奇想庵@goo

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感想:『片想い』

2009年11月17日 22時23分02秒 | 本と雑誌
片想い (文春文庫)片想い (文春文庫)
価格:¥ 860(税込)
発売日:2004-08-04


評価の高かった『秘密』『白夜行』が期待外れで、東野圭吾への信頼が揺らいでいたが、本書で踏み止まった。

主要キャラクターは、元アメリカンフットボール部員。10数年前の試合の思い出話が導入部となっている。解説によると、著者はアメリカンフットボールが好きという話で、付け焼刃ではない語り口に好感が持てた。ポジションによる性格設定はちょっとやり過ぎな感もあったけれど。

本書のメインテーマは、性を巡る揺らぎである。性同一性障害が中心であるがそれだけに留まらない幅の広さが描かれている。
テーマの大きさも然ることながら、重要なのはフィードバックである。アメリカンフットボールという「男らしさ」を象徴するようなスポーツを対峙し、性差別は嫌悪しても常識の枠の中で生きる主人公を据えた。ストーリーが展開する中で、彼の変化をどう描くか。簡単には変わらない。どこまで理解できたかは、主人公も読者も問われている。

テーマは性を巡る常識への一撃だが、もちろんそれに留まらない広がりがある。それは、社会が「普通」の枠からはみ出すものへの嫌悪感であり、排除であり、強制である。それは社会の一人一人の心に根差したものだ。
解説で「異常な趣味嗜好をもった『ヘンタイ』の類いではない」と性同一性障害に苦しむ人々を指摘しているが、その『ヘンタイ』たちを社会の「普通」の枠から排除する構図は全く同一のものである。社会のルールから逸脱しない範囲内で、多様な形で共存できる環境を作ることが大切なことであって、○○ならいいが××はダメといった選別は解決への道筋とは逆の方向性だろう。

「普通」の枠内にいるときは心地良いが、一歩外へ踏み出すと生きることもままならない社会である。我々は無邪気に「普通」と言う。その無邪気さは、しかし、残酷な刃になる。例えば、家族形態。昔ほどではないとはいえ、結婚や出産への重圧、離婚への偏見など様々な「普通」でないものへの目に見えない攻めが存在している。
時代によって常識は変転しているにも関わらず、現在の常識に合わねば悪と見なす風潮は強い。刻一刻と変化するのに強固な「普通」信仰。日本文化・風習の多くは50年や100年程度の歴史のものが多い。それなのに、まるで太古から存在するように錯覚している。
不寛容の時代である。歪んだ価値観の上に立ち、他者を、特に弱者を攻撃して自己満足する時代。不確かだからそうなってしまう面もあるだろう。でも、その不確かさをちゃんと見据えて、認めて成り立つ社会ならば、不確かなことは悪いことじゃない。

ミステリとしては弱さもあったが、テーマの深さとそれに見合ったキャラクターの多彩さが印象的だった。東野作品の中では異色作と言うべきかもしれないが。
「東野ワールド」という言葉がある。意味は分からないが、ネット上でもファンの間で使用されている。「東野ワールド」とは相性が悪いかもしれないと思う。ファンに人気の『秘密』も『白夜行』も面白いとは思わなかった。ミステリ色の強い『どちらかが彼女を殺した』や”ガリレオ”シリーズは楽しめたが。そして、本書。著者にしては珍しいテーマ性の強い作品だが、そのテーマ性の強さゆえに興味深く読むことが出来た。読みやすくはあっても、読んだ後に何も残らない作品が多いが、本書は例外である。現時点での東野圭吾作品のマイ・ベストと言えるだろう。(☆☆☆☆☆☆)




これまでに読んだ東野圭吾の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

放課後』(☆☆)
探偵ガリレオ』(☆☆☆☆☆)
予知夢』(☆☆☆☆)
容疑者Xの献身』(☆☆☆☆☆☆)
卒業 雪月花殺人ゲーム』(☆☆☆)
眠りの森』(☆☆)
どちらかが彼女を殺した』(☆☆☆☆☆☆)
悪意』(☆☆☆)
私が彼を殺した』(☆☆)
嘘をもうひとつだけ』(☆☆)
赤い指』(☆☆☆☆)
秘密』(☆☆)
白夜行』(☆☆☆)


感想:『インシテミル』

2009年11月17日 21時29分46秒 | 本と雑誌
インシテミルインシテミル
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-08


”小市民”シリーズ以外では初めて読む米澤穂信のミステリ。
アルバイトとして12人の男女が集められる。時給112,000円。集められた人々は〈暗鬼館〉と呼ばれる地下施設で7日間の滞在を命じられる。鍵の掛からない個室。一人一人に過去のミステリに関連した凶器が与えられる。ルールが明示され、殺人事件の予感が漂う中で、ついに犠牲者が現れる。

クローンズ・サークルが舞台の作品で、設定自体は面白い。ゲーム感覚に作られた舞台は面白みには欠けるが、刺激的ではある。奇しくも、結末においてルールがあからさまだと登場人物に指摘されたが、それは読者の感想でもあろう。
最大の欠点はキャラクターにある。12人の登場人物に魅力がない。記号的になりがちなのは仕方ないとしても、ここまで個性が表面的だと誰が死んでも感情が動かない。そして、それは主人公にも当てはまる。
プロローグ及びエピローグに相当する部分を除いて主人公視点で一貫している。それだけに、語られる主人公の内面が本書の重要なポイントなのだが、つかみどころのない印象のまま終わってしまった。後半探偵役をこなすが、前半は知的ではないように描かれる。頭の良さをひけらかす連中を批判的に眺めているが、結局は頭の良さが人物評価の基準となってしまっている。このあたりは、”小市民”シリーズでも鼻につく部分だと言えるだろう。

物語は淡々と進み、終結する。山場らしいものもなく、重要な二つのトリックもそれほどインパクトはなかった。せっかくの設定を生かし切れたようには見えない。
”小市民”シリーズに続いて本書でも物足りなさが強く感じられた。ミステリやSFに対して、人物が描けていないという批判がよくなされるが、他に突出した魅力があればその批判は意味をなさないと思っている。だが、米澤穂信に対しては、他の魅力を感じないがゆえに、人物が描けていないという思いを強く印象付けられてしまった。
この著者の作品は当面読むことはなさそうだ。(☆☆☆)




これまでに読んだ米澤穂信の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

春期限定いちごタルト事件』(☆☆☆☆)
夏期限定トロピカルパフェ事件』(☆☆)
秋期限定栗きんとん事件〈上〉』(☆)
秋期限定栗きんとん事件 下』(☆)


アニメ感想:『苺ましまろencore』

2009年11月16日 21時02分47秒 | アニメ・コミック・ゲーム
アニメOVA第2期全2話。
空気系アニメで各話ごとの感想を書くほど野暮な話もない。作画がどうとかよく分からないので尚更だ。
OVA第2期とはいえ、「苺ましまろ」以上でもなく以下でもないとしか言いようがない。
もちろん、その空気感を出すことが主題であり、それがちゃんと表現されているというだけで評価に値するわけだが。

印象的なシーンは、「あの世」から帰還した美羽を千佳が一番心配していた描写。細部の積み重ねが空気を生む。それがよく現れた場面だった。

苺ましまろ encore VOL.01 (初回限定版) [DVD]苺ましまろ encore VOL.01 (初回限定版) [DVD]
価格:¥ 6,090(税込)
発売日:2009-01-23
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発売日:2009-03-25



「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」が問うもの

2009年11月15日 21時44分50秒 | 入間人間
母を亡くした後、兄は自殺し、血の繋がらない妹は失踪した。「主人公」は、父と、妹の母親と暮らしていた。
父は、「主人公」の同級生である、みーくんとまーちゃんを誘拐し監禁した。
その中で、みーくんは虐待する側に回り、虐待される側にまーちゃんと「主人公」がいた。
父は、まーちゃんに彼女の両親を殺させた。
まーちゃんはその後、父を殺し、「主人公」をかばった妹の母親を殺した。こうして、監禁は終わった。


高校生となった。
連続殺人事件が起きた。「主人公」はみーくんと嘘をついてまーちゃんに近付いた。壊れたまーちゃんは、「まーちゃん」と呼んでくれる存在を「みーくん」と認識し、彼に甘える。また、まーちゃんは子供を誘拐し監禁していた。
「主人公」はなんとか誘拐を解決し、殺人犯だったみーくんと対峙した。
この、過去と現在の二つの事件を描いたのが第1巻である。


4、5巻の事件は、「主人公」が彼の生家を訪れたことから始まる。
些細なきっかけでまーちゃんの精神が混乱した。元から壊れてはいるけれど。
コンプレックスを抱えてはいるけれど、真っ当な常識人である伏見を伴って、「主人公」は生家にして昔の監禁事件の現場、現在は大江家の住まいとなっている屋敷を訪問した。
大江家夫人は変わり者で、その監禁事件のファンだった。二人は大江家に一泊するが、翌朝家の外で死んでいる夫人が発見される。そして、大江家は出入りできない巨大な牢獄となっていた。


大江家には、夫婦と長男、三姉妹、住込みの家政婦夫婦の8人が暮らしていたが、地域その他とは断絶していた。子供たちは学校に通わず、当主は離職したばかり。
全ての窓に鉄格子が嵌められた屋敷は陸の孤島となっており、電話線も切られていた。
長男が死体で発見され、三女が行方不明となった。そして、「主人公」が襲撃された。


両腕を壊され、地下に監禁された「主人公」だが、かろうじてそこから出ることに成功する。部屋に閉じ込められていた伏見も救出する。
家政婦の夫がやがて死体で発見され、残った人たちの前で「主人公」は謎解きを行う。
これは夫人が計画した事件であり、両親の言葉に絶対服従な長男が夫人の命に従って彼女を殺し、全ての段取りを整えて自殺した。その段取りとは単に屋敷を封鎖しただけでなく食料のほとんどを処分することだった。
家政婦は他の者には黙って、長男の死体を調理した。更に、食料の確保のため、実の娘でもある三女を殺した。次いで、彼女の夫を殺した。
部外者で食事を与えられなかった二人と、事実に気付いていた長女に加え、当主と次女もこれ以降食事を取らなくなった。ただ一人家政婦だけが生きるために食事していた。
当主と家政婦が対決し、体格は勝っているが空腹な当主が殺された。


この家を訪れたのが4月1日。2日に事件が始まり、19日に終わった。18日間食事を取らなかった二人は鉄格子の隙間を抜けて外に脱出した。その前日には長女と次女が同様に抜け出しており、食事をしていた家政婦だけは抜けられなかった。家政婦は逮捕された。
夫人の計画は「見立て」である。母が死に、兄が自殺し、妹が失踪し、父が監禁事件を起こして大人4人が死ぬという、「主人公」に対する「見立て」。
家政婦は愛するが故に、親しいが故に殺すという価値観の持ち主だった。食料として実の娘、夫と順に殺した理由がそれだ。


こうした無茶な設定の果てに問うたもの。

極限状態に置かれたとき、人を殺すことの善悪である。家政婦は生きるために人を殺し食った。まーちゃんは父に命じられて自分の両親を殺し、父を殺し、「主人公」をかばった妹の母を殺した。極限状態ではあっても置かれた立場は異なる。状況も違う。等しく裁けるものではない。
「主人公」や長女は、長男が死んだ時点で仕掛けに気付いていた。だが、その後の殺人を止めなかった。
犯罪に巻き込まれた被害者。しかし、被害者にして加害者の側面も持つ。絵空事の狂気の世界ではあるが、それでも真実の一面である。罪とは何か。その代償とは何か。


この冒険の末に「主人公」は再びまーちゃんを取り戻す。でも、それは「壊れたまーちゃん」に過ぎない。それを自覚しながらも「主人公」はそのために骨を折った。文字通り。字義通り。
長女の湯女は昔誘拐されて来た。この夫婦に。「主人公」たちのような凄惨な虐待は受けてないが、「主人公」とよく似た思考の持ち主だった。1巻でまーちゃんが誘拐した兄妹も家庭で虐待を受けていた。何もかもが歪んだような世界。でも、歪みの程度こそ違え、現実世界も大差はない。歪み自体はどこにでも普遍に存在している。


善悪は相対的なものと言い張ることも出来るだろう。一神教的な絶対的善や悪の存在に懐疑的な日本人は多い。それでも、相対的なものと割り切ることも無責任だろう。
「自分の為に人を助けることは出来る」という言葉が5巻のサブタイトル「欲望の主柱は絆」の本質である。だが、その絆はどこまでの範囲を持つものなのか。範囲外の人を見捨てることの罪は?
極端だからこそ際立つ。ファンタジーという手法の価値であり、この作品の売りとも言える。「主人公」はゼロ年代的男性主人公の典型とは大きくタイプを異にしている。甘えていない。絆のために懸命に行動し、絆のために苛酷な決断をする。その強さは共感できるレベルのものではない。苛烈すぎる。それでも彼の善悪の基準は一聴に値する。


十分に考えがまとまっていないので、この記事は修正する可能性がある。こうした考えの契機に相応しい作品だったことは確かだ。

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん イメージアルバム 幻想の在処は現実嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん イメージアルバム 幻想の在処は現実
価格:¥ 3,150(税込)
発売日:2009-12-24



感想:『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん〈5〉欲望の主柱は絆』

2009年11月15日 20時18分44秒 | 入間人間
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん〈5〉欲望の主柱は絆 (電撃文庫)嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん〈5〉欲望の主柱は絆 (電撃文庫)
価格:¥ 536(税込)
発売日:2008-05-10


『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 4 絆の支柱は欲望』とは上下巻の関係に相当する。

狂気と驚嘆は紙一重。
クローズド・サークルとなった大江家で繰り広げられる連続殺人。主人公みーくんが襲撃されて前巻は終わった。その解決編ではあるのだが……。

ツッコミどころは満載である。主人公は死んでいてもおかしくないし、というか、普通死んでるだろって感じだし、登場人物はまともからかけ離れているのはいつも通りにしても、それにしたってって話である。無茶を通して破綻していると言っても過言じゃない。いや、小説としては壊れている。ストーリーの無理、設定の無理は疑いようもない。
キャラクターもまーちゃんを話の外に置いたことで魅力を欠き、文体も洗練とはほど遠くくどいものだ。演出も成功しているとは言い難いし、構成もバランスを欠く。

正直褒めるところは皆無だ。評価はゼロどころかマイナス。だが、ゼロを突き抜けた時、虚数空間に紛れ込んでしまう。
小説としてはぶっ壊れている。だが、価値観を揺り動かすほど強烈な作品でもある。

謎を解いても事件の解決にはならない。その程度ならユニークな発想と言って済ませられる。
極限状態での異様な行動もまた、驚くに当たらない。
けれども、まーちゃんの罪へと還元されたとき、善悪は軽く超えてしまう。

繰り返す。小説として、エンターテイメントとして、決して評価に値する作品とは言えない。人に薦められる出来ではない。☆評価でも☆ゼロを付けてもいいくらいだ。
それでもなお、認めずにいられないものがある。ライトノベルに留まらず、ここまで思想の根底に響いた作品と出会ったのは、少なくともここ数年で初めてである。もちろん、今年の夏からの読書モード中では最も足元を揺さぶられた作品だ。
面白いわけではない。思想的に優れているわけでもない。独創的とも言えない。それなのに無視できない。どこまで著者が計算して描いているのかは分からないが、この作品の感想は改めてじっくりと記したいと思う。ネタバレ全開で。
とりあえず、この作品の評価は「判定不能」としておこう。




これまでに読んだ入間人間の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん―幸せの背景は不幸』(☆☆☆☆☆☆)
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん2 善意の指針は悪意』(☆☆)
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 3 死の礎は生』(☆☆☆☆)
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 4 絆の支柱は欲望』(☆☆)


感想:『刀語 第一話 絶刀・鉋』

2009年11月15日 19時38分23秒 | 本と雑誌
刀語 第一話 絶刀・鉋 (講談社BOX)刀語 第一話 絶刀・鉋 (講談社BOX)
価格:¥ 1,029(税込)
発売日:2007-01-10


講談社BOXで毎月1話、計12話予定で書かれたシリーズ。
刀鍛冶の四季崎記紀が残した刀の中でも驚異の力を持つ12本を集めるという分かりやすい設定。挑むのは刀を使わない虚刀流当主鑢七花と奇策士を名乗るとがめの二人。
舞台は日本の時代物のようではあるが、全く異なる歴史を持った世界。時代劇風と呼んだ方がいいだろう。

この1話はまさに導入部。世界観の説明、主要キャラクターの紹介、そして、もろもろの伏線。ライトなノリではあるが、『化物語』のようなキャラクターと会話・文体メインではなく、ストーリー重視が伺える。西尾維新らしい文体や会話はかなり押さえ気味。キャラクターも今のところニュートラルな印象だ。
西尾維新のもう一つの武器であるハッタリの妙が作品の売りになっている。今回登場した絶刀「鉋」や真庭忍軍の頭領の一人真庭蝙蝠のぶっ飛んだ能力は、しかし、これでも小手調べといった感じだろう。ただストーリーテラーとしてはさほど評価していないだけに、今後の展開には不安も付き纏う。期待と不安を抱きながら、読んでいこうと思う。(☆☆☆)




これまでに読んだ西尾維新の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い』(☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女りすか』(☆☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女 りすか2』(☆☆☆☆)
クビシメロマンチスト―人間失格・零崎人識』(☆)
クビツリハイスクール―戯言遣いの弟子』(☆☆☆☆☆)
サイコロジカル〈上〉兎吊木垓輔の戯言殺し』(☆☆☆)
サイコロジカル〈下〉曳かれ者の小唄』(☆☆☆)
ヒトクイマジカル―殺戮奇術の匂宮兄妹』(☆☆)
ネコソギラジカル(上) 十三階段』(☆☆)
ネコソギラジカル(中) 赤き征裁VS.橙なる種』(☆☆)
ネコソギラジカル(下)青色サヴァンと戯言遣い』(☆)
新本格魔法少女りすか3』(☆☆)
零崎双識の人間試験』(☆☆☆☆)
零崎軋識の人間ノック』(☆)
化物語(上)』(☆☆☆☆☆)
化物語(下)』(☆☆☆☆☆☆)


感想:『GOSICK―ゴシック』

2009年11月14日 00時24分13秒 | 本と雑誌
GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)
価格:¥ 630(税込)
発売日:2003-12


久しぶりの桜庭一樹。そのライトノベル作品。シリーズ第1作。

著者の持ち味である構成の巧さは本書でもいかんなく発揮されている。本編各章の間のモノローグによってもう一つのストーリーが描き出され、本編とうまく絡み合っている。
このシリーズは著者の作品では珍しく少年の視点から描き出されている。戦間期ヨーロッパの架空の国ソヴュール。その聖マルグリット学園に留学した少年久城一弥。彼が振り回されるのは、まるで人形のような可憐な少女ヴィクトリカ。パイプをくゆらせ、普段は図書館の最上部で本を読みふける天才。この二人の瑞々しい冒険ミステリ。

秀才とされる久城一弥が、ヴィクトリカの天才性を引き立たせるために秀才に見えないという欠点は気になったものの、全体としては楽しめる内容となっている。ミステリとしての面白さではなく、キャラクターの魅力と設定の奇抜さが見事。
桜庭一樹はテーマ性の強い作品を多く読んだが、こうしたライトな作品も手堅い印象を受けた。(☆☆☆☆)




これまでに読んだ桜庭一樹の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet』(☆☆☆☆☆☆☆)
少女七竈と七人の可愛そうな大人』(☆☆☆☆☆)
私の男』(☆)
少女には向かない職業』(☆☆☆☆☆)
赤朽葉家の伝説』(☆☆☆☆)


感想:『白夜行』

2009年11月13日 20時33分50秒 | 本と雑誌
白夜行 (集英社文庫)白夜行 (集英社文庫)
価格:¥ 1,050(税込)
発売日:2002-05


ドラマは未見。文庫ではあるが850ページを越える大著。
13章構成で、章ごとに視点や時期、場所などが大きく変わる。1973年10月に起きた殺人事件から、1992年までが描かれる。
事件当時小学五年生だった桐原亮司と西本雪穂の二人が主人公。しかし、この二人の視点は極力排され、内面描写もない。セリフでもその心情を描いたものはごくわずかである。

この膨大な原稿量は、二人の周辺の出来事や視点によって二人の姿を浮かび上がらせるためだった。周囲を緻密に緻密に描くことで、描かれていない二人の内面が鮮やかに伝わってくる。計算され尽くした構成、著者特有の押さえ気味の内面描写による距離感、淡々とした文体、巧みに織り交ぜられた事件の数々。東野圭吾の代表作と呼ぶに相応しい完成された作品であることは間違いなく、強烈なインパクトがあったのは確かだ。

しかし、同時に、この作品を読んでいて面白いと感じなかったことも事実である。
ミステリとして重要な「驚き」はストーリー上には感じられない。感情移入できるようなキャラクターも見当たらない。強いて言えば園村友彦だろうが、途中で舞台から消える。
波乱の物語ではあるが、それをどこか遠くから眺めているだけの気になってしまう。そして、それを傍観しているだけにしては850ページは長すぎた。

以下ネタバレ。
最初の事件の秘匿が至上命題であるとするならば、その後の立ち回りは賢い行動と果たして言えるのか。悪の物語ではあるが、それだけに悪を犯す必然性が問われる。二人の内面を浮かび上がられるために事件の数々が起きている印象が残った。二人の内面から浮かぶ上がった事件ではなく。いくつかの事件は確かに必要なものだったろう。また、いくつかの事件は犯行の内容は仄めかされているだけで、実現可能性や犯行のリスクが軽視されている感じがする。小説としての完成度は高いが、ミステリとしては砂上の楼閣めいた印象も残った。(☆☆☆)




これまでに読んだ東野圭吾の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

放課後』(☆☆)
探偵ガリレオ』(☆☆☆☆☆)
予知夢』(☆☆☆☆)
容疑者Xの献身』(☆☆☆☆☆☆)
卒業 雪月花殺人ゲーム』(☆☆☆)
眠りの森』(☆☆)
どちらかが彼女を殺した』(☆☆☆☆☆☆)
悪意』(☆☆☆)
私が彼を殺した』(☆☆)
嘘をもうひとつだけ』(☆☆)
赤い指』(☆☆☆☆)
秘密』(☆☆)


感想:『ブラックペアン1988』

2009年11月13日 20時32分59秒 | 本と雑誌
ブラックペアン1988ブラックペアン1988
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-09-21


タイトル通り1988年が舞台。『チーム・バチスタの栄光』を始めとしたお馴染みの面々の若かりし頃が登場する。

東城大学医学部付属病院。新人外科医である世良の視点で描かれている。ストーリーの一方に、新米医師の自覚と成長を据え、もう一方に大学病院外科学教室に巻き起こる嵐がある。その嵐の中心は、帝華大から来た高階。後に病院長として田口や白鳥を動かす人物。技術偏重の佐伯外科に新兵器スナイプAZ1988を携え勇躍乗り込んできた「小天狗」。
この両輪のバランスが非常にうまく取れていて、ぐいぐいと引き込まれる。「桜宮サーガ」と呼ばれる一連の作品のクロスオーバーはファンに対する多大なサービスとなっている。本書でも、藤原、猫田、花房、田口、速水、島津らの20年前の姿が描かれ、にやりとさせられる。

ストーリーはやがて優れた腕を持つ佐伯のブラックペアンの秘密へと至る。時代性、テーマ、仕掛けと非常に洗練された出来で完成度は高い。ただそれだけに、ラストの描き方が淡白な印象だったのが惜しい。もう少しラストにひねりなり、テーマのまとめのような形をうまく出すことができていたら、傑作足りえたかもしれない。(☆☆☆☆☆☆)




これまでに読んだ海堂尊の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

チーム・バチスタの栄光』(☆☆☆☆☆)
ナイチンゲールの沈黙』(☆☆☆)
ジェネラル・ルージュの凱旋』(☆☆☆☆)
螺鈿迷宮』(☆)


感想:『虚数の情緒―中学生からの全方位独学法』第I部

2009年11月12日 23時24分06秒 | 学問
虚数の情緒―中学生からの全方位独学法虚数の情緒―中学生からの全方位独学法
価格:¥ 4,515(税込)
発売日:2000-03


1000ページを越える大著。3部構成より成り、2部で数学、3部で物理学を扱う。中学生向けではあるが、そこから現代科学の最先端までの道筋を示す。また、数学や物理学のみならず文学や歴史学などの知識にまで及ぶ教養書的側面も持つ。
まだ全体の1/4しか読み進めていないが、各部ごとに感想を記すことにする。

第1部は「独りで考える為に」と名付けられている。中学生向けに、なぜ勉強するのかといったことが書かれている。
数学や物理学については論理的に書かれている本書であるが、事がそれ以外の分野に及んだとき、いきなり論理性を著しく欠いてしまう。これを読んで反面教師にするとか、ツッコミの勉強にするとかの目的で書かれていないとすると、中学生や高校生がこの第1部を読むのは百害あって一利なしと思えてしまう内容だ。
なぜなら、数学や物理学に精通すれば、論理的な思考が出来るようになると思っていたら実際はこの有様なのだから。数学や物理学を論理的に捉えられるのに、一端その分野から離れれば全く論理性に欠いてしまうとはどうしたことか。

西洋かぶれに対する非難があちこちで見られる。お歳を召した方ならまだしも、ネットで調べたところ1956年生まれだという。
「人類史上初の活版印刷の開発者グーテンベルグ」という記述を見たときから、どうしたものだろうと思ってしまったが、専門分野を除けば博学という印象は受けない。
例えば、「マスコミ」に対する批判。これは世間一般でなされる「マスコミ」批判と変わらない。だが、論理性があるのなら、十把一絡げに「マスコミ」と括って批判するのが愚かなことだと気付きそうなものだ。
もちろん、卓見に富む指摘もある。それでも全体として評価が一面的過ぎることが非常に気になった。いろんな考え方があって、それぞれにどんな背景でそうした考え方が引き継がれてきたのかについての考察がなく、闇雲に日本的な或いは東洋的な文化を褒めちぎったりするきらいがある。

偏狭的なものの見方が多い。その背景にはコミュニケーション能力の欠如があるのではないか。
「個性なるものは、容姿や衣服などの外見的なものにはない、寧ろそうした外見的なものこそ個性に相反するものである事を知らねばならない」と語っているが、個性の本質はむしろ外見にこそ表れる。顔の美醜はともかく、その人がどう生きてきたか、何を思って生きてきたか、そうしたものはちゃんと外見に表れる。むしろ本人の意識しない部分まではっきりと。身体のケアから筋肉の付き方まで生き様を表している。服装や身だしなみ、装飾品なども同様だ。
人の個性とは、その人だけで成り立つものではない。人との関わりの中でこそ現れるものだ。そして、人との関わりとは自分をどう見せるかであり、どう見られるのかを考えなければ成立しない。外見を見ただけでその人となりは伝わる。それを見抜く力もまたコミュニケーションである。
2部に書かれていることだが、「『読み書き話す』という言語を操る能力の中で、最も程度の低いものが、会話能力である」と述べている。確かに、読み書きできなくとも話せる人はいる。だが、最も能力が必要なのも会話能力だろう。読みや書きは時間を掛けて行う場合が多いのに対して、話すのは瞬時の対応を迫られる。状況判断やタイミングなど適切に話すことは非常に多くの要因を考えて行う必要がある。
こうしたコミュニケーション能力軽視は、専門分野以外での偏狭的な発想に繋がっていると考えられる。これは著者に限らない。日本人の知識人の多くに顕著に見られる悪癖だろう。