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感想:『老ヴォールの惑星』

2009年11月08日 20時28分48秒 | 小川一水
老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
価格:¥ 798(税込)
発売日:2005-08-09


小川一水初の短編集。

「ギャルナフカの迷宮」は投宮刑に処された人々の物語。緻密に設計されたこの迷宮に人々は当初孤立し、ただ生きることだけに懸命だった。しかし、主人公を中心に組織化し、社会化していって……と展開する。面白くはあるが、出来すぎの感は否めない。長編で厚みを持たせた方がより面白くなったかもしれない。

表題作「老ヴォールの惑星」はSFらしい作品。ホット・ジュピター型と呼ばれるタイプの惑星に適応進化した生物の軌跡。ただ私には表面的な物語に見えて、さほど共感を呼ばないものだった。もっと具体的なエピソードを積み重ねて描いて欲しかった。

「幸せになる箱庭」は仮想現実も齎す知性とのファースト・コンタクトを描く。完全な仮想現実が存在したとき、リアルの境界は崩壊する。「マトリックス」や、古くは『百億の昼と千億の夜』などでも扱われたテーマ。残念ながら新しい切り口は感じられなかった。

「漂う男」は海だけの惑星に投げ出された男の物語。連絡は出来ても救難は出来ず、しかし、惑星の気候は常に温暖でその水は栄養に富み彼を生き続けさせる。通信機の対話だけで社会と繋がって生きるというユニークな視点が興味深かった。一方で、そこから社会へどう復帰するのかも読んでみたいと思った。

SFの短編はアイディア勝負のところがある。その意味では「漂う男」は面白かったが、他の3編は物足りないものだった。『復活の地』や『天冥の標』から入ったせいか、小川一水はストーリーテラーとして評価している。アイディアではなく、ストーリーでぐいぐいと引っ張っていく作家という印象を持っている。短編ではその良さが十分に現れていない。ストーリー的なアイディアで勝負する短編なら違った印象を受けたかもしれないが、SF的な発想で独創性を競い合うタイプには見えない。次は長編の『第六大陸』を読む予定。(☆☆☆☆)




これまでに読んだ小川一水の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

復活の地』(☆☆☆☆☆☆)
天冥の標I メニー・メニー・シープ 上・下』(☆☆☆☆☆☆☆)
時砂の王』(☆☆☆☆☆)