奇想庵@goo

Sports, Games, News and Entertainments

感想:『化物語(下)』

2009年11月12日 22時38分19秒 | 本と雑誌
化物語(下) (講談社BOX)化物語(下) (講談社BOX)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2006-12-04


上巻を読んでから2ヶ月振りの下巻。「なでこスネイク」「つばさキャット」収録。上巻同様TVアニメを視聴してから読んだ。

西尾維新の魅力は文体と会話に尽きると言っても過言ではない。リズム感ある独特の言い回しは他では味わえないものだ。これまでに読んだ、”戯言”シリーズや「りすか」に比べてこのシリーズはよりそれが顕著に現れている。ストーリーが削ぎ落とされたのが功を奏したと言えるだろう。しかも、著者のキャラクターの中でも屈指の萌えキャラ戦場ヶ原ひたぎの造型に成功した。

主人公の阿良々木暦は、このブログで良く指摘するゼロ年代男性主人公タイプとは違う。このタイプは、平凡を好み、やっかいごとを嫌う。
しかし、阿良々木暦は誰にでも優しいという欠点を抱えている。誰にでも優しいというのは、優しさではない。弱さであり、他人を平気で傷付けるものだ。
その弱さは、ゼロ年代男性主人公タイプと共有するものである。つまり、自分が傷付かないための甘えなのだから。

上巻でそれが解決とはならないと戦場ヶ原ひたぎに突きつけられる。
「なでこスネイク」では、彼の力では誰にでも優しくすることができない現実が突きつけられる。
そして、「つばさキャット」で彼はそれを自覚して行動できた。
他人を傷付けることになっても、それが優しさとなることもある。(☆☆☆☆☆☆)

TVアニメ『化物語』は12話で放送を終了した。全399ページのうちの243ページ時点であった。それ以降は未知の領域とて楽しんだ。読書メーターに感想を書こうとして、ちょっとWikiをチェックしてみたところ、13話、14話、15話が制作され、ウェブで公開されることが書かれていた。そして、現在13話が公開中であることも。
早速13話を観てきた。原作に忠実なのはこれまで同様。読んだばかりの会話がアニメで再現されるところは非常に面白かった。声優ネタとかまさにアニメ化前提の振りだし。

公式サイト




これまでに読んだ西尾維新の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い』(☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女りすか』(☆☆☆☆☆☆)
新本格魔法少女 りすか2』(☆☆☆☆)
クビシメロマンチスト―人間失格・零崎人識』(☆)
クビツリハイスクール―戯言遣いの弟子』(☆☆☆☆☆)
サイコロジカル〈上〉兎吊木垓輔の戯言殺し』(☆☆☆)
サイコロジカル〈下〉曳かれ者の小唄』(☆☆☆)
ヒトクイマジカル―殺戮奇術の匂宮兄妹』(☆☆)
ネコソギラジカル(上) 十三階段』(☆☆)
ネコソギラジカル(中) 赤き征裁VS.橙なる種』(☆☆)
ネコソギラジカル(下)青色サヴァンと戯言遣い』(☆)
新本格魔法少女りすか3』(☆☆)
零崎双識の人間試験』(☆☆☆☆)
零崎軋識の人間ノック』(☆)
化物語(上)』(☆☆☆☆☆)

化物語 第四巻 / なでこスネイク【完全生産限定版】 [Blu-ray]化物語 第四巻 / なでこスネイク【完全生産限定版】 [Blu-ray]
価格:¥ 7,350(税込)
発売日:2009-12-23
化物語 第五巻/つばさキャット 上【完全生産限定版】 [Blu-ray]化物語 第五巻/つばさキャット 上【完全生産限定版】 [Blu-ray]
価格:¥ 8,400(税込)
発売日:2010-01-27



200冊

2009年11月12日 00時23分23秒 | 日記・エッセイ・コラム
読書メーターで読んだ本の数が201冊に達した。『図書館革命』を読み終わってすぐに再読し、2度記入しているためこれで200種類となる。
読書メーターに登録したのは8月に入ってからだが、ブログの記事を元に自分の中で読書モードに突入した7月初旬から記入している。その1冊目が『クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い』だ。

それまでも定期的に図書館で本を借りていた。主に歴史関係の本をゆっくりとではあるが読んでいた。コミックでは『けいおん!』にも手を出していた。『クビキリサイクル―青色サヴァンと戯言遣い』を読んだ7月10日は一つの区切りに過ぎない。
それでも、読書メーターへの登録がモチベーションに繋がり、本の感想をブログ記事のメインにするようになって、読書への姿勢も大きく変化した。その結果が200冊到達である。

内訳は以下の通り。重複除いた総計は200冊。

コミック 19冊
非小説 20冊
海外SF 4冊
ライトノベル 62冊
ノヴェライズ 1冊
上記以外の小説 94冊

有川浩、西尾維新らはライトノベルではなく上記以外の小説に分類している。
作家別(5冊以上)

西尾 維新 16冊 ”戯言”シリーズなど
雪乃 紗衣 16冊 ”彩雲国”シリーズ
有川 浩 12冊 ”図書館戦争”シリーズなど
支倉 凍砂 12冊 ”狼と香辛料”
東野 圭吾 12冊 ”探偵ガリレオ”シリーズなど
野村 美月 8冊 ”文学少女”シリーズ
小川 一水 7冊 ”天冥の標”シリーズ、「復活の地」など
北村 薫 6冊 ”円紫さんと《私》”シリーズなど
小林 立 6冊 「咲-Saki」
桜庭 一樹 5冊 「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」など
山形 石雄 5冊 ”戦う司書”シリーズ

コミックを除いて181冊。過去年間250冊の記録があるので、残り2ヶ月弱でその更新を目指す。
今回整理したついでに☆評価をコミックを除く作品全てに行ってみた。既に記したものはそのままである。

☆☆☆☆☆☆☆☆ 2冊
☆☆☆☆☆☆☆ 12冊
☆☆☆☆☆☆ 38冊
☆☆☆☆☆ 38冊
☆☆☆☆ 29冊
☆☆☆ 27冊
☆☆ 22冊
☆ 13冊

平均すると、☆の数は4.265。☆4つが平均のつもりなので、やや甘い点になっている。機会があれば微調整するかもしれない。☆8と☆7は全作挙げておこう。

☆☆☆☆☆☆☆☆ 『図書館革命』『ベン・トー〈3〉国産うなぎ弁当300円』

☆☆☆☆☆☆☆ 『星新一 一〇〇一話をつくった人』『フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』『図書館戦争』『図書館内乱』『別冊 図書館戦争〈1〉』『彩雲国物語―光降る碧の大地』『阪急電車』『天冥の標 1上―メニー・メニー・シープ』『天冥の標 1下―メニー・メニー・シープ』『西の魔女が死んだ』『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』『戦う司書と追想の魔女』

有川浩が多いのはデフォルト(笑)。シリーズものは点が伸びやすい傾向にある。但し、☆1もシリーズものが多い。野村美月6冊、西尾維新3冊入っている。

3冊以上読んだ作家の☆の平均ランキング

小川 一水  5.857142857
犬村 小六  5.666666667
有川 浩  5.666666667
アサウラ  5.5
雪乃 紗衣  5.1875
奥田 英朗  5
北村 薫  5
上橋 菜穂子 4.5
桜庭 一樹  4.4
支倉 凍砂  4.166666667
山形 石雄  4
仁木 英之  3.666666667
入間 人間  3.5
東野 圭吾  3.416666667
海堂 尊  3.25
西尾 維新  3.25
米澤 穂信  2
野村 美月  1.375

なんと私自身の予想を覆して、有川浩ではなく小川一水がトップ。これは、『復活の地』や『天冥の標』を個別に計算しているため。これらをまとめると、平均5.5となり3位タイになる。
支倉凍砂が平均4を越えたのもちょっと意外な感じ。甘く点数を付けすぎたかも。一方、東野圭吾は平均して辛め。完成度は高いが、インパクトの低い作品が多く、それが評価を下げている。
3点台は評価こそ低いが決して嫌いな作家というわけではない。東野圭吾、海堂尊、西尾維新は特に厳しい点の付け方になっている。


感想:『オーデュボンの祈り』

2009年11月11日 19時34分11秒 | 本と雑誌
オーデュボンの祈り (新潮ミステリー倶楽部)オーデュボンの祈り (新潮ミステリー倶楽部)
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2000-12


初、伊坂幸太郎にして、著者のデビュー作。「読者メーター」の読んだ本ランキングでは上位にずらっと彼の作品が並ぶ。現在最も人気のある作家の一人であることは間違いないだろう。

不思議な物語である。

喋るカカシがいる島。そのカカシ、優午は様々なことを知っている。未来までも。
その島は日本が開国したときに封鎖し、島民は一人を除いて島を出ることはなく、島を訪れる者もいない。ただ一人、島と外界とを行き来する男が、相次いで二人の人間を島に連れてきたことから物語は展開する。

主人公はこの島を訪れた二人目の人物である。コンビニ強盗を企み、失敗して警察に逮捕され、護送中にたまたま事故に遭い逃げ出した。そこを救われて島に移送された。正直、このコンビニ強盗の設定は必要だったのか非常に疑問に感じる。
島とそれまでにいた世界との対比が必要だったのは理解できるが、それまでにいた世界である現代日本の描写が、むしろその方がリアリティに欠けるほどで、悪の化身のような城山の存在が果たして意味があったのか。

島の描写はユニークで、それぞれのエピソードに趣が感じられる。優午の死を巡る謎も悪くはない。ただクライマックスへの盛り上がりの乏しさを城山を使って強引に作り出した点にバランスの悪さを感じてしまった。
ユニークさは認めるものの、小説としての面白さにはやや難があるように思った。(☆☆☆)


感想:『信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』

2009年11月10日 20時42分28秒 | 本と雑誌
信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:1999-12


日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。

織田信長を扱った作品はこれまで枚挙に暇がない。両性具有者として描いた発想は面白いが、驚きまではしない。戦間期のヨーロッパを舞台に、織田信長の謎を追うという展開もユニークだが、ナチスドイツに結び付く成り行きは凡庸に感じられた。
伝奇小説として、偽史を巧みに描き出す手腕は素晴らしいものだった。日本とヨーロッパだけでなく、しっかりと世界中の歴史・伝奇を縦横無尽に操る様はわくわくする。

戦国期の描写は、呪法が強力すぎたり、忍者集団が異能すぎたりと気になる点はあったものの、楽しめる内容だ。信長に敵対する立場から描いたものは特によく出来ていた。ただこれほど描いても信長の怖さは伝わらない。もっと肉体的な次元で描いて欲しい感はある。上品過ぎては伝奇小説の愉しさは感じられない。

戦間期ヨーロッパが舞台というと『幻詩狩り』が浮かぶが、パリではなくベルリンが舞台なせいか派手さはない。ローマ皇帝ヘリオガバルス(マルクス・アウレリウス・アントニウス)との比較で信長を分析する下りは非常に見応えがあったが、一方で、そうした謎解き以外は盛り上がりに欠けていて物足りなさも残った。

読書メーターに残したコメント、「陰秘学を縦横無尽に操った奇書という感じ。面白くはあったが、物語的な盛り上げに欠けたのは残念。」が端的に読後感を示している。物語というよりも知的な謎解きとしての面白さが先に立ち、生身の伝奇小説的な頭をぐらぐらとさせるような迫力には欠ける。悪くはないが、もう一歩二歩と踏み込んで欲しかった。(☆☆☆☆)


感想:『スキップ』

2009年11月09日 20時57分52秒 | 北村薫
スキップ (新潮文庫)スキップ (新潮文庫)
価格:¥ 780(税込)
発売日:1999-06


「時と人」三部作の一作目。高校二年生だった主人公はほんの一時のうたた寝から目覚めると、意識だけが25年後の世界へと移っていた。心は17歳のままに、夫がいて、娘がいて、高校教師として働く、もはや若くはない肉体を持った存在となっていることに、驚き、悩み、それでも生きていこうとする姿が描かれている。

当然、読んだばかりの東野圭吾『秘密』と重なってくる。『秘密』は、事故に遭って、死亡した妻の心が娘の肉体に移る物語だった。その比較から本書の特徴を明らかにしたい。

最も基本的な事柄として、本書の場合は一種の記憶喪失という合理的な見方が出来る。もちろん、限りなくそうではない描写にはなっているけれども。『秘密』の場合はどうしても霊魂のようなものをイメージしてしまい抵抗が強かった。本書では霊的な雰囲気は感じられない。

『秘密』はその奇異を外部からの視点で描いている。主人公は夫であり、父である立場で、一貫して彼の視点から描写される。本書は主人公の立場でこれに遭遇した。その苦しみや悲哀はダイレクトに伝わってくる。手法の差ではあるが、当事者感覚の共有がなされたほど共感はしやすい。

最も重要と思しき差異は、精神と肉体の関係にあるだろう。『秘密』では精神は肉体に影響を受け変容する。本書では、影響は明確には描かれていない。精神と肉体が無関係に成立すると考えられないが、影響を受ける速度が緩やかであると解釈すれば、本書は納得できる範囲内にある。

『秘密』のように若返ってもう一度人生をやり直せるのであれば、社会的な自身の死を受け入れることもできるだろう。本書のように、人生の最も華やかなりし期間を一瞬のうちにスキップさせられたなら、その悲しみはいかばかりか。その悲劇性が本書の根底に流れている。北村薫らしい淡々とした描写の狭間に。

救いがないのは仕方ないとしても、結末をすんなりとは受け入れらなかった。そこまで突然置かれた環境に迎合できるものか。未来の自分の選択の結果ではあっても、むしろそうであるがゆえに、反発や受け入れがたい想いはなかったか。
日常の描写の積み重ねによって感情の動きを描き出す、その積み上げた果てに腑に落ちないものが漂った。練り込まれたプロットの完成度の高さに関わらず、読後感はすっきりとはしない。

『秘密』同様、SF的設定が使われている。SFでは珍しくない設定だが、切り口はSFではない。『秘密』のようにミステリとして構成されたものでもなく、設定だけを借りて描いた小説。青春小説の延長線上にあるような。マジックリアリズムの手法ならともかく、SF的設定をSF的手法を用いずに処理することは非常に難しい。本書も成功しているとは言い難い。ただ、この三部作を通して改めて本書の評価を見直すこととなるかもしれない。残る二作に期待したい。(☆☆☆)




これまでに読んだ北村薫の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

空飛ぶ馬』(☆☆☆☆☆)
夜の蝉』(☆☆☆☆☆)
秋の花』(☆☆☆☆☆☆)
六の宮の姫君』(☆☆☆☆☆)
朝霧』(☆☆☆☆☆☆)


感想:『老ヴォールの惑星』

2009年11月08日 20時28分48秒 | 小川一水
老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))老ヴォールの惑星 (次世代型作家のリアル・フィクション ハヤカワ文庫 JA (809))
価格:¥ 798(税込)
発売日:2005-08-09


小川一水初の短編集。

「ギャルナフカの迷宮」は投宮刑に処された人々の物語。緻密に設計されたこの迷宮に人々は当初孤立し、ただ生きることだけに懸命だった。しかし、主人公を中心に組織化し、社会化していって……と展開する。面白くはあるが、出来すぎの感は否めない。長編で厚みを持たせた方がより面白くなったかもしれない。

表題作「老ヴォールの惑星」はSFらしい作品。ホット・ジュピター型と呼ばれるタイプの惑星に適応進化した生物の軌跡。ただ私には表面的な物語に見えて、さほど共感を呼ばないものだった。もっと具体的なエピソードを積み重ねて描いて欲しかった。

「幸せになる箱庭」は仮想現実も齎す知性とのファースト・コンタクトを描く。完全な仮想現実が存在したとき、リアルの境界は崩壊する。「マトリックス」や、古くは『百億の昼と千億の夜』などでも扱われたテーマ。残念ながら新しい切り口は感じられなかった。

「漂う男」は海だけの惑星に投げ出された男の物語。連絡は出来ても救難は出来ず、しかし、惑星の気候は常に温暖でその水は栄養に富み彼を生き続けさせる。通信機の対話だけで社会と繋がって生きるというユニークな視点が興味深かった。一方で、そこから社会へどう復帰するのかも読んでみたいと思った。

SFの短編はアイディア勝負のところがある。その意味では「漂う男」は面白かったが、他の3編は物足りないものだった。『復活の地』や『天冥の標』から入ったせいか、小川一水はストーリーテラーとして評価している。アイディアではなく、ストーリーでぐいぐいと引っ張っていく作家という印象を持っている。短編ではその良さが十分に現れていない。ストーリー的なアイディアで勝負する短編なら違った印象を受けたかもしれないが、SF的な発想で独創性を競い合うタイプには見えない。次は長編の『第六大陸』を読む予定。(☆☆☆☆)




これまでに読んだ小川一水の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

復活の地』(☆☆☆☆☆☆)
天冥の標I メニー・メニー・シープ 上・下』(☆☆☆☆☆☆☆)
時砂の王』(☆☆☆☆☆)


ぶ厚い本

2009年11月07日 19時52分27秒 | 日記・エッセイ・コラム
人を撲殺できるレベルの本は、本好きにとっては思わず「にたり」としてしまうものではないだろうか。もちろん、物理的な本のサイズの話である。

私が所有している最もぶ厚い本は古い「広辞苑」。2400ページ超で厚さは約8cm。これだけ厚いと持ちにくいので凶器には適さない。
辞典類以外では電話帳なども厚い本の部類だが、これらは通常「読む」ことはしない。

「読む」ことがメインではない厚い本で好きなものと言えば、攻略本が挙げられる。データの羅列でただ厚くしましたって手合いは好きじゃないが、そのゲームの面白さの断片がいっぱい詰まった本はゲームをプレイするのと同じくらいの楽しさを与えてくれる。とはいえ、そんな魅力的な攻略本は案外薄かったりするのだけれど。

厚い本は嫌いじゃない。でも、1日1冊なんてノルマを課しているときにはその厚さに気後れすることもある。特に読み出してから、ページをめくってもめくっても終わりが見えないときなんて。
現在借りている本は8冊。1000ページを越える『虚数の情緒 -中学生からの全方位独学法-』や860ページという『白夜行』など、厚い本が並ぶ。『スキップ』428ページ、『インシテミル』447ページ、『オーデュボンの祈り』346ページ、『信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』323ページとハードカバーはいずれも大著だし、『メシアの処方箋』481ページ、読み終わった『老ヴォールの惑星』が379ページ。

ライトノベルが混ざれば1日1冊の調整がしやすいが、予約の都合上こうした本が並ぶことになってしまった。一昨日『とらドラ!』を読んだのも、調整の結果だ。
積読しているライトノベルを混ぜるのは容易い。ただ、次の予約分が届く前に図書館の本を読み終えなければならないという自転車操業状態もあるので、それにばかり頼るわけにはいかない。

もうひとつのノルマである、このブログの1日1記事もまた調整が必要だったりする。書くネタがないというわけではないが、本の感想の場合、読み終わって1日経ってから書くという条件をつけている。読み終わった本を消化するのに掛かる時間というところだ。
そもそもこの記事も、昨日の一冊の感想を今日に回していたら書く必要が無かった。いくつかの本を合わせて数百ページ読みはしたが、読み終えた本がなかったので本の感想を書けなくなってしまったのだ。
録画していた「ザ☆ネットスター」を観て記事を書けば良かったのだが、それも時間が掛かる。今日の分の本を読み終えてからでは時間的に難しいかもしれない。

ノルマはノルマに過ぎない。それに縛られすぎてはいけないと分かってはいる。だが、モチベーションの持続のためにはノルマは大切だ。ブログの記事ひとつとっても、書かないときはあっという間に数日空いてしまう。自己満足と分かっていても持続することに価値を見出したくなる。いつまで持続するかは分からないが……。


感想:『夜のピクニック』

2009年11月06日 18時15分33秒 | 本と雑誌
夜のピクニック夜のピクニック
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2004-07-31


初、恩田陸。高校生活最後の学校行事、2日掛かりの歩行祭を少年と少女の視点から描く。

融と貴子は異母兄弟であり、父親の葬式で初めて出会って以来避けるように暮らしてきた。高校三年生になって初めて同じクラスとなったが、二人の関係は変わらなかった。
歩行祭を通して、その関係が変化していく様を鮮やかに描いている。
二人の友人たちの個性を引き出した描写も巧みで、狭い空間を高い密度で描いているにも関わらず、澄んだ空気を感じる素晴らしい作品に仕上がっている。

ただ、融の造型に関しては不満も感じた。融と貴子の視点が切り替わって進行していくが、実際には2/3は貴子の視点だ。その理由はいくつか考えられるが、一つには融というキャラクターに問題があったのではないだろうか。精神面では確かにキチンと形作られた内面を持っているが、高校生男子らしさが感じられない。忍の言う「ぐちゃぐちゃ」に含まれるかどうかは分からないが、こんなに綺麗に割り切れるのかという感じがどうしてもしてしまう。ちらりと名前が出てくる程度だが、達観した雰囲気のある芳岡でさえも、違和感を覚えるほどだ。芳岡の場合はそんなキャラクターという感じで済ませてもいいが、主人公の一方である融に対してはそれでは済まない。

そんな不満はあっても、読むうちに自分の高校時代を振り返ったり、他の作品の高校生活を思い描いたりと、真に迫るものがあった。
歩行祭ほど大規模ではないが、1日かけて近くの山に登るような行事があった。冬場で、1、2年生だけの参加だったと思う。おしゃべりしながらというような感じでもなかった気がする。もう漠然としか覚えていないが。
そんな忘れていたような記憶までも手繰り寄せるような雰囲気を持った作品だ。ストーリーよりも、些細な描写の積み重ねによるものだろう。空気を描く作家なんだな、というのが著者に対する最初の感想となった。(☆☆☆☆☆☆)


感想:『秘密』

2009年11月06日 18時14分27秒 | 本と雑誌
秘密 (文春文庫)秘密 (文春文庫)
価格:¥ 700(税込)
発売日:2001-05


東野圭吾のこれまで読んだ中で、最も苦労して読んだ作品かもしれない。

スキーツアーバスの転落事故に妻と娘が遭遇した。妻は死に、娘はほぼ無傷だった。だが、娘には妻の意識が宿っていた。
この設定に気後れした。

SFであればどんな奇抜な設定でも問題ない。『半落ち』で書いたように、小説にリアリティを求めはしない。しかし、作品世界へ入っていけるかどうかはまた別の問題だ。
幽霊も霊魂も微塵も信じていない人間なので、この小説を無理矢理SFとして読むしか読みようがない。SFとして書かれたものではないので、SFとして読むのも難しい。
この事態を何故という観点から描くのがSFの常道だが、それは描かれない。ミステリとして書かれているから、事故の背景を解いていくがそれがまどろっこしく感じる。それが設定の原因ではないからだ。

本書のタイトルとなっている「秘密」も、SF的視点から見ていくと驚くような内容ではない。以下、反転表示。
娘・藻奈美の肉体に妻・直子の精神が宿るという構図。本書では肉体の影響で精神に変化が起きているように描かれている。そう書かれた時点でもはや直子は直子でなくなっている。SF風に書くならナオコ=モナミといった存在だ。時間と共に変容は大きくなる。その時点で結末は見えている。主人公にとって彼女は妻ではなくなってしまうし、それを自覚するための物語となる。ナオコ=モナミという存在が確立した時、「秘密」もまた必然となるだろう。

繰り返しになるが、この設定で物語がスタートした時点で共感しづらい作品となった。『半落ち』を批判した林真理子のような感じだ。作品の前提条件を受け入れられないのだから、楽しめるわけがない。
この設定が本当かどうかを追うような展開・描写であったなら面白いと思えたかもしれないが。非現実が問題なのではなく、非現実を自明のものとして放置していることに耐えられないのだろう。私にとってはある種踏み絵のような作品である。(☆☆)




これまでに読んだ東野圭吾の本の感想。(☆は評価/最大☆10個)

放課後』(☆☆)
探偵ガリレオ』(☆☆☆☆☆)
予知夢』(☆☆☆☆)
容疑者Xの献身』(☆☆☆☆☆☆)
卒業 雪月花殺人ゲーム』(☆☆☆)
眠りの森』(☆☆)
どちらかが彼女を殺した』(☆☆☆☆☆☆)
悪意』(☆☆☆)
私が彼を殺した』(☆☆)
嘘をもうひとつだけ』(☆☆)
赤い指』(☆☆☆☆)


感想:『とらドラ!』

2009年11月06日 18時11分35秒 | とらドラ!
とらドラ!1とらドラ!1
価格:¥ 536(税込)
発売日:2006-03-25


TVアニメを見て読みたいと思っていたライトノベル。

キャラクター小説たるライトノベルと青春小説のハイブリッド。それがTVアニメを見たときの感想。そして、第1巻にあたる本書の感想でもある。
本書ではこの両者のバランスが上手く取れている。ただアニメで観た範囲では、常にバランスが取れているとは言えない。

青春小説として、若い世代特有のイライラ、苦悩、怒りといったもやもやした感情がリアルに伝わってくる。だが、これが強くなりすぎるとキャラクターの魅力は弱まる。それでは本書の魅力の半分が消失する。
キャラクター小説として、個性的な登場人物に惹きつけられる。特に、ヒロイン大河の造型は小説の枠を壊しかねないほどの強烈さを持っている。しかし、それは青春小説としてのリアリティを奪い、登場人物たちの想いを薄っぺらなものにしかねない。

TVアニメで強く印象に残ったシーンが本書にある。大河と竜児が夜電信柱に怒りをぶつけるシーンだ。
自分たちを誰も理解してくれないこと、それは今だけの問題ではなく将来に渡る不安でもある。周囲の無理解は目に見えない敵であり、足掻いても足掻いても解決してくれないと分かっている。自分が何者であるのか。
これらは決して若い世代だけの悩みではない。だが、それらにどうにか折り合いを付けていくのが大人だと言えるのかもしれない。
ライトノベルでこんな生の感情が描かれるのは珍しい。クールに気取るか、上辺の感情表現がされることはあっても、思いの丈を言葉で飾らずに描くことはめったにない。それが印象的だった。

TVアニメ以上に、大河と竜児の結び付きが強く描かれているように感じた。この1巻を読めば、二人がくっつくのが自明のように感じられる。TVアニメを観ていて、その展開が面白くなかった。終盤、残り数話を見なかった理由がそれだ。この感情を未だにうまく表現できない。二人がお似合いのカップルであることは間違いない。それでも。それは、『翔んだカップル』の呪縛なのかもしれない。
かなりスローペースになると思うが、ゆっくりとこのシリーズを読み進めていきたいと思う。原作を通して二人の結末をしっかりと見守りたい。そう感じた1巻だった。(☆☆☆☆☆☆)