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FPの証券仲介業は「安全」か?

 証券仲介業という仕組みを使うと、FPが、証券会社の商品の販売を仲介して、手数料を稼ぐことが出来る。FPがこの仕組みを使うことに対する私の意見は、「顧客の側としても、FPとしても、出来れば利用しない方がクリーンであり、望ましい」という点は動かないが、FPの証券仲介業全体参加の可否については、「絶対にダメ」というところまでは、結論を出せずにいる(論理的に突き詰めると、ダメということになりそうなのだが)。

 以下の文章は、ある雑誌に書いた原稿で、ゲラの段階のやりとりの不具合によって掲載を見送ったものだ(内容でもめたわけではない。原稿を取り下げるケースとしては、珍しいケースだった)。
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 ファイナンシャル・プランナー(以下「FP」)が、単に顧客の相談に乗るだけでなく、金融商品の販売を行うことをがあることをご存知だろうか。
 これまでにも、金融機関などに所属せずに、独立してFP業務を行うFP事務所が、生命保険会社の取り次ぎ代理店業務を行って、顧客の生命保険契約の見直しなどを、商売につなげていたケースがあった。これに加えて、2004年12月から証券仲介業が解禁されて、独立系のFP事務所や、FP業務を併営する税理士・会計士事務所などが、証券会社の商品を扱うことが可能になった。
 先ず、独立系のFP事務所が、特定の証券会社と証券仲介業の契約をあらかじめ結んでおく。そして、このFP事務所は、顧客の注文を証券会社に取り次いで、成約した後に、証券会社とあらかじめ取り決めた手数料を、証券会社から受け取るという流れになる。証券会社からキックバックされる手数料は、発生した手数料を折半する形が多いようだ。
 問題は、FPが、手数料を稼ぐ手段を持った時に、FPのアドバイスそのものに影響を与えないのかだろう。
 投資信託では、販売手数料を販売会社が自由に設定できるケースが少なくないが、たとえば、同じファンドを、FPが契約する証券会社で買えば3%の手数料が掛かるが、別の証券会社(ネット証券など)で買うとノーロード(手数料ゼロ)で販売されているような場合がある。こうした場合に、「このファンドは、あちらで買えば、3%の手数料は掛かりませんよ」と、FPは顧客に教えるだろうか。明らかな損得があるのだから、これを顧客に教えないことは、FPの職業倫理に反するが、顧客が気付かずにいて、それで満足するなら、いいではないか、と考えるFPがいないとは限らない。
 また、FPに対して、顧客は、「どの投資信託がいいのか、お勧めのファンドを教えて欲しい」と期待する場合があり、FPが、自分で取り扱うことが出来て、手数料を稼ぐことが出来る商品に、顧客を誘導する可能性が無いとは言えまい。
 実は、FPに限らず、投信評価会社であろうが、誰であろうが、今後の運用が優れたファンドを事前に選ぶ能力は無いのが現実であり、FPに可能なのは、顧客が選んだカテゴリーのファンドの中で、最も手数料が安いファンドを選ぶ程度のことなのだ。しかし、顧客の側には、自分で商品を選んで後で後悔したくないという心理があり、FPには、セールスのチャンスがある。
 外資系の証券会社に勤めて稼ぎに応じたボーナスを貰うとしても、せいぜい稼ぎの20%台の比率であるから、発生した手数料の50%という証券仲介業のインセンティブは非常に大きい。実際に、顧客を持っている証券会社のセールスマンが、証券仲介業を扱っている証券会社と契約して独立するケースもあるようだ。
 FPの本業と証券仲介業の間には、経済的には、間違いなく利益相反がある。
 一方、独立系のFPが、相談業務の収入だけでは、なかなか食べていけないケースが多いのも現実で、「フリーだと、プアーなので、FP」と自嘲する声も聞く。顧客の側では、どうせ手数料を払うなら、FPの収入にもなるように、という考え方もあり得る。
 しかし、真に客観的なアドバイスを得るためには、たとえ相手が証券仲介業を営んでいるFPであっても、彼を通じて商品を買わず、その代わりに、相談料はきちんと払うのが好ましいやり方だろう。能力のあるFPが、本気でアドバイスを行うなら、手数料の合理化だけでも、顧客のコストを相当に浮かせることが、可能なはずだ。中立な立場からのアドバイスにこそ、高い価値があることを、顧客の側でも、もっと知るべきだ。
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 一般読者の皆さんは、相談をもちかけたFPから金融商品を買うことに抵抗を覚えるだろうか。もう一つ聞いてみよう。FPに資産運用の相談をして、何を期待し、幾らなら払っていいと思われるだろうか。

 また、FPの皆さんは、仮にご自分が証券仲介業の契約をしていて、「ETFでも買おうと思う」と言う、顧客に「この投信の運用の方がいいですよ」などと言って、手数料の高い投資信託(自分の扱える商品)を紹介しない自信があるだろうか。また、顧客が買おうとするファンドとほぼ同様の内容のファンドを、別の場所で顧客が買えばもっと手数料が安いことを顧客に教え、且つ、顧客の売買によって、自分に幾ら手数料が入るかを、顧客にはっきり述べた上で、投信を販売する意思があるだろうか。

 尚、FPの証券仲介業への取り込みに最も熱心なのは、当ブログでも話題になったことがある日興コーディアル証券だが、同社は、プライベートバンキング部門で不祥事の前歴があるシティグループの傘下に入った。「IFA」と称している、日興コーディアル傘下の証券仲介業者が今後どのように活動するのか分からないが、シティと日興とは、「なかなかの組み合わせ」(←もちろん皮肉であるが)なので、注目している(シティなら、IFAの持っている顧客だけ取り込もうとするのではないか、などとも推測するが、これは私の根拠のない憶測だ)。

 退職金の運用でもそうだが、お金の運用の相談では、誰が味方で、誰が警戒すべき相手なのか、判別するのが、難しいことは確かだ(相手が、正しい知識を持っている人なのかどうかも、頑張って判別して欲しい)。
 
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