神様のパズル (ハルキ文庫) 価格:¥ 714(税込) 発売日:2006-05 |
期待していたほどではなく残念。
第一に、穂瑞沙羅華を天才だと全く感じなかった。
小説その他創造された物語において、天才を表現する場合、そのキャラクターが喋れば喋るほど天才から遠ざかっていく。記号としては成立しても、キャラクターとして成立するケースは非常に稀だ。
最も成功した例は、『すべてがFになる』の真賀田四季だが、これは本当にレアケースだったと思う。
穂瑞沙羅華は四季というよりも西之園萌絵に近い。常人離れした記憶力を持つ彼女もまた天才の部類だが、四季の天才性と比較すると格段に落ちる。天才の基準にもよるが、常識という軛から脱した者を天才と呼ぶのであれば、四季は天才だが萌絵や穂瑞は天才ではない。
第二に、自然や農業といったもので解決を導いたことに強い不満を抱いた。
文明対自然の構図は昔からずっとあるし、一つの解決法として成立しているのも確かだろう。だが、現代の文明社会に生きる立場から見ればただの逃避にしか感じられない。生きる智恵は素晴らしいものだ。しかし、禁断の果実を口にした後ではその智恵は通用しない。「ものづくり」の素晴らしさもまた既に幻想に過ぎない。
本書を読んで『数学ガール』を連想した。『数学ガール』は数学の教科書めいていて、物語は付属的なものに過ぎない。それでもその清涼感が思い起こされた。数学や物理学の前では物語はなんと瑣末なものか。少なくとも、本書の物語は。
青春小説の青臭さが余計なものに感じてしまった。確かに小説としては必要な成分だ。それがなければ小説としては成り立たないだろう。あえてそれを切り捨てた『数学ガール』を読んだ後では、どうしてもその青臭さが鼻についた。
もっと青春小説寄りならばまた違った印象となっていただろう。だが、物理学をテーマとし、宇宙を作るという壮大なプロットは凄まじいものだっただけに、それに物語が敗北したのは仕方がないのかもしれない。テーマや設定に、ストーリーやキャラクターが追い付かなかった。それもまたSFらしいと言えるかもしれないが。