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感想:『イン・ザ・プール』

2009年09月17日 23時19分13秒 | 奥田英朗
イン・ザ・プールイン・ザ・プール
価格:¥ 1,300(税込)
発売日:2002-05


精神科医・伊良部シリーズがノイタミナ枠でTVアニメ化されるので、その予習。アニメタイトルは『空中ブランコ』(シリーズ二冊目のタイトル)。『イン・ザ・プール』はシリーズ1作目の連作短編集。奥田英朗を読むのは初。

色白のデブ、四十台前半、マザコン。金持ちで、精神科医で、他人の目を全く気にせず、注射を撃つことで興奮する男。そんなとんでもない精神科医の元に訪れる患者の側から描いた5編の連作短編集。

表題作「イン・ザ・プール」は伊良部からの示唆により水泳を始め、それにのめり込み、水泳中毒になった男の話。仕事の時も水泳が気になるあたりの中毒の様子は他人事ではないが、趣味と中毒の境目はどこにあるのか気になるところ。それはともかく、のめり込む自分よりも更にのめり込んでいる伊良部の姿を見て一気に醒めるところが面白い。

「勃ちっ放し」は陰茎強直症という奇病に襲われた、男なら笑えない話。特に女性に対して怒ることのできない主人公が、伊良部の奔放さに呆れつつも羨ましく思い、ついには怒りが爆発して解決するという筋道だが、5編の中では伊良部の存在感が薄くて物足りない印象も残した。

「コンパニオン」はストーカーに付きまとわれているという被害妄想に陥ったコンパニオンの話。伊良部が精神科医らしく見える唯一の話かもしれない。主人公は性格の悪い美女の典型だが、その性格の悪さの描き方はなかなかのもの。落とし方にもう少しひねりが欲しい気もするが、伊良部らしさはよく出ている話だった。

「フレンズ」はケータイ中毒の高校生男子の話。これまた典型的なキャラクターで展開もいかにもといった感じ。この話では伊良部よりも看護婦のマユミちゃんがいい味を出している。伊良部たちのような開き直りは特に若い時には難しそうだが。ひねりはないが、このオチは嫌いじゃない。

「いてもたっても」は火元の確認などが気になってしまう強迫神経症の男の話。話の展開がかなりひねっていて面白かった。伊良部のとんでもなさも味わいがある。単なる犯罪者だけど(笑)。あちこちに皮肉も効いていて表題作と共にかなりよく出来た話と言えるだろう。

ストレスに晒されている現代人の範疇から完全に外れた伊良部によって癒されてしまうという、それ自体がなんとも皮相的。常識がなく、やりたい放題で、外見も人間性も最悪。これで金持ちなんだからある意味救いようがないのだが、その伊良部によって救われるのだから面白い。まあ、羨ましいとか伊良部のようになりたいとかはやっぱり思わないだろうし、ストレス抱えていてもやっぱり捨てられないものはたくさんあるよね、って感じてしまうね。


感想:『彩雲国物語 心は藍よりも深く』

2009年09月17日 22時42分15秒 | 彩雲国物語
彩雲国物語 心は藍よりも深く (角川ビーンズ文庫)彩雲国物語 心は藍よりも深く (角川ビーンズ文庫)
価格:¥ 480(税込)
発売日:2005-09-30


「彩雲国物語」8冊目。影月編その2。

影月の過去が語られ、陽月の正体を除けば謎はほぼ明かされた。一方、いまだ貴陽にいる秀麗は縦横無尽の活躍を見せる。文官として、女性として、武力に対する意見は甘すぎるものだったが、劉輝との関係の描き方は他にはあまり見られないユニークなもの。劉輝視点で見ればかなりきついものではあるが。
更に全商連に乗り込んでの駆け引きはシリーズ最大の見せ場とも言えるほど。これまではどうしても戦闘による解決が多く、その際にはただ守られるしかなかった秀麗だが、ようやく大きな見せ場をこなすようになった。武の否定から文官としての秀麗の活躍という展開はなかなか見事だった。
影月編は次回で最後という。伏線をいかに華麗に収束するか期待したいところだ。


感想:『秋期限定栗きんとん事件〈上〉』

2009年09月17日 22時30分52秒 | 本と雑誌
秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)
価格:¥ 609(税込)
発売日:2009-02


下巻予約中でしばらく時間を要しそうなので上巻の感想を。

とりあえず。
上下巻に分ける必要があったのか!ってことが思い浮かぶ。250ページほどなので確かに上下巻合わせるとそれなりのページ数になる。ただ創元推理文庫ということもあってか薄い。二倍になってもそんなに厚いように思えない。
更に内容も薄い。これまで主人公小鳩のほぼ一人称だったのが、新登場のキャラクター瓜野と交互に視点を切り替える構成となっている。しかし、そこで起きていることは前振りの域を出ないように感じてしまう。小鳩による「日常の謎」が2点用意されてはいるが、ミステリというジャンルと呼ぶために申し訳程度に存在しているような気さえする。
内面を描かれない小山内はまだしも、主人公を担う小鳩に全く感情移入できない点はこれまでのシリーズとなんら変わっていない。瓜野はまだ高校生らしい存在として納得できるが……。