「鳥呑み爺」 笠原 政雄 「日本の民話 5 甲信越 山梨、長野、新潟」
むかしね、じさ 山仕事 行ったと。
そして 腹 すいたので ご飯食べようと思って、持ってった だんご 食おうと思って 紙をひろげた。
そしたら 前の木のところにね、きれいな名も知らねぇような鳥が ぷぁぷぁぷぁ とたってきてとまった。
それで じさ だんご食おうとしたらね、
(じじぃ じじぃ、だんごくれぇ だんごくれぇ)って、言うたと。
「これはまた 口きく鳥だなあ」
と思って、じさ だんご(ほらっ)って、くれたと。
ひょい って 口ばしにとって ふちゃ ふちゃ って、食ってしまった。
また、(じじぃ じじぃ、だんごくれぇ だんごくれぇ)って、言った。
あんまり かわいいもんだ、みんな だんご 食わしてしまった。
それでも まだ、(だんごくれぇ だんごくれぇ )って、鳴くんだが、
「もう だんごはねえ、この紙ばっかだ」って、紙見せた。包んでいった紙。
そしたら、( じじぃ じじぃ、紙くれぇ 紙くれぇ)
「まぁ、 きれいな鳥だどど、いやしい鳥で 紙まで食うって」って、
ためしに(ほらっ)って、紙を投げてやったら その紙まで ふちゃ ふちゃ って、食ってしまった。
鳥に みんな 弁当食われてしまったんだ。弁当のだんご食われてしまったし、タバコを吸いながら、
あーっ って、言うて あくびかいたと。でっかいあくび。そしたら 何を間違えたか、
鳥はじいさんの口の中めがけて、ぷぁぷぁぷぁ って、飛んできて、腹ん中へ 飛び込んでしまったと。
「あー、おおごとだ、おおごとだ」と思ううちに ストンと腹の中へ落ちてしまって、
そうして やがもご やがもご と 腹の中で 動いていた。
そのうちに へそから羽根が プルッと出たと。
「あー よかった。これじゃ 引っ張りだそう」
と思って、力いっぱい ごつん と、引っ張ったら、腹ん中で 鳥が鳴いたって。
どういって鳴いたかと思うたら、
(あや ちゅうちゅう、こゆ ちゅうちゅう、錦(にしき) さばさばさば、
五葉(ごよ)の 盃(さかずき)、もってまいりましょう、ピピラ ピー)って、いうて 鳴いたと。
これはおもしろいと思って、また こちん と、引っ張ると、また、
(あや ちゅうちゅう、こゆ ちゅうちゅう、錦(にしき) さばさばさば、
五葉(ごよ)の 盃(さかずき)、もってまいりましょう、ピピラ ピー)って、いうて 鳴くだ。
そいで じさもたまげて、仕事もしないで うち帰ってきて、
「ばさ、ばさ。じつは 鳥がオレの腹の中 たちこんでしまった。
そいで、へそから 羽根が出てるんだけど、おめぇ ひとつ 引っ張ってみて くんないか」
「よーしかあ」
って、ばさはたまげて、へその羽根 引っ張って、そしたら同じく、
(あや ちゅうちゅう、こゆ ちゅうちゅう、錦(にしき) さばさばさば、
五葉(ごよ)の 盃(さかずき)、もってまいりましょう、ピピラ ピー)って、鳴くって。
「じさ、これおめぇ、ばかしにいい声の鳥だすけえ、おめぇあの がいろばた行って、
あの日本一の歌うたい爺だいうて、金もうけさっせ」
「それもそうだか」っていうんで、がいろ一の歌うたい爺だって歌ったって。
そのがいろに立ってたと。そしたら そこへ 殿様が来て、
「そこにいるのは何者だ」って、言うた。
「いや 日本一の歌うたい爺だ」って、言ったと。
それで「歌ひとつ 歌ってみれ」って、言うんで、その羽根コツンと 引っ張ったら、
(あや ちゅうちゅう、こゆ ちゅうちゅう、錦(にしき) さばさばさば、
五葉(ごよ)の 盃(さかずき)、もってまいりましょう、ピピラ ピー)って、鳴いたつうだね。
それで 殿様は あんまりいい声なんで ほうびを たくさんくれたと。
そんで 爺さ 今度は、その羽根 引っ張っちゃあ、町中 歌うとうて 歩いていたと。
それで だいぶたってから ポツンと引っ張ったら、羽根が ポロンと もげてしまって、
それっきり 鳴かないようになったと。
いきが ぽーんとさけた。
むかしね、じさ 山仕事 行ったと。
そして 腹 すいたので ご飯食べようと思って、持ってった だんご 食おうと思って 紙をひろげた。
そしたら 前の木のところにね、きれいな名も知らねぇような鳥が ぷぁぷぁぷぁ とたってきてとまった。
それで じさ だんご食おうとしたらね、
(じじぃ じじぃ、だんごくれぇ だんごくれぇ)って、言うたと。
「これはまた 口きく鳥だなあ」
と思って、じさ だんご(ほらっ)って、くれたと。
ひょい って 口ばしにとって ふちゃ ふちゃ って、食ってしまった。
また、(じじぃ じじぃ、だんごくれぇ だんごくれぇ)って、言った。
あんまり かわいいもんだ、みんな だんご 食わしてしまった。
それでも まだ、(だんごくれぇ だんごくれぇ )って、鳴くんだが、
「もう だんごはねえ、この紙ばっかだ」って、紙見せた。包んでいった紙。
そしたら、( じじぃ じじぃ、紙くれぇ 紙くれぇ)
「まぁ、 きれいな鳥だどど、いやしい鳥で 紙まで食うって」って、
ためしに(ほらっ)って、紙を投げてやったら その紙まで ふちゃ ふちゃ って、食ってしまった。
鳥に みんな 弁当食われてしまったんだ。弁当のだんご食われてしまったし、タバコを吸いながら、
あーっ って、言うて あくびかいたと。でっかいあくび。そしたら 何を間違えたか、
鳥はじいさんの口の中めがけて、ぷぁぷぁぷぁ って、飛んできて、腹ん中へ 飛び込んでしまったと。
「あー、おおごとだ、おおごとだ」と思ううちに ストンと腹の中へ落ちてしまって、
そうして やがもご やがもご と 腹の中で 動いていた。
そのうちに へそから羽根が プルッと出たと。
「あー よかった。これじゃ 引っ張りだそう」
と思って、力いっぱい ごつん と、引っ張ったら、腹ん中で 鳥が鳴いたって。
どういって鳴いたかと思うたら、
(あや ちゅうちゅう、こゆ ちゅうちゅう、錦(にしき) さばさばさば、
五葉(ごよ)の 盃(さかずき)、もってまいりましょう、ピピラ ピー)って、いうて 鳴いたと。
これはおもしろいと思って、また こちん と、引っ張ると、また、
(あや ちゅうちゅう、こゆ ちゅうちゅう、錦(にしき) さばさばさば、
五葉(ごよ)の 盃(さかずき)、もってまいりましょう、ピピラ ピー)って、いうて 鳴くだ。
そいで じさもたまげて、仕事もしないで うち帰ってきて、
「ばさ、ばさ。じつは 鳥がオレの腹の中 たちこんでしまった。
そいで、へそから 羽根が出てるんだけど、おめぇ ひとつ 引っ張ってみて くんないか」
「よーしかあ」
って、ばさはたまげて、へその羽根 引っ張って、そしたら同じく、
(あや ちゅうちゅう、こゆ ちゅうちゅう、錦(にしき) さばさばさば、
五葉(ごよ)の 盃(さかずき)、もってまいりましょう、ピピラ ピー)って、鳴くって。
「じさ、これおめぇ、ばかしにいい声の鳥だすけえ、おめぇあの がいろばた行って、
あの日本一の歌うたい爺だいうて、金もうけさっせ」
「それもそうだか」っていうんで、がいろ一の歌うたい爺だって歌ったって。
そのがいろに立ってたと。そしたら そこへ 殿様が来て、
「そこにいるのは何者だ」って、言うた。
「いや 日本一の歌うたい爺だ」って、言ったと。
それで「歌ひとつ 歌ってみれ」って、言うんで、その羽根コツンと 引っ張ったら、
(あや ちゅうちゅう、こゆ ちゅうちゅう、錦(にしき) さばさばさば、
五葉(ごよ)の 盃(さかずき)、もってまいりましょう、ピピラ ピー)って、鳴いたつうだね。
それで 殿様は あんまりいい声なんで ほうびを たくさんくれたと。
そんで 爺さ 今度は、その羽根 引っ張っちゃあ、町中 歌うとうて 歩いていたと。
それで だいぶたってから ポツンと引っ張ったら、羽根が ポロンと もげてしまって、
それっきり 鳴かないようになったと。
いきが ぽーんとさけた。
のみこんでしまう前にもきれいな声で泣いていたことや
最後にしっぽが切れるというシチュエーションはなかったです。
けれど、小澤俊夫さんの標準語の「鳥のみじさ」も、しっぽがあとで切れるというお話しだったと記憶しています。
こうやって微妙に内容が違うのって面白いですね。
口承文学の魅力だなと思います。
昔は同じ話しでないと嫌だと思っていたのに不思議です。
そして、国と国が全く関与していない土地での昔話なのに、なんとなく似たような内容の昔話が他の国にもあったりするのも好きです。
買った本はほんとに少なくて、
今さがしてみたら一冊しかない。
それが笠原政雄さんの語りを収録した「雪の夜に語りつぐ」という本です。
実際に笠原さんが語ったCDも13枚出ています。
わたしは図書館で借りて全部聞きました。
私の所属している民話の会にこの「鳥のみ爺」を得意にしている人(男)がいます。
小学校の先生を長くやってた人で、
聞き手との間をとるのがうまい人だなっていつも感心しています。
押さば引け、引けば押せというけど、その間合いが絶妙なんです。
言葉で伝えるのは難しい。
「鳥のみ爺」といえば民話の定番中の定番。
前にリメイクした記憶があるんだけど、見つからない。
鳥の鳴き声がいろいろあるのでどれを採用しようか迷ったのを覚えている。
また、リメイクしてみようかな。