yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

斜め読み「どろぼうの神様」

2015年06月25日 | 斜読

b398 どろぼうの神さま コルネーリア・フンケ WAVE出版 2002  <斜読・海外の作家index
 ヴェネツィアを舞台にした本を探していて見つけた。図書館の児童コーナーに配架されていて、文字も大きく、漢字にはルビが付くなど、小学校高学年向けの本のようだ。パラパラめくって拾い読みしたらけっこう興味を引いたので、借りて読み通した。
 読み始めて展開がとんとん拍子で調子よすぎるし、後半に出でてくるメリーゴーラウンドは現実離れし過ぎていたが、逆に自分の子どものころはこんな本に夢中になったのを思いだし、童心に返ったつもりで楽しく読んだ。
 最近、本離れがしばしば話題になるが、子どもが夢中になる目線で本を選んであげることが大事なのに、教育的?な見地から本を絞りすぎ、夢中になる本、興奮するおもしろい本を排除しすぎているのではないだろうか。もっと子どもを信頼すべきだと思う。

 子ども向けとはいえ、舞台となるヴェネツィア本島の地理、ヴェネツィアの冬の気候、たぶん戦後の復興期?の街並み、ヴェネツィア人の考え方や衣類、食べ物や飲み物などがていねいに描写されているから、ヴェネツィア理解の助けになる。滞在型ヴェネツィアの旅を考えている方にはおすすめである。滞在中に読めば、ヴェネツィア本島の様子が手に取るように分かるし、ほほえましい展開に気分が明るくなると思う。
 原題のタイトルはドイツ語Herr der Diebe=どろぼう様で、これからも推察できるが、著者はドレスデン生まれ、ハンブルク在住のドイツ人である。上に書いたヴェネツィア流はドイツ人から見たヴェネツィアかも知れないが、ドイツ人だからヴェネツィア流の観察に優れていたとも思える。

 タイトルのどろぼうの神さま=スピキオは主役ではあるが主人公ではない。著者は、ドイツ生まれのプロスパーと弟ボーを中心に物語を展開させている。この2人の兄弟の母が亡くなり・・父はいなかったようだ・・エスター叔母さん夫婦がボーだけを引き取り、プロスパーを施設に預けようとしたところ、兄弟が離ればなれになるのをいやがって、2人は母がいつも口癖にしていたヴェネツィアに逃げ込んでしまった。
 食べるのにも困っていた兄弟は、どろぼうの神さまスピキオと巡り会い、施設を嫌って逃げ出したらしい男の子リッチオとモスカ2人と女の子ヴェスペとともに、閉鎖された映画館に隠れ住むようになる。
 スピキオがリーダー格で、どろぼうしてきた品をリッチオとモスカが、バルバロッサという表向きは観光客相手の骨董品売り=裏では盗品買いに売り、暮らしの足しにしていた。

 ドイツのエスター叔母さん夫婦は、死んだ母の口癖のヴェネツィアにやって来て、イギリス出身の私立探偵ヴィクトールにボー探しを依頼する。ヴィクトールは、ヴェネツィア人なら一日に一度は必ず通るサン・マルコ広場で見張りをし、ボーたちを見つけるが、いち早く気づいたみんな水上バスヴァポレットに乗り込み、逃げてしまう。
 ヴィクトールは変装がうまく、またもサン・マルコ広場で張り込み、ついにボーはだまされ、つかまってしまう。

 話が前後するが、スキピオにどろぼうの依頼が来る。サン・マルコ寺院のざんげ室で伯爵から依頼されたどろぼうは、スパヴェント婦人が持っている木のつばさだった。引き受けたみんなはスパヴェント邸に忍び込み木のつばさを発見するが、スパヴェント婦人に見つかってしまう。
 どろぼうのいきさつを白状したところ、スパヴェント婦人がメリーゴーラウンドの伝説を話し、仲間になると言い出す。スパヴェント婦人によれば、メリーゴーラウンドには、一角獣、人魚、水の精、タツノオトシゴ、そしてつばさのあるライオンが並んでいて、どれかにまたがり、回転させると、乗り物によって年を取ったり若返ったりするそうだ。

 また話が前後するが、スキピオはヴェネツィアではよく知られた豪邸に住むマッシモ氏の一人息子だった。スキピオは、いつまでも子ども扱いしスキピオの希望をまったく受け入れてくれない父に反抗し、いつか家を出ようと決心していた。そのためにも早く大人になりたいと願っていた。
 一方、木のつばさのどろぼうを依頼した伯爵は、メリーゴーラウンドのライオンに行方不明になっていた木のつばさを取り付けてメリーゴーランドを修復させ、若返ろうと願っていた。
 どろぼうの仲立ちをした悪徳仲買人のバルバロッサはメリーゴーラウンドの秘密を知り、若返ろうと考えたらしい。あるいはこれで金儲けをしようと企んだのかも知れない。伯爵の住む島に乗り込んでくる。メリーゴーラウンドを巡る三者三様の思惑が絡んでいく。

 またまた話が前後するが、リッチオとモスカはヴィクトールからスキピオは本当はどろぼうではなく大金持ちの息子であることを知らされ、裏切り者スキピオと仲違いする。
 さらに映画館が隠れ家だったことが露見し、行き先を失ったみんなは仲間になったスパヴェント婦人に助けられる。エスター叔母さんに引き渡されたボーは大騒ぎをして、ついにエスター叔母さんは引き取ることをあきらめる。
 こうした子どもたちの成り行きが一方の軸になり、メリーゴーラウンドの思惑と絡み合いながら、大団円に向かっていく。どんな結末になるか?。
 子ども向け人形劇を見ているような展開がいい。きっと子どもたちは大いに冒険心を募らせながら、ボーに同情したり、探偵との鬼ごっこや木のつばさのどろぼう、伯爵の住む島への侵入などではらはらするのではないだろうか。 (2015.6)

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