元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「インヒアレント・ヴァイス」

2015-05-06 07:05:55 | 映画の感想(あ行)

 (原題:Inherent Vice )ひたすら退屈な映画で、中盤以降は眠気との戦いに終始した。誉めている評論家もいるようだが、世の中には映画の出来そのものではなく、映画の手法やモチーフなどに過剰に拘泥してその範囲内ですべてを語ってしまえる人も存在するのだと、感心する次第である(注:これは別に非難しているわけではない。念のため ^^;)。

 70年代初頭。ロスアンジェルスで探偵業を営むドックは重度のマリファナ中毒。そんな彼の前に、過去に交際していたシャスタが現れる。彼女はドックと別れた後に金持ちの不動産業者の愛人になっていた。その不動産屋の妻も浮気の真っ最中で、妻とそのボーイフレンドが不動産屋の拉致と監禁を企てているらしいので何とかしてほしいと言う。

 さっそく捜査に乗り出すドックだが、いつの間にか身に覚えの無い事件の犯人に仕立て上げられ、くだんの金持ちとシャスタも失踪してしまう。どうやら裏には巨額の土地利権と麻薬シンジケートの陰謀があるらしい。ドックは単身その闇の中に飛び込んでいく。アメリカの作家トマス・ピンチョンの探偵小説「LAヴァイス」(私は未読)の映画化だ。

 本筋であるはずの謎解きは完全に捨象されており、辻褄の合わないことばかり示される。また、妙な登場人物達が次々と出てきて、映画が進むにつれワケの分からない様相を呈してくる。終盤には主人公は事件を解決したいのかどうかも怪しくなり、ただワケありの警察官との漫才めいたやり取りが意味も無くクローズアップされる。

 個々の描写はメリハリが感じられず、曖昧模糊として要領を得ない。そう、これはヤク中の患者から見た世界が展開されているのだ。別にそれが悪いというわけではないが、この調子で芸も無く2時間半も引っ張ってもらっては困るのだ。こういう方向性のシャシンはハッタリかましたサイケな(?)画面を大仰に繰り出し、ボロの出ないうちに1時間半以下でサッと切り上げるのが鉄則だろう。

 ポール・トーマス・アンダーソン監督の仕事としては前作の「ザ・マスター」から大きく後退。漫然と求心力も無い映像を延々と垂れ流すという、昔の悪いクセが戻ってきたような印象を受ける。

 主演のホアキン・フェニックスをはじめ、ジョシュ・ブローリンやキャサリン・ウォーターストーン、リース・ウィザースプーン、ベニチオ・デル・トロといった面々も今回はまるで魅力無し。おなじみジョニー・グリーンウッドの音楽も微温的で鬱陶しい。見所を強いて挙げれば70年代の風俗だろうか。まあ、ファッション等はよく再現されているとは思うが、別にどうということはない。
コメント
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