「夫は外で 妻は家庭に」?-内閣府の調査結果から-
内閣府は12月15日,平成12年度における男女共同参画社会に関する世論調査の結果を発表しました(注)。
この調査は内閣武府が今年10月,20才以上の成人5000人を対象に行ったものです。
その中に,「夫はは外で働き,妻は家庭を守るべきであるか」とい調査項目があります。
この調査は1992年から始められていますが,これ以来,2009年まで一貫して「賛成」は減少してきました。
1992からの推移をみると以下のような経過をたどっています。
以下の統計で,「賛成」は「賛成」と「どちらかといえば賛成」の合計,反対は「反対」と「どちらかといえば反対」の合計でカッコ内の数字,
残りは「わからない」です。
1992年 60.1% (34%) 1997年 57.8% (37.8%) 2002年 45.4% (48.5%)
2004年 45.2% (48.9%) 2007年 44.8% (52%) 2009年 41.3% (55.4%)
2012年 51.6% (45.1%)
全体の趨勢をみると,1992年以来,一貫して「賛成」は減少してきましたが,今年2012年(平成24年)に初めて反転し,
「賛成」が半数以上を占めるようになったのです。
もう少し,その内容を詳しくみみましょう。
バブルが弾けた直後の1992年には,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」に「賛成」が60%を超えていました。
当時はまだバブルの余韻が残っていたのか,夫の収入だけで家系が成り立っていた様子がうかがえます。
しかし,その後,景気が後退するにつれて,いわゆる「失われた20年」に入ると,「賛成」は次第に減少してゆきます。
これは,夫の収入だけでは十分でなく,妻も働かなくてはとの意識が強くなっていったからだと解釈できます。
もちろん,妻も働くべきであるという,女性の意識の変化も影響しているでしょう。
しかし,やはり収入の減少が,妻も収入を得る必要があると考えるようになったことが大きいと思われます。
ところが,今年2012年は,さらに景気は低迷し,所得は減少しています。
普通に考えると,妻も外で働く動機と必要はさらに強まったはずです。
それにもかかわらず,2012年にはこれまでの傾向が逆転したのはなぜでしょうか?
この問題は後で総合的に考えるとして,その前に,男性と女性それぞれの立場からどの様に考えているかをみてみましょう。
男性のうち「賛成」と答えた割合は,2009年の45.9%から2012年の55.11% と10ポイントも増加しています。
これにたいして女性で「賛成」と答えた人は, 2009年の36.3%から2012年の48.4.4%と12ポイントも上昇しています。
年代別にみると,20代男女の「賛成」割合は,2009年の30.7%から2012年の50%へ,20ポイントも増加しています。
さらに注目すべき変化は,2009年には,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」と答えた人の割合は20代の男女がもっとも
低かったのに,2012年には,20~50代の中では20代に男女が最も高くなっています。
これらを総合して考えると,今年の状況に関する限り,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」と考える人の割合が,
男女とも高くなったこと,とりわけ若い世代にこの傾向が強いことが推察されます。
次に,家庭内での役割の他に,男女の平等性についてみてみましょう。
「男性方が優遇されている」(「男性の方が非常に優遇されている」と「どちらかといえば男性の方が優遇されている」
の合計)は2009年の46.5% から20012年には43.3% へ減少しています
つまり,2012年には,男性の方が家庭の中で優遇されているという実感は,全体として少し減少したことが分かります。
夫の小遣いや昼食代の減少にみられるように,男性は必ずしも家庭生活で優遇されているとは思わない,という実感が
あるのでしょう。
これにたいして「平等」と答えた人は,2009年から2012年にかけて43.1%から47.0%へ上昇しています。
ただ,「女性の方が優遇されている」という割合は,2009年の15.1% から2012年の13.5%へ減少しています。
やはり女性の方が優遇されていると感じている人はさらに減少していることが分かります。
それでは社会全体でみると,男女の平等にかんしてどのような状態にあるのでしょうか。
2009年から2012年の変化をみると,「男性の方が優遇されている」とする人の割合が71.5%から69.8%へ,「平等」と答えた
人の割合が23.2%から24.6%へ,「女性の方が優遇されている」とする人の割合が3.6%から3.8%へ,ごくわずか減少してい
ますが,大まかにほぼ同じです。
家庭内における夫の優位性は2009年と2012年では少し低下し,社会全体の評価では依然として圧倒的に男性の方が優遇され
ていると認識されています。
以上の調査結果から,どんなことが言えるでしょうか。
まず,人々の価値観が「夫は外,妻は内」という古い伝統に回帰しているように見えます。
しかしこれは必ずしも,積極的・肯定的に伝統への回帰に賛成しているとは限りません。
ここで,20代の若者で「夫は外,妻は内」に賛成の割合が激増している点に注目すべきです。
これは,若年層の就職難や賃金の減少で,やむを得ず妻が家庭を守ることに賛成せざるを得ない事情を反映している,
と考えるほうが事実に近いと思います。
さらに,2012年には女性の間で「夫は外,妻は内」という意識が大きく急に高まったことも重要です。
その一方で,社会全体でみると「男性の方が優遇されている」と考える人の割合は,家庭内でのその割合に比べて,遙かに
高くなっています。
この事実は,職場などで圧倒的に男性優位ですが,家庭内では男性の優位性はそれほど顕著ではないことを物語っています。
おそらく,長引く不況のもとで職場では女性が非常に不利な立場に置かれていることを女性が実感しているからでしょう。
その結果,女性が不利な条件で必死で働くより,安定した家庭生活を重視するようになったとも解釈できます。
事実,『毎日新聞』(2012年12月25日 朝刊)には,福岡県在住の36才の契約社員と,
東北地方のホテルに勤務する29才の女性(常勤)の事例が掲載されています。
前者の女性は,離婚後子ども一人をは抱えて毎日夜8時まで残業しても月給は手取り12万円。
それも契約社員のため,賃金は上がらず職そのものもかなり不安定だという。
もう一人の女性は,一応「主任」に昇任し役職手当もついて手取りは14万円になりました。
しかし,繁忙期には週3回も当直が入ります。
労働が非常にきついため,毎年,女性社員がものすごい勢いで辞めていくようです。
このため,現在既婚者はゼロだろそうです。
先輩の女性社員から「早く結婚して幸せになった方がいいわよ。これ以上ここにいてもアップすることはないんだから」
と言われています。
彼女は,結婚してホテルを辞めたら,家事や夫の世話をすることを願っています。
以上の2例は,とりわけ地方の状況に特有かも知れませんが,現実でもあります。
私は,こうした経済的な面とならんで,昨年の東日本大震災の影響もあると思います。
震災以後,多くの若者が,とりわけ女性が,一人でいることの不安定さを感じ,結婚願望が強まったという報道が何回か流されました。
これの統計的な証拠はありませんが,現代は女性が一人で生きてゆくことが,かなり厳しくなっていることは確かだと思います。
こうした背景の下で,ゆるぎない「絆」を求めているのかも知れません。
この傾向が今後どうなってゆくのかを,注目してゆきたいと思います。
この記事に関しては以下のサイトを参照されたい。
http://www8.cao.go.jp/survey/h24/h24-danjo/index.html (平成24年10月調査)
http://www8.cao.go.jp/survey/h21/h21-danjo/index.html (平成21年10月調査)
http://www8.cao.go.jp/survey/h24/h24-danjo/zh/z14.html (年度別推移)
http://www8.cao.go.jp/survey/h21/h21-danjo/images/z15.gif
内閣府は12月15日,平成12年度における男女共同参画社会に関する世論調査の結果を発表しました(注)。
この調査は内閣武府が今年10月,20才以上の成人5000人を対象に行ったものです。
その中に,「夫はは外で働き,妻は家庭を守るべきであるか」とい調査項目があります。
この調査は1992年から始められていますが,これ以来,2009年まで一貫して「賛成」は減少してきました。
1992からの推移をみると以下のような経過をたどっています。
以下の統計で,「賛成」は「賛成」と「どちらかといえば賛成」の合計,反対は「反対」と「どちらかといえば反対」の合計でカッコ内の数字,
残りは「わからない」です。
1992年 60.1% (34%) 1997年 57.8% (37.8%) 2002年 45.4% (48.5%)
2004年 45.2% (48.9%) 2007年 44.8% (52%) 2009年 41.3% (55.4%)
2012年 51.6% (45.1%)
全体の趨勢をみると,1992年以来,一貫して「賛成」は減少してきましたが,今年2012年(平成24年)に初めて反転し,
「賛成」が半数以上を占めるようになったのです。
もう少し,その内容を詳しくみみましょう。
バブルが弾けた直後の1992年には,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」に「賛成」が60%を超えていました。
当時はまだバブルの余韻が残っていたのか,夫の収入だけで家系が成り立っていた様子がうかがえます。
しかし,その後,景気が後退するにつれて,いわゆる「失われた20年」に入ると,「賛成」は次第に減少してゆきます。
これは,夫の収入だけでは十分でなく,妻も働かなくてはとの意識が強くなっていったからだと解釈できます。
もちろん,妻も働くべきであるという,女性の意識の変化も影響しているでしょう。
しかし,やはり収入の減少が,妻も収入を得る必要があると考えるようになったことが大きいと思われます。
ところが,今年2012年は,さらに景気は低迷し,所得は減少しています。
普通に考えると,妻も外で働く動機と必要はさらに強まったはずです。
それにもかかわらず,2012年にはこれまでの傾向が逆転したのはなぜでしょうか?
この問題は後で総合的に考えるとして,その前に,男性と女性それぞれの立場からどの様に考えているかをみてみましょう。
男性のうち「賛成」と答えた割合は,2009年の45.9%から2012年の55.11% と10ポイントも増加しています。
これにたいして女性で「賛成」と答えた人は, 2009年の36.3%から2012年の48.4.4%と12ポイントも上昇しています。
年代別にみると,20代男女の「賛成」割合は,2009年の30.7%から2012年の50%へ,20ポイントも増加しています。
さらに注目すべき変化は,2009年には,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」と答えた人の割合は20代の男女がもっとも
低かったのに,2012年には,20~50代の中では20代に男女が最も高くなっています。
これらを総合して考えると,今年の状況に関する限り,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」と考える人の割合が,
男女とも高くなったこと,とりわけ若い世代にこの傾向が強いことが推察されます。
次に,家庭内での役割の他に,男女の平等性についてみてみましょう。
「男性方が優遇されている」(「男性の方が非常に優遇されている」と「どちらかといえば男性の方が優遇されている」
の合計)は2009年の46.5% から20012年には43.3% へ減少しています
つまり,2012年には,男性の方が家庭の中で優遇されているという実感は,全体として少し減少したことが分かります。
夫の小遣いや昼食代の減少にみられるように,男性は必ずしも家庭生活で優遇されているとは思わない,という実感が
あるのでしょう。
これにたいして「平等」と答えた人は,2009年から2012年にかけて43.1%から47.0%へ上昇しています。
ただ,「女性の方が優遇されている」という割合は,2009年の15.1% から2012年の13.5%へ減少しています。
やはり女性の方が優遇されていると感じている人はさらに減少していることが分かります。
それでは社会全体でみると,男女の平等にかんしてどのような状態にあるのでしょうか。
2009年から2012年の変化をみると,「男性の方が優遇されている」とする人の割合が71.5%から69.8%へ,「平等」と答えた
人の割合が23.2%から24.6%へ,「女性の方が優遇されている」とする人の割合が3.6%から3.8%へ,ごくわずか減少してい
ますが,大まかにほぼ同じです。
家庭内における夫の優位性は2009年と2012年では少し低下し,社会全体の評価では依然として圧倒的に男性の方が優遇され
ていると認識されています。
以上の調査結果から,どんなことが言えるでしょうか。
まず,人々の価値観が「夫は外,妻は内」という古い伝統に回帰しているように見えます。
しかしこれは必ずしも,積極的・肯定的に伝統への回帰に賛成しているとは限りません。
ここで,20代の若者で「夫は外,妻は内」に賛成の割合が激増している点に注目すべきです。
これは,若年層の就職難や賃金の減少で,やむを得ず妻が家庭を守ることに賛成せざるを得ない事情を反映している,
と考えるほうが事実に近いと思います。
さらに,2012年には女性の間で「夫は外,妻は内」という意識が大きく急に高まったことも重要です。
その一方で,社会全体でみると「男性の方が優遇されている」と考える人の割合は,家庭内でのその割合に比べて,遙かに
高くなっています。
この事実は,職場などで圧倒的に男性優位ですが,家庭内では男性の優位性はそれほど顕著ではないことを物語っています。
おそらく,長引く不況のもとで職場では女性が非常に不利な立場に置かれていることを女性が実感しているからでしょう。
その結果,女性が不利な条件で必死で働くより,安定した家庭生活を重視するようになったとも解釈できます。
事実,『毎日新聞』(2012年12月25日 朝刊)には,福岡県在住の36才の契約社員と,
東北地方のホテルに勤務する29才の女性(常勤)の事例が掲載されています。
前者の女性は,離婚後子ども一人をは抱えて毎日夜8時まで残業しても月給は手取り12万円。
それも契約社員のため,賃金は上がらず職そのものもかなり不安定だという。
もう一人の女性は,一応「主任」に昇任し役職手当もついて手取りは14万円になりました。
しかし,繁忙期には週3回も当直が入ります。
労働が非常にきついため,毎年,女性社員がものすごい勢いで辞めていくようです。
このため,現在既婚者はゼロだろそうです。
先輩の女性社員から「早く結婚して幸せになった方がいいわよ。これ以上ここにいてもアップすることはないんだから」
と言われています。
彼女は,結婚してホテルを辞めたら,家事や夫の世話をすることを願っています。
以上の2例は,とりわけ地方の状況に特有かも知れませんが,現実でもあります。
私は,こうした経済的な面とならんで,昨年の東日本大震災の影響もあると思います。
震災以後,多くの若者が,とりわけ女性が,一人でいることの不安定さを感じ,結婚願望が強まったという報道が何回か流されました。
これの統計的な証拠はありませんが,現代は女性が一人で生きてゆくことが,かなり厳しくなっていることは確かだと思います。
こうした背景の下で,ゆるぎない「絆」を求めているのかも知れません。
この傾向が今後どうなってゆくのかを,注目してゆきたいと思います。
この記事に関しては以下のサイトを参照されたい。
http://www8.cao.go.jp/survey/h24/h24-danjo/index.html (平成24年10月調査)
http://www8.cao.go.jp/survey/h21/h21-danjo/index.html (平成21年10月調査)
http://www8.cao.go.jp/survey/h24/h24-danjo/zh/z14.html (年度別推移)
http://www8.cao.go.jp/survey/h21/h21-danjo/images/z15.gif