民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「古屋の雨漏り」 佐藤義則 編著

2014年05月01日 02時09分39秒 | 民話(昔話)
 「全国昔話資料集成」 1 羽前小国昔話集  編者 佐藤義則  岩崎美術社 1974年

 「古屋の雨漏り」 P-38

 トント昔。
ある所(ど)さ、爺様婆様あったけド。
ある夜(よ)ん間(ま)、唐土(とオど)の虎つうもんが、
爺婆の家でァ何(なん)ぞ食い物無えべがとて、
戸の口さ屈(こご)んで覗込(のぞこ)みしてだけド。

 すっと、家(え)ん中でァ、婆様「爺や爺や。この世の中で何ぁ一等(えッと)おっかねべや。
やっぱす、唐土(とォど)の虎、らべが」って、聞いったけド。
戸の口の虎「俺ァ、世の中で一番と恐(おッか)ね者(もん)だ」って、喜んでっと、
爺様「ほれァ唐土の虎もおっかねげんと、
やっぱすハァ、古屋の雨漏(あまむ)りァ一等おっかね事(ごん)だや」
「ほだほだ。古屋の漏(む)りど鳴る(米櫃が空になって鳴る)ァ、一等おっかねちゃなァ」
って否消(ひげ)しったけド。

 虎ァびくらして、「あじゃ。俺よりおっかねフルヤノムリやナルさァ、何(どげ)な物(もん)だべ。
ああ、こがえしてァ居(え)らんねちゃ。おかねェ、おかねェ」って、どがすか逃(ね)げ出して、
唐土さ渡ってすまったさえ、日本にゃ虎は居(え)ねんだド。

 ドンビン、サンスケ。

 (岸 久助)