かって、京で随分とお世話くださった、あの備中倉敷の薬問屋の林 孚一の旦那さまがにこやかに、でんとお座りになっておられます。
「どうして、ここに林様が・・・・」
小雪は我目を一瞬疑いました。あれから時間はそれほどは経ってはいません。わずか一年足らずの間にわが身に降りかっかかった数々の思いも寄らないような出来事が、まるで嘘のように、このお座敷に居住まいを正してお座りになっていらっしゃる林さまを見た途端思われました。
「まあ、もうそっとこちらに入られえ」
京では、ついぞ聞いた事もない林様の備中言葉にも驚かされます。その言葉にもつれられるようにして、小雪は、少しばかりお座敷にの中を目指して、ほんの少しでしでしたが、いざり進みました。
林様の前には、すでにお膳も用意され 備前の小瓶にはお酒でしょうかちょこんと添えられていました。林様はあまりささは嗜まれないとは知っていましたが、喜智さまのお心遣いでしょうか、そんなお座敷の様子に、今までに持っていた小雪の緊張した心は次第に打ち解けていくよう思われます。
「まあ一杯久しぶりに、勺を、小雪に頼もうか」
そうおっしゃられて、林様はやおら、これも小ぶりの品のいい備前の猪口を差し出されるのでした。
小雪は、その言葉に連れられるように林様の前までに進み、膳に据えてあった備前の小瓶を、両の手で愛しむように捧げ持ち、ゆっくりと林さまの差し出された猪口にややさめたお酒を注ぐのでした。
「この備前を、以前からこの家の主人徳政様が好んでいてね、いつも使っていたのだそうだ」
林様の声にどこか何時ものはきはきした張りがありません。お酌をしながらそんなことにも気のつくほどの落ち着きが小雪に見えてきました。
「どうして、ここに林様が・・・・」
小雪は我目を一瞬疑いました。あれから時間はそれほどは経ってはいません。わずか一年足らずの間にわが身に降りかっかかった数々の思いも寄らないような出来事が、まるで嘘のように、このお座敷に居住まいを正してお座りになっていらっしゃる林さまを見た途端思われました。
「まあ、もうそっとこちらに入られえ」
京では、ついぞ聞いた事もない林様の備中言葉にも驚かされます。その言葉にもつれられるようにして、小雪は、少しばかりお座敷にの中を目指して、ほんの少しでしでしたが、いざり進みました。
林様の前には、すでにお膳も用意され 備前の小瓶にはお酒でしょうかちょこんと添えられていました。林様はあまりささは嗜まれないとは知っていましたが、喜智さまのお心遣いでしょうか、そんなお座敷の様子に、今までに持っていた小雪の緊張した心は次第に打ち解けていくよう思われます。
「まあ一杯久しぶりに、勺を、小雪に頼もうか」
そうおっしゃられて、林様はやおら、これも小ぶりの品のいい備前の猪口を差し出されるのでした。
小雪は、その言葉に連れられるように林様の前までに進み、膳に据えてあった備前の小瓶を、両の手で愛しむように捧げ持ち、ゆっくりと林さまの差し出された猪口にややさめたお酒を注ぐのでした。
「この備前を、以前からこの家の主人徳政様が好んでいてね、いつも使っていたのだそうだ」
林様の声にどこか何時ものはきはきした張りがありません。お酌をしながらそんなことにも気のつくほどの落ち着きが小雪に見えてきました。