山南ノート4【劇団夢桟敷】

山南ノート4冊目(2008.10.3~)
劇団夢桟敷の活動や個人のことなどのメモとして公開中。

ブラジル公演日記【2】

2009-02-22 06:16:07 | ブラジル公演2009.2
 17名で旅立つことになった。他3名は仕事の長期欠席が不可能であったり、所属する劇団の活動で不具合あり。
 伊藤匠さん、井上菜穂子さん、蔵原壮一郎君。・・・昨年4月公演で流した汗を無駄にしない公演にできました。
 ブラジルでの観客はストレートな反応ばかりでした。

 どれだけの大きな思いで熊本から送り出して頂いたのか、私たちは計り知れない重圧を感じながら旅立つことができました。
 熊本のみならず全国からの個人的な寄付金も頂き、お金の問題ばかりでなく、稽古での和太鼓を提供して下さったり、マスコミ関係者のご協力や、ポルトガル語をご指導して下さった熊本県在住の日系の方々にもお礼申し上げます。

 (注)只今、報告書(パンフレット)作成につき、後日、ご協力頂いた方々の氏名や団体名を記してお礼とさせて頂きます。尚、記録ビデオを送付致します。

 2月4日(水)

 朝9時に阿蘇熊本空港に集合する。家族の車で送ってもらった者や自家用車で来た者、小雨降る中、これからの2週間の門出に不安と期待が入り乱れて緊張と笑顔で送り出して頂く。
 劇団と個人の荷物で一人では抱えきれない量になっていた。パネルや板関係は運ばず、布を中心にレイアウトするつもりではあったが、予備の電気類と小道具、衣装類だけでも大した量になっていた。

 羽田着12:00。リムジンバスにて成田空港へ。
 成田では旅行手続きをとって頂いたアルファーインテルの担当者さんが出迎えて下さる。旅費を一度に払えず分割で対応して下さったり、お礼してもしきれない限りです。
 デルタ航空にてアメリカ経由でアトランタに飛び立つ。
 この間、ハプニングが発生する。

 座長(夢現=さかもとまり)が機内で貧血を起こす。昨夜から徹夜しており、機内で缶ビールを飲んだのも原因かも知れないが、連日の強行スケジュールで制作者としては疲労困憊していたのである。
 トイレの金属に顔面から倒れこんだらしく、口を切ってしまった。口から血が溢れ出していた。機内にはアメリカ人の看護師がいてアトランタで縫ってもらった方が良いと指示された。
 咲希は目に涙を浮かべておろおろするばかり。アトランタに着いたのが9時間後で、縫うには時間が経過し過ぎており消毒だけで済ませる。
 予想外の出来事だったが、彼女の我慢強さに救われる。気弱になっていたら、ブラジルでの公演で暗雲に包み込まれるところだった。
 それにしても唇が切れたことで舞台で発声できるかどうか、内心不安であったろう。

 2月5日(木)

 日付変更線を超えており、実際は2日間の飛行機の旅であるが、現地時間のため、あくる朝にサンパウロ空港に着いた。
 
 夏である。
 日本を出発した時は冬だったのだが、ここに来て冷凍庫にあった肉がレンジでチンされた状態になった。
 硬いものが柔らかくなっていくのを体内で感じつつ、ブラジルの甘い匂いに酔ったようになる。甘い砂糖の味がどこからも感じる。
 
 ニッケイ新聞社のラウル社長と山根さんやプロミッソン市から安永兄(考道)さんが出迎えに来て下さっていた。
 これより弓場農場へ貸し切りバスで移動する。9時間の道中である。考道さんの同行で途中でブラジル料理を食べる。ステーキである。下見で来た昨年の9月では食べ過ぎてしまい胃弱を味わってしまったが、今回は自分の胃の消化力と相談しながら食べた。
 若い劇団員たちは流石に強い。一気に肉食獣になったように見えた。特に、田中幸太(上塚周平役)、馬場真治(音響、記録係り)、ハル君(夜逃げのフネタロウ役)のヘビー級トリオの食べっぷりには脱帽する。このトリオは中々図太くて気持ちが良い。

 弓場農場へ向かう途中、プロミッソン市に立ち寄る。
 若い劇団員たちにとってはおじいちゃん、私にとってお父さんである安永忠邦さん(今年の3月で米寿)と再会する。もうひとりの安永兄(和数)さんとも再会。
 お父さんは孫がたくさんやって来たようで顔が緩んで喜んでくれた。すぐに打解け合った。
 まるで劇中の光景である。みんな初対面の筈であるが、家族のように接してくれる。フルサト。
 プロミッソン市は第二会場となるが、私はこの会場の手ごわさを感じて緊張が走る。
 ここが劇の舞台だからだ。特別の想いがはちきれそうになる。・・・自分の力だけでは演劇は作り切れない。わかっていても、舞台にどう反映してよいものか途方に暮れる。
 安永ファミリーの劇団笠戸丸公演に向けての尽力なしには、この公演の実現もなかったようにも思う。サンパウロ州4会場を走り回ってくれていたのだった。
 大きな期待に応えきれるだろうか。本当に重いものを背負って来たのだ。

 夕刻に弓場農場に到着。
 バレエ団としてブラジルで公演をしている有名な農業自活集団である。代表のオバラアキコさんたちとも再会。
 固い握手で出迎えてくれる。交流会の前にバレエを見せて頂く。これで照明や音響のことがわかる。
 この農場は集落にもなっており、大きな食堂集会場の広場に面してテアトロユバ(劇場)がある。まるで野外劇場。
 村上精一はステージに向かって手を合わせていた。演劇人たる者、ステージには神様が見えるのである。

 安永兄(考道さん・信一さん)たちも同席の中、夜はブラジル焼酎、ピンガで酔う。
 農場の人々と飲み交わしながら、食事の時から気分が悪そうな山室優衣(ゆいちゃん)のことを心配してくれていた。長旅で疲れたのだろう、と彼女のことから目が離せない様子だった。
 
 明日は舞台仕込み、明後日、第一ステージが始まる。
 一晩寝て、体調万全でいきたいものだ。
 とは言っても、座長の切れた唇は一気に回復するものではない。ここはキャリアで頑張ってもらうしかない。
 彼女は妊娠中でも舞台に立って飛び跳ねていた経験を持つ。男より強い女なのだ。お互いに信頼することで成り立っている。
 
 舞台で死ねる役者はそう数多くないことはわかっている。そに内の一人は劇団笠戸丸にいる。