うろ覚え

毎年、両親の誕生日になると、弟のお嫁さんからお祝いメッセージが、メールで届くのです。
「そうそう、今年の私の誕生日、メールが届いたかしら。」と、母が言うのです。
多分、メールは届いているはずです。
そのメールに、お礼の電話をかけるのが、お嫁さんと母との暗黙のルールになっているのです。

しかし、メールの存在を忘れている母に、お礼の電話をかけることはありませんでした。
「きっと、怒っているわね。誕生日は3月なのに、もう5月よ。」と、もうないものとして、うやむやにしてしまおうと思っているようです。
毎回、私は、お誕生日メールを読ませてもらっているですが、「よくもまあ、こんなに毎年、同じ文章を送れるものだ。」と、思うほど同じ文章を送ってくるのです。
多分、ボキャブラリーがないせいなのかもしれませんし、目上の人には、「これくらいでちょうどいいんだろう。」と、思っているのでしょう。

もう今更、お礼の電話も無いし、今年は気持ちだけ有り難く受け取っておくことになります。
母もきっと、毎年同じ文章だから、去年のものか、一昨年のものか、今年のものか、見当がつかないようです。
お祝いメッセージって、一体、どういうものがいいのでしょうか。
ただ、相手の健康を願うだけがいいのか。
それとも、自分の今の状態を書き添えることで、話を膨らませることがいいのか。
私にはわからないんです。
そういえば、私はお祝いメッセージすら書いたことがないのです。

母のうろ覚えは、たぶん許してもらえるはずです。
来年、またメールが届いたら、楽し気に電話する母の姿が目に浮かびます。
それまで、楽しみに待っていなければなりません。
「おめでとう。」だけで、本当は十分なんですけど。