イン・ザ・プール 価格:¥ 1,300(税込) 発売日:2002-05 |
精神科医・伊良部シリーズがノイタミナ枠でTVアニメ化されるので、その予習。アニメタイトルは『空中ブランコ』(シリーズ二冊目のタイトル)。『イン・ザ・プール』はシリーズ1作目の連作短編集。奥田英朗を読むのは初。
色白のデブ、四十台前半、マザコン。金持ちで、精神科医で、他人の目を全く気にせず、注射を撃つことで興奮する男。そんなとんでもない精神科医の元に訪れる患者の側から描いた5編の連作短編集。
表題作「イン・ザ・プール」は伊良部からの示唆により水泳を始め、それにのめり込み、水泳中毒になった男の話。仕事の時も水泳が気になるあたりの中毒の様子は他人事ではないが、趣味と中毒の境目はどこにあるのか気になるところ。それはともかく、のめり込む自分よりも更にのめり込んでいる伊良部の姿を見て一気に醒めるところが面白い。
「勃ちっ放し」は陰茎強直症という奇病に襲われた、男なら笑えない話。特に女性に対して怒ることのできない主人公が、伊良部の奔放さに呆れつつも羨ましく思い、ついには怒りが爆発して解決するという筋道だが、5編の中では伊良部の存在感が薄くて物足りない印象も残した。
「コンパニオン」はストーカーに付きまとわれているという被害妄想に陥ったコンパニオンの話。伊良部が精神科医らしく見える唯一の話かもしれない。主人公は性格の悪い美女の典型だが、その性格の悪さの描き方はなかなかのもの。落とし方にもう少しひねりが欲しい気もするが、伊良部らしさはよく出ている話だった。
「フレンズ」はケータイ中毒の高校生男子の話。これまた典型的なキャラクターで展開もいかにもといった感じ。この話では伊良部よりも看護婦のマユミちゃんがいい味を出している。伊良部たちのような開き直りは特に若い時には難しそうだが。ひねりはないが、このオチは嫌いじゃない。
「いてもたっても」は火元の確認などが気になってしまう強迫神経症の男の話。話の展開がかなりひねっていて面白かった。伊良部のとんでもなさも味わいがある。単なる犯罪者だけど(笑)。あちこちに皮肉も効いていて表題作と共にかなりよく出来た話と言えるだろう。
ストレスに晒されている現代人の範疇から完全に外れた伊良部によって癒されてしまうという、それ自体がなんとも皮相的。常識がなく、やりたい放題で、外見も人間性も最悪。これで金持ちなんだからある意味救いようがないのだが、その伊良部によって救われるのだから面白い。まあ、羨ましいとか伊良部のようになりたいとかはやっぱり思わないだろうし、ストレス抱えていてもやっぱり捨てられないものはたくさんあるよね、って感じてしまうね。