兵庫県小野市で、福祉給付制度適正化条例が市議会で可決され、成立した。生活保護の受給者が不正受給をしたことを発見したり、ギャンブルににお金をつぎこんで生活の維持に影響が出ていると判断したりした場合、市民は市に通報する責務を定めた条例である。
http://www.ono-sigikai.jp/?id=283
この条例では、個人情報の保護については、下記のように規定している。
(個人情報に関する取扱い)
第9条 市は、この条例の施行に当たっては、知り得た個人情報の保護及び取扱いに万全を期するものとし、当該個人情報を業務の遂行以外に用いてはならない。
2 偽りその他不正な手段による受給等に係る情報等の通告、通報、相談等に関係したすべての者は、正当な理由なく、その際に知り得た個人情報を他人に漏らしてはならない。
ところで、この条例の眼目は、市民及び地域社会の構成員の責務(第5条)にあり、次のように規定されている。
(市民及び地域社会の構成員の責務)
第5条 市民及び地域社会の構成員は、生活保護制度、児童扶養手当制度その他福祉制度が適正に運用されるよう、市及び関係機関の調査、指導等の業務に積極的に協力するものとする。
2 市民及び地域社会の構成員は、地域活動で得た人と人とのつながりを活かし、相互に助け合い協力して、要保護者(生活保護法第6条第2項に規定する者をいう。)を発見した場合は速やかに市又は民生委員(民生委員法(昭和23年法律第198号)の規定により厚生労働大臣の委嘱を受けた者をいう。)にその情報を提供するものとする。
3 市民及び地域社会の構成員は、受給者に係る偽りその他不正な手段による受給に関する疑い又は給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるときは、速やかに市にその情報を提供するものとする。
第5条1項、2項及び3項の違反についての罰則規定はないので、努力義務にとどまっているが、責務とされていることには変わりない。
ところで、市民の側からみると、「受給者に係る偽りその他不正な手段による受給に関する疑い又は給付された金銭を(中略)遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるとき」は、「速やかに市にその情報を提供する」責務が生じるわけである。しかし、受給者が給付されたお金をギャンブルに費消していると認めるには、そもそも誰が受給者であるのかを知らなければ、「認め」ようがない。したがって市への情報提供のしようもないであろう。
そうであるとすれば、市民は当該責務を果たすためには、誰が受給者であるのかを知る必要があるので、市に対して給付者が誰であるのかに関する情報の提供又は情報の公開、あるいはギャンブルに浪費していると認められる者が給付者であるのかどうかについての情報の提供又は情報の公開を求めることができるのか、という疑問が生じる。逆にいえば、市は、市民が第5条に定める責務を果たすためとして、受給者に係る個人情報の公表又は提供を行うことができるのであろうか。
この点につき、小野市個人情報保護条例は次のように定めている。
(利用及び提供の制限)
第8条 実施機関は、個人情報取扱事務の目的以外の目的で個人情報を当該実施機関内部若しくは実施機関相互間で利用し、又は実施機関以外のものに提供してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
(1) 本人の同意があるとき又は本人に提供するとき。
(2) 法令等の規定に基づくとき。
(3) 出版、報道等により公にされているとき。
(4) 個人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
(5) 専ら学術研究若しくは統計の作成のために利用し、又は提供する場合であって、本人の権利利益を不当に侵害することがないと認められるとき。
(6) 前各号に掲げるもののほか、個人情報取扱事務の目的以外の目的のために当該個人情報を利用し、又は提供することに公益上相当の理由があり、かつ、本人の権利利益を不当に侵害することがないと認められるとき。
今回、小野市において制定された福祉給付制度適正化条例では、受給者が「生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こ」すことを防止するためわざわざ市民への通報の責務を課しているのであり、その目的は受給者の生活の維持・安定向上を図るためのものであることは明らかである。したがって、個人情報保護条例第8条第4号に基づいて市民に個人情報の提供を行うことは可能と解するのであろうか。
あるいは、福祉給付制度適正化条例本体には受給者等に係る個人情報の提供に関する規定は存在しないが、上述したとおり、誰が給付を受けているのかを知らなければ市民は福祉給付制度適正化条例に定める責務を果たすことができないのであるから、個人情報保護条例第8条第2号の「法令等の規定に基づくとき」として市民に個人情報の提供を行うことは可能と解するのであろうか。
なお、福祉給付制度適正化条例における「市民」の中には、「一時的に市内に滞在する者」も含まれる(2条)。したがって出張で小野市に泊まっているような場合であっても、この責務は課せられることにある。私たちにとっても他人事ではない条例である。
http://www.ono-sigikai.jp/?id=283
この条例では、個人情報の保護については、下記のように規定している。
(個人情報に関する取扱い)
第9条 市は、この条例の施行に当たっては、知り得た個人情報の保護及び取扱いに万全を期するものとし、当該個人情報を業務の遂行以外に用いてはならない。
2 偽りその他不正な手段による受給等に係る情報等の通告、通報、相談等に関係したすべての者は、正当な理由なく、その際に知り得た個人情報を他人に漏らしてはならない。
ところで、この条例の眼目は、市民及び地域社会の構成員の責務(第5条)にあり、次のように規定されている。
(市民及び地域社会の構成員の責務)
第5条 市民及び地域社会の構成員は、生活保護制度、児童扶養手当制度その他福祉制度が適正に運用されるよう、市及び関係機関の調査、指導等の業務に積極的に協力するものとする。
2 市民及び地域社会の構成員は、地域活動で得た人と人とのつながりを活かし、相互に助け合い協力して、要保護者(生活保護法第6条第2項に規定する者をいう。)を発見した場合は速やかに市又は民生委員(民生委員法(昭和23年法律第198号)の規定により厚生労働大臣の委嘱を受けた者をいう。)にその情報を提供するものとする。
3 市民及び地域社会の構成員は、受給者に係る偽りその他不正な手段による受給に関する疑い又は給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるときは、速やかに市にその情報を提供するものとする。
第5条1項、2項及び3項の違反についての罰則規定はないので、努力義務にとどまっているが、責務とされていることには変わりない。
ところで、市民の側からみると、「受給者に係る偽りその他不正な手段による受給に関する疑い又は給付された金銭を(中略)遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるとき」は、「速やかに市にその情報を提供する」責務が生じるわけである。しかし、受給者が給付されたお金をギャンブルに費消していると認めるには、そもそも誰が受給者であるのかを知らなければ、「認め」ようがない。したがって市への情報提供のしようもないであろう。
そうであるとすれば、市民は当該責務を果たすためには、誰が受給者であるのかを知る必要があるので、市に対して給付者が誰であるのかに関する情報の提供又は情報の公開、あるいはギャンブルに浪費していると認められる者が給付者であるのかどうかについての情報の提供又は情報の公開を求めることができるのか、という疑問が生じる。逆にいえば、市は、市民が第5条に定める責務を果たすためとして、受給者に係る個人情報の公表又は提供を行うことができるのであろうか。
この点につき、小野市個人情報保護条例は次のように定めている。
(利用及び提供の制限)
第8条 実施機関は、個人情報取扱事務の目的以外の目的で個人情報を当該実施機関内部若しくは実施機関相互間で利用し、又は実施機関以外のものに提供してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
(1) 本人の同意があるとき又は本人に提供するとき。
(2) 法令等の規定に基づくとき。
(3) 出版、報道等により公にされているとき。
(4) 個人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
(5) 専ら学術研究若しくは統計の作成のために利用し、又は提供する場合であって、本人の権利利益を不当に侵害することがないと認められるとき。
(6) 前各号に掲げるもののほか、個人情報取扱事務の目的以外の目的のために当該個人情報を利用し、又は提供することに公益上相当の理由があり、かつ、本人の権利利益を不当に侵害することがないと認められるとき。
今回、小野市において制定された福祉給付制度適正化条例では、受給者が「生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こ」すことを防止するためわざわざ市民への通報の責務を課しているのであり、その目的は受給者の生活の維持・安定向上を図るためのものであることは明らかである。したがって、個人情報保護条例第8条第4号に基づいて市民に個人情報の提供を行うことは可能と解するのであろうか。
あるいは、福祉給付制度適正化条例本体には受給者等に係る個人情報の提供に関する規定は存在しないが、上述したとおり、誰が給付を受けているのかを知らなければ市民は福祉給付制度適正化条例に定める責務を果たすことができないのであるから、個人情報保護条例第8条第2号の「法令等の規定に基づくとき」として市民に個人情報の提供を行うことは可能と解するのであろうか。
なお、福祉給付制度適正化条例における「市民」の中には、「一時的に市内に滞在する者」も含まれる(2条)。したがって出張で小野市に泊まっているような場合であっても、この責務は課せられることにある。私たちにとっても他人事ではない条例である。