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感想:『インシテミル』

2009年11月17日 21時29分46秒 | 本と雑誌
インシテミルインシテミル
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-08


”小市民”シリーズ以外では初めて読む米澤穂信のミステリ。
アルバイトとして12人の男女が集められる。時給112,000円。集められた人々は〈暗鬼館〉と呼ばれる地下施設で7日間の滞在を命じられる。鍵の掛からない個室。一人一人に過去のミステリに関連した凶器が与えられる。ルールが明示され、殺人事件の予感が漂う中で、ついに犠牲者が現れる。

クローンズ・サークルが舞台の作品で、設定自体は面白い。ゲーム感覚に作られた舞台は面白みには欠けるが、刺激的ではある。奇しくも、結末においてルールがあからさまだと登場人物に指摘されたが、それは読者の感想でもあろう。
最大の欠点はキャラクターにある。12人の登場人物に魅力がない。記号的になりがちなのは仕方ないとしても、ここまで個性が表面的だと誰が死んでも感情が動かない。そして、それは主人公にも当てはまる。
プロローグ及びエピローグに相当する部分を除いて主人公視点で一貫している。それだけに、語られる主人公の内面が本書の重要なポイントなのだが、つかみどころのない印象のまま終わってしまった。後半探偵役をこなすが、前半は知的ではないように描かれる。頭の良さをひけらかす連中を批判的に眺めているが、結局は頭の良さが人物評価の基準となってしまっている。このあたりは、”小市民”シリーズでも鼻につく部分だと言えるだろう。

物語は淡々と進み、終結する。山場らしいものもなく、重要な二つのトリックもそれほどインパクトはなかった。せっかくの設定を生かし切れたようには見えない。
”小市民”シリーズに続いて本書でも物足りなさが強く感じられた。ミステリやSFに対して、人物が描けていないという批判がよくなされるが、他に突出した魅力があればその批判は意味をなさないと思っている。だが、米澤穂信に対しては、他の魅力を感じないがゆえに、人物が描けていないという思いを強く印象付けられてしまった。
この著者の作品は当面読むことはなさそうだ。(☆☆☆)




これまでに読んだ米澤穂信の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

春期限定いちごタルト事件』(☆☆☆☆)
夏期限定トロピカルパフェ事件』(☆☆)
秋期限定栗きんとん事件〈上〉』(☆)
秋期限定栗きんとん事件 下』(☆)


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