・ビントリーが芸術監督に就任するまで、新国立劇場バレエ団には、プリンシパルが山本隆之さん一人しかいなかったわけです。ビントリーはこれを「バレエ団としては異常な状態」と言っていました。

  そこでビントリーは、まず団員の中ですでに相応のキャリアを有するダンサーたちをプリンシパルに昇格させると同時に、人材をどんどん発掘して主要な役に抜擢しました。更に、欧米人スター・ダンサーのゲスト頼みだった従来の公演形態から、自前で上演できる作品は極力、団員だけで上演するという方針に改めました。

  プリンシパルの数が異常に少なかったことについては、私はせいぜいバレエ団内の派閥間における力関係のせいだろうと思っていましたが、ひょっとしたら、プリンシパルを増やすと人件費が上がるから、運営財団側が認めなかったとかいう単純な理由のせいだったのかもしれません。

  人件費の予算はがっちり決まっている(どころか、運営財団側としてはむしろ削減したい)でしょうから、スター・ダンサーのゲスト招聘に費やすか、団員の待遇を上げるか、どちらかを選択するしかなかったはずです。ビントリーが選んだのは後者だったのでしょう。同時に、ゲストを招聘するにしても、知名度では劣っても、能力においては引けを取らないダンサーたちを連れてきました(例外もいましたが)。

  ビントリーは次の2012~13年シーズンをもって退任するそうです。ダンサーたちの位階を決定できる最後の機会、つまり今のうちに、優秀かつ将来有望な団員たちを昇格させたのかもしれません。

  かのアンソニー・ダウエルも、英国ロイヤル・バレエ団の芸術監督を退任する直前に同じことをやりました。次期芸術監督は、不用とみなしたダンサーをリストラしまくることで有名な人物だったので、ダウエルはダンサーたちの位階を上げることで、彼らを庇おうとしたのでしょう。

  例の新国立劇場合唱団員の解雇事件からも分かるように、日本初の劇場専属を謳いながら、法的には雇用関係とはみなされず、実質的にはパートタイマーに過ぎない団員たちの待遇に、ビントリーは愕然としたんじゃないかと想像します。ビントリーは最後に自分ができることとして、新国立劇場バレエ団の主要ダンサーたちの位階=待遇を上げておきたかったのかもしれません。が、私の大カン違いだったらすみません。

  んで、今日の『マノン』ですが、24日と26日のキャストと比較しながらの感想になっちゃいます。優劣を言いたいんじゃないです。比較してはじめて、それぞれの良さや個性の違いも分かるからです。

  まずレスコー。菅野英男さんでした。24日と26日のレスコーだった古川和則さんが、チンピラのヒモ男をねっとりと演じて強烈な印象を残したのに対して、菅野さんは切れ味鋭い踊りで見せました。演技のほうでも、菅野さんが第二幕、泥酔したレスコーを演じて踊っている様がすごく楽しそうで、俳優は悪いヤツを演じるのが好きだ(By 北野武監督)ってホントなんだな~、と思いました。

  レスコーの愛人は寺田亜沙子さんで、踊りは湯川麻美子さん(24日、26日)よりも端正できっちりした印象でした。自分流にアレンジしないで、真面目に丁寧に踊るという感じです。第一幕でレスコーの愛人が登場するシーンの踊りで、片方の爪先をずっずっず、と引きずるような妙なステップを踏むでしょう。あれがすごくきれいでした。

  乞食のかしら役の八幡顕光さんは、膝を極端に曲げながらの回転とジャンプとがてんこもりの踊りを見事に踊りました。腰の骨が折れそうな、あの連続上体180度ひねりはちょっと苦しそうでした。

  優劣は言わんといいながら、個人的にミスキャストだと思う人。ムッシューG.M.役の貝川鐵夫さんと看守役の山本隆之さん。貝川さんは存在感が希薄でした。「平たい顔族」だからではないです。24日と26日に看守役だった厚地康雄さんは、「平たい顔族」でもあれだけ冷酷で残忍なキャラを演じきったわけだから。今日は「客の一人」役だったマイレン・トレウバエフのほうが、ムッシューG.M.に見えてしまって困った。

  今日の看守役だった山本隆之さんも迫力不足だと思いました。まったく悪いヤツに見えません。同じ王子系統の逸見智彦さんが悪役(『ラ・バヤデール』のラジャ)を演じたらすっごい悪人になったので、山本さんもさぞ悪いヤツになるだろう、と楽しみにしてたんですが。

  高級娼婦役の厚木三杏さんと長田佳世さんは、踊りも演技も見ごたえがありました。第二幕で二人がどつき合いながら踊るシーンでは、客席から笑いが起きていました。

  第二幕でのマノンと男性客たちとの踊りは、今日のほうがリフトがきれいに決まっていました。男性客がマノンをブン投げて、隣の男性客がキャッチするのをくり返すリフトね。ゲストがマノン役だった日はぎくしゃくしてました。やっぱり同じ団員同士のほうが、練習時間も長いんだから踊りの息が合いますわな。

  長くなったので、マノン役の小野絢子さんとデ・グリュー役の福岡雄大さんについてはまた後日~。


 付記1.本日の『平清盛』(NHK大河ドラマ)

  やはり脚本が良くないと思う。私は先週もちゃんと観たけど、平治の乱の原因がさっぱり分からなかった。

 付記2.本日の「知られざる大英博物館(2)」(NHKスペシャル)

  先週も観ました。これはおすすめの番組です!!!展示室よりも地下収蔵庫のほうが良い品を置いてあるのね~。

  最も興味深いのは、大英博物館の研究者たちの解説や文物の研究作業の様子です。陶器の底の破片を見ただけで、「これは古代ギリシャ初期の様式ですね」とか、何の変哲もない石の穴を見ただけで、「この穴の形は古代ギリシャの建築物特有のもので、床と床とをつなぎ合わせるのに用いたのです」とか言ってて、すげー、と感嘆しました。

  この番組を観ておけば、大英博物館の現物なんぞに行く必要なし!    
       
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