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感想:『信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』

2009年11月10日 20時42分28秒 | 本と雑誌
信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:1999-12


日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。

織田信長を扱った作品はこれまで枚挙に暇がない。両性具有者として描いた発想は面白いが、驚きまではしない。戦間期のヨーロッパを舞台に、織田信長の謎を追うという展開もユニークだが、ナチスドイツに結び付く成り行きは凡庸に感じられた。
伝奇小説として、偽史を巧みに描き出す手腕は素晴らしいものだった。日本とヨーロッパだけでなく、しっかりと世界中の歴史・伝奇を縦横無尽に操る様はわくわくする。

戦国期の描写は、呪法が強力すぎたり、忍者集団が異能すぎたりと気になる点はあったものの、楽しめる内容だ。信長に敵対する立場から描いたものは特によく出来ていた。ただこれほど描いても信長の怖さは伝わらない。もっと肉体的な次元で描いて欲しい感はある。上品過ぎては伝奇小説の愉しさは感じられない。

戦間期ヨーロッパが舞台というと『幻詩狩り』が浮かぶが、パリではなくベルリンが舞台なせいか派手さはない。ローマ皇帝ヘリオガバルス(マルクス・アウレリウス・アントニウス)との比較で信長を分析する下りは非常に見応えがあったが、一方で、そうした謎解き以外は盛り上がりに欠けていて物足りなさも残った。

読書メーターに残したコメント、「陰秘学を縦横無尽に操った奇書という感じ。面白くはあったが、物語的な盛り上げに欠けたのは残念。」が端的に読後感を示している。物語というよりも知的な謎解きとしての面白さが先に立ち、生身の伝奇小説的な頭をぐらぐらとさせるような迫力には欠ける。悪くはないが、もう一歩二歩と踏み込んで欲しかった。(☆☆☆☆)