カメラとほんの少しの日用品をまとめてホテルを出た。
思えば私なんて、このくたびれた革のカバンひとつに入る、
たったそれだけのもんだ。
地下鉄に乗って向かったのはエッフェル塔。
パリに来たからにはどうしてもこの景色を眺めておきたかった。
地下鉄の駅を出て、トロカデロ庭園に立ち息を飲んだ。
天にかけられた梯子のように空に伸びるエッフェル塔
それはやわらかな薄紅色の朝もやの繭の中で眠る夢のように
どこまでも甘く、このうえなく美しく。
そこから生まれる今日はどんなに素晴らしいものだろうか。
この世は果てしなく美しい
まだ夜の冷たい空気が残る誰もいない広場に
ぺたりと腰を下ろし、ずっとずっと眺めていた。
なぜだか心に幸せが湧き上がってきた。
この美しい光景を見る事ができて本当に幸せ
幸せ
私は今、私で、今ここにいていいんだ
迷子になんてなっていない
ふと涙が流れてきた
それは感動にじわじわと涙腺が熱くなる涙ではなく
肌を刺せば当然流れる血液のようにすーっと頬をつたう。
たくさん傷つき、悩み、苦しんで
自分のかたちを窮屈にねじ曲げてきた。
でもその全ては今完結し、また最初に戻ったのだ。
私は、わたし
涙をぬぐいもせずひたすら思う
神様、どうかこの美しさをたくさんの人に伝える私でありたい。
このカメラを、この筆をもって。
夢の朝もやが消え、青空に人々が目覚める頃
ようやく私も動き始めた。
春の公園をぬけ、エッフェル塔まで行ってみる事に。
近づけば近づく程大きく高くそびえ
重い鉄の塊のそれは脅威にすら感じられた。
でもさらに近づけばその繊細で華奢なレースのような構造が
なんとも華やかで軽やかにさえ感じる。
塔に上る長蛇の列を横目でみて
そのまま塔の真下をくぐって向こう側に出た。
順光をあびてすっくりと立つその姿は
完璧に均整の採れた美しい女神のようであり、
でも愛くるしいおもちゃのようでもある。
ほんとうにかわいい。
いつか大切な人と手を取り合って、また見に来たいな。
さて、午前中いっぱいをエッフェル塔にゆっくり費やし、次はランチ。
先日パリ旅行に行ったばかりの友達にきいたおいしいお店に行ってみる事に。
地下鉄で少し郊外へ向かう。
教えてもらった住所通りに行ってみた。
それらしきお店を見つけたけど閉まってるみたい。
ま、まだお昼までにはちょっとあるし待ってよ、と
近くの小さな公園でひなたぼっこ。
可憐に咲く桜の下に座ってぼんやり。
公園ではお母さんやおじいちゃん、おばあちゃん達が小さな子どもを遊ばせている。
こどもの笑う声、桜は咲き、空は青く、あたたかな春の日差し
世界はなんてすてきなんだ。
待ってる間、お土産に買ったマカロンを激写。
連れがマカロンを好きかどうか聞かなかったけど
でも私が食べたいから勝手にこれにした。
日本にいたときはそんなにマカロンには惹かれなかったけど
とにかくパリのマカロンは素晴らしくおいしい。
心ときめくようなきれいな色、まるくかわいい形、
外はぱりっと中はしっとり、どこまでも軽やかな口当たり
フルーツを使った物は果実をぎゅっと凝縮して宝石にしたみたいな味わい。。
ああ、早く食べたいな~~
そうこうしているうちに、どこかで鐘がなって
公園の子どもたちが大人たちに手を引かれ一斉に家に帰って行った。
お昼ご飯の時間なんだな。
私もさっきのお店に戻ってみた。
でもやっぱり開いてない。。
どうしよう、この辺はあまりお店ないし、中心街まで戻るかな。。
でもその向かいにあったお店がなんかおいしそうな雰囲気をむんむんさせてたから
少し考えて、思い切ってそのお店に入ってみる事に。
店の中心に大きなバーカウンターがあって
そのまわりを赤色のギンガムチェックのクロスを設えたテーブルが囲む。
なんだかパリの下町ってイメージ。
窓際の端っこの席に座ってもいいってきいたら
こっちにしてよ、と長テーブルに座らされた。
数分後、その意味が分かった。
広い店内はあっというまに満席、私はすし詰めの相席となった。
込みだした店内で、ぼやぼやしてたらいつまでたってもご飯にありつけない
読めないフランス語のメニューを解読してる場合じゃないので
ウエイトレスが来たタイミングですばやく日替わりランチを注文。
ま、日替わりランチってんだから、それらしきものが来るでしょ。
じゃーん、日替わりランチ。
ひき肉の上にマッシュポテトが乗っている本当にシンプルな料理。
でもこれがやたらうまかった。
なんだ、なんでだろう?
ポテトもお肉も多分普通の食材なのに、どっちもすごくいい塩加減、
お肉はジューシー、ポテトはクリーミー。
おいしい!!
写真では分かりづらいけど、結構な量でてきたのを結局たいらげた。
お腹を満たしたら、周囲の事が気になった。
みんな何やら大きなステンレスのボールみたいのをかかえて食べてる。
何だ?ありゃ?
ちょうど隣の席の人達のところにも運ばれてきたので覗いてみたら
なんと山盛りサラダだった。
しかもチーズだのベーコンだの卵だのいっぱい具がのってて超おいしそう☆
あ”!!!もしかして、友達が勧めてくれたお店ってここだったんじゃ?!
確か山盛りサラダがおいしいって言ってた。
行けなくて残念と思ってたのに、ちゃんとたどり着いてたんだ。
ああ、わたし!どこまでもおっちょこちょいだ。
くぅぅ~、サラダおいしそう!超大好物なの、サラダ。
ああん、食べたかったよぉ。
くそぉ、また絶対来てやる、パリ!!
2泊3日のパリ家出旅行も今日が最終日
最後に私が一番大好きな美術館へ。
オランジュリー美術館、モネの睡蓮の間
ここに骨を埋めてもらいたいくらい大好きだ。
帰りの便までの時間をたっぷりモネの絵に囲まれて過ごす。
時にうたた寝しつつ、睡蓮のようにふわふわと漂いながら
この絵の持つ空気がぴったりと私にはりつくように
そっと息をひそめて沁みて行くのを待つ。
美術館を出た時、私の心はシンと静まり返っていた。
不思議だ、旅に出れば新しい物に出会って
心は沸き立つものだと思っていたのに。
意思を湛えた心はもう波だったりしない。
私の行くべき先はきっとあると信じて見上げるパリの空は
モネの描いた絵のように不思議な色に輝いているのでした。