goo blog サービス終了のお知らせ 

おとらのブログ

観たもの、見たもの、読んだもの、食べたものについて、ウダウダ、ツラツラ、ヘラヘラ書き綴っています。

お茶の味

2020-07-20 23:24:29 | 読んだもの
 
 京都の一保堂の社長の奥様、渡辺都さんの「お茶の味」を読みました。いろいろな媒体に書かれたエッセイと単行本のための書き下ろしからなっています。

 内容紹介です。
 ゆったりと流れる時間、その時々で変化する風味、茶葉が持つ本来の美味しさ――お湯を沸かし、急須で淹れてこそ感じられるお茶の味わいがあります。江戸時代半ばから京都に店を構える老舗茶舗「一保堂」に嫁いで知った、代々が受け継ぎ伝えてきた知恵と経験、家族のこと、お店のいまと未来、出会いと発見に満ちた京都生活。お茶とともにある豊かな暮らしを綴った、心あたたまるエッセイ。

 平成27年に大きい本で出版され、今年文庫になりました。結構、好評だったってことなんでしょうね。それ、わかります。どこがどうとうまく言えませんが、本の中にはふわりと心安らぐ時間が流れていました。

 お茶を売っていらっしゃるので、美味しいお茶の淹れ方やちょっとした工夫はもちろんですが、お茶にまつわるあれこれが出てきます。例えば、夏場に飲む冷たい「グリーンティ」というのも一保堂さんが始められたそうです。お抹茶にグラニュー糖が入っていて、それを冷水で混ぜるものです。甘いものを控えている人には、お抹茶を一度茶こしで濾してから冷水を注いで茶筅を振ればノンシュガーのグリーンティができるそうです。

 そして、寺町二条のあの古い佇まいのお店でこじんまりとこつこつと家業に勤しんでいらっしゃる日常も描かれています。実際は、各地の百貨店に店舗があって、大きな“企業”になってるんですが、こちらのエッセイでは不思議と“企業”って感じがしないんです。

 美味しいお茶を淹れるためには、お茶葉はケチってはいけません。大匙でたっぷり2杯、紙パックとか急須の籠?とかは使わず、急須の中でお茶葉が十分に泳ぐようにしないといけないそうです。イマドキは急須のないお家もあるそうで、お茶と言えばペットボトル、あるいは日本茶を飲まない、そんな人が増えているそうです。ごはんには日本茶ですよね。食事の時は何を飲んでいらっしゃるんでしょうか。

 とエラそうに書いていますが、わが家も食事用の玄米茶のお茶葉があるのみです。お煎茶も抹茶も買い置きはありません。一人暮らしで会社勤めなので、いろいろなお茶を飲むタイミングがありません。お茶葉って100グラム単位で売ってはいますが(以前は1キロとか500グラムだったそうです。それを一保堂の先代の社長が200グラム袋とか100グラム袋とかで販売されるようになったそうです)、なかなかそれを短期間で消費できるものではありません。美味しい和菓子を買ってきたときなど、美味しいお煎茶を飲みたいなぁと思うのですが。

 父がお茶好きで、お煎茶を淹れてくれていました。お湯を冷ますために待って、十分お茶葉が開くのを待って、ようやくお茶碗に注がれたお茶は「え、こんだけ?」という量でした。一応、まだお煎茶用の急須や湯冷まし、お茶碗はあるので、淹れようと思えばできるのですが。でも、たぶん、1回か2回で終わりになりそうで…。湿気たお茶は炒ってほうじ茶にしたらいいそうですが。←「贈答でもらった上等なお茶を勿体ないと奥にしまい込んで、2年ぐらいして発見した」というお客さんからこういう質問がよくあるそうです。お茶葉もやはり生ものなので、できるだけ早く飲んでくださいと書いていらっしゃいました。

 毎日飲んでる日本茶、ペットボトルに駆逐されないように、頑張って飲もうと思いました。玄米茶ですが、ワタシが美味しいと思うのは一保堂か上林春松本店です。一保堂は大阪でも買えるのですが、上林春松本店は京都に行かないといけないのが難点です。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本美術の底力「縄文×弥生」で解き明かす

2020-07-19 16:52:53 | 読んだもの
 
 山下裕二さんの「日本美術の底力『縄文×弥生』で解き明かす」を読みました。

 出版社の紹介文です。
 
縄文・弥生から現代まで――これが「ジャパン・オリジナル」の想像力だ!
 過剰で派手な「縄文」と簡潔で優雅な「弥生」。2つの軸で古代から現代までの日本美術を軽やかに一気読み! なぜ独創的な絵師が美術史から締め出されたのか? 雪舟、等伯、若冲らは何がすごいのか? 日本的想像力の源流とは? 国宝、重文を含む傑作61点をオールカラーで掲載した、著者初の新書!

 新聞の書評を見て買った本です。日本美術を「縄文」系と「弥生」系と分けて解説してある本という非常にざっくりとした印象だけで手に取りました。大学の美術史の先生ですので、もう少し、ちゃんと解説してくださっています。ただ、もともとは「縄文」推しのようで、そちらに結構肩入れされている感じではありましたが。

 2年前に東博で「縄文」展があって、それを見に行ってたので、縄文とか弥生とか取り上げられ方にそんなに差があるとは全然思っていなかったのですが、これを読むと、縄文vs弥生って、動と静、饒舌と寡黙、飾りの美と余白の美になぞらえられ、弥生の方が有難い、美しい、洗練されているととらえられてきたそうです。だから、東博の「縄文」展は縄文推しにとっては、悲願?、ようやくここまで・・・という感慨深いものがあったそうです。そんなこととはつゆ知らず、国宝が6点出ているからという理由だけで行ったのですが、もうちょっと早く言ってくれたらよかったのに、と思いました。

 本の中で「縄文」系「弥生」系の作品紹介が続きます。「縄文」が派手とかデコラティブとかそういう系で、若冲はこちらに入っていました。等伯は「楓図」は縄文、「松林図屏風」は弥生でした。いっぱい色が使われていたら縄文って括りになるんでしょうか。スミマセン、浅い理解で…。

 日本橋の三越本店にある「天女(まごころ)像」が「縄文」系として紹介してありました。作者は佐藤玄々、三越百貨店創立50周年を記念して作られたモニュメントで、当初の予定では制作期間2年、高さ6メートルの作品になるはずだったのが、高さは2倍に、制作期間は10年を費やしたそうです。一人で作り上げたのではなく、延べ10万人の職人の手を借りて完成させたそうです。台座にはその10万人の名前が刻まれているそうです。佐藤玄々渾身の作品だったそうですが、完成当時は悪趣味とか言われて美術界では完全に無視されていたそうです。確かに、ワタシも初めて三越の本店に行ったときは、びっくりしましたもの…。「なぜここに?」と思いました。今度行ったら、ちゃんと心して見ようと思います。

 あと、「縄文」系に登場する作品って不気味?ドロドロしてる?夢でうなされそうな画調が多かったような…。岸田劉生の「麗子像」とか、甲斐庄楠音の「春宵(花びら)」とか、岸田劉生がいう“デロリ感”満載の絵です。どちらも実物を見たことがありますが、コワイです。夜寝られなくなります。でも、目が離せなくなる絵です。

 芸術家・岡本太郎が縄文推しの第一人者だそうで、そういわれれば、万博の「太陽の塔」もそんな感じです。本の中で土偶の「仮面の女神」と「太陽の塔」が並べてあって、「あ、これを見てインスピレーションを受けたのね」と思ったら、「仮面の女神」は2000年に発掘され、岡本太郎が亡くなった後だったそうで、彼はこれを見たことはありません。そういえば、東博の「縄文」展を見に行ったときに、岡本太郎の言葉みたいな展示もあったのですが、ちゃんと見なかったですね。もうちょっと早く言ってくれたらよかったのに、と思いました(2回目)。

 美術史の教科書ではお目にかからないような作品が多く、それが全てカラーで紹介してあったので、見ているだけで面白い本でした。縄文vs弥生っていうのも初めて見る視点で、そう簡単に割切れないと思いつつ、興味深く読みました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

つかこうへい正伝1968-1982

2020-07-14 23:33:37 | 読んだもの

 長谷川康夫さんの「つかこうへい正伝1968-1982」を読みました。文庫で800ページある大作です。最近、こんな分厚い本を読んでいないので、本屋さんで手に取ったものの、一瞬怯みましたが、なぜか「読まなあかんわ」と思い、お買い上げです。

 内容紹介です。
 70年代から80年代初めにかけて、『熱海殺人事件』『蒲田行進曲』など数々の名作を生み出した天才演出家つかこうへい。だが、その真の姿が伝えられたことはなかった――。つかの黄金期に行動を共にした著者が、風間杜夫ら俳優、および関係者を徹底取材。怒濤の台詞が響き渡る“口立て”稽古、当時の若者の心をわしづかみにした伝説の舞台、つかの実像を鮮やかに描き出す唯一無二の評伝!

 著者の長谷川康夫さんは早稲田大学の劇団「暫」に入団後、つかこうへいと出会い、その後「いつも心に太陽を」「広島に原爆を落とす日」「初級革命講座飛龍伝」「蒲田行進曲」など一連のつか作品に出演。1982年の「劇団つかこうへい事務所」解散までご一緒されていた方です。解散後は劇作家、演出家として活躍されています。ワタシの知らない人やねぇと思っていたら、グループる・ばるのお芝居をいくつか作・演出されているので、ひょっとしたら見ているかもしれません。

 表紙の「つかこうへい正伝」だけ見て、てっきり生まれてからお亡くなりになるまでの伝記だと思っていたら、その後ろに「1968-1982」とあって、この年代って「つかこうへいが最もつかこうへいらしかった時代」だそうです。1982年は「蒲田行進曲」で直木賞を受賞、劇団つかこうへい事務所を人気の絶頂で解散しています。

 ワタシ、その時代は全く知らないんですよね。何度か書いておりますが、高校時代は演劇部でしたが、生の舞台といえば、文学座を数回見た程度、大学に入ってはじめて「つかこうへい」という名前を知りました。それも、つかこうへい事務所ではなく、そとばこまちの「熱海殺人事件」が初・つかこうへいでした。79年大学入学なので、劇団つかこうへい事務所を見る機会はたぶんあったと思うのですが、今ほど熱心にアンテナを張ってたわけでもなく、全盛期の“つかこうへい”は経験してないんですよね。

 というわけで、この本を読んでも、「つかさんと同時代を生きてきて、そのころに思いを馳せて『遠い目』になる」ってことはなかったです。淡々とつかさんの足跡を辿ったような感じです。著者の長谷川さんはつかさんのそばにずっといらっしゃった方で、良い面も悪い面も全て書いていらっしゃいます。決して美化はしていないです。むしろ、恥部をさらけ出しているような、つかさんのつかさんらしい人間性を炙り出しています。結構計算高い人だし、とてつもないこと、ありえないことを言ってるし、ヤな感じ満載でした。もちろん、それに対するフォローもあって、長谷川さん、本当に敬愛されているのだと思います。

 お芝居についてもはっきりと「これは失敗」って書いているのもありました。ただでは起きずに、その失敗作?をもとに、違うまた別のお芝居になっていました。ただ、ワタシはまともにわかるのは「熱海殺人事件」ぐらいで、それ以外のお芝居はタイトルを見ても思い浮かべられるものがなくて…。若干、ついていけなかったです。

 800ページともなると、なかなか道のり長くて、特に最初のほうは学生演劇の話で、いろいろ名前が出てくるのですが、全く???で、劇団つかこうへ事務所になって、平田満、三浦洋一、根岸季衣、風間杜夫あたりが登場するころになると、劇団の人気も最高潮、その劇場や観客の熱狂ぶりがすごくて、そのあたりからあとは一気に読めました。そういう“熱”にちょっといっしょに浮かされてみたかったと思いました。

 劇団つかこうへい事務所を解散後のつかこうへいのお芝居はいくつか見ています。もっぱら「熱海殺人事件」のバージョン違いでしたが。ひとつだけ、岸田今日子を主役にした「今日子」がありました。後で聞くところによると、岸田今日子が上手すぎてつかこうへいは不満で、再演しなかったとか…。そういえば、文学座がアトリエ50周年で「熱海殺人事件」をかける予定でしたが、新型コロナウイルスで中止になりました。再開されたら、ぜひ見に行きたいと思います。まだまだつかこうへいは健在です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

美術展の不都合な真実

2020-07-13 22:38:38 | 読んだもの
 
 ↑この本、結構あちこちで評判になっているので、ご存じの方も多いかと思いますが。

 内容説明です。
 
フェルメール、ゴッホ、モネ――屈指の名画が来日するのは、有数の芸術愛好国だから? 否、マスコミが主導し、大宣伝のなか開幕する「美術展ビジネス」が大金を生むからだ。「『〇〇美術館展』にたいした作品は来ない」「混雑ぶりは世界トップレベル」「チケット代の利益構造」「“頂点”に立つ国立美術館・博物館」等、新聞社の事業部で美術展を企画した著者が裏事情を解説。本当に観るべき展示を見極める目を養う必読ガイド。

 「美術館ビジネス」なるものについては、展覧会に行く方なら、薄々?何となく?確信をもって?気づいていらっしゃったと思います。新聞社でもテレビ局でも、自社が主催する展覧会の宣伝は本当にすごいものがありますから。これ、最初に感じたのは、奈良博の「正倉院展」です。いつの間にか主催に読売新聞がドドーンと入り、展覧会は秋なのに、年が明けると春先ぐらいから「今年の『正倉院展』の見どころ」みたいな記事(という名の宣伝)が始まります。それ以降も、ずっと途切れることなく、節目節目で「正倉院展」を宣伝、秋の開催となります。そりゃ、これだけ宣伝すれば(また行きたくなるような記事なんです)、人も集まるだろうと思います。

 NHKもすごいですよね。NHK主催の展覧会のCM(と言います)を、「これでもかっ」ってくらい番組と番組の間に押し込んできます。自分が行きたい展覧会だと「そんなに言わんといて、人が殺到するから」と画面に向かって叫びそうになります。

 この本では、朝日新聞社で美術展を企画されてきた著者の古賀さんが、「え、こんなことまで言っていいんですか」ってくらい最近の美術展事情について詳細を書いてくださっています。とても興味深く読みました。

 美術展に大々的にマスコミがからむようになったのは1994年の国立西洋美術館での「バーンズコレクション」展が分岐点になっているそうです。ワタシ、これ見に行きました。このために上京しました。門外不出のコレクションなので絶対見ておくべき!と美術に詳しい友人に教えてもらい、上野まで行きました。でも、すごい人で、展示室の中はまるで満員電車のよう、人の頭の先にチラッと見えるだけでした。それしか覚えていません。何の絵を見たのかはわかりません。そもそも絵に近づけないので、キャプションが見えないんですよね。美術館を出て、上野のアメ横で化粧品を買って帰ったのだけは覚えています。

 この展覧会が、読売新聞だったそうです。朝日新聞にも声がかかったけれど、あまりの借用料の高さに恐れおののいてお断りされたそうです。借用料5億円だったそうですが、それだけ人が入ったので、読売は収益を上げられたそうです。

 この本、こういった内幕の暴露だけでなく、美術館・博物館の成り立ちや展覧会の企画運営についても詳しく解説してあって、単なる“のぞき見”的な本ではありません。真面目な本です。いちいち書き出すと止まらないのですが、これまでいろいろとモヤモヤしていたことがよくわかりました。国立の美術館・博物館でも、国の改革で独立採算制?自分で儲けろみたいになっているので、キャッチーな企画をしないといけない、そうなるとマスコミの力を借りないといけない、学芸員さんがその間に入って“雑芸員”になってるというのはお気の毒というか、研究者なんですから…。日本の文化政策の欠けている点が如実に表れていますよね。まあ、これって文化だけでなく、昨今の医療をめぐる問題だってそうですから。非常に面白くてためになる本でした。です。

 
 ついでにこの本も。古賀さんがフェルメール展のところで紹介されていた本です。タイトルだけ見るとフェルメールの作品とか人物とかについて書かれたもののようですが、全然違います。「フェルメール・シンジケート」なるものについて書いてありました。著者の秦新二さんもフェルメール・シンジケートの一員だそうで、日本で開催される「フェルメール展」の出展交渉を(たぶん)一手に引き受けていらっしゃるようです。フェルメールの作品がどうやって各国の展覧会へ貸し出されるのか、よくわかります。一応、フェルメールの全作品がカラーで紹介され、それについても解説がついています。ただ、純粋にフェルメールという人物や絵について知りたい人にはNGかもしれません。ワタシは“下世話”なほうが好きなので、いろいろなやり取りの部分がおもしろかったです。この美術展のシンジケート、印象派ならフランスのオルセー美術館、ゴッホならオランダのゴッホ美術館とクレーラーミュラー美術館がガッチリ握っているそうです。

 これから展覧会に行くときに、違った?お楽しみができました。いろいろな思いを巡らせながら絵を鑑賞します。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

深読みシェークスピア

2020-06-06 16:53:02 | 読んだもの
 久しぶりの読書ネタです。2016年に新潮文庫から出た本で、発売直後に買って途中まで読んで放置していました。放置したことすら覚えてなくて、Stay Homeで部屋の中の本の山を整理していたら下の方から出てきました。特に他に読む本もなかったので“通勤のお供”にしたら、面白くて一気に読めました。前回放置したのはなぜなんでしょうかね?何かすごく読みたい本が他にあったんでしょうか。我ながら謎です。

 著者は松岡和子さんですが、もう一人小森収さんという聞き手の方がいらっしゃいます。聞き手と言っても、聞き手が主導するようなインタビューって感じではなく、主に松岡さんがお話になっていて、その合間に絶妙のタイミングで小森さんが質問して、さらに話が進む、深くなる、思わぬ展開を見せる、そういうような構成になっています。

 【内容紹介】
私の翻訳は、稽古場で完成する――。松たか子が、蒼井優が、唐沢寿明が、芝居を通して教えてくれた、シェイクスピアの言葉の秘密。それは、翻訳家の長年の疑問を氷解させ、まったく新しい解釈へと導いてくれるものだった。『ハムレット』『マクベス』『リア王』『ロミオとジュリエット』『夏の夜の夢』……。訳者と役者が名作の知られざる一面へと迫る、深く楽しい発見に満ち満ちた作品論。

 【目次】
第1章 ポローニアスを鏡として―『ハムレット』
第2章 処女作はいかに書かれたか―『ヘンリー六世』三部作
第3章 シェイクスピアで一番感動的な台詞―『リア王』
第4章 男、女、言葉―『ロミオとジュリエット』『オセロー』
第5章 他愛もない喜劇の裏で―『恋の骨折り損』
第6章 日本語訳を英訳すると…―『夏の夜の夢』
第7章 嫉妬、そして信じる力―『冬物語』
第8章 言葉の劇―『マクベス』

 松岡和子さんは1996年からシェイクスピアの37本の全作品の翻訳に取り組んでいらっしゃいます。これまで個人で全作品を翻訳したのは坪内逍遥、小田島雄志のお二人で、松岡さんで三人目だそうです。現在もまだ進行中です。

 この本で取り上げられた舞台は、残念ながらどれも見ておりませんでした。いくつかは大阪でも上演されているし、上演当時はまだ歌舞伎に入れ揚げておらず、こっち系のお芝居もよく見ていたのですが。松岡和子さんが翻訳された台本での上演はいくつか見ていると思います。最近(と言っても20年ぐらい前から)のシェイクスピア劇はもっぱら松岡さんの翻訳だと思います。その前は小田島雄志さんが多かったです。ワタシが初めてみた「ハムレット」は小田島さんでした。直近の内野聖陽さんは松岡さんでした。

 松岡さんは翻訳だけしておしまいではなく、お芝居のお稽古場にもいらっしゃって、台詞をチェックされています。役者さんが演じられるのをご覧になってひらめかれたり、役者さんから「こうしたら…」みたいなリクエストを受け入れられたり、かなり柔軟に対応されています。あと、坪内逍遥から始まるこれまでのシェイクスピアの日本語訳をすべて並べて、この日本語でいいのかと検討されています。こういう松岡さんのお仕事のやり方が聞き手の小森さんのインタビューから見えてきます。なかなか興味深い内容でした。日本で最初にシェイクスピアを翻訳した坪内逍遥が原文に一番忠実、これは英語の文法や構文をきちんと訳しているだけでなく、意訳してあっても、シェイクスピアの気持ちというか物語の背景とか時代とかそういうものを全て含んで訳してあるそうです。

 逍遥さんがらみだと、翻訳でよく問題になる「男言葉」「女言葉」の問題ですが、逍遥さんが結構ジェンダーフリーに訳したはります。いまだに、女性の台詞の語尾が「~だわ」「~なの」と訳されたり、男性に対する台詞が変に丁寧、へりくだっているのですが、もともとの英語は男女二人は対等にしゃべっています。逍遥さんはちゃんと対等に訳したはりました。今さらですが、翻訳のジェンダフリー、面白いトピックでした。

 こういう本を読むとちょっとまたシェイクスピア見に行きたくなりました。っていうか、たぶん、舞台が恋しくて今回はさくさく読めたのかもしれません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Hanako「100人の大銀座」

2020-03-31 23:17:52 | 読んだもの
 雑誌Hanakoの最新号は銀座特集でございます。春と秋、年2回の定番企画となっています。Hanakoって隔週刊から月刊に変わりました。年12回の発行です。そのうち2回は銀座特集、1回は(たぶん)京都、ってことは残りは9回、特集の企画も9回分考えればいいのね、とちょっとイジワルなことを思ってしまいました。

 銀座特集も構成は大体いつも同じ、中央通り辺りの「銀座」、三越本店辺りの「日本橋」、東京駅周辺の「丸の内」が大きく取り上げられます。そこに築地や新富町がついたり、八重洲や京橋がくっついてきます。すっごい情報量なので、「今度行くときは…」と思いながら、結局絞り切れなくてなかなか新規開拓ができません。

 ところで「今度行くとき」っていつになるんでしょうね?このコロナ騒ぎで当分東京には行けなさそうです。っていうか、さすがの東京好きのワタシでも行くのがコワイ、ご遠慮申し上げようと思いますから。

 そうそう、歌舞伎座の前の木挽町辨松が4月20日で閉店されるそうです。何度かいただいたことがあります。かなり濃いお味ですが、たまに無性に食べたくなるお味です。これもコロナのせいなんでしょうね。残念です。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

悲劇喜劇2020年1月号

2019-12-08 07:26:26 | 読んだもの
 「悲劇喜劇」は早川書房が出している演劇の雑誌です。その1月号が杉村春子先生を特集しています。これは買わねばなりますまい!と思っています(発売日は12月10日)。

 内容紹介です。
「女の一生」「東京物語」・・・名女優・杉村春子の演技
舞台とスクリーンを、得も言われぬ存在感で圧倒した名女優・杉村春子(1906-1997)。
『女の一生』や『東京物語』など数々の作品で知られ、”三大女優”の一人に数えられました。
その卓越した伎芸は、「舞台の神様」「日本映画の奇跡」「芸の怪物」などと称されます。
なぜ、杉村春子の演技からは活き活きとした生活の匂いが感じられるのでしょうか。
その「芸」の多面性を検討することは、「演技におけるリアリズム」を考えるきっかけになるかもしれません。
いま、杉村春子を見つめなおしてみませんか。

杉村先生の思い出 坂東玉三郎
杉村春子のこと 江守徹
杉村春子と私 奈良岡朋子 聞き手=大笹吉雄
杉村さん 戌井昭人
忘れられない大先生 本山可久子 新橋耐子 金内喜久夫 聞き手=木村隆
「杉村春子」とは何ものだったのか 大笹吉雄
杉村春子の十字路 渡辺保
アンパン  濱口竜介
芸の怪物──映画女優としての杉村春子 北村匡平
杉村春子略年譜
女の一生を越えた役者の座 杉村春子 高峰秀子

 それぞれのタイトルと書き手を見ているだけでもワクワクしてきます。玉ちゃんも寄稿していらっしゃいます。玉ちゃん、本当に杉村先生のこと尊敬していらっしゃいますからね。

 「悲劇喜劇」は学生時代、演劇少女だったころ、よく買ってました。今みたいな情報があふれかえっている時代ではありませんので、こういうのを見て「東京ではこんなことやってるんやね」と情報収集しておりました。ちょっと“遠い目”になります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

芋づる式!読書MAP(リンクを追加)

2019-11-28 23:08:53 | 読んだもの
 ↑上の写真、全く“意味不明”な画像かと思いますが、岩波書店が作った岩波新書を中心とした読書MAPです。昨日、久しぶりに本屋さんを散策したら、岩波新書の棚のところで見つけました。最近、ネットで本を検索して注文しているので、本屋さんに行ってもレジでお会計をするだけだったんですが、たまには売り場も見ないといけません。

 岩波新書30冊を選び、それを中心に広がる関連した本を紹介しています。で、何がエライっかて、岩波書店の本だけを選んでいないんです。いろいろな出版社が入り乱れています。選んだ30冊も新刊ではなく、結構古めのもありました。大きさは新聞紙を広げたくらい、本屋さんの岩波新書のコーナーに置いていると思います。私もジュンク堂でもらってきました。

 岩波書店のホームページでも順次公開されるようです。

 ちょっとワクワクします。自分では選ばない何か新しい本に出会えたらと思っています。

 芋づる式の新しいページです。
 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オール讀物9・10月合併号【追記あり】

2019-08-22 23:43:42 | 読んだもの
 本日発売の「オール讀物9・10月合併号」でございます。第161回直木賞受賞作「渦 妹背山婦女庭訓 魂結び」が掲載されているということで、早速買ってきました。これまで、芥川賞とか直木賞とか発表があっても、リアルタイムで読んだことはありませんでした。今回の直木賞が文楽を題材にしていると聞き「これは読まねばなりますまい」と思ったのですが、単行本は2000円ぐらいするし、文庫になるのを待ってるとあと2,3年はかかりそうだし、どうしようかなぁと思っていたら「そうだ、直木賞受賞作ってオール讀物に載るよね」ということを思い出し、今日まで待っておりました。

 実は「オール讀物」という雑誌を買ったのは初めてです。もちろん存在は知っていましたが。直木賞受賞作掲載号ってこんなになっているんですね。受賞作品だけでなく、大島真寿美さんのグラビアページ?、選評全て、自伝エッセイ、七之助さんとの特別対談まで載っていました。

 賞発表時に新聞でも選評って見ますが、あれってごく一部なんですね。こちらには選考委員全員の選評が載ってました。小説家の方たちなので書くのはお手の物、一人当たりの選評が長いんです。それぞれ評価している作品はバラバラで、こっちで褒めてるかと思うと、あっちではボロカスって感じで、これでよう受賞作が決まるものだと、びっくりしました。「渦」を評価している人は少ないように感じたのですが。っていうか、選考委員の小説家の皆さん「文楽とか歌舞伎とかは見たことがない、門外漢、だからわからない」っておっしゃる方が何人かいらっしゃって、「えーーーーーっ、日本を代表する小説家が歌舞伎も文楽も見ないなんて、そんなことあるんですかっ!。そんなんで日本文学を書いてますって言っていいんですかっ!」ってちょっと倒れそうになりました。

 その選評のすぐ後のページに山川静夫さんの「ちょっといい話」があって、ちゃんと「妹背山婦女庭訓」を題材に書いてくださっていて、ホッとしました。オール讀物のいつものページ構成がどうなっているのか存じ上げませんが、ここに山川さんのエッセイを置いてくださった編集部の方、GJです。

 自伝エッセイの挿絵はなんと!桐竹勘十郎さん、その後ろに5月の国立小劇場の「妹背山」通し上演の【鑑賞の手引き】、それから七之助さんとの対談です。この対談も充実した内容でした。大島真寿美さん、もともと歌舞伎ファンでいらっしゃるので、おっしゃってることが的確で空回りしてません。玉ちゃんも“玉三郎のおじ様”で何度も登場します。面白く読みました。

 かんじんの小説はまだ読んでないのですが、楽しみです。

 これだけ盛り沢山でお値段は1050円、これは買いだと思います。

【追記】
「渦」は全部載ってませんでした。9章のうち4章だけ掲載されていました。ま、そうですよね、単行本が売れてくれないと困りますからね。2年後の文庫化を待ちます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近読んだ本

2019-07-21 23:14:30 | 読んだもの
 「ご趣味は?」と聞かれたら、迷わず即答で「読書と観劇」と答えているワタクシ。その趣味のことを記録したくて始めたブログでしたが、最近、読書ネタは“皆無”と言っていい状況になっています。細々と読書は続けているのですが、なかなか記事にまでupできておりません。仕方ないので、まとめてupしておきます。拙ブログ、何度も書いておりますが、ワタシの“老後の楽しみ”なので・・・。

 「おろしや国酔夢譚」井上靖
 
 江戸末期ロシヤに渡って日本に帰ってきた伊勢漂民の大黒屋光太夫のことを書いた小説です。先月の歌舞伎座のみたに歌舞伎「月光露針路日本~風雲児たち」のお話です。「風雲児たち」の原作はみなもと太郎さんのマンガだそうで、この小説ではないのですが、マンガよりは活字のほうが得意なので、こちらを読むことにしました。井上靖って「敦煌」も「天平の甍」も読んだことがなくて、大丈夫かしらとちょっと不安でしたが、先にお芝居を見ていたせいか、登場人物がそれぞれ役者さんになって現われてくれるので何とか読了しました。「風雲児たち」って全然脚色されてなくて、ほぼ実話でした。三谷さんのコネタは散りばめられていましたが。本当に「真実は小説より奇なり」でした。もうひとつ吉村昭さんの小説もあるようなんですが、実話なだけに、また同じことを読むのかと思うと、もういいかなと思っています。

 「桂吉坊がきく藝」桂吉坊
 
 吉坊さんが芸界の大御所と対談されたものです。朝日新聞の企画で、対談が行われたのは2006年、単行本になったのが2009年、文庫になったのが2013年です。
 対談のお相手です。錚々たる御仁ばかりです。
  小沢昭一(俳優)
  茂山千作(狂言師)
  市川團十郎(歌舞伎俳優)
  竹本住大夫(文楽大夫)
  立川談志(落語家)
  喜味こいし(漫才師)
  宝生閑(能楽師)
  坂田藤十郎(歌舞伎俳優)
  伊東四朗(喜劇役者)
  桂米朝(落語家)
 ほとんどが鬼籍に入られました。ご存命なのは藤十郎さんと伊東四朗さんだけになりました。ちゃんと書き起こしされているので、それぞれの方々のしゃべり方の特徴がよく出ていました。上方の方たちはそれぞれ美しい上方言葉でお話されていました。吉坊さんにとってもすごい財産になってると思います。

 「観光亡国論」 アレックス・カー 清野由美
 
 右肩上がりで増え続ける外国人観光客によって引き起こされる「観光公害」について論じた本です。と言っても、すべて観光客が悪いのではなく、迎える側の日本にも大いに問題があります。一例として京都の「着物体験」が上げられていました。あれ、酷いですよね。向こうがわからないと思って、夏でも冬でも化繊のペラペラの着物、日本人の和服では絶対ありえない下品な色使いや柄、変な着付け。何か失礼だし、京都の景観も乱しているように思います。こういうことが全国の観光地に起こっていて、莫大なお金を落としてくれる観光客なので、呼び込みたいのはわかりますが、何かザラッとしてしまいます。

 「原節子の真実」 石井妙子
 
 伝説の女優といわれた原節子さんの評伝です。原節子さん自身は引退されてから決して公の場にお出になりませんでしたので、原節子さんに直接インタビューされたのではなく、さまざまな取材を通して原節子さんの生涯を描き出していらっしゃいます。「原節子=小津の映画」という知識しかなく、初めて知ることばかりでした。「美人でお嬢様で」と勝手にイメージしていたので、全然違っていてビックリしました。戦前から、14歳で女優デビューされてたんですね。国威高揚の映画にも出演、美人女優として世界でも認められていたようです。黒澤明の「羅生門」にもキャスティングされていたそうで、もし出演されていたらずっと女優を続けていかれたかもしれません。タラレバの話をしても仕方ありませんが。

 「バブル 日本迷走の原点1980-1989」 永野健二
 
 著者は日本経済新聞の記者で、バブル期は証券部記者、編集委員としてバリバリ活躍されていたそうです。本当にとてもわかりやすい本でした。新聞記者さんなので「わかりやすく書く」というのはお手の物なのかもしれませんが、それにしてもバブル全般についてワタシでもわかる(=サルでもわかる)ってすごい本だと思いました。バブルのときは、しっかり“大人”で、新聞とかニュースとかは見ていたつもりでしたが、表層的なことしか見ていなかったので、今回この本を読んで「あぁ、そういうこと」とか「へぇ、そうなってたんや」とか、いちいち納得しながら読み進みました。この本こそ、途中で“ケツを割る”(表現がお下劣で申し訳ございません)かしらと思っていましたが、全然そんなことはなく、快調にサクサク読むことができました。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする