yoosanよしなしごとを綴る

つれづれなるままにパソコンに向かいて旅日記・斜読・よしなしごとを綴る

斜め読み「北ドイツ=海の街の物語」

2015年06月14日 | 斜読

b397 北ドイツ=海の街の物語 沖島博美 東京書籍 2001  <斜読・日本の作家index
 2015年5月に北ドイツツアーに参加した。旅の狙いの一つはハンザ都市で、ツアーではロストク、ヴィスマル、リューベック、リューネブルク、ハンブルク、ブレーメン、ハーメルン、ヒルデスハイムなどを訪ねた。
 ハンザ都市については教科書で習ったがいつの間にか忘れてしまい、2008年、ストックホルムを歩いていてドイツ教会やドイツ風の建物を見てもハンザ同盟は思い出さなかった。
 2009年のバルト三国の旅の途中、ラトビアの首都リガの大聖堂の横に「ブレーメンの音楽隊」のブロンズ像を発見し、町なかのハンザ商人の建物を見て、ようやくハンザ同盟による交易の拠点がバルト海であったことに気づいた。
 当然、関心は本家本元のリューベック、ハンブルクなど、北ドイツのハンザ都市に向く。
 2012年には中世ハンザ都市を副題とする谷克二ほか「北ドイツ」(b295参照)も読んだ。ところがハンザ都市を巡るツアーがなかなか見つからない。個人旅行で行こうかと計画を立て予算を組んだらとんでもない料金になった。ようやく「ドイツ北東部・世界遺産」を巡るツアーを見つけ今回の旅になった。

 すでに「北ドイツ」は読んだので新たな本を探して、同じ北ドイツを冠しているが海の街の物語と銘打ったこの本を見つけた。
 旅の直前に読み始めたら、p12洗練された町を散歩する・・パリやロンドンに匹敵する・・ウィーンよりは都会・・洒落た建物、洒落た店・・男も女も着飾って足早に歩く・・スーツ姿の男女がビジネスをする町・・とあったので、準備したスーツケースを開け直し、スーツを入れ直した。
 実際の北ドイツではリラックスした身なりも多かったが、ピシッと着こなしてさっそうと歩く人も多かった。私も旅の2/3はスーツで押し通し、スーツの似合う町を実感した。

 旅の前に読んだのはその辺までで、あとは旅のまにまに、飛行機やバスの移動時間を利用して読み終えた。さらりと書き流していて気楽に読めるし、食事やちょっとした見どころの紹介も参考になった。目次で中身を紹介する。
 今も昔もハンザの要 ハンブルク
  ここもハンザの主要都市 ブレーメン
 塩はここから運ばれた リューネブルク
 ティル・オイレンシュピーゲルは実在したか メルン
 市民に還元されたハンザの富 リューベック
 コッゲ船が最初に寄港した街 ヴィスマール
 ハンザの船を造った港町 ロストック
 ドイツ最北東のハンザ都市 シュトラールズンド
 海賊と白亜崖の島 リューゲン島
 最北の島のエレガンス ズュルト島
 紅茶の香るオストフリースラント ノルデン~グレートズィール~ノルダナイ島
 シュテルテベッカーの正体 マリーエンハーフェ
 シュテルテベッカーを追って ヘルゴランド島~ハンブルク

 内容のすべてが私の関心事ではないが、旅日記風に綴られていて著者の人となりが行間にあふれている。おおむね前半が主要なハンザ都市の紹介で、後半がハンザの商船を狙った海賊シュテルテベッカーの正体を見極めようという著者の個人的な旅物語だが、これも著者の人柄がにじみ出ていて楽しめた。

 巻頭に大ざっぱな地図があるので位置関係は把握しやすいし、写真が豊富で理解を助けてくれる。なにより一志敦子氏のイラストが随所の挿入されていて、イラストのほのぼのとした表現が旅の気持ちを高めてくれる。
 ただし、ハンザに関する科学的、理論的な整理はされていない。歴史年表もないし、交易品リストも、発生や変遷、消滅の理由、そのころのヨーロッパ情勢との関係、バルト海を囲む各都市の相互関係なども不明である。それらを理解したい方は「北ドイツ」などを読んだ方がいい。

 この本は著者・沖島博美の旅日記、旅物語であり、沖島氏に誘われ、連れ立って旅している気分になる本である。もちろん、著者はドイツ語学科卒、ドイツ民俗学専攻のトラベル・ジャーナリストであるから、要所はしっかりと押さえてある。
 たとえば、p34ベッチャー通り、p37シュヌア地区はいまや有名観光地でツアーでも案内されたが、p96~のホーフとガングはハンザ商人による福祉事業が元になった家並みにもかかわらずややマイナーなようでツアーでは行かなかった。
 自由時間にこの本を頼りに訪ねたが、この本を読まなかったらハンザ商人の隠れた功績に気づけなかったに違いない。
 また、「北ドイツ」では交易品リストからハンザ都市の交易を理解できるが、この本は北ドイツではブドウの栽培に向かないことや粗悪な水の代わりにビールが愛用されたことなどを紹介しながら、往路にビールやリューネブルクの塩を載せ、復路で塩漬けニシンなどを運んできたことや、フランスの復路で運んだワインがp90ロートシュポンと呼ばれて愛飲されたことなど、ハンザ商人の活躍を沖島流に教えてくれる。

 ハンザ同盟は個別の商船では海賊に襲われたり、異国での交易が不利になるため生まれたのだが、そのハンザ商船を狙った海賊の一人がシュテルテベッカーである。彼らは交易で裕福になったハンザ商船を襲い、恵まれない人たちに施しをしたことで・・日本のねずみ小僧のような義賊として・・人望を集めたそうだ。
 ハンザ同盟の研究者なら取り上げないであろうハンザを狙う海賊の正体を追いかけていったのは著者のジャーナリスト魂であろうか。私のドイツの旅の最後のころに楽しく読み終えた。 (2015.5)


 

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