
この楽器はなんでしょう。知っている人は少ないと思う。これは、南アフリカのジンバブエという国で使われている「ムビラ」と言う楽器なんです。先日、このムビラの演奏を聴きに行ってきた。演奏している人は、サネチカ君というまだ20代の若者。ムビラの演奏を習い始めて3年が過ぎたという。毎年、ジンバブエの師匠のところに通ってムビラの演奏を習っている。年間3ヶ月以上、行っているそうだ。
ジンバブエは南アフリカ共和国のすぐ北側に接している国で、ムガベ大統領の独裁政治で有名だ。イギリスなどの旧宗主国から「世界最悪の独裁政治」とも非難されているのは、ムガベ大統領がかつて白人が所有する大農場を強制的に接収し、貧しい黒人農民に配分したこと。米国やイギリスなどの国が国連安保理で非難決議を上げたが、ロシア、中国、リビア、南ア共和国などの反対でできなかった。現在は、連立政権が成立し、形式的には独裁政治ではなくなっている。
ジンバブエでは、ムビラという楽器は、宗教的な儀式に使う。シャーマンがムビラの演奏をバックにトランス状態に入る。楽器は厚手の板に鋼鉄の板をならべて、指ではじいて音を出すだけの単純なしかけだ。音を共鳴させる仕掛けは、ビール瓶の蓋を4-5個、板の上に半ば固定しているだけ。使う指は両手の親指と右手の人差し指の3本だけ。それでも単純な澄み切った音を響かせる。サネチカ君は、ムビラの演奏をしていると、ジンバブエの青い空や茶色の大地などの色彩を思い浮かべるという。
普段のコンサートでは2時間くらい演奏を予定しているらしいが、彼は演奏していると時間を忘れ、いつも3時間を超えて、時によっては夜中までついつい演奏してしまうと言う。それほどまでにムビラの音に魅せられている。今回はコンサートがメインではなかったので、彼は遠慮して1時間で止めたけれど、もっと弾きたかったようだった。メロディはアフリカ音楽に多いような比較的単調なメロディなので、寒い部屋で聞いていたので、もっともっとという感じではなかった。でもジンバブエの青い空の下、暖かな日差しの中で聴いていると、きっと癒されるだろう。心から。眠りたくなったら眠り、目が覚めたらムビラの音が近くで響き続けている、そんな音のある風景がきっとムビラの故郷なのだろう。