九州国際大学におけるかつての同僚であり、現在は
熊本大学法学部に勤務されている
岡田行雄教授が、
『少年司法における科学主義』を上梓された。
筆者の岡田教授は、聖カタリナ女子大学(現・聖カタリナ大学)在任中から、家裁調査官をはじめとする少年司法の関係者と非常に密接なネットワークを構築し、そこから得られた知見は本書の随所に活かされている。
その一つは、本書第1章「科学主義の理念とその危機」であり、調査官をめぐる状況変化と社会調査(ここでいう社会調査とは、一般的な社会調査とは異なる)の変化については、調査官に対するアンケート調査の結果に基づいた「現場」からの声を土台とする考察が加えられている。アンケート調査にあたっては全司法労働組合の協力が得られたそうであるが、岡田教授の常日頃からの関係者との緊密な関係があってはじめてアンケートへの協力が得られたと言っても過言ではないと思われる。
その一方で、せっかくのアンケート結果の分析については、やや物足りない感もうける。
この種のアンケート調査は回答数も限られ、有効回答率を高めることは至難の業である。統計学的な有意性を追求することはそもそも不可能に近いと言ってもよいが、各設問に対する「無回答」がかなりの程度存在するのが気になるところである。数次にわたる法改正の結果、社会調査その他に対して変化が生じたかという問いに対して、ほとんどの設問で「生じた」「生じない」に対する回答数よりも無回答数のほうが上回っている。回答選択肢が「あった」「なかった」という二者選択であったようなので、「わからない」「どちらともいえない」と回答したかった調査官が、無回答を選択したものと思われる。
この点に関して、「わからない」「どちらともいえない」と回答したかったのは、どのような調査官なのかを、調査官の属性(採用時期、担当歴等)とクロスで分析すれば、新たな知見が得られたのではないだろうか。これは、各設問の回答状況と、各設問の回答間のクロスについても同様である。
本書の随所で、『再非行少年を見捨てるな ~ 試験観察からの再生を』の共著者らしく、再非行少年へのステレオタイプを排し試験観察の意義を評価すると共に、事案処理の迅速化、個々の調査官の専門家としての判断の余地縮小、他機関との連携という名の下の画一的処理を求めようとする最高裁の姿勢に対する厳しい批判がみられる。これらの批判は、岡田教授が上述のネットワークを背景とした現場の実情を踏まえた議論を展開しているだけに、説得力を持つものとなっている。
内容は、まさに少年司法における科学主義という「これまで正面から取り上げられ、深く検討されてきたわけではな」かったテーマを学術的に扱うものであり、門外漢の私にはとうてい批評の任は務めうるべくもないので、一読した感想を若干述べさせていただいた。