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「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」が問うもの

2009年11月15日 21時44分50秒 | 入間人間
母を亡くした後、兄は自殺し、血の繋がらない妹は失踪した。「主人公」は、父と、妹の母親と暮らしていた。
父は、「主人公」の同級生である、みーくんとまーちゃんを誘拐し監禁した。
その中で、みーくんは虐待する側に回り、虐待される側にまーちゃんと「主人公」がいた。
父は、まーちゃんに彼女の両親を殺させた。
まーちゃんはその後、父を殺し、「主人公」をかばった妹の母親を殺した。こうして、監禁は終わった。


高校生となった。
連続殺人事件が起きた。「主人公」はみーくんと嘘をついてまーちゃんに近付いた。壊れたまーちゃんは、「まーちゃん」と呼んでくれる存在を「みーくん」と認識し、彼に甘える。また、まーちゃんは子供を誘拐し監禁していた。
「主人公」はなんとか誘拐を解決し、殺人犯だったみーくんと対峙した。
この、過去と現在の二つの事件を描いたのが第1巻である。


4、5巻の事件は、「主人公」が彼の生家を訪れたことから始まる。
些細なきっかけでまーちゃんの精神が混乱した。元から壊れてはいるけれど。
コンプレックスを抱えてはいるけれど、真っ当な常識人である伏見を伴って、「主人公」は生家にして昔の監禁事件の現場、現在は大江家の住まいとなっている屋敷を訪問した。
大江家夫人は変わり者で、その監禁事件のファンだった。二人は大江家に一泊するが、翌朝家の外で死んでいる夫人が発見される。そして、大江家は出入りできない巨大な牢獄となっていた。


大江家には、夫婦と長男、三姉妹、住込みの家政婦夫婦の8人が暮らしていたが、地域その他とは断絶していた。子供たちは学校に通わず、当主は離職したばかり。
全ての窓に鉄格子が嵌められた屋敷は陸の孤島となっており、電話線も切られていた。
長男が死体で発見され、三女が行方不明となった。そして、「主人公」が襲撃された。


両腕を壊され、地下に監禁された「主人公」だが、かろうじてそこから出ることに成功する。部屋に閉じ込められていた伏見も救出する。
家政婦の夫がやがて死体で発見され、残った人たちの前で「主人公」は謎解きを行う。
これは夫人が計画した事件であり、両親の言葉に絶対服従な長男が夫人の命に従って彼女を殺し、全ての段取りを整えて自殺した。その段取りとは単に屋敷を封鎖しただけでなく食料のほとんどを処分することだった。
家政婦は他の者には黙って、長男の死体を調理した。更に、食料の確保のため、実の娘でもある三女を殺した。次いで、彼女の夫を殺した。
部外者で食事を与えられなかった二人と、事実に気付いていた長女に加え、当主と次女もこれ以降食事を取らなくなった。ただ一人家政婦だけが生きるために食事していた。
当主と家政婦が対決し、体格は勝っているが空腹な当主が殺された。


この家を訪れたのが4月1日。2日に事件が始まり、19日に終わった。18日間食事を取らなかった二人は鉄格子の隙間を抜けて外に脱出した。その前日には長女と次女が同様に抜け出しており、食事をしていた家政婦だけは抜けられなかった。家政婦は逮捕された。
夫人の計画は「見立て」である。母が死に、兄が自殺し、妹が失踪し、父が監禁事件を起こして大人4人が死ぬという、「主人公」に対する「見立て」。
家政婦は愛するが故に、親しいが故に殺すという価値観の持ち主だった。食料として実の娘、夫と順に殺した理由がそれだ。


こうした無茶な設定の果てに問うたもの。

極限状態に置かれたとき、人を殺すことの善悪である。家政婦は生きるために人を殺し食った。まーちゃんは父に命じられて自分の両親を殺し、父を殺し、「主人公」をかばった妹の母を殺した。極限状態ではあっても置かれた立場は異なる。状況も違う。等しく裁けるものではない。
「主人公」や長女は、長男が死んだ時点で仕掛けに気付いていた。だが、その後の殺人を止めなかった。
犯罪に巻き込まれた被害者。しかし、被害者にして加害者の側面も持つ。絵空事の狂気の世界ではあるが、それでも真実の一面である。罪とは何か。その代償とは何か。


この冒険の末に「主人公」は再びまーちゃんを取り戻す。でも、それは「壊れたまーちゃん」に過ぎない。それを自覚しながらも「主人公」はそのために骨を折った。文字通り。字義通り。
長女の湯女は昔誘拐されて来た。この夫婦に。「主人公」たちのような凄惨な虐待は受けてないが、「主人公」とよく似た思考の持ち主だった。1巻でまーちゃんが誘拐した兄妹も家庭で虐待を受けていた。何もかもが歪んだような世界。でも、歪みの程度こそ違え、現実世界も大差はない。歪み自体はどこにでも普遍に存在している。


善悪は相対的なものと言い張ることも出来るだろう。一神教的な絶対的善や悪の存在に懐疑的な日本人は多い。それでも、相対的なものと割り切ることも無責任だろう。
「自分の為に人を助けることは出来る」という言葉が5巻のサブタイトル「欲望の主柱は絆」の本質である。だが、その絆はどこまでの範囲を持つものなのか。範囲外の人を見捨てることの罪は?
極端だからこそ際立つ。ファンタジーという手法の価値であり、この作品の売りとも言える。「主人公」はゼロ年代的男性主人公の典型とは大きくタイプを異にしている。甘えていない。絆のために懸命に行動し、絆のために苛酷な決断をする。その強さは共感できるレベルのものではない。苛烈すぎる。それでも彼の善悪の基準は一聴に値する。


十分に考えがまとまっていないので、この記事は修正する可能性がある。こうした考えの契機に相応しい作品だったことは確かだ。

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感想:『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん〈5〉欲望の主柱は絆』

2009年11月15日 20時18分44秒 | 入間人間
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん〈5〉欲望の主柱は絆 (電撃文庫)嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん〈5〉欲望の主柱は絆 (電撃文庫)
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『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 4 絆の支柱は欲望』とは上下巻の関係に相当する。

狂気と驚嘆は紙一重。
クローズド・サークルとなった大江家で繰り広げられる連続殺人。主人公みーくんが襲撃されて前巻は終わった。その解決編ではあるのだが……。

ツッコミどころは満載である。主人公は死んでいてもおかしくないし、というか、普通死んでるだろって感じだし、登場人物はまともからかけ離れているのはいつも通りにしても、それにしたってって話である。無茶を通して破綻していると言っても過言じゃない。いや、小説としては壊れている。ストーリーの無理、設定の無理は疑いようもない。
キャラクターもまーちゃんを話の外に置いたことで魅力を欠き、文体も洗練とはほど遠くくどいものだ。演出も成功しているとは言い難いし、構成もバランスを欠く。

正直褒めるところは皆無だ。評価はゼロどころかマイナス。だが、ゼロを突き抜けた時、虚数空間に紛れ込んでしまう。
小説としてはぶっ壊れている。だが、価値観を揺り動かすほど強烈な作品でもある。

謎を解いても事件の解決にはならない。その程度ならユニークな発想と言って済ませられる。
極限状態での異様な行動もまた、驚くに当たらない。
けれども、まーちゃんの罪へと還元されたとき、善悪は軽く超えてしまう。

繰り返す。小説として、エンターテイメントとして、決して評価に値する作品とは言えない。人に薦められる出来ではない。☆評価でも☆ゼロを付けてもいいくらいだ。
それでもなお、認めずにいられないものがある。ライトノベルに留まらず、ここまで思想の根底に響いた作品と出会ったのは、少なくともここ数年で初めてである。もちろん、今年の夏からの読書モード中では最も足元を揺さぶられた作品だ。
面白いわけではない。思想的に優れているわけでもない。独創的とも言えない。それなのに無視できない。どこまで著者が計算して描いているのかは分からないが、この作品の感想は改めてじっくりと記したいと思う。ネタバレ全開で。
とりあえず、この作品の評価は「判定不能」としておこう。




これまでに読んだ入間人間の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん―幸せの背景は不幸』(☆☆☆☆☆☆)
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん2 善意の指針は悪意』(☆☆)
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 3 死の礎は生』(☆☆☆☆)
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 4 絆の支柱は欲望』(☆☆)


感想:『刀語 第一話 絶刀・鉋』

2009年11月15日 19時38分23秒 | 本と雑誌
刀語 第一話 絶刀・鉋 (講談社BOX)刀語 第一話 絶刀・鉋 (講談社BOX)
価格:¥ 1,029(税込)
発売日:2007-01-10


講談社BOXで毎月1話、計12話予定で書かれたシリーズ。
刀鍛冶の四季崎記紀が残した刀の中でも驚異の力を持つ12本を集めるという分かりやすい設定。挑むのは刀を使わない虚刀流当主鑢七花と奇策士を名乗るとがめの二人。
舞台は日本の時代物のようではあるが、全く異なる歴史を持った世界。時代劇風と呼んだ方がいいだろう。

この1話はまさに導入部。世界観の説明、主要キャラクターの紹介、そして、もろもろの伏線。ライトなノリではあるが、『化物語』のようなキャラクターと会話・文体メインではなく、ストーリー重視が伺える。西尾維新らしい文体や会話はかなり押さえ気味。キャラクターも今のところニュートラルな印象だ。
西尾維新のもう一つの武器であるハッタリの妙が作品の売りになっている。今回登場した絶刀「鉋」や真庭忍軍の頭領の一人真庭蝙蝠のぶっ飛んだ能力は、しかし、これでも小手調べといった感じだろう。ただストーリーテラーとしてはさほど評価していないだけに、今後の展開には不安も付き纏う。期待と不安を抱きながら、読んでいこうと思う。(☆☆☆)




これまでに読んだ西尾維新の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い』(☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女りすか』(☆☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女 りすか2』(☆☆☆☆)
クビシメロマンチスト―人間失格・零崎人識』(☆)
クビツリハイスクール―戯言遣いの弟子』(☆☆☆☆☆)
サイコロジカル〈上〉兎吊木垓輔の戯言殺し』(☆☆☆)
サイコロジカル〈下〉曳かれ者の小唄』(☆☆☆)
ヒトクイマジカル―殺戮奇術の匂宮兄妹』(☆☆)
ネコソギラジカル(上) 十三階段』(☆☆)
ネコソギラジカル(中) 赤き征裁VS.橙なる種』(☆☆)
ネコソギラジカル(下)青色サヴァンと戯言遣い』(☆)
新本格魔法少女りすか3』(☆☆)
零崎双識の人間試験』(☆☆☆☆)
零崎軋識の人間ノック』(☆)
化物語(上)』(☆☆☆☆☆)
化物語(下)』(☆☆☆☆☆☆)