元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「星空のむこうの国」

2017-04-02 06:38:48 | 映画の感想(は行)
 86年作品。現在でも映画やテレビドラマなどでコンスタントに活動している小中和哉監督の、劇場用長編デビュー作である。とはいっても、彼のフィルモグラフィは子供向けが多く、本作以外は観ていない。だが、この映画に限って言えば決して低くはないクォリティを持ち合わせており、(当時は限られた公開ながら)接することが出来た観客には、強い印象を残したことだろう。

 星を見るのが好きな平凡な高校生の昭雄は、ある日交通事故に遭って頭を打ってしまう。幸い傷は治ったのだが、それから彼は見知らぬ女の子の夢を毎晩見るようになる。並走する電車の窓に彼女の姿を見つけた日、帰宅してみたら彼は“死んだ者”とされていた。いつの間にかパラレル・ワールドに迷い込んでしまったのだ。



 その世界での昭雄のガールフレンドだったのが、くだんの少女・理沙だった。彼女の強い想いが次元を超えて昭雄を引き寄せたのだ。昭雄は親友の尾崎の助けを借りて理沙と会うことが出来たが、彼女は難病で余命幾ばくもないことを知る。昭雄はシリウス流星群を2人で見るため、理沙を一晩だけ病院から連れ出す。

 SF仕立てのラブストーリーで、昨今の若年層向けの毒にも薬にもならないようなシャシン群にも通じる筋書きながら、堅牢で無駄を廃したプロットとスムーズな展開が76分という短い上映時間の中に上手く組み立てられており、訴求力が高い。

 とにかく、観客に媚びるような素振りは微塵も感じさせず、正攻法にドラマを進めようという作者の姿勢が嬉しい。本作はNHKの少年ドラマシリーズをオマージュしているが、確かにあのシリーズ(まあ、記憶に残っているのは数本だが ^^;)は真面目に作られていたように思う。また、漫画やライトノベルの映画化ではなくオリジナル脚本だというのも見上げたものだ。スリリングな中盤から鮮やかな幕切れを迎えるまで、飽きること無く楽しませてくれる。

 主演の神田裕司は現在は監督やプロデューサー業で知られているが、本作での俳優としての仕事も達者なものだ。理沙に扮する有森也実はこれが実質的な映画デビュー作。ルックスはアイドル的だが、演技はこの頃からしっかりしていた。また音楽を担当したのがジャズ・ピアニストの木住野佳子で、的確なスコアを提供している。
コメント
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