鯉山小学校の3年生は、この所珍しい2学級編制の学年だそうです。
この二クラスになっている3年生は、今、吉備津神社にあるお竈殿にある竈の下に埋められていると言い伝えられている「温羅」について、調べているのだそうです。
そこで、地域の老人から、この地に伝わる「温羅と吉備津彦命」の関係について聞こうじゃないかと言うことになって、その役目を私が仰せつかったのです。
私ごときが、と、思ったのですが、とにかく一応お引受けしました。帰って家でその話をすると
「また、ですか。いいかげんにしなせえ、そんなに話がうまいわけでもないのに。先生がいい迷惑だよ」
と、女御殿から、しっかりとお仕置きを受けたのは勿論ですが。
とにかく行ってお話しをしなくてはなりません。40分も「温羅だけ」では持ちません。どうすべきか、今、思案の最中です。
「もし時間が余るようなら、吉備津に伝わる昔話でもしてあげたら」と言うと助言により、それがよかろうと言うことになりました。
その昔話をちょっとご紹介します。
むかしむかし、あるところに、じいさんと、ばあさんがすんでいました。
ある日のことです。ばあさんがいいます。
「きょうは、わしが、おめえさまのかわりに芝をかってくるから、おめえさまはゆっくりとやすんでいておくれんせえ」
というと、とっとと山へでかけますのじゃ。
たくさんのしばもとれて、ちょうど昼になったけええ、弁当を広げて、大きなお焼きひろげます。ばあさんがそのお焼きを手に取ろうとした途端です。どうしたことか、そのお焼きがコロコロと山から転げ落ちます。ばあさん、あわてて、そのお焼きを追いかけます。コロコロと山をころげおちて。大きな洞窟(ほらあな)の中に飛び込んでいきます。穴の中が真暗くて何も見えません、とにかく、おばあさんはお焼きを追いかけます。
やがて、急に明るい所へ出ます。
すると、そこに恐ろしい鬼がいて、おばあさんに言います。
「やいこら、何者だ、何しに来た」
と、今にもおばあさんを一飲みしそうに恐ろしげに言います。
驚いたおばあさんは腰も抜かさんばかりに、今迄のことを鬼どもに話します。
「あのお焼きか。あれはお前が作ったのか。今食べてしもうた。あんなにおいしいお焼きはたべてことがねえ。うまれてはじめてだ。うめえうめえ」
鬼どもは、てんでに言います。ある鬼が言いす。
「こら、そこのばあさん、もういっぺんも、にへんも、そうじゃずっとじゃ。あのお焼きを食わしてくれんか。なあ、ばあさんたのまあ」
「そうだ。そうだ」
と、そこいらの鬼どもはみんなてんでに言います。
ばばさんはこまってしもうとります。だって、家では、じいさんが、ばあさんの帰りを待っているはずです。気が気ではありません。でも帰してくれそうにもありません。
「お焼きを作ると言ってもお米やみそや塩がいるでねえか。そんなもんはねえじゃろう」
ばあさんは考えて考えて、鬼が困るだろうと思っていろいろな注文を出します。
すると鬼どもは
「そげんもんは、こけえある」
と、言って鬼は、ばあさんを米櫃の所に連れていきます。見ると米櫃の底にわずかばかりの米があります。
「これだけか。こんなもんではあんたらみたいな元気のええ鬼さんたちのお腹を一杯にすることができんのじゃじゃがなあ」
「まあ、これで炊いてみなされ」
鬼が言います。
しかたありません。ばあさんは米櫃の中に残っていた2、3合の米を側に置いてあったしゃもじて掬って釜の中に入れてたきます。
どうでしょうし。ばらくして出来上がった釜の蓋を開けて、ばあさんがびっくりします。そうでしょう、2、3合入れはお米が、お釜いっぱいのご飯になっているではありませんか。
此の炊き上がったご飯で、兎も角、ばあさんはおいしいお焼きをいっぺええこしらえてやったとさ。
家のことがしんぺえでたまらないのですが、どうしようもありません。2,3日たったでしょうか。その日は、朝早くから鬼どもは何かせわしげにあっちへ行ったりこっちへ来たりしていました。
一人の鬼がばあさんの所に来て言います。
「今日は少し遠い所に行くから、ばあさんのおいしい弁当をいっぴえ作ってくれ」
と、言います。
それを聞いてばあさん、今日が、この鬼とものところから逃げて、じいさんの所に帰れるいいチャンスだとおもって、せっせとお焼きをこしらえます。
鬼どもが出た行った後、ばあさんは
「このお釜は重たくてどうしょうもねえ。このしゃもじでも貰って鬼のいない間にじいさんの待つ我家に逃げ帰るとしょうか」
と、すたこらささと鬼の屋形から出ます。ところが、そんなに簡単に、鬼どもは、此の重宝なばあさんを手放すもんですか。見張りをちゃんと付けていたのです。すぐ里へ逃げ帰っていくばあさんをみつけます。
「まてー。お焼きを上手に作るばあさん」
と、みんなして追いかけてきます。
鬼どもの方が速く走ります。たちまちのうちにばあさんに追いつきます。
丁度そこに谷川が流れていました。鬼どもは谷川の水が嫌いだと言うことを知っていたばあさんは、鬼のところから持ってきたしゃもじを谷川に投げ、それに乗って逃げます。
ところが、どうでしょう。その鬼どもは一斉に谷川の岸に並んで、口を差し入れ、てんでに谷川の水を飲みだします。すると、たちまちのうちに谷川の水が干上がってしまいました。
ばあさんはそこで考えました。今の飲んだ鬼どもの水を吐き出させる工夫はないかと。
そうだ、とばかりに、ばあさんは、水のなくなった川の上に立ち上がり、突然お尻をまくって、鬼どもめがけて「エイ」とばかりに屁を一発「ブスーツ」とかまします。
それを見た。鬼どもは一斉に「ワハハは・・・」と大笑いします。その拍子に今飲んだ谷川の水をいっせいに吐き出し、大洪水です。この大洪水に乗って一気に家まで帰れました。めでたしめでたしです。
なお、ばあさんが持ち帰ったしゃもじは、米粒を2,3粒入れただけで、ごなんがお釜一杯に炊き上がります。
それから二人は幸福に暮したと言うことです。
というのです。
「こけえは、こげえな話がえっとあるでのう」と、私が聞いたお年寄りは言っていました。「えっと」が「うんと」であたのかもしれませんが。
この二クラスになっている3年生は、今、吉備津神社にあるお竈殿にある竈の下に埋められていると言い伝えられている「温羅」について、調べているのだそうです。
そこで、地域の老人から、この地に伝わる「温羅と吉備津彦命」の関係について聞こうじゃないかと言うことになって、その役目を私が仰せつかったのです。
私ごときが、と、思ったのですが、とにかく一応お引受けしました。帰って家でその話をすると
「また、ですか。いいかげんにしなせえ、そんなに話がうまいわけでもないのに。先生がいい迷惑だよ」
と、女御殿から、しっかりとお仕置きを受けたのは勿論ですが。
とにかく行ってお話しをしなくてはなりません。40分も「温羅だけ」では持ちません。どうすべきか、今、思案の最中です。
「もし時間が余るようなら、吉備津に伝わる昔話でもしてあげたら」と言うと助言により、それがよかろうと言うことになりました。
その昔話をちょっとご紹介します。
むかしむかし、あるところに、じいさんと、ばあさんがすんでいました。
ある日のことです。ばあさんがいいます。
「きょうは、わしが、おめえさまのかわりに芝をかってくるから、おめえさまはゆっくりとやすんでいておくれんせえ」
というと、とっとと山へでかけますのじゃ。
たくさんのしばもとれて、ちょうど昼になったけええ、弁当を広げて、大きなお焼きひろげます。ばあさんがそのお焼きを手に取ろうとした途端です。どうしたことか、そのお焼きがコロコロと山から転げ落ちます。ばあさん、あわてて、そのお焼きを追いかけます。コロコロと山をころげおちて。大きな洞窟(ほらあな)の中に飛び込んでいきます。穴の中が真暗くて何も見えません、とにかく、おばあさんはお焼きを追いかけます。
やがて、急に明るい所へ出ます。
すると、そこに恐ろしい鬼がいて、おばあさんに言います。
「やいこら、何者だ、何しに来た」
と、今にもおばあさんを一飲みしそうに恐ろしげに言います。
驚いたおばあさんは腰も抜かさんばかりに、今迄のことを鬼どもに話します。
「あのお焼きか。あれはお前が作ったのか。今食べてしもうた。あんなにおいしいお焼きはたべてことがねえ。うまれてはじめてだ。うめえうめえ」
鬼どもは、てんでに言います。ある鬼が言いす。
「こら、そこのばあさん、もういっぺんも、にへんも、そうじゃずっとじゃ。あのお焼きを食わしてくれんか。なあ、ばあさんたのまあ」
「そうだ。そうだ」
と、そこいらの鬼どもはみんなてんでに言います。
ばばさんはこまってしもうとります。だって、家では、じいさんが、ばあさんの帰りを待っているはずです。気が気ではありません。でも帰してくれそうにもありません。
「お焼きを作ると言ってもお米やみそや塩がいるでねえか。そんなもんはねえじゃろう」
ばあさんは考えて考えて、鬼が困るだろうと思っていろいろな注文を出します。
すると鬼どもは
「そげんもんは、こけえある」
と、言って鬼は、ばあさんを米櫃の所に連れていきます。見ると米櫃の底にわずかばかりの米があります。
「これだけか。こんなもんではあんたらみたいな元気のええ鬼さんたちのお腹を一杯にすることができんのじゃじゃがなあ」
「まあ、これで炊いてみなされ」
鬼が言います。
しかたありません。ばあさんは米櫃の中に残っていた2、3合の米を側に置いてあったしゃもじて掬って釜の中に入れてたきます。
どうでしょうし。ばらくして出来上がった釜の蓋を開けて、ばあさんがびっくりします。そうでしょう、2、3合入れはお米が、お釜いっぱいのご飯になっているではありませんか。
此の炊き上がったご飯で、兎も角、ばあさんはおいしいお焼きをいっぺええこしらえてやったとさ。
家のことがしんぺえでたまらないのですが、どうしようもありません。2,3日たったでしょうか。その日は、朝早くから鬼どもは何かせわしげにあっちへ行ったりこっちへ来たりしていました。
一人の鬼がばあさんの所に来て言います。
「今日は少し遠い所に行くから、ばあさんのおいしい弁当をいっぴえ作ってくれ」
と、言います。
それを聞いてばあさん、今日が、この鬼とものところから逃げて、じいさんの所に帰れるいいチャンスだとおもって、せっせとお焼きをこしらえます。
鬼どもが出た行った後、ばあさんは
「このお釜は重たくてどうしょうもねえ。このしゃもじでも貰って鬼のいない間にじいさんの待つ我家に逃げ帰るとしょうか」
と、すたこらささと鬼の屋形から出ます。ところが、そんなに簡単に、鬼どもは、此の重宝なばあさんを手放すもんですか。見張りをちゃんと付けていたのです。すぐ里へ逃げ帰っていくばあさんをみつけます。
「まてー。お焼きを上手に作るばあさん」
と、みんなして追いかけてきます。
鬼どもの方が速く走ります。たちまちのうちにばあさんに追いつきます。
丁度そこに谷川が流れていました。鬼どもは谷川の水が嫌いだと言うことを知っていたばあさんは、鬼のところから持ってきたしゃもじを谷川に投げ、それに乗って逃げます。
ところが、どうでしょう。その鬼どもは一斉に谷川の岸に並んで、口を差し入れ、てんでに谷川の水を飲みだします。すると、たちまちのうちに谷川の水が干上がってしまいました。
ばあさんはそこで考えました。今の飲んだ鬼どもの水を吐き出させる工夫はないかと。
そうだ、とばかりに、ばあさんは、水のなくなった川の上に立ち上がり、突然お尻をまくって、鬼どもめがけて「エイ」とばかりに屁を一発「ブスーツ」とかまします。
それを見た。鬼どもは一斉に「ワハハは・・・」と大笑いします。その拍子に今飲んだ谷川の水をいっせいに吐き出し、大洪水です。この大洪水に乗って一気に家まで帰れました。めでたしめでたしです。
なお、ばあさんが持ち帰ったしゃもじは、米粒を2,3粒入れただけで、ごなんがお釜一杯に炊き上がります。
それから二人は幸福に暮したと言うことです。
というのです。
「こけえは、こげえな話がえっとあるでのう」と、私が聞いたお年寄りは言っていました。「えっと」が「うんと」であたのかもしれませんが。