元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「青い凧」

2022-03-14 06:16:50 | 映画の感想(あ行)
 (原題:藍風箏)93年中国作品。第二次大戦後からいわゆる文化大革命までの中国の体制を批判する映画は少なくないが、本作は最も直裁的な描写を敢行している。そのためか中国では上映禁止となり、田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)監督は10年間映画撮影を禁じられた。映画の出来としては高いレベルにあり、第6回東京国際映画祭でグランプリを受賞している。

 1950年代初頭、図書館司書の少竜と女性教師の樹娼は質素な結婚式を挙げる。時は新しい共産党政権が始まったばかりで、2人は毛沢東の施政を疑ってはおらず、素直に毛主席の肖像に敬礼する。やがて息子の鉄頭が生まれ、家族3人は貧しいながらも幸せな生活を送っていた。ところが57年、いわゆる整風運動により少竜は僻地へと追放される。



 後に少竜は事故で死亡し、少竜を密告した同僚の李国棟は、自責の念から母子の面倒を見ることを決心する。李と樹娼はやがて桔婚するが、その李も病気で世を去る。困った樹娼は党幹部の老呉と3度目の結婚をしたものの、66年に勃発した文化大革命により、老呉の立場も危うくなる。

 この映画が本国での公開が許可されなかったのは、共産党の幹部が生活苦の女性の立場に付け込んで結婚するという描写があったからだという。それでも映画の中で老呉は樹娼と鉄頭のことを思いやっており、決して悪人として描かれてはいない。だが、当局側はそんなことを関知せずに頭ごなしに否定したのだろう。最近では「ノマドランド」を撮ったクロエ・ジャオ監督に対する中国側の仕打ちも記憶に新しいが、彼の国のメンタリティというのは現在も全く変わっていない。

 激動の時代を生きた樹娼と鉄頭が遭遇する出来事は、実に理不尽なことばかりだ。欺瞞に満ちた整風運動の実態をはじめ、真面目に生きてきた市民が、さしたる理由も無く辛酸を嘗める様子は身を切られるほど辛い。田壮壮の演出はいたずらに扇情的になることはないが、その静かなタッチが事態の深刻さを遺憾なく印象付けている。そして筋書きは十分にドラマティックだ。

 はかない自由への希求を、少竜が鉄頭と一緒にあげた青い凧に象徴させるモチーフも効果的である。樹娟役のリュイ・リーピンは本作で東京国際映画祭で主演女優賞を獲得しており、その評価も頷けるほどの力演だ。プー・ツンシンにリー・シュエチェン、クオ・パオチャン、ツォン・ピンら他の面子も良い仕事をしているし、鉄頭を演じる子役も達者だ。ホウ・ヨンのカメラによる映像は奥行きが深く、そして大友良英が担当した音楽は見事と言うしかない。

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