アフガン・イラク・北朝鮮と日本

黙って野垂れ死ぬな やられたらやり返せ 万国のプレカリアート団結せよ!

ビルマとネパールの革命

2007年09月29日 08時57分18秒 | その他の国際問題
 かつて80年代から90年代にかけて、アジアの軍事独裁政権が相次いで崩壊していきました。フィリピンのマルコス政権、インドネシアのスハルト政権、韓国の朴正煕・全斗煥・虜泰愚歴代軍事政権、台湾の蒋介石政権、等々。そのアジア民主化の波が、今度はビルマとネパールに及んでいます。

 ビルマ(現国名はミャンマーだが、民主化勢力はこの国名を認めていない)では、この8月からの生活必需品の大幅値上げをキッカケに、僧侶らがまず反政府ボイコットに決起し、それに学生・市民や民主化勢力が合流していき、大規模な反政府デモが旧首都ラングーン(ヤンゴン)を始めビルマ各地で始まりました。軍事政権はそれに対して武力鎮圧で臨み、その過程で日本人記者(APF通信の長井健司氏)が取材中に殺害される事件も起こりました。

 この記者殺害の件で日本政府はビルマ側の対応を非難していますが、私に言わせれば「その前にやるべき事がいくらでもあるのでは、それをさておいて、何を自分だけ良い子ぶって」と思いますね。何故なら、日本も他の大国(中国・ロシア・英国・米国)と同様に、それまでビルマの軍事政権をODAやら何やらで支えてきた当事国の一つであるからです。
 それに歴史上の関係もあります。今のビルマ国軍そのものが、元はと言えば戦時中に日本が育成した反英義勇軍に由来するものなのです(日本の軍艦マーチがビルマでも馴染み深いのはその為)。もっと言えば、ビルマの独立運動そのものが、インドネシアの場合と同様に、最初は日本の力を借りて西欧の植民地支配に抗し、その後は日本の帝国主義的本質も見抜いて反帝・反ファシズムに転ずる中から発展してきたものなのです。しかしビルマが独立後も内紛や少数民族の反乱に悩まされる中で、やがて軍部が政治の実権を握るようになり、それで今に至っているのですから。

 ネパールの場合はもう少し事情は複雑です。この国では60年代の国王クーデターで専制体制が復活して、それが90年代まで続きました。90年代に国民の決起によって一応の民主化が達成されますが、21世紀に入って再び国王側による揺り戻しがあり、それへの抵抗という形で反政府運動が広がり、今や王制廃止・共和制樹立にまで突き進んでいるのです。
 その今回の反政府運動を主導しているのが、90年代の最初の民主化の時期には傍流にしか過ぎなかった毛沢東主義ゲリラ(マオイスト)なのです。但しこのマオイストは今の中国とは無関係で(中国は逆に専制王制に加担してきた)、寧ろ中南米の農民ゲリラの系譜を引くものだと言われています。ネパール共産党の多数派と袂を分った少数派で、当初は国土の一部を支配しているに過ぎませんでした。それが21世紀に入っての国王反動を機に、被差別カーストや今まで虐げられてきた女性の権利を代弁する形で急速に勢力を伸ばし、既成二大政党のネパール会議派や多数派共産党をも凌駕し、今や反独裁運動の主導勢力となっているのです。
 マオイストが真に人民を代弁しているのであれば、それを単なる極左ゲリラとしてしか看做して来なかった私の評価は見直さなければなりません。ただネットなどで民衆集会の運営の仕方を見る限りでは、ポルポト派とも似通ったものをそこに感じてしまうのも事実です。マオイストの詳細については現在調べている所です。
 そして、その中で日本はと言うと、ここでもまた他の大国と同様、国益の名の下に、積極的に国王専制を支えてきました。ODAを供与し、その利益をまた日本に還流させ、日本企業と当事国の独裁政権で利益を山分けし、民衆にはホンの僅かの恩恵しか与えずに。

 どちらにしろ、ビルマとネパールで今起こっている政変劇から明らかな事は、今までは東西冷戦のクビキの下で独裁政権に抑えつけられてきたアジアの民衆が、急速に立ち上がってきている、という事です。今、中南米諸国で席巻している冷戦体制・軍事独裁・寡頭政治・新自由主義に抗する波が、同時にアジアでも起こっているのです。それがやがては、今はテロリストの跳梁跋扈や大国(特に米国・イスラエル)の侵略に抑えつけられているアフガン・イラク・パレスチナや、専制体制や多民族支配を余儀なくされている北朝鮮・東トルキスタンにも波及していく事になるでしょう。上辺だけは「民主国家」を取り繕い、その実デタラメ政治や弱者搾取をし放題の日本の自民党支配も、勿論例外ではありません。 

(参考記事)

※ビルマ(ミャンマー)関連
・ビルマ(ミャンマー)でいま何が起こっているのか?(ビルマ情報ネットワーク)
 http://www.burmainfo.org/essay/tanabe20070927.html
・ビルマの人権と日本のかかわり(同上)
 http://www.burmainfo.org/essay/tanabe20060312.html
・特集 ビルマ(ミャンマー)民主化(JANJAN)
 http://www.news.janjan.jp/world/0709/0709260008/1.php
・アウンサンスーチーとビルマのすべての良心の囚人の釈放のための署名(アムネスティ・インターナショナル)
 http://www.amnesty.org/actnow/myanmar/myanmar_jpn.htm
・長井さん死亡事件、ミャンマー政府に真相究明要求へ(読売新聞)
 http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070929i101.htm

※ネパール関連
・ネパール:王室廃止へ 最大与党が方針転換、共和制に11月移行(毎日新聞)
 http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/asia/news/20070927dde007030071000c.html
・カトマンズ・ジャーナル(小倉清子・アジアプレス)
 http://blogs.yahoo.co.jp/nepal_journal
・ ヒマラヤの毛沢東主義派ゲリラ闘争 小倉 清子『ネパール王制解体』NHKブックス(書評日記 パペッティア通信)
 http://plaza.rakuten.co.jp/boushiyak/diary/20070414/ (前編)
 http://plaza.rakuten.co.jp/boushiyak/diary/20070417/ (後編)
・ネパール政変:「4月革命」と和平協定(拙稿抜粋)(Halkhabar:カトマンドゥの日々 )
 http://blogs.yahoo.co.jp/aaii_jee/11705701.html

※南米左派の動向については下記サイトの各記事を参照。
・ラテンアメリカから見ると
 http://la-news.cocolog-nifty.com/lanews/
・中南米新聞
 http://www.chunambei.co.jp/
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あまりにも短絡的 (修正資本主義者)
2007-10-02 01:05:46
今回の更新は全く頂けない
>どちらにしろ、ビルマとネパールで今起こっている政変劇から明らかな事は

それぞれの国の情勢の概括の仕方があまりにも一面的な気がするし、そっから他の国へと波及してゆく、などというのは大げさに言えば、あなたが大嫌いなはずの真性スターリニズムの真骨頂たる世界への革命の輸出というコミンテルンの口ぶりをそのまんま受け継ぐものと言えます。
その国の情勢はその国の国民が決めるもの。
全く評価できない。最悪です
返信する
個別性と普遍性の統一 (プレカリアート)
2007-10-02 10:04:15
>その国の情勢はその国の国民が決めるもの。(修正資本主義者さん)

 そんな事はいちいち言われなくても分かっています。ビルマもネパールも日本もその他の国も、それぞれ国情も歴史も違うのは当然。しかしその中にも共通の普遍的な真理はある訳で、それを互いに共有し合い教訓を導き出しそうとする所から、国際連帯も始まるのでしょう。それを、修正資本主義者さんみたいに個別性の指摘のみに終始して、「カラスの勝手でしょ~」で終わっていたのでは、其処でもう議論はストップしてしまう。

 ネパールの革命も、90年代の最初の段階で既に中国の六四天安門事件や東欧の「ベルリンの壁」のニュースが彼の地にも伝わり、そこから「如何なる独裁体制もやがては崩壊する」という真理を汲み取って、ネパールの人々が革命に決起していったのでしょう。
 当時の日本では大手商業マスコミなどが「社会主義に対する資本主義の勝利」「人間なんて所詮はそんなもの、いろいろあっても今の自民党政治が一番」などという一面的・皮相的な見方を盛んに流布していましたが、それと比べると、ネパールの人々の方がよっぽど世界を知っていた、と言えるのでは。

 この間のビルマの事態についても、インターネットが市民への情報伝達に果たした役割が非常に大きかったとか。軍事政権が国力増強の為に導入したインターネット網の構築を、逆に市民が逆手にとって、政権側のネット監視の目をかいくぐって情報を外部に発信し続ける事で、それまでの情報鎖国の網が打ち破られた事が、昨日放送のNHK番組「クローズアップ現代」でも取り上げられていました。

 但し、また逆に財界・国家権力によるネット支配の問題もあり、ネットは毒にも薬にもなる「諸刃の刃」なのであって、「それをどう使いこなすか/使いこなせるか」という事が市民の方にも問われているのですが。

>それぞれの国の情勢の概括の仕方があまりにも一面的な気がするし、

 それは、話を分りやすくする為に、敢えて端折って書いたからです。ビルマの問題にしてもネパールの問題にしても、それだけで本が何冊も世に出ている位ですから。

>そっから他の国へと波及してゆく、などというのは大げさに言えば、あなたが大嫌いなはずの真性スターリニズムの真骨頂たる世界への革命の輸出というコミンテルンの口ぶりをそのまんま受け継ぐもの

 そんな事を言い出せばもう、世界社会フォーラムやAALA連帯の運動なども、全くやる価値が無くなってしまいますね。あれはスターリニズムやコミンテルンの運動ですか?
返信する
威勢はいいが内容は空疎 (修正資本主義者)
2007-10-02 14:35:11
> ビルマもネパールも日本もその他の国も、それぞれ国情も歴史も違うのは当然。しかしその中にも共通の普遍的な真理はある訳で、それを互いに共有し合い教訓を導き出しそうとする所から、国際連帯

なら共通の普遍的な真理が何であるか、説明が不足していると思います。そしてこの二つから世界共通の何かなんて導き出せるわけがない。

> もう、世界社会フォーラムやAALA連帯の運動なども、全くやる価値が無くなってしまいますね

威勢のいいだけの世界革命の進軍ラッパを吹き鳴らすのが国際連帯ですか? 何にでも関連性があるという言い方が突飛で飛躍してると指摘しているのです。それからあなたの発言活動全体がダメと言っているのではなく、今回のが最低最悪でもうちっと冷静に普段の筆致に戻ってくれろと言うことです。ケンカ売られたすわ買い言葉ですか?(プ
返信する
「ミャンマー軍による長井さん殺害に抗議する会」ブログから転載 (プレカリアート)
2007-10-04 22:15:25
※以下は、「ミャンマー軍による長井さん殺害に抗議する会」ブログに掲載されている弾圧抗議声明です。声明文の趣旨に賛同していただける方は是非ご署名をお願いします(文中リンクをクリックすれば署名専用フォームのページが開きます)。

======================================

ミャンマー連邦
タン・シュエ国家平和開発評議会議長殿
駐日ミャンマー連邦大使館
フラ・ミン特命全権大使殿

抗議文

2007年9月27日午後、貴国のヤンゴン市内にあるスーレーパゴダ付近で、取材中だった映像ジャーナリスト、長井健司氏が、貴国軍治安部隊の軍人に至近距離から銃撃され、殺害されました。
自国の国民に対するミャンマー軍の一方的な暴力による制圧行動について、国際的な取材活動をしていた日本人ジャーナリストの生命を、警告もなく銃で奪ったことは、殺害を前提とした意図的かつ残虐な取材妨害行為であり、国際社会の一員として、また日本人として、我々はこの行為を断じて許すことはできません。
しかも貴国の当局は、長井氏が亡くなるまで手離さなかったビデオカメラとテープを未だ返却していません。

われわれは貴国治安部隊軍人による長井氏の殺害について強く抗議します。
また、長井氏の殺害の経緯を明らかにするとともに、
犯人の特定と厳罰を求めます。
遺品であるビデオカメラとテープも内容の消去など一切の改竄を許さず、返却することを求めます。

ミャンマー軍による長井さん殺害に抗議する会
(事務連絡先)
〒1060032
港区六本木7-8-25永谷リュード六本木306  

=====================================
  
ミャンマー軍による長井さん殺害に抗議して、
抗議文の趣旨にご賛同をいただける方の、署名をお願いいたしております。
ご賛同いただける方は氏名と肩書きをお願いいたします。

呼びかけ人 (順不同)2007/10/03 1630現在

鳥越俊太郎(ニュースキャスター)
田丸 美寿々(ニュースキャスター)
テリー伊藤(演出家)
麻木久仁子(タレント)
綿井健陽(ジャーナリスト)
石丸次郎(ジャーナリスト)
佐藤和孝(ジャーナリスト)
高世仁(ジャーナリスト)
櫻井よしこ(ジャーナリスト)
北村肇(ジャーナリスト)
江川紹子(ジャーナリスト)
井上トシユキ(ジャーナリスト)
河上和雄(弁護士、元東京地検特捜部部長)
紀藤正樹(弁護士)
田島泰彦(上智大学教授)
苫米地英人(脳機能学者)
前田日明(格闘家)
--------------------------------------

抗議文の趣旨にご賛同いただける方は
氏名(フルネーム)と肩書き(職業か所属先)を
署名のためのインターネット上のフォームに書き込んでください。

物理的に手書きの署名の必要はなく、
お名前と肩書きをこのブログでリンクしているフォームに書き込んでください。
署名フォーム(クリック→)https://hal.sakura.ne.jp/syomeis/sign
肩書きは具体的な所属先でも、
「会社員」などの一般的なことばでもかまいません。
もちろんネット環境になんらかの問題がある場合は
メールやファックスなどで署名を頂いても結構です。

なお、会には電話も一応ありますが、
電話番をお願いしているだけの状態ですので
何かご連絡のある方は
できるかぎりメールでご連絡をお願いいたします。

「ミャンマー軍による長井さん殺害に抗議する会」
 http://blog.goo.ne.jp/nagaikenji20070927/(ブログ) 
nagaikenji20070927@mail.goo.ne.jp(メール)
 〒1060032
港区六本木7-8-25永谷リュード六本木306  
TEL 03-3746-0065
(平日10時から17時で対応)
FAX 03-5772-1127

なお、このブログはリンクフリーですので
いろいろご紹介してください。
http://blog.goo.ne.jp/nagaikenji20070927/


※署名のお願いはここまで。次は、修正資本主義者さんの前回コメントへのレス。

>なら共通の普遍的な真理が何であるか、説明が不足していると思います。そしてこの二つから世界共通の何かなんて導き出せるわけがない。

 確かにビルマとネパールは国情も歴史も違いますが、ともに今、圧制に対する民衆の抵抗が現在進行形で進んでおり、それがメディアにも大きく取り上げられている、という点で、大きな共通点があります。だから二国とも同じ記事の中で取り上げたのです。両者を貫く共通の普遍的真理は何かと問われれば、それは「圧制はいつか必ず倒れる」という事です。
返信する
ネパール共和制移行へ (享安山人)
2007-10-19 00:08:27
私個人は国家の安定の為にはギャネンドラ国王が退位し、評判の悪い皇太子に代わって王孫に譲位するという形で立憲君主制を維持したほうが国の安泰には役立つと思っているのですが、ネパール国民が共和制を選択するなら平和裏に移行される事を望むだけです。国王の恣意的な専制の果てに王家が自滅したと見るべきでしょう。
返信する

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