Harumichi Yuasa's Blog

明治大学専門職大学院ガバナンス研究科(公共政策大学院)教授・湯淺墾道のウェブサイトです

ビットコイン アメリカ連邦地裁訴訟の訴状

2014年03月03日 | 情報法
仮想通貨「ビットコイン」の最大の取引所であった「マウントゴックス」の経営破綻について、イリノイ州に住んでいるアメリカの取引客が損害賠償を求めて提訴したというニュースが報じられている。
また、東京地裁にも提訴したというニュースもある。
http://www.47news.jp/FN/201403/FN2014030301002298.html

アメリカの訴訟については、訴状がアップロードされているので、ざっとその中身を読んでみた。
http://www.suntimes.com/csp/cms/sites/STM/dt.common.streams.StreamServer.cls?STREAMOID=6FtWkL9YOHLq3W6fKlBpr$mzW19eG2zXSHjDZtQP9g86u1ZqYNWkSnf3pWMjuvq1jMpqdV2Mso4mH6beQ6T6p6cn$IfHvVpaPD23r0DuAcZaTfjnUETyN4ze2Kxdkdy8&CONTENTTYPE=application/pdf&CONTENTDISPOSITION=mtgox-CST-030114.pdf

以下は、訴状を読みながら作成した私のメモなので、正確さを欠くところもあると思うが、ご参考になればと思ってアップロードする。

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北部イリノイ州東部地区連邦地方裁判所

クラス・アクションの訴え及び陪審審理の求め

原告Gregory Greeneは、本件のクラス・アクションの訴え及び陪審審理の求めを、被告デラウェア州企業であるMtGox社、日本企業である株式会社Mt. Gox(マウントゴックス)、日本企業である株式会社TIBANNE(ティバン)及びMark Karpeles(以下、「マウントゴックス等」。)に対し、被告がユーザーの財産を意図的及び組織的に誤用及び誤充当したことを理由として提起する。

○行為の性質

1~5
ビットコインとは何かの説明。
2 「ビットコインは2009年初頭に創設されたデジタル通貨である。既存の伝統的な通貨とは異なり、ビットコインは政府からの発行や中央政府による規制を受けない。ビットコインのコインは専用のハードウェア及びソフトウェアによって何人によっても生成されることが可能であり、私企業(株式会社Mt. Goxのようなビットコイン取引所)を介してインターネット上で他の消費者に売却されることも可能である。
2014年2月、マウントゴックス等は「コンピュータ・バグ」によって取引を停止するとしたが、実際には数年間にわたってセキュリティ侵害を受けていたこと、マウントゴックス等はユーザーに対してユーザーの支払った額に相応するセキュリティ保護を提供することを意図的に怠ったこと、突然の市場閉鎖によりユーザーのビットコインは数百万ドルの損失を被ったことの説明。
5 (中略)「原告のグリーンは、マウントゴックス等に保存していたビットコインとキー(パスワード)を所有していた者であり、マウントゴックス等はその行為の結果、通貨を喪失した。ゆえにグリーンは本人及び他の同様の状況にある者を代表して訴訟を提起し、マウントゴックス等の虚偽的及び違法行為に対して金銭的救済及びエクイティ上の救済を求める。」

○当事者

6~12
6 「原告グレゴリー・グリーンは、イリノイ州の住民である自然人である。」
7 「被告MtGox社はデラウエア州法上の企業であり、その主たる活動場所は日本国東京都渋谷区桜丘町26-1 セルリアンタワー15階にある。(中略)MtGox社は、連邦財務省のFinancial Crimes Enforcement Network(金融犯罪取締 ネットワーク) に番号31000029348132として登録されている。加えて、イリノイ州においてマネーサービスビジネス(MSB)を行う者として登録されている。
 デラウェア州企業であるMtGox社、日本企業である株式会社Mt. Gox(マウントゴックス)、日本企業である株式会社TIBANNE(ティバン)及びCEOのマルク・カルプレス氏との関係についての説明。マルク・カルプレス氏は3社のCEOかつ単独株主であり、3社の行為にすべて責任を負うものであって、3社の活動は一体不可分であることの説明。
 
○管轄権及び裁判地

13~15
13 「当裁判所[北部イリノイ州東部地区連邦地方裁判所]は、連邦民事訴訟法28 U.S. Code § 13329(d)(2)の規定に基づく管轄権を有する。その理由は、(i)100人以上から構成されるクラスの少なくとも1人のメンバーが、被告とは異なる州の住民であること、(ii)訴訟額が訴訟費用を除いても5,000,000ドルをこえること、(iii)本件訴訟に対して適用される本条の例外は存在しないこと、である。」
14 「当裁判所は、被告らに対する人的裁判管轄権を有する。その理由は、被告らの行為は本地区において行われており、訴えの中で主張されている違法行為は、本地区において、対して、または本地区から発出されたものであるか、本地区において、対して、及び本地区から発出されたものであるためである。

○事実関係

I. ビットコイン市場の概要
16~17 
 ビットコインの取引についての簡単な説明。

II. 株式会社Mt. Goxの取引
18~23
 マウントゴックス等は全世界の80%以上のシェアを占めるビットコイン取引所を運営していると称していたこと、ユーザーのビットコイン取引の方法(ユーザー登録の方法等)についての説明。
20 「ひとたび登録手続が完了すると、ユーザーは株式会社Mt. Goxのオンライン取引プラットフォームを用いてビットコインの取引を開始することができる。」
21 「マウントゴックス等は、ユーザーにビットコインを安全に保管するためにヴァーチャル上の金庫(vault)にセキュアに貯えておく権能を付与している。」
22 「消費者がアカウントを登録する際に、マウントゴックス等は、そのウェブサイトは"常にオン"であるので、ユーザーは世界で最も洗練されたプラットフォーム上で365日24時間ビットコインを売買できる、と明確に約束し、宣伝している。」
23 「消費者にとっては不幸なことに、マウントゴックス等はこれらの約束を履行することを怠った。」

III. マウントゴックス等による通知なしのユーザーアカウントの凍結、ウェブサイトのシャットダウン
24~28
24 「2014年2月初頭、マウントゴックス等はビットコインのネットワークにおける「バグ」または「技術的な誤動作」の調査を理由として、ユーザーがマウントゴックス等のウェブサイトから通貨を引き出す手段をすべて停止した。しかし、依然としてユーザーにはビットコインの取引を許容していた。」
25 「驚くには足らないが、市場はこのニュースに敏感に反応し、ビットコインの価格は急落した。不幸なことに、引き出しが停止されたために、原告やクラスのメンバー等のマウントゴックス等ユーザーは、価格が下落したにもかかわらず資金を引き揚げることができなかった。ユーザーはこの期間中に取引を行うことは可能であったが、その取引の結果生じた金銭はマウントゴックス等の手中にあって、結局、マウントゴックス等が完全にシャットダウンしたために全くアクセスすることができないようになったのである。」
26 「この期間中、マウントゴックス等がユーザーのアカウントを凍結状態にしたためにユーザーがビットコインを回収することができなかったという事実は措くとしても、マウントゴックス等に帰属する残余の者(CEOであるマルク・カルプレスを含む)は、突然姿を消し始めた。特に、2014年2月23日前後、マウントゴックス等のソーシャル・メディア・ウェブページはオフラインとなり、そのウェブサイトはシャットダウンし、カルプレスはビットコインの主導者であるビットコイン・ファウンデーションの理事を退任した。」
 カルプレスCEOは、セキュリティ侵害があったことを了知していたのに数年間にわたってそれをユーザーに通知せず、突然マウントゴックスの運営を停止したことにより、ユーザーが預けていた最大744,000枚のビットコインを喪失させ、ユーザのビットコインや不換通貨の数百万ドル相当額を個人の懐に入れることになったという説明。
 
IV. 原告グレゴリー・グリーンに関する事実
29~36
 原告の取引の状況、引き出しが停止されたために資金を引き揚げることができず、損害を被ったという説明。
36 「少なくとも、マウントゴックス等がシャットダウンした時点で、グリーンは現在の価値で25,000ドル相当のビットコインを貯めておき保護するというマウントゴックス等のサービスを利用していた。2014年2月初頭、グリーンは繰り返してマウントゴックス等からその資金を引き出そうとしたが成功しなかった。2014年2月7日以前、原告のビットコインは、マウントゴックス等が引き出しを禁じて突然シャットダウンし、疑いの余地なくビットコンの市場価値を大幅に下落させた後よりも、倍近い市場価値を有していた。

○クラスに関する主張

37~43
 本件訴訟が、連邦民事訴訟規則で定められているクラス・アクションの要件を充足するという主張。
 クラスは、マウントゴックス等に購入、売却その他の取引のために支払を行ったアメリカ合衆国内のすべての人からなるクラス(支払クラス)と、2014年2月7日にビットコイン又は不換通貨を預けていたため凍結されてしまったアメリカ合衆国内ののすべての人からなるクラス(凍結クラス)の2種類。
 
○訴因第1
消費者詐欺

44~61
マウントゴックス等は、いつでも売買等のビットコイン取引が可能であると宣伝してユーザーを獲得していたにもかかわらず、突然引き出しを停止し、サービスをシャットダウンした。また業界水準として必要とされるセキュリティ対策を数年間にわたって取らなかった。マウントゴックス等の行為は違法で欺瞞的であり、原告らは支払いに見合うサービスを受けられず、経済的な損害を受けたという主張。
60 「要約すれば、マウントゴックス等の欺瞞的、違法、かつ不公正な行為は、原告及び[支払]クラスに経済的損害を与えた。(中略)同様に、原告と凍結クラスは失われたビットコインと不換通貨を回収することができず、マウントゴックス等の欺瞞的、違法、かつ不公正な行為によってビットコインを売却することができなくなったため、保有するビットコインの大きな価値を失った。」
61 「ゆえに、原告らは、(i)マウントゴックス等に不公正かつ欺瞞的な行為の継続を暫定的かつ恒久的に禁止する命令、(ii)マウントゴックス等に不正に得た金銭を完全に返還することを命じることを求め、原告及びクラスに対する訴訟費用と合理的な弁護人費用、懲罰的損害賠償の支払いを命ずることを求める。」

○訴因第2
勧誘における虚偽表示

62~70
マウントゴックス等は、いつでもビットコインや不換通貨を引き出せるとして顧客を勧誘していたことは違法であり、特に引き出しを停止した期間中も、引き出しの停止は一時的なものであるとして取引自体は継続して取引料金を徴収していたことは、違法であり虚偽表示にあたるほか、原告らはそれによって経済的な損害を受けたという主張。
70 「「ゆえに、原告らは、(i)マウントゴックス等に不公正かつ欺瞞的な行為の継続を暫定的かつ恒久的に禁止する命令、(ii)マウントゴックス等に損害賠償と不正に得、課金、または保持している金銭を完全に返還するように命じることを求め、原告及びクラスに対して訴訟費用と懲罰的損害賠償の支払いを命ずることを求める。」

○訴因第3
過失

71~78
マウントゴックス等は、ビットコインや不換通貨を盗まれたり不正にアクセスされたりしないようにする注意義務があったにもかかわらず、それを怠ったという主張。
セキュリティ侵害、不正アクセス、アカウント凍結、特に不十分なデータマネジメントとセキュリティシステムによって、原告らは損害を被った。
78 「ゆえに原告は、訴訟費用に加えて、マウントゴックス等に法廷で証明される額の損害賠償の支払いを命ずることを求める。」

○訴因第4
信認義務違反

79~83
マウントゴックス等は、ユーザーが預けているビットコインや不換通貨を盗まれたり不正にアクセスされたりしないようにする信認義務があり、それに違反したという主張。
79 「「ゆえに、原告らは、(i)マウントゴックス等に不公正かつ欺瞞的な行為の継続を暫定的かつ恒久的に禁止する命令、(ii)マウントゴックス等に不正に得、課金、または保持している金銭を完全に返還するように命じることを求め、原告及びクラスに対して原告及びクラスに対する訴訟費用と合理的な弁護人費用、懲罰的損害賠償の支払いを命ずることを求める。」

○訴因第5
契約違反

84~94
マウントゴックス等は、ユーザーとの間の契約に違反したという主張。マウントゴックス等は契約時にうたった義務を履行せず、善管義務にも違反している。
94 「「ゆえに、原告らは、(i)マウントゴックス等に不公正かつ欺瞞的な行為の継続を暫定的かつ恒久的に禁止する命令を発出し、(ii)マウントゴックス等に法廷で証明される額の損害賠償と、訴訟費用と合理的な弁護人費用の支払いを命ずることを求める。」

○訴因第6
返還

95~106
裁判所が、原告らユーザーとマウントゴックス等との間の契約を無効または履行不能なものと判断してしまうと、ユーザーは法的な救済を受けられないことになり、ユーザーはマウントゴックス等に対して取引手数料の支払い等を行ってきた以上、アカウントが凍結されたユーザーに対して、マウントゴックス等はアカウント凍結によって得られた不正利得を返還する義務があるという主張。

○訴因第7
暫定的インジャンクション

107~115
マウントゴックス等がアカウントを凍結したことにより、ユーザーはビットコインや不換通貨の引き出しや売却ができなくなり大きな損害を被ったこと、ビットコインや不換通貨の引き出しや売却ができなくなったことについて十分な法的保護を受けられないこと、マウントゴックス等が資産を隠匿したり記録を堙滅したりする恐れがあると報道されていることから、マウントゴックス等が原告と凍結クラスのユーザーに対するビットコインと通貨へのアクセス凍結を継続しないように暫定的に命じると共に、アカウント凍結によって得られた不正利得を返還するように命ずることを求めるという主張。

○訴因第8
恒久的インジャンクション

116~124
訴因第7とほぼ同じ。

○訴因第9
動産への不法侵入

125~131
127 「原告と凍結クラスの原告のビットコイン及び不換通貨は、法的保護を受ける財産権的利益(property interests)である。」
マウントゴックス等がユーザーの同意なく一方的にアカウントを凍結したことは、意図的か、そうでないかと問わず、原告と凍結クラスの原告の財産権的利益に対する侵害であり、凍結を直ちに解除するようにマウントゴックス等に命じると共に、アカウント凍結によって得られた不正利得を返還するように命ずることを求めるという主張。

○訴因第10
横領

132~138
134 「原告と凍結クラスの原告のビットコイン及び不換通貨は、法的保護を受ける財産権的利益(property interests)である。」
マウントゴックス等がユーザーの同意なく一方的にアカウントを凍結したことは、財産の横領にあたるので、凍結を直ちに解除するようにマウントゴックス等に命じると共に、アカウント凍結によって得られた不正利得を返還するように命ずることを求めるという主張。

○訴因第11
収支計算

139~144
マウントゴックス等がユーザーの同意なく一方的にアカウントを凍結し、ユーザーは自己の取引記録等に全くアクセスできない状態となっているので、原告と凍結クラスのユーザーに対し、ビットコインまたは不換通貨の購入、売却、交換、凍結、支払、盗難または散逸に係るすべてかつ完全な収支計算に応じるようマウントゴックス等に命ずることを求める主張。

○訴因第12
擬制信託

145~154
マウントゴックス等が現在保持しているが本来は原告と凍結クラスのユーザーに属するビットコイン及び不換通貨について擬制信託を設定すること、原告と凍結クラスのユーザーに属するビットコイン及び不換通貨の返還を目的とし、マウントゴックス等を被信託人として指名すること、訴訟費用の支払いをそれぞれ命ずることを求めるという主張。
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