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【 コラム 】 温泉宿の名前-1

先日、発作的に「温泉にっぽん」(JAF出版社 税抜4571円也)を買ってしまい、つらつらと眺めていたら、宿の名前のバリエーションのあることあること・・・。
そこで、今回は温泉宿の名前についてまとめてみます。
かなり大きなテーマなので、今後すこしづつ補強していきたいと思います。

温泉宿にとって、ネーミングは宿のイメージを印象づける大切なものです。
お客はまず名前をきいて、「高そうだな~」とか、「お洒落っぽい」とか、はたまた「なんかショボそ~」とか感じるわけで、それは宿がリニューアルで名前を一新する例が多いことからもわかります。
たとえば、塩原大網温泉の一軒宿は、近年、「ホテルニュー大網」 → 「湯守田中屋」 → 「温泉 宿小町」と2回も宿名を改めています。

有名宿になるとそれ自体がもはやブランドで、和倉の「加賀屋」、修善寺の「あさば」など、国内はおろか海外にまでその名が知られています。
宿名は時代とともに流行りすたりがあり、その流れを辿っていくと時代ごとのお客の嗜好が浮きぼりになって、なかなか興味深いテーマとなりそうです。

宿名はいくつかのタイプに分類されます。
ここでは、タイプごとに分類し、その特徴をみていきたいと思います。
なお、これから書く内容は、あくまでも筆者の個人的主観によるもので、例外も多々あります。念のためお断りしておきます。

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<温泉宿の名前の分類>

1.そのまんま型
温泉名や源泉名をそのまま宿名にしてしまうもの。当然ながら一軒宿が多く、数軒ある場合も湯元の場合が多い。
(例)蔦温泉(青森)、真木温泉(山梨)、諏訪温泉(鹿児島)

2.和風屋号型

2-a.□□屋(家)
江戸期には宿名に屋号を用いるケースが多く、その伝統を汲むもの。老舗温泉地の老舗宿に多い。民宿などでオーナーの苗字+屋とする例も多い。
(例)東山「有馬屋」(福島)、和倉「加賀屋」(石川)、湯村「朝野家」(兵庫)

2-b.□□旅館
2-b-a.□□旅館(旅館□□)
由緒正しき老舗旅館と大温泉地の比較的中規模な年季入りめの宿に多い。昔ながらのギミックなし直球勝負浴槽で、源泉をザコザコにかけ流ししてたりするので狙い目。
(例)鉛「藤三旅館」(岩手)、修善寺「新井旅館」(静岡)、垂玉「山口旅館」(熊本)

2-b-b.□□温泉旅館
1の派生型。これも一軒宿が多く、お湯に定評のある宿が多い。
(例)五色「五色温泉旅館」(北海道)、酸ヶ湯「酸ヶ湯温泉旅館」(青森)、黒薙「黒薙温泉旅館」(富山)

2-b-c.□□屋(家)旅館
2-aの派生型。これも老舗温泉地の老舗宿に多い。”屋”と”旅館”は屋上屋だが、つかいふるされた”旅館”というワードが陳腐化せず、逆に風格をもたらしているのが凄い。
(例)銀山「能登屋旅館」(山形)、草津「大阪屋旅館」(群馬)、明礬「岡本屋旅館」(大分)

3.ホテル型
(※これから書くのはあくまでも個人的な評価で、例外も多くあることを重ねてお断りしておきます。)
近年、いちばん苦戦しているのがこのタイプ。背景として、トレンドの”新・和風感覚”を打ち出しにくいということもあるのでは。「□□ホテル ■■亭」など和風のサブ名称をつける例が増えているのもこれを裏づけていると思う。
傾向としては、団体向けの大型キンキラ豪華系と家族経営的な小規模宿に二分される。
お湯的にはハズレ指数が高まるが、源泉を所有している有力施設やビジホなどでは自家源泉を潤沢につかっていることもあるので、ひとくくりにはできない。当たりはずれの大きいタイプといえる。

3-a.□□ホテル(□□観光ホテル、□□温泉ホテル etc...)
ふつう□□には観光地名や温泉地名が入る。わりに古くからあるパターンで、とくに「□□ホテル」型はレトロで格式の高い宿が意外に多い。”ロイヤル””グランド””国際”などのプレステージ的形容詞が入るやつもけっこうある。軒数が多く施設的に松から梅まで、お湯的にも名湯からスカまで玉石混淆。
(例)□□ホテル型
鳴子「鳴子ホテル」(宮城)、熊の湯「熊の湯ホテル」(長野)、日奈久「不知火ホテル」(熊本)
(例)□□観光ホテル型
新赤倉「赤倉観光ホテル」(新潟)、片山津「加賀観光ホテル」(石川)、京町「京町観光ホテル」(宮崎)
(例)□□温泉ホテル型
万座「万座温泉ホテル」(群馬)、塩壺「塩壺温泉ホテル」(長野)、大沢「大沢温泉ホテル」(静岡)

3-b.ホテル□□
高度成長期には一世を風靡したが、近年減りつつある。とくに「ホテルニュー□□」とくると、「あ~、団体客様御用達の歓楽ぎんぎらホテルか・・・」と思われる可能性大だ。ビジホや小規模宿ではオーナーの苗字が入るケースもある。□□に個性があると格調を保つが、□□がまずいと一気にチープでB級なイメージが出るので□□が生命線か。
(例)例示はやめときます (^^;)

3-c.亜流型(ロッジ□□、ビラ□□、ヒュッテ□□など)
小規模なスキー宿や山小屋などにみられる。立地的に温泉はサブ的なものとなるので、客層も温泉好きというよりはスキー客や登山客が多い。

4.和風伝統型
宿やすまいなどをあらわす和様のワードを末尾に据えたもの。

4-a.□□荘(□□山荘、□□別荘)
比較的こぶりな旅館や公共の宿、会社の保養施設などでもよくつかわれる。語感的にやや軽いが、熱海「大観荘」、天橋立「文殊荘」など格式高い老舗旅館にもみられる間口の広いタイプ。山荘型や別荘型はひと味違った重みが出てくるような気がする。とくに別荘型は高級宿が多い。
(例)□□荘型
二岐「大丸あすなろ荘」(福島)、塩河原「渓山荘」(群馬)、新川妙見「妙見石原荘」(鹿児島)
(例)□□山荘型
温川「温川山荘」(青森)、谷川「水上山荘」(群馬)、長門湯本「大谷山荘」(山口)
(例)□□別荘型
伊豆長岡「古奈別荘」(静岡)、道後「大和屋別荘」(愛媛)、由布院「亀の井別荘」(大分)

4-b.□□館
比較的歴史の古い温泉地の老舗に多い。使い古されているのに陳腐化せず、安定感もある。湯抜き栓一ケ所だけの古き良き浴槽があったりする。
(例)いわき湯本「松柏館」(福島)、法師「長壽館」(群馬)、湯原「湯原館」(岡山)

4-c.□□閣
これも歴史ある老舗宿でつかわれる。和風の重厚で格調高いイメージがあるので、不用意に安宿でつかうと名前負けするおそれあり(笑)意外に山中の宿でもつかわれる。
(例)天人峡「天人閣」(北海道)、松之山「凌雲閣」(新潟)、仙石原「俵石閣」(神奈川)

4-d.□□楼
これも老舗旅館御用達の格調高いタイプ。箱根に多い。「頓狂楼早雲閣」などというcとの複合型もある。
(例)塔ノ沢「福住楼」(神奈川)、仙石原「仙郷楼」(神奈川)、三朝「万翆楼」(鳥取)

4-e.□□苑/□□園
パターンが散っていてまとめにくいが、老舗温泉地の中堅旅館に多いのか・・・。
(例)□□苑
箱根湯本「金湯苑」(神奈川)、久美浜「碧翆御苑」(京都)、鉄輪「神和苑」(大分)
(例)□□園
土湯「天景園」(福島)、老神「金龍園」(群馬)、皆生「海潮園」(鳥取)

4-f.□□庵
やわらかな語感を醸し、高級隠れ宿の人気にともない一気に台頭しそうなタイプ。1日●組限定などという、料理にもこだわった小粋なおこもり宿向けか。
(例)箱根湯本「桜庵」(神奈川)、浅間「喜祥庵」(長野)、谷川「仙寿庵」(群馬)

4-g.□□亭
これも老舗に多い。とくに「●●ホテル □□亭」という複合型が多い。
(例)伊香保「千明仁泉亭」(群馬)、七味「渓山亭」(長野)、下呂「下呂ロイヤルホテル雅亭」(岐阜)

5.意匠創作型
いわくいわれやコンセプトを込めた凝ったタイプ。当然ながら高級宿に多い。

5-a.由来型
史跡や歴史的な由来にもとづくもの。意外にすくない。
(例)積翠寺「要害」(山梨)、龍神「上御殿」「下御殿」(和歌山)、有馬「陶泉御所坊」(兵庫)

5-b.嘉字型
客と宿に幸あれかし、と名付けられたのかな? 御利益がありそう。
(例)(違ってたらごめんなさい ^^;)
箱根湯本「萬翆楼福住」(神奈川)、伊豆山「桃李境」(静岡)、宇奈月「延楽」(富山)

5-c.料亭型
難読漢字やかなまじりの格調高いもの。割烹旅館の独壇場。高そ~(笑)
(例)奥湯河原「海石榴」(神奈川)、湯谷「はづ木」(愛知)、雲仙「半水廬」(長崎)

5-d.とにかく長い型
最近増えているのが「●●●の宿」という枕詞がつくやつ。鬼怒川の「鬼怒川旅物語りと言う名の旅館」は枕詞なしでこの長さ、凄い!(笑)。
(例)村杉「ふるさとがしのばれる宿 角屋旅館」(新潟)、鬼怒川「清しきひとの宿 鬼怒川御苑」(栃木)、湯西川「彩り湯かしき花と華」(栃木)

<つづく>
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