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感想:『彩雲国物語―白虹は天をめざす』

2009年10月26日 21時45分54秒 | 彩雲国物語
彩雲国物語―白虹は天をめざす (角川ビーンズ文庫)彩雲国物語―白虹は天をめざす (角川ビーンズ文庫)
価格:¥ 540(税込)
発売日:2007-08-31


本編としては12冊目。短編集も加えると14冊目。

秀麗や劉輝が藍州へと向かう話だが、事前事後が丹念に描かれる。戦いや一つの出来事で全てが解決したりするのではなく、積み上げられるやり取りが少しずつ物事を動かしていく。それを証明するかのような一冊となっている。

愛さえあれば幸せになれる。そんな言葉とは対極に位置する世界。これが少女小説として描かれることにある種の驚きを覚える。少年向けライトノベルがいまだ幻想にあることを思えば尚更だ。

頑張ることが大切なのではなく、結果が全てとも言えるそんな価値観もまた、同じように感じられる。秀麗の甘さに対する厳しい評価や、秀麗自身の自覚。もちろん甘さの全てを否定するわけではないが、彼女はそれを乗り越え、著者もそれを乗り越えるのが当然だと見なしている。
甘さを糾弾するコメントを述べることの多い私が、時に砂糖を加えたくなるほどの作品。私自身の甘さが浮かび上がる。それでも劉輝には……。

本書の影の主役とも言えるタンタン君が卒業。登場時の不人気から大飛躍を遂げた彼。凄いキャラクターだらけの中で、数少ない「普通」の部類だったことが存在感を増したわけだが、地位に見合う行動や責任を果たす人々を見ているとそこまで地位に汲々としようとは思わないのも当然かもしれない。


感想:『秋の花』

2009年10月26日 21時24分42秒 | 北村薫
秋の花 (創元推理文庫)秋の花 (創元推理文庫)
価格:¥ 651(税込)
発売日:1997-02


北村薫の円紫さんシリーズ3作目。初の長編。

これまで「日常の謎」を描いていたが、本作では一人の少女の死がメインに描かれている。それでも、ミステリと呼ぶよりは青春小説に近い印象となっている。
何気ない日常描写の積み重ねによって作り出された空気。秋の澄んだ、でも物悲しい空気に作品世界は包まれている。
細部に関しては素直に納得できることばかりではないし、全ての謎を円紫さんが解決するという展開自体はオーソドックス過ぎる。それでもこの作品を魅力的なものと為さしめているものが空気である。

この空気を生む手練手管は素晴らしい。その巧さに参ってしまう。どうしてもストーリーに目が行きがちになる私にとっては、驚くほかないような作品だ。ただ、ミステリである必要があったのかは疑問の余地があったけれど。


感想:『ジェネラル・ルージュの凱旋』

2009年10月26日 21時08分31秒 | 本と雑誌
ジェネラル・ルージュの凱旋ジェネラル・ルージュの凱旋
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2007-04-07


『ナイチンゲールの沈黙』と同時進行で展開する物語。当初この2冊は一つの物語として書かれていたが二つに分けられたという。結果的にそれは成功だと言えるだろう。
本書では殺人事件は起きず、ミステリと呼ぶのは躊躇われる。白鳥の活躍も少ない。その分、本書の主役と呼ぶべきジェネラル・ルージュ速水の存在感が増している。

『ナイチンゲールの沈黙』は完成度にやや難があったが、本書は高い完成度を誇る。更に、『ナイチンゲールの沈黙』を読んでいるからこそ楽しめる部分も多い。
救命救急センターが舞台ということで、TVドラマ『ER』を思い浮かべた。あのスピード感を小説で表現するのは困難だが、それでも何某かの共通する空気は伝わった。

神の如き速水の魅力がこれでもかと描かれているが、野村弁護士に語らせた倫理に救いを見た気がする。確かに速水は素晴らしい技術と能力を持ち、それ以上に熱い情熱を持っている。彼の語ることは正論であり、社会の不備こそが問題である。しかし、だからといって彼の全てを肯定できるかというとまた別の話となる。日本に限った話ではないが、現場の課題をちゃんとフィードバックするシステムが欠落しているがゆえに、現場に過大な苦労を背負わせているのが現状だろう。それでも現場の論理だけで正しいかどうかを判断するのもまた過誤を生む土壌となるだろう。

このシリーズは、現在の医療現場に様々な問題があることを提起している。それは簡単に改善できる問題ではない。英雄が現れて全て解決してくれるなんてことはない。安直な問題提起に終わらないバランス感覚を著者が持っていることは、これまでのシリーズから読み取ることが出来る。「田口・白鳥シリーズ」から一歩踏み込んで、「桜宮サーガ」へと歩を進めてみたいと思わせる作品だった。