▼家の前には太平洋が広がっている。その沖50メートルほどに、消波ブロックがその名称の通り、大波を防ぐため海岸と平行に並んでいる。その内側に、波と北風を避けるためか、毎年冬の使者白鳥が飛来する。
▼令和元年12月3日朝。番(つがい〉とも思われる二羽の白鳥が、前浜に飛来した。人口870人(10月末)の寒村に、毎年見られる光景だ。白鳥の飛来は「何か良いことがある」という期待で心が和やらぐ。
▼「白鳥は哀しからずや空の青 海のあをにも染まずただよふ」という、牧水の歌が浮かんでくる。誰からも影響されず、9条を守り戦争の無い平和が続くことを、思わず心の中で祈った。
▼雪が吹き荒む夜も、甲高い声で二羽は鳴き続けている。「寒さにも負けず頑張ろう」と、励ましあっているようにも聞こえる。じっくり耳を傾けると「ウポポイ・ウポポイ」というようにも聞こえる。
▼来年春にオープンするアイヌ文化の拠点施設、民族共生象徴空間が「ウポポイ」だ。意味は「大勢で歌う」という意味だ。二羽だが、消波ブロックの上に住まいするカモメの群れにも、一緒に歌ってと呼び掛けているような気もする。
▼アイヌの踊りは、普通は鶴の踊りだが、鶴の仲間の白鳥も、ウポポイの応援をしているように思う。ふと気が付いた。先日、北海道知事がIR誘致を断念したからではないかと。
▼苫小牧市が誘致に動いていたが、広大な大地が開発される。開発予定地にはウトナイ湖などの沼地が広がり、ラムサール条約登録地であり、国指定鳥獣保護区になっている。
▼白鳥はじめ多くの渡り鳥の【鳥の駅】になっている。IR断念(知事は誘致のチャンスをうかがっているだけだと思うが)で、白鳥二羽が代表で、私のところにお礼に来たのではないかと思い付いた。
▼IR誘致に関し、函館地区で説明会が二度あった。両方に参加したが、参加者はまばらだった。その分発言をするチャンスがあった。
▼二回目に私が発言した内容が、北海道新聞に掲載されていた。『道が10月中旬に函館で開いた地域説明会には市民8名が参加。「来年には民族経共生象徴空間(ウポポイ)が開設される。カジノが建つと北海道のイメージに統一性がなくなる」との指摘が挙がった。
▼アイヌ語で北海道のことを「アイネ・モシリ」という。意味は「人間の静かなる大地」だ。そこにカジノを中心とするIRは、ふさわしくないのではと発言したからだ。
▼参加者8人の中には、私の妻もいた。誘った友人が参加できなくなったので、妻を連れて行ったのだ。人数が少なすぎて時間があったので、私は多く発言の機会を得た。
▼道内各地での説明会後、道民の反対が多いということで、知事は申請を断念した。そのことについて、ウトナイ湖周辺の水鳥代表で、白鳥二羽が私のところへお礼に来たのではないかと、自分勝手な解釈をし、白鳥に「ご苦労様」と伝えた。
▼今日も砂浜に二羽の姿が見えた。『幾山河越え去り行かば寂しさの 終てなむ国ぞ今日も旅ゆく』。上述の句とこの句は、若山牧水、大学4年の作だという。
▼私の50歳頃の一句だ。海岸近くに白鳥が泳いでいた。その時近くにいた、4~5歳の子供との会話から。
白鳥をフラリンゴという鄙の子
三等下