ガンパレード・マーチ 5121小隊の日常 (電撃文庫) 価格:¥ 599(税込) 発売日:2001-11 |
2000年9月28日。プレイステーション用ゲームソフト『高機動幻想ガンパレード・マーチ』はひっそりと発売された。SCEの広告宣伝費はほぼ0。初回出荷数は1000本程度とも言われている。
『電撃プレイステーション』の強烈なプッシュ(その代わり他のゲームの多くがほとんど無視のような形となった)と、加速度的に普及しつつあったインターネットでの口コミを背景に発売当初には予想もつかなかった人気を得ることになった。
ノヴェライズ、ドラマCD、コミック、TVアニメと怒涛のようにメディアミックスされていった。可能な限りそれらを追っかけようと思っても追い付かないくらいに。
ノヴェライズは2000年12月16日という非常に速いタイミングで刊行された。ゲームソフトは発売後しばらく品薄状態が続き、プレイヤー数が拡大したのは、年末から年始にかけてだったので、いくら電撃誌が支援していたとはいえ驚きと言っていいだろう。
この広崎悠意による作品は、かなり素直な、プレイヤー感覚に近い内容となっている。公式サイトでは、ガンパレの設定を使ったゲームが白熱していた頃であり、その複雑な世界設定がようやくプレイヤーに明かされ始めた頃である。
それから1年後、本書が発売された。著者は榊涼介。その後、現在まで連綿と続く小説版ガンパレード・マーチのスタートだった。12月には榊版として21冊目となる『ガンパレード・マーチ 逆襲の刻 東京動乱』が刊行予定であり、今年の夏には『小説版 ガンパレード・マーチ ファンブック ビジュアル&ノベルズ』も発売されている。
本書が発売された2001年12月25日は、既に公式サイトでのファンの熱狂は去っていた。それでもまだ熱意はあった。広崎版がファンの間で話題とされたほどにはこの榊版は取り上げられる機会はなかったが、一部には高い評価も見受けられた。だが、次巻である『ガンパレード・マーチ 5121小隊 決戦前夜』の発売は2002年10月25日とおよそ一年後であり、さすがにファンの熱意もかなり薄れてしまっていた。
TVアニメ化などにより新たなファンの流入が少なからずあったとはいえ、語り尽くした感さえあったファンの気持ちはガンパレから離れていった。コンスタントな続編への期待もできなかったから尚更に。その間もこのシリーズは続々と刊行された。
『高機動幻想ガンパレード・マーチ』を発売日に購入し、やがてファンサイトまで立ち上げた私だが、広崎版は読んだが、榊版は本書を積読し、その後は購入していない。いつかは読みたいと気にしてはいたが、ここまで続くとは予想もしていなかった。8年の積読の果ての感想となる。
本書は短編3作から成る。
「絢爛舞踏―幾千万のわたしとあなたで」は壬生屋を中心に5121小隊の戦いの日々を描く。まだ初々しい小隊の面々に懐かしさを感じた。
「突撃準備よろし」は田代をメインとした話。彼女の個性が上手く表された小品。
「豪剣一閃!」は再び壬生屋がメイン。壬生屋と瀬戸口のやり取りが心地よい。
原作を知らない人向きとはお世辞にも言えない内容。広崎版との大きな違いは、設定への理解だろう。
大きな物語の始まりと言うよりは、エピソードを集めた作品である。広崎版との繋がりはない。これが20冊を越えるシリーズへと成長していく様を見てみたくなる。そんな1作目だった。
それにしても、口絵で登場人物20人が紹介されているのを見て、欠けたキャラクターがいることに気付いてもその名前が出てこなかったのはショックだった。教師3名とヨーコはすぐに分かったが、茜と新井木の名前が思い浮かばなかったのは本当にどうしたものやら。(☆☆☆☆☆)