Harumichi Yuasa's Blog

明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授・湯淺墾道のウェブサイトです

加藤眞吾「地方議会議員の待遇」『レファレンス』2006年7月号

2007年02月20日 | 選挙制度
加藤眞吾「地方議会議員の待遇」『レファレンス』2006年7月号。ちょうどよい時期に刊行された。
東京都議会議員の政務調査の問題がとりあげられているが、私はただ単純に議員歳費は削ればいい、政務調査費は廃止すればいい、とは思わない。
そんなことをすれば、地方議会の議員に立候補するのは、金と暇のあるいわゆる「名望家」だけになってしまう。
サラリーマンが、平日の昼間に休暇を取って議会に出席することができるだろうか。それに報酬も出ない、全部手弁当ということになったら、子育ての終わった専業主婦とか定年で仕事をリタイアした人とかで時間の余裕がある人でも、敬遠するようになるだろう。議員に立候補するのは、地主や中小企業のオーナー社長のように時間と金が自由にできる人で、かつ議員職に付随する名誉と一定の社会的地位を渇望している人だけになるのではないか。
議員は完全に無報酬とし、ボランティアにすればよいではないかという意見を耳にすることがあるが、議員はボランティアでは困る。なぜボランティアでは困るかといえば、議員は立法権力を行使するからであり、それに応じた責任を持ってもらう必要があるからである。無償ボランティアには責任は問えまい。タダより怖いものはない。
アメリカでは基礎レベル自治体の議員の多くが無報酬か、それに近い実態となっているが、それは住民投票によって住民自身が立法権を行使しうるからである。議員のもつ立法権の比重が軽く、いいかえれば職責も軽いのだから、それはボランティアでもいいかもしれない。
堅いことばでいえば、報酬、政務調査費等を支給して議員の専業化を可能とする経済的基盤を整備することは、特定の社会的階層・職業の者に公選職が偏ることを防ぎ、地方政治の民主化を促進する効果があることを再認識すべきであると同時に、議員に報酬・費用弁償等が行われていることについては、その権力行使に係る責任を明確にする契機も含まれていると解するべきなのではないか。
第28次地方制度調査会では、地方議会に幅広く住民の意思を反映させるため、サラリーマン等が議員として活動しやすいような環境を整備すべきだと答申しているそうだが、私はそれに諸手を挙げて賛成することはできない。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日誌2月19日 | トップ | 日誌2月21日 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
まったく同感です! (須藤博(市議))
2013-08-19 14:12:59
国会議員や都議会議員の報酬は、一見すれば高いけれど、じっさいには秘書給与も事務所費も、公費からはいくらも出ていず、政治活動に必要な経費の大部分を、議員個人の生活費を切り詰めて支出している状態です。

サラリーマンなら、出張したり活動に必要な物品を買えば、全額が会社や役所から費用が出るのに、議員はほとんどの活動費が自腹なのです。

家業や資産を持っている議員ならいざ知らず、そうでない議員は、おしなべて貧乏で、奥さんの稼ぎで生活を維持しているという例も多いようです。

まともに秘書も雇えない状態で、議員に立派な仕事を要求するのは無理があります。アメリカでは、秘書を何十人も雇えるだけの公費が投じられているそうです。歳費や報酬は低めで良いから、費用弁償の部分を充実すべきと思います。
返信する
まったく同感です!partⅡ (須藤博(市議))
2013-08-19 14:38:20
投稿したコメントが、やや加藤先生の論点とずれていたようで失礼しました。

議員が無報酬のボランティアになると、「お任せ民主主義」の日本では、首長や役人をチェックする機能は限りなく小さくなるでしょう。

そういう意味で、直接民主主義が機能する欧米とは、よって立つ土壌が違って議員の職責は大きいからこそ、秘書を必要なだけ付けて議員が調査力を充分に発揮できるようにするべきです。

議員が事務所維持費に困って、カネを企業に頼って政策の自由を失ったりするのでは本末転倒です。国民が政治に無関心だからこそ、政治家は金の心配をせずに政策力を発揮できるように環境を与えるべきだと思うのです。
返信する

コメントを投稿

選挙制度」カテゴリの最新記事