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「徒然草 REMIX」 その7 酒井 順子

2016年03月11日 00時23分03秒 | 古典
 「徒然草 REMIX」 酒井 順子 新潮文庫 2014年(平成26年)

 「愚か」 その2 P-49

「誉める人も誹る人も、いずれは死んでしまうのだから、誉められたいなんて思うのは愚か!」
 と書く兼好ではありますが、しかしそんな彼にも、「誉められたい」という気持ちは、どこかにあったはず。
 彼は、そんな自らの愚かさをも、自覚していたのだと思います。財産も、地位も、名誉も名声も、兼好は心の奥底では決してきらいではなかったような気がしてならない私。邪推をするならば、その手のものを本当は欲していたのに思うようには得ることができなかったからこそ、その手のものを求める人たちを「愚か」と言い捨てたようにも思うのです。まるで、好きな女の子だからこそスカートめくりをしてしまう男子のように。

 財産も地位も名誉も名声も皆「非」、とする兼好の筆致は格好いいのだけれど、どこかリアリティに欠けるような気が私はするのです。それよりも、女に迷った時のことを書く時の方が、兼好の筆は生き生きしている。
 財産も地位も名誉も無駄、というのは正論です。が、そんな正論を吐きつつも徒然草が宗教書とならないのは、彼の中にある俗世に対する色気が、かいま見えるから。
 彼が最も「愚か」だとしているのは、実は自分自身のことのような気がするのでした。