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感想:『神様のパズル』

2009年11月03日 14時51分52秒 | 本と雑誌
神様のパズル (ハルキ文庫)神様のパズル (ハルキ文庫)
価格:¥ 714(税込)
発売日:2006-05


期待していたほどではなく残念。

第一に、穂瑞沙羅華を天才だと全く感じなかった。
小説その他創造された物語において、天才を表現する場合、そのキャラクターが喋れば喋るほど天才から遠ざかっていく。記号としては成立しても、キャラクターとして成立するケースは非常に稀だ。
最も成功した例は、『すべてがFになる』の真賀田四季だが、これは本当にレアケースだったと思う。
穂瑞沙羅華は四季というよりも西之園萌絵に近い。常人離れした記憶力を持つ彼女もまた天才の部類だが、四季の天才性と比較すると格段に落ちる。天才の基準にもよるが、常識という軛から脱した者を天才と呼ぶのであれば、四季は天才だが萌絵や穂瑞は天才ではない。

第二に、自然や農業といったもので解決を導いたことに強い不満を抱いた。
文明対自然の構図は昔からずっとあるし、一つの解決法として成立しているのも確かだろう。だが、現代の文明社会に生きる立場から見ればただの逃避にしか感じられない。生きる智恵は素晴らしいものだ。しかし、禁断の果実を口にした後ではその智恵は通用しない。「ものづくり」の素晴らしさもまた既に幻想に過ぎない。

本書を読んで『数学ガール』を連想した。『数学ガール』は数学の教科書めいていて、物語は付属的なものに過ぎない。それでもその清涼感が思い起こされた。数学や物理学の前では物語はなんと瑣末なものか。少なくとも、本書の物語は。
青春小説の青臭さが余計なものに感じてしまった。確かに小説としては必要な成分だ。それがなければ小説としては成り立たないだろう。あえてそれを切り捨てた『数学ガール』を読んだ後では、どうしてもその青臭さが鼻についた。

もっと青春小説寄りならばまた違った印象となっていただろう。だが、物理学をテーマとし、宇宙を作るという壮大なプロットは凄まじいものだっただけに、それに物語が敗北したのは仕方がないのかもしれない。テーマや設定に、ストーリーやキャラクターが追い付かなかった。それもまたSFらしいと言えるかもしれないが。


感想:『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』

2009年11月03日 02時22分02秒 | 本と雑誌
俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)
価格:¥ 599(税込)
発売日:2008-08-10


物語が始まって3ページ目に、「平々凡々、目立たず騒がず穏やかに、のんびりまったり生きていくのが俺の夢ってところかな」ともやはライトノベルのお約束、ゼロ年代男性主人公の定番宣言が書かれている。
しかし、実際は、そんな宣言どこ吹く風と、意外や意外、妹の人生相談から始まって、活発に活動的に身を張ってまで、平凡とは正反対の行動をやってのけた。それも最後はちゃんと自分の意志として。
それだけで立派なものだ。逃げず愚痴らず従わず。まあ妹の仕打ちに対する愚痴は正当な権利なのでここでは問わない。というか、この立派な主人公が霞んで霞んでどうでもよくなるほどに、妹・桐乃の造型が素晴らしかった。

容姿端麗、頭脳明晰、学業優秀、陸上部でも好成績を残し、ほとんど完璧超人といった感じ。だが、生粋のオタクであり、兄に対する振る舞いは、傍若無人、何度「キモ」と叫んだことか。兄の視点からすれば、ほとんど「ドM」小説。妹に罵られる様を楽しむ作品でもある。
アニメオタクに留まらず、18禁ゲームで妹萌えしている重度のオタク。普通の女子高生としての立ち居振る舞いは出来ても、オタクとしては苦労している様がなかなか巧く表現されている。オフ会で出会ったキャラクターも個性的。

父との対決では、『乃木坂春香の秘密』を彷彿とさせるが、助けてもらうのではなく、ちゃんと立ち向かっている……兄がだが(笑)。主人公として嫌いな妹のために立ち向かう姿には涙が……好感度が上がったところで大差なしという悲惨さなのに。
ツンデレのように嫌っているけど実は、みたいなノリではなく、所詮は兄妹であり、嫌っていても仕方なく側にいる的な関係がベースであって、それ以上じゃないという割り切りがかえって新鮮。
話の広げ方もいろいろとありそうなので、楽しみなシリーズだと言えそうだ。