Harumichi Yuasa's Blog

明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授・湯淺墾道のウェブサイトです

兵庫県小野市の福祉給付制度適正化条例と個人情報

2013年03月27日 | 情報法
兵庫県小野市で、福祉給付制度適正化条例が市議会で可決され、成立した。生活保護の受給者が不正受給をしたことを発見したり、ギャンブルににお金をつぎこんで生活の維持に影響が出ていると判断したりした場合、市民は市に通報する責務を定めた条例である。

http://www.ono-sigikai.jp/?id=283

この条例では、個人情報の保護については、下記のように規定している。

(個人情報に関する取扱い)
第9条 市は、この条例の施行に当たっては、知り得た個人情報の保護及び取扱いに万全を期するものとし、当該個人情報を業務の遂行以外に用いてはならない。
2 偽りその他不正な手段による受給等に係る情報等の通告、通報、相談等に関係したすべての者は、正当な理由なく、その際に知り得た個人情報を他人に漏らしてはならない。


ところで、この条例の眼目は、市民及び地域社会の構成員の責務(第5条)にあり、次のように規定されている。

(市民及び地域社会の構成員の責務)
第5条 市民及び地域社会の構成員は、生活保護制度、児童扶養手当制度その他福祉制度が適正に運用されるよう、市及び関係機関の調査、指導等の業務に積極的に協力するものとする。
2 市民及び地域社会の構成員は、地域活動で得た人と人とのつながりを活かし、相互に助け合い協力して、要保護者(生活保護法第6条第2項に規定する者をいう。)を発見した場合は速やかに市又は民生委員(民生委員法(昭和23年法律第198号)の規定により厚生労働大臣の委嘱を受けた者をいう。)にその情報を提供するものとする。
3 市民及び地域社会の構成員は、受給者に係る偽りその他不正な手段による受給に関する疑い又は給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるときは、速やかに市にその情報を提供するものとする。


第5条1項、2項及び3項の違反についての罰則規定はないので、努力義務にとどまっているが、責務とされていることには変わりない。
ところで、市民の側からみると、「受給者に係る偽りその他不正な手段による受給に関する疑い又は給付された金銭を(中略)遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるとき」は、「速やかに市にその情報を提供する」責務が生じるわけである。しかし、受給者が給付されたお金をギャンブルに費消していると認めるには、そもそも誰が受給者であるのかを知らなければ、「認め」ようがない。したがって市への情報提供のしようもないであろう。
そうであるとすれば、市民は当該責務を果たすためには、誰が受給者であるのかを知る必要があるので、市に対して給付者が誰であるのかに関する情報の提供又は情報の公開、あるいはギャンブルに浪費していると認められる者が給付者であるのかどうかについての情報の提供又は情報の公開を求めることができるのか、という疑問が生じる。逆にいえば、市は、市民が第5条に定める責務を果たすためとして、受給者に係る個人情報の公表又は提供を行うことができるのであろうか。

この点につき、小野市個人情報保護条例は次のように定めている。

(利用及び提供の制限)
第8条 実施機関は、個人情報取扱事務の目的以外の目的で個人情報を当該実施機関内部若しくは実施機関相互間で利用し、又は実施機関以外のものに提供してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
(1) 本人の同意があるとき又は本人に提供するとき。
(2) 法令等の規定に基づくとき。
(3) 出版、報道等により公にされているとき。
(4) 個人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
(5) 専ら学術研究若しくは統計の作成のために利用し、又は提供する場合であって、本人の権利利益を不当に侵害することがないと認められるとき。
(6) 前各号に掲げるもののほか、個人情報取扱事務の目的以外の目的のために当該個人情報を利用し、又は提供することに公益上相当の理由があり、かつ、本人の権利利益を不当に侵害することがないと認められるとき。


今回、小野市において制定された福祉給付制度適正化条例では、受給者が「生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こ」すことを防止するためわざわざ市民への通報の責務を課しているのであり、その目的は受給者の生活の維持・安定向上を図るためのものであることは明らかである。したがって、個人情報保護条例第8条第4号に基づいて市民に個人情報の提供を行うことは可能と解するのであろうか。
 あるいは、福祉給付制度適正化条例本体には受給者等に係る個人情報の提供に関する規定は存在しないが、上述したとおり、誰が給付を受けているのかを知らなければ市民は福祉給付制度適正化条例に定める責務を果たすことができないのであるから、個人情報保護条例第8条第2号の「法令等の規定に基づくとき」として市民に個人情報の提供を行うことは可能と解するのであろうか。

なお、福祉給付制度適正化条例における「市民」の中には、「一時的に市内に滞在する者」も含まれる(2条)。したがって出張で小野市に泊まっているような場合であっても、この責務は課せられることにある。私たちにとっても他人事ではない条例である。
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日経新聞 ネット選挙解禁議論についてのインタビュー記事

2013年03月25日 | 選挙制度
今朝の日本経済新聞「論点争点 メディアと人権・法」に、ネット選挙解禁議論についてのインタビュー記事が掲載されました。
「(論点争点 メディアと人権・法)ネット選挙解禁議論 湯浅墾道・情報セキュリティ大学院大教授に聞く 「落選運動」規制は疑問」です。

担当されたのは編集委員の田原和政さんですが、大変丁寧に取材していただいたので、法案の問題点にとどまらず、日本の公職選挙法が抱えている問題点(政治活動の名目で実態としては選挙運動が行われていること、選挙の公正の確保のために厳しい表現規制を行っていること、など)にも触れることができました。

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ネット選挙運動解禁 選挙管理委員会の役割

2013年03月21日 | 選挙制度
国会に提出されている公職選挙法改正案(ネット選挙運動解禁法案)のうち、与野党案で大きく異なる点として、選挙管理委員会の役割がある。

野党案では、第百四十二条の八として次のように都道府県選挙管理委員会のウェブサイト等による情報の提供を定めている。


第百四十二条の八 
衆議院議員、参議院議員又は都道府県知事の選挙においては、都道府県の選挙管理委員会は、次の各号に定める事項について、ウェブサイト等による情報の提供を行わなければならない。
 一 衆議院(小選挙区選出)議員、参議院(選挙区選出)議員又は都道府県知事の選挙にあつては、公職の候補者の氏名及び公職の候補者の申出に係る一のウェブサイト等のアドレス(その者の使用に係る自動公衆送信装置(著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第二条第一項第九号の五イに規定する自動公衆送信装置であつて公衆の用に供されている電気通信回線に接続しているものをいう。)のうちその用に供する部分をインターネットにおいて識別するための文字、番号、記号その他の符号又はこれらの結合であつて、情報の提供を受ける者がその使用に係る電子計算機に入力することによつて当該情報の内容を閲覧することができるものをいう。以下同じ。)
 二 衆議院(比例代表選出)議員の選挙にあつては、衆議院名簿届出政党等の名称及び衆議院名簿登載者の氏名並びにこれらの者の申出に係る一のウェブサイト等のアドレス(当該選挙と同時に行われる衆議院小選挙区選出議員の選挙における公職の候補者であるものに係るウェブサイト等のアドレスについては、前号の申出に係るウェブサイト等のアドレスと同一のものに限る。)
 三 参議院(比例代表選出)議員の選挙にあつては、参議院名簿届出政党等の名称及び参議院名簿登載者の氏名並びにこれらの者の申出に係る一のウェブサイト等のアドレス

2 都道府県の議会の議員又は市町村の議会の議員若しくは長の選挙においては、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会は、それぞれ、前項の規定に準じて、条例で定めるところにより、当該選挙の公職の候補者に係る事項について、ウェブサイト等による情報の提供を行うことができる。


この規定のポイントは個別にはいくつか挙げられるが、最大の問題点は、選挙管理委員会はどこまでインターネットを利用する選挙運動に対して対応しうるかという点であろう。
都道府県の選挙管理委員会は、実態としては事務局職員によって支えられているが、その組織は意外に弱体であり、選挙の時は他の部署から応援を受けるものの常勤で働いている職員の数は意外に少ない。
野党案では、国会議員選挙については、都道府県選挙管理委員会のホームページで、立候補者の氏名及びホームページのURL、名簿届けで政党の名称及びホームページURLを提供しなければならないとしている。
総務省はさきに平成24年3月29日付けで、「選挙公報の選挙管理委員会ホームページへの掲載に関する質疑応答集について」(平成24年3月29日総行選第8号)を通知し、選挙公報を選挙管理委員会のホームページに掲載することは可能であると説示すると同時に、国政選挙については「全国統一的に、選挙公報の発行主体である都道府県選挙管理委員会のホームページに掲載することとする。」とした。このことから、都道府県の選挙管理委員会はホームページを通じた情報提供を義務づけられることになったといえる。
今回の野党案では、さらに候補者や政党に関する情報の提供も選挙管理委員会自身が行うことになる。URLの入力ミスなど、選挙管理委員会関係者は「選挙の結果に影響を及ぼす虞れ」のある作業を選管が行わなければならないことには慎重な態度を取るのではないかとも予想される。

またこれまでも各地の選挙管理委員会では事前運動とみなされるおそれのある行為について指導・警告してきた。今回の解禁は、事前運動を解禁するわけではないから、依然としてインターネットを利用した事前運動は違法である。
しかし、インターネット上の情報は、ポスター等とは異なり、属地的に規制することが難しい。韓国では選挙管理委員会自らが取り締まりにあたり 、サイバー選挙不正監視団も設置されているが、わが国の場合、各地の選挙管理委員会が違法なインターネット選挙運動を常時監視することは可能であろうか。

選挙管理委員会の役割をめぐり、国会審議の行方が注目される。
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落選運動に対する規制

2013年03月19日 | 選挙制度
インターネット選挙運動を解禁する公職選挙法改正案が、与党と野党のそれぞれから議員立法で衆議院に提出された。
法案内容は、衆議院のホームページで見ることができる。
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm

インターネット選挙運動を解禁するのは喜ばしいことだが、法案の内容には疑問点もある。その一つが落選運動に対する規制に関する規定である。


与党案
(インターネット等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者の表示義務)

第百四十二条の五 選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、ウェブサイト等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、その者の電子メールアドレス等が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に正しく表示されるようにしなければならない。

2 選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、電子メールを利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、当該文書図画にその者の電子メールアドレス及び氏名又は名称を正しく表示しなければならない。

野党案
(インターネット等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者の表示義務)

第百四十二条の五 選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、ウェブサイト等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、その者の電子メールアドレス等が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に正しく表示されるようにしなければならない。

2 選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、ウェブサイト等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、その者の氏名又は名称が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に正しく表示されるように努めなければならない。

3 選挙の期日の公示又は告示の日からその選挙の当日までの間に、電子メールを利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布する者は、当該文書図画にその者の電子メールアドレス及び氏名又は名称を正しく表示しなければならない。


与野党案ともに、「ウェブサイト等を利用する方法により当選を得させないための活動に使用する文書図画を頒布」する場合は、電子メールアドレスの表示を義務づけている(1項)。野党案では、さらに「氏名又は名称が、当該文書図画に係る電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器の映像面に正しく表示される」ようにする努力義務を課している(野党案2項)。
また電子メールを利用して落選運動をする場合には、与野党案共に電子メールアドレス及び氏名又は名称の表示を義務づけている(与党案2項、野党案3項)。
与党案では2項、野党案では3項となる電子メールアドレス及び氏名又は名称の表示義務の違反について、罰則もある。選挙運動に関する各種制限違反に対して「二年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。」ことを定めている職選挙法243条を改正し、「二の三 第百四十二条の五第二項の規定に違反して同項に規定する事項を表示しなかつた者」(与党案)、「二の三 第百四十二条の五第三項の規定に違反して同項に規定する事項を表示しなかつた者」(野党案)を追加することとしている。

しかし、「当選を得させないための活動」である落選運動については、公職選挙法には明文規定がない。上述したように、電子メールを利用した落選運動の電子メールアドレス及び氏名又は名称の表示義務の違反に対しては、禁錮刑を含む重い罰則が科せられる可能性があるから、構成要件の明確化が求められる。このため、今後は「当選を得させないための活動」の範囲が問題になると思われる。

なお、本条に限らないが、「ウェブサイト等を利用する方法」と「電子メール」との違いも、必ずしも明確とはなっていない。G-mailやYahoo!メールをブラウザ上だけで送受信する場合は、前者に該当しないのか、という問題点も出てこよう。
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『Voters』12号

2013年03月18日 | 選挙制度
財団法人明るい選挙推進協会の情報誌『Voters』の12号は、「ソーシャルメディアを考える」特集です。
遠藤薫「ソーシャルメディアは政治・選挙を変えるか」、西田亮介「2012年衆院選に見るソーシャルメディアの可能性と課題」、前嶋和弘「アメリカ大統領選挙とソーシャルメディア」、逢坂 巌「ソーシャルメディアが変える政治とその限界」など、時宜を得た論考が掲載されています。
私は、「アメリカの大統領選挙 投票方法・期日前投票」を寄稿しています。
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第8回やまと国際交流フェスティバル

2013年03月17日 | 自治体
お隣の大和市の大和駅東側プロムナードで開かれた第8回やまと国際交流フェスティバルに行ってみました。



大和市は外国人住民が多いところで、外国人市民の割合は神奈川県内ではトップ3に入るところです。
フェスティバルの規模はあまり大きくはありませんでしたが、ステージのほか、韓国、タイ、バングラデシュ等のレストランが屋台出店し、賑わっていました。
一番人気はケバブで、2人の男性で大車輪でお店を回していましたが、お客の行列ができていました。





妻と二人でカフカス ケバブの「ケバブ」、イタリア料理「湘南珈琲工場」のトリッパ、タイレストラン「リナ」のパッタイ(焼きそば)、ラオス・タイ料理の「パカーラン」のトムヤンクン麺を食べて、満腹になりました。







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情報セキュリティ大学院大学入試F日程のお知らせ

2013年03月13日 | 情報法
情報セキュリティ大学院大学では、下記の通り、2013年4月入学試験(F日程)を実施します。
まだ進路に悩んでいる方など、出願をご検討ください。

※出願書類などは、ホームページからダウンロードできます。

出願期間 2013年3月14日(木)~2013年3月21日(木)【必着】
試験日  2013年3月25日(月)
合格発表 2013年3月26日(火)

詳細については、下記をご覧ください。
http://www.iisec.ac.jp/admissions/application/application2013_04_2.html

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