大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

パンドラの箱を開けた安倍氏銃撃(1)―初期報道の異様さと違和感(その1)―

2022-07-30 10:57:11 | 政治
パンドラの箱を開けた安倍氏銃撃(1)―初期報道の異様さと違和感(その1)―

2022年7月8日午前11時半ごろ、奈良市内の近鉄大和西大寺駅前で参院選候補者
の応援演説をしていた安倍晋三元首相が銃によって殺害されました。

このニュースを耳にした時、このような事件がこの現代日本で実際に起こったと
ということに、衝撃を受けました。

そして、一体誰が(どんな人物が)、どんな目的でこの事件を実行したのか、と
いう疑問が直ぐに浮かびました。

普通に考えれば、安倍氏に個人的な何らかの恨みなり、政治的に強烈な反安倍感
情を抱いている人物の仕業、ということになります。

しかし事実が明らかになるにしたがい事件は思わぬ方向に広がってゆきました。

警察はその場で銃撃の実行犯として山上徹也容疑者(41)を逮捕しました。

銃撃、そして山上容疑者の逮捕、安倍氏の死までが、今回の事件の第一幕だとす
ると、それから、警察と政府とメディアの報道の内容が第二幕です。

警察当局によると、容疑者の山上哲也(41)は奈良市に住む職業不詳の人物で、手
製の銃で襲撃したようです。

警察によれば、これまでの調べに対し「元総理の政治信条への恨みではない」、そ
して「特定の団体に恨みがあり、元総理がこの団体と近しい関係にあると思いねら
った」という趣旨の供述もしていた。

また、捜査関係者によると、この団体について「母親が団体にのめり込み、多額の
寄付をするなどして家庭生活がめちゃくちゃになった」という趣旨の話をしている
ということです(注1)。

この事件に関して、さまざまなコメントや解説が政府サイドやメディアから発信さ
れました。しかし、それらの中に筆者が違和感をもった点がいくつもありました。

事件が起こった翌日の7月9日、元テレビ朝日ニュースデスクの鎮目博道氏は、イ
ンターネット上で報道(特にテレビの)に関する違和感を4点挙げています。筆者
も鎮目氏と問題意識を共有しているので、以下にそれらを引用しつつ検討しよう(注2)。

なお以下の4点は、その後、日本の政界、特に自民党、警察、宗教団体との隠され
た問題を明らかにしたという意味で、パンドラの箱を開けてしまったと言えます。

(1) なぜ「宗教団体」の名前を明かさないのか

一つは、すでに本稿の最初に書いたように、事件直後にテレビ各局のニュースは警
察情報として、安倍元首相を銃撃した元自衛官・山上徹也容疑者は、その犯行動機
として「特定の宗教団体に恨みがあり、その宗教団体と関係がある安倍元総理を狙
った」と供述していると発表しています。

しかし、なぜか警察はこの「宗教団体」の名前をなぜ明らかにしませんでした。こ
の点について鎮目氏は、テレビニュースの制作者として類推すると、考えられる可
能性はふたつあるという。

ひとつは「警察が団体名を発表しておらず、取材でも明らかになっていない」つま
り「テレビ局側も知らない」可能性だ。

供述は警察署の中でされているのだから、原則的に警察側からの情報がなければ宗
教団体が明らかになることはない。あとは容疑者の周辺を取材して、聞き込みから
関連のある宗教団体を割り出していくしかない。

もうひとつの可能性としては、テレビ局は宗教団体の名前をすでに知っているが、
なにがしかの配慮で報道していない場合。この場合、どういう配慮が働いている可
能性があるのか。

考えうるとすれば、局として「宗教団体側には何も責任がないから」ということに配
慮して、もう少し供述内容が明らかとなって宗教団体と犯行動機との関連性が深まる
まで様子をうかがっている可能性だろうか。

あるいは、「安倍元首相とその宗教団体との関係がはっきりしない」ということに配
慮している可能性だ。変にその宗教団体の名前を出すことによって「安倍元首相はあ
の宗教と関係があったのか」と思われてしまう可能性を恐れているのかもしれない。

しかし今回の場合、事件の犯行動機は「宗教団体への恨み」と報道されているから、
この団体の名前を明らかにし、またその宗教団体に取材をしなければ事件の真相解決
にはつながらない。そこにもし「配慮や忖度」が働いているとすれば、それは少しお
かしいのではないかということになる。

やはり本来であれば宗教団体の名前を明らかにし、宗教団体側の取材もきちんと行っ
てその内容も併せて報道し、もし安倍元首相とその宗教団体との関係が明らかでなけ
れば、その旨もきちんと報道すれば良いだけのことである。

大メディアが警察発表そのままに統一教会の名を伏せて容疑者の供述を報じていたこ
とは、その顕著な実例です。警察の政権に対する忖度をメディアまでが見倣う必要は
ない(コラムニストの田部康喜氏)(注3)。

ちなみに、インターネット上では、かなり早い段階から「特定の宗教団体」が「統一
協会」であることは暴露されていました。

(2)今回の事件は「言論の自由や民主主義への挑戦」(?)という問題

二つは、事件当日のテレビの特番では、「この事件は言論の自由を奪おうとするもの
だ」とか「民主主義への挑戦だ」というフレーズが多用されていたことです。

この事件への受け止めをインタビュー取材された政治家のみなさんがそう答えるのは至
極当然です。一般的に外形的に見れば、「選挙期間中に、選挙の応援演説をしていた元
首相が殺害された」わけで、まさに言論の自由の封殺であり、民主主義への挑戦である
と言うことはできる。

しかし、鎮目氏は、スタジオにいるコメンテーターや解説委員など「伝える側」まで、
このフレーズを繰り返し述べていたのは、本当にそれで良いのだろうか、と疑問を呈し
ています。

もしこの事件の犯行動機が「特定の宗教団体に恨みがあり、その宗教団体と関係がある
安倍元総理を狙った」ということならば、本当にそれは「言論の自由を奪おうとするこ
と」であり「民主主義への挑戦」なのか?というところがひとつ疑問として浮かぶ。

しかし、「宗教団体へ個人的な恨み」が犯行動機であれば、それは個人的な怨恨による
犯行だと言ったほうが適切かもしれない。だとすれば、安倍元首相を殺害するのはほぼ
「逆恨み」であると言って良いだろう。

ましてや、安倍元首相とその宗教団体にそれほど関係がなかったとすれば「安倍元首相は
は何の落ち度もなかったのに逆恨みで殺害された」ということになり、これはこれで断じ
て許されないが、果たして「言論の自由の封殺」や「民主主義への挑戦」だったのかとい
うと、それは、言い過ぎというものです。

この時点では「選挙期間真っ只中」であり、そういう意味では報道機関には冷静で公正な
政治に関する報道姿勢が望まれました。

動機がはっきり分からないこの段階で、局サイドまで「言論の自由と民主主義に対する許
し難い犯行だ」と断定してしまっているかのような報道姿勢は、冷静さを欠いていると言
わざるを得ません。

(3) 事件の報道時間が長すぎるのでは?

さらに、気になるのは昨日、事件の放送時間が長すぎはしなかっただろうか、ということ
です。テレビ東京を除く各局とも、ほぼ事件発生時から夕方のニュースそして深夜のニュ
ースが終わるくらいまで、すべて特番編成をしてこの事件について放送しましたが、それ
は適切だっただろうか。

確かに元首相の殺害事件であるから、ことの重大さから言えば当然特番を編成するのに十分
値するのは間違いない。しかし、報道特番を編成するにはその「重大性」とともに「更新さ
れる情報量」も考慮されなければならない。

ニュースには「更新される情報量の多いもの」と「少ないもの」があります。

例えば、台風や地震などの自然災害は「更新される情報量の多いニュース」ということがで
きる。刻々と降水量などの情報は変化し、被害状況も変わっていくからだ。

あとは例えば被害者が多い事件・事故なども「情報量の多いニュース」だろう。刻々と死傷
者が見つかったり、その容体が変化したり、救助や原因解明などが進む場合には、特番を編
成して伝える事項がたくさんある。

しかし、昨日はどうだっただろう。安倍元首相は17時頃にはお亡くなりになっていた。

事件の発生状況も、衆人環視のもと行われた犯行だから謎は少なかった。犯人は既に逮捕さ
れていた。となれば、実は夕方のニュースが終了した19時頃にはすでにニュースとしては
「動きは比較的落ち着いていた」ということができる。

「事件本筋」で更新されるとすれば捜査当局の取り調べ状況くらいだが、逮捕直後で夜間で
もあるので、さほどの更新頻度は明らかに望めない。夫人も既に病院に駆けつけていたから、
それほど親族の動きもなさそうだ。となると、せいぜい放送できるのは、「事件発生状況の
まとめ」と「各界および各国の反応」と「これまでの安倍元首相の振り返り」くらいだろう。

しかし、テレビでは撃たれるシーンがこれでもか、というほど繰り返し流された。これだけ
で、ゴールデン・プライムタイムの時間を全て埋めなければならない。いくら、警察署や事
件現場、そして安倍元首相の自宅前などから生中継をしても更新される情報は乏しい。

となると、繰り返し事件発生当時の視聴者提供映像や写真などを流すしかない。そうすると、
繰り返し安倍元首相が銃器で撃たれる前後の映像が流されることになる。これは結果的に、
視聴者に恐怖の感情や不安感を植え付ける。中には衝撃的な映像を繰り返し見てショックを
受け、トラウマのようになってしまう人も出てくることになりかねない。
ニュースには「更新される情報量の多いもの」と「少ないもの」があります。

例えば、台風や地震などの自然災害は「更新される情報量の多いニュース」ということがで
きる。刻々と降水量などの情報は変化し、被害状況も変わっていくからだ。

あとは例えば被害者が多い事件・事故なども「情報量の多いニュース」だろう。刻々と死傷
者が見つかったり、その容体が変化したり、救助や原因解明などが進む場合には、特番を編
成して伝える事項がたくさんある。

しかし、8日はどうだっただろう。安倍元首相は17時頃にはお亡くなりになっていた。

事件の発生状況も、衆人環視のもと行われた犯行だから謎は少なかった。犯人は既に逮捕さ
れていた。となれば、実は夕方のニュースが終了した19時頃にはすでにニュースとしては、
「動きは比較的落ち着いていた」ということができる。

「事件本筋」で更新されるとすれば捜査当局の取り調べ状況くらいだが、逮捕直後で夜間で
もあるので、さほどの更新頻度は明らかに望めない。夫人も既に病院に駆けつけていたから、
それほど親族の動きもなさそうだ。となると、せいぜい放送できるのは、「事件発生状況の
まとめ」と「各界および各国の反応」と「これまでの安倍元首相の振り返り」くらいだろう。
しかし、実際には同じ映像とコメントの繰り返しと、安倍氏の礼賛という内容になっていきま
した(以下、次回)。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脱炭素は待ったなし―海洋酸性化の脅威―

2022-07-23 20:59:06 | 自然・環境
脱炭素は待ったなし―海洋酸性化の脅威―

「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第6次評価報告書(2021)によれば、
世界平均気温は工業化前と比べて、2011~2020で1.09℃上昇しています。

また、陸域では海面付近よりも1.4~1.7倍の速度で気温が上昇し、北極圏では世
界平均の約2倍の速度で気温が上昇します(注1)。

温暖化については、科学的な根拠はない“フェイク”だと主張する人々もいますが、
北極圏の氷の面積が縮小していることや、氷河が溶けて後退していることなどか
ら、否定できない事実(“ファクト”)です。

さらに、南太平洋の島国(ツバル)のように、海面が上昇して島が水没の危機に
直面している国もあります。これは、極地の氷が溶けて海面が上昇しているから
です。

私の個人的な経験でも、1974年の9月中頃にオランダに行った時、人びとはすで
冬のコートを着ていました。

その後、何回かオランダに行きましたが、行くたびに気温が上昇しているのを感じ
ました。

日本においても、1980年ころには8月の最高気温が30度を超える日はめったにあ
りませんでしたが、最近では今では35度を超す日は珍しくありません(注2)。

ところで、温暖化をもたらす気体は「温室効果ガス」とよばれ、それには二酸化炭
素のほかにもオゾンやメタンなどがありますが、これらのうち二酸化炭素(炭酸ガ
ス)の影響が75%を占め、最大の要因となっています。

このため、温暖化防止策の象徴として「脱炭素」が合言葉になっています。

「温室効果ガス」はあたかも温室のガラス屋根のように地球の上空を被い、地表に
降り注いだ太陽の熱は宇宙に放出されることなく地表に滞留します。

ところで、二酸化炭素が地球環境にもたらす影響のうち、温室効果についてはよく
知られていますが、海洋酸性化についてはあまり注目されていません。

しかし、海洋酸性化の問題は、温暖化とも関連しているだけでなく、海の生態系の
攪乱と、貴重な食料資源を減少させる事態をも引き起こしつつあります。

こんな折り、2022年8月17日にNHKBSプレミアムが放送したNHKスペシャ
シャル 「海の異変 しのびよる酸性化の脅威」は、非常にタイムリーなドキュメン
タリーです。

まず驚くのは、海と二酸化炭素との関係ですが、海は、大気中の50倍もの二酸化炭
素を吸収し、蓄積しているという事実です。

通常、大気中の二酸化炭素を吸収するのは地上の植物だけだと思っていましたが、海
も吸収していたことは知りませんでした。

これ自身は大気中の二酸化炭素を減らすという点ではとても心強いのですが、それに
よる海洋酸性化という厄介な問題を引き起こしています。

二酸化炭素は海水に取り込まれると、化学反応を起こし、海水を酸化させます。すると、
海中にいる生物を死滅させたり減少させてしまうのです。

中でも、クリオネに似たミジンウキマイマイ(つまり巻貝の一種)と呼ばれる翼足類プ
ランクトンは炭酸カルシウムの殻をもっているのですが、酸性の海水の中で殻が溶けて
やがて死んでしまいます。

日本の調査チームがベーリング海から北極海にかけて調査を行ったところ、翼足類の個
体数は2004年には23.9個いたのに、2019年に採取したサンプルには4・3
個/1㎥へと5分の1以下に激減していました。

しかも、その個体の殻には所々溶けて穴が空いていました。

翼足類のプランクトンは、大きな魚のエサとなっているため、この個体数が減少すると
いうことは、食物連鎖を通して、より高度の生態系に影響を与える可能性があります。

日本近海で獲れるサケの胃の中を調べると、その8割は翼足類です。

日本近海のサケの不漁はこれまで温暖化が原因ではないかと考えられてきましたが、
それだけではなく、エサとなる翼足類プランクトンの減少も関係している可能性もあ
ります。

もし、この種のプランクトンが消滅してしまうと、海の生物の5分の1が消えてしま
う、と推測されています。

海洋酸性化と、それに伴うプランクトンの減少は、日本チームが調査した北極圏にお
いて特に顕著でした。

というのも、北極圏においては近年の温暖化の影響で氷が融けて、空気と接する面積
が氷に覆われた面積が大きくなっています。

この際、海水は温度が低い方が多くの二酸化炭素を吸収するので、北極圏の海水はま
すます酸性化しています。

日本の調査チームが採取した翼足類の殻にもやはり穴があいていました。

北極圏だけでなく、南極の周辺でも、海水緒の酸性化と、それによる生物界への影響
が確認されています。

すなわち、クジラのエサとして知られている南極オキアミの生態を調べた結果、酸性化
すると卵の孵化率が激減することが分かっています。

以上みたように、温暖化が北極圏や南極圏の氷を溶かし→空気と海面が接する面積を拡
大し→それが海洋酸性化を引き起こし→翼足類などのプランクトンを減少させる、とい
うサイクルが出来上がってしまっています。

こうした現象は、北極圏だけではありません。アメリカ西海岸では、ダンジネスクラブ
というカニの体の一部が溶けてしまっていて、このようなカニは成長できないまま死ん
でしまっています。

現地の研究者の間では、将来的には、食材として人気があるこのカニは獲れなくなって
しまうのではないか、と心配しています。

さらに、東京湾においても、エビや貝などの底生生物に異変が起こっていました。東京
湾では毎年夏になると、海底の汚泥が熱で分解し、二酸化炭素が発生するため、海水は
賛成を示しています。

世界全体の海水は、pHの8.1ですが夏の東京湾では7.5~7.75という酸性の値
を示しています。

このため、ゴイサギ貝の表面はデコボコになっていますが、断面をみると貝の表面が融
けて厚さが薄くなっていることが分かります。

東京湾に関しては、そこの流入する河川の水が生活水を含めて有機物を多量に含んでいる
ため、このような現象が起こるものと考えられます。

世界全体の海洋水のpHは現在のところ8.1ですが、2050年には7.9、2080年には7.8、そし
て2100年には はっきりと酸性を示す7.7になると予想されています。

すでに述べたように、プランクトンの消滅によって海洋生物の5分の1が消滅してしまう上
に、海洋水の酸性化によって、さらに5分の1の海洋生物が消滅する恐れがあります。

こうして考えると、今起きている翼足類の減少と溶解、海洋水の酸性化という現象は大きな
危機の兆候なのだ、と考えなければなりません。

それでは、二酸化炭素が海洋水を酸性させる状況を少しでも食い止める方法なないのでしょ
うか。もちろん、まずは、地上での脱炭素を徹底的に推し進めることです。それに加えて、
自然界での脱炭素メカニズムを積極的に活用することです。

自然界では、海の海草が光合成で炭素を取り込み、それを動物プランクトン、魚が食べ、そ
のフンが海の底に沈殿します。

こうして、二酸化炭素が海底に蓄積します。このメカニズムは「生物ポンプ」と呼ばれ、毎
年92億トンと見積もられています。これは人間が輩出している二酸化炭素の2割に相当す
るのです。

これに着目した、岡山学芸館高校のある女子学生が2年前から、海草の一種、アマモを育てる
活動に取り組んでいます。

これが地球規模でどれほどの影響力をもつかは別にして、まずは身近なところで実践している
ことは、とても意義のあることだと思います。

また、熱帯や亜熱帯地域に形成される、マングローブ林は、その面積の40倍の熱帯雨林の面
積に相当する二酸化炭素を吸収します。

マングローブの葉は分解せずにそこに問いこまれた二酸化炭素は数百年も、海の泥の中で閉じ
込められます。

海の植物は、日本が排出する年間の二酸化炭素の14億トンに相当するり酸化炭素を削減するこ
とができる。

このように考えると、一方で海草を育てる活動を進めると同時に、今あるマンググロープ林の伐
採を止めるべきです。

いずれにしても、二酸化炭素の問題は温暖化の他にも、海の生態系をも壊してしまうという深刻
な問題をはらんでいることを十分理解しておく必要があります。


(注1)気象庁のホームページ https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html;
    地球温暖化防止活動推進センターのホームページ  https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge01
(2)『Goo 天気』 https://weather.goo.ne.jp/past/662/19800800/ 





  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

目を背けずに、現実を見つめよう(3)―日本はもはや「後進国」?―

2022-07-13 14:49:18 | 経済
目を背けずに、現実を見つめよう(3)―日本はもはや「後進国」?―

参院選が終わったばかりの7月13日の『日本経済新聞』(電子版)は、岸田政権の宿題として、
「日本、危うい先進国の座 成長源は雇用・規制改革に」と題する記事を掲げました(注1)。
その記事の中で、ノーベル賞経済学者クズネッツ氏の、「世界には4種類の国がある。先進国、
途上国、日本、アルゼンチンだ」という言葉を引用しています。

つまり、途上国から先進国になった日本は特別な国。途上国に転落したアルゼンチンもまたま
れだ、かつてアルゼンチンがたどったように、日本の先進国の座が危うくなってきた、という
ものです。

同じ文脈で、日経新聞の「日経ビジネス 電子版」(7月14日)では、日本の国際競争力の低
下に歯止めがかからないという現実を取り上げています。

6月16日、スイスのビジネススクールIMDが出した「2020年版世界競争力ランキング」で日本
の順位は過去最低となる34位に沈んだことです。これは、19年版の30位からさらに後退したこ
とを意味しています。

経済界の代弁者的なこの新聞が掲載したこれらの記事からは、日本経済が置かれている隠しよ
うもない追い詰められた実体と強い危機感がひしひしと伝わってきます。

日本経済は「失われた30年」と言われる長期の不況に喘いでいます。とりわけ、労働者の実
質的賃金は、過去30年間長期減少傾向にあります。

日本人の実質所得は、OECD35カ国中22位で、それより下は、日本とほぼ同水準のスペ
イン、ポルトガル、他はポーランド、リトアニア、エストニア、チェコ、ラトビア、ハンガリ
ーと、ポルトガル、ギリシアなどのヨーロッパの貧困国だけです。

では、なぜ、日本の所得が低くなってしまったのでしょうか?

それは、一にも二にも、就業者一人当たりの生産性、したがって付加価値(新たに加えられた
価値)が低いからです。

2020年の実績でみると、OECD38カ国中28位で、1970以降もっとも低い順位でした。
この年日本の一人当たり生産性は78,655(809万円)ドルで、アメリカは141,370ドル、OE
CDの平均は100,799ドルでしたから、日本の生産性はその78%ということになります。

しかも、この点で日本より生産性が低いのは、やはり上に引用した所得水準と同じで、バル
ト三国とポーランドなど東ヨーロッパ諸国です。

2020年当時は1米ドルが102円ほどでしたから、現在の円安の為替相場135円を単純に
当てはめると現在は60,000ドル弱(アメリカの40%)ということになります。

高度経済成長の只中に日本の企業も政府も、「物造り」こそが日本の特技であり強みである、
と自負していました。

実際、製造業の生産性だけをみると、2015年と2000年においては世界第一でした。まさに、
日本経済の絶頂期でした。

それが、2005年には9位、2010年には10位、2015年は17位、2018年、2019年は18位に下
がってしまいました。

すなわち2000年以降には、日本は世界に冠たる「物造り」大国から滑り落ちてまったのです
(注3)。

では、なぜ、日本の生産性、とりわけ得分野であった製造業においてもトップの座から滑り
落ちてしまったのでしょうか?

これには多くの要因が関係しており、それらのいくつかについては前回でもふれましたが、
ひとつだけ挙げると、日本企業の経営者は昭和の、良い商品を安く大量に売ること、「薄利
多売」で世界に君臨した「成功体験」から抜け出すことができなかったことがあります。

この「成功」の中身は、洗濯機、冷蔵庫、クーラーなどいわゆる「シロモノ家電」と言われ
る電気製品の輸出でした。日本はかつて開発途上国でしたから、「薄利多売」のビジネスを
するしか選択肢はありませんでした。

しかしこれらの製品は、韓国や中国に、続いてそのほかの開発途上国や新興工業国(BRI
Cs)でも安く生産できるようになり、日本の優位さは消えてしまいました。

その後日本は、世界で突出して優位を持つ製品なり産業を、リスクを冒してでも開発する機
運は生まれていません。

多くの企業が昭和の「薄利多売」のビジネスモデルから抜け出ることができず、日本は再び
途上国の時代の時代の水準に逆戻りしようとしています。

こうして、労働生産性の低い産業(付加価値が低い産業)途上国型の、儲からない産業が残
ってしまい、必然的に賃金は低いまま停滞が続いています。

これにたいして、船舶、自動車、鉄道部品、医療機器といった伸びが大きい分野では、米国
企業やドイツ企業が強みを発揮しています。

日本はボールベアリングやコンデンサーといった伸びが低い分野でシェアが高い。加谷氏は、
こうした日本の状況にたいして、“縮小市場で高いシェアを確保しても意味がない”と断じてい
ます(注4)

以上の現状を総合的に考えると、日本企業の多くは、リスクを冒してまでも新たな分野に投資
する気概を失い、低生産性→低賃金という流れが出来上がってしまっていてなかなかそこから
抜け出せない状況にあると言えます。

日本は1990年代に途上国型経済から先進国経済に転換するタイミングを迎えましたが、硬
直化した企業組織や政府の先見性のない政策のため、産業構造の転換に失敗してしまいました。

この間に欧米では、国も含めて新たな分野の開拓のためにリスクを負って、積極的に投資をお
こなってきました。

たとえば、2019年の年末の中国の武漢で謎の感染症(後に新型コロナウイルスと判明)が発生す
ると、ドイツ、アメリカ、イギリス各政府は国を挙げてワクチン開発に巨額の資金を製薬会社に
投入しました。

その結果、これらの国の製薬会社が、製薬会社は莫大な利益を得たのです。

しかし日本政府は欧米に匹敵する資金をワクチン開発に投じてきませんでした。結局、日本のオ
リジナルなワクチンは開発されず、いざ、コロナがまん延すると海外のワクチンを大慌てで買い
あさるはめになりました。2021年度だけで、日本は海外からワクチンの購入のために1兆6,685
億円もの大金を使いました(注5)。

同様のことは、さまざまな分野で発生しています。たとえば、再生エネルギーの開発やIT産業
などの開発に対する政府の投資は、欧米と比べてはるかに遅れており、今からではとうてい追い
付けない状況にあります。

こうして、気が付いてみると、2019年の日本は世界競争力ランキングの順位は63ヵ国中30位
で、1997年以降では最低の結末となっており、2020年にはさらに下がって34位にまで転落して
います。そして、平均賃金はOECD加盟35カ国中19位にとどまっています。

社会的・福祉についてみると、2019年の教育に対する公的支出のGDP比は43カ国中40位と
いう惨憺たる状況にあります。年金の所得代替率(現役時の所得のどれほどの%か)は49ヵ国
中40位、障害者への公的支出のGDP比は36ヵ国中31位、失業に対する公的支出のGDP
比は34カ国中32位、など、これでもかというほどひどい有様です。

あらゆる指標を総合して、加谷珪一氏はそのものずばりの著書『日本はもはや『後進国』と断じ
ています(注6)。

ここ1年でみるとさらに日本人の経済的苦境が明らかになります。低賃金、円安、コロナとウク
ライナ戦争の影響で、2012年を100とすると、2022年の実感に近い賃金は11%下がり、物価
は15・4%上がり、実感としては26%以上も生活が苦しくなっています(注7)。

加谷氏によれば、こうした状況をしっかりと受け止め、対応策を考えなければならないのに、これ
までの日本社会の反応はむしろ逆のようです。

最近はだいぶ落ち着いたものの、こうした主張を行うと、一部の論者や視聴者から「反日」「国賊」
など聞くに堪えない誹謗中傷を受けるというのが日常だったそうです(注8)。現実を直視しよう
としない人たちの不安の裏返しです(注8)。

エネルギーのほとんど、食料の60%以上も輸入に頼っている日本は、国家的なプロジェクトとして、
再生可能エネルギーの開発と、せめて食料の自給を達成することが先決です。

その上で、加谷氏の「日本はコンパクトな消費国家を目指そう」という提案に賛成です。
    一定レベルの生活水準があり、同一言語を話す消費者が1億人以上も集約している市場とい
    うのは世界を見渡してもそれほど多くありません。日本はこの消費市場をフルに活用すべき
    でしょう。
    1億人の市場があれば、無理に海外に進出することなく国内市場だけでも十分な収益を得ら
    れるでしょう(注9)。
まずは、日本は「先進国」で「大国である」という幻想を捨てて、地道に生きる方向に向かって進む
べきです。現実を直視し、何があるべき姿なのかの将来展望をはっきりと描くべき時がきています。
                  

                  注
(注1)2022年7月13日 2:00 (2022年7月13日 5:03更新)
    https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62557840T10C22A7MM8000/
(注2)日経ビジネス Online (2020年7月14日)
    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00157/071400004/?n_cid=nbpnb_mled_epu
(注3)日本生産性本部  <4D6963726F736F667420506F776572506F696E74202D2081798DC58F4931323136817A32303231313231378E9197BF
    5F984A93AD90B68E5990AB82CC8D918DDB94E48A723230323181698B4C8ED294AD955C90E096BE97708E9197BF816A> (jpc-net.jp) 
    および共同通信社プレスリリース
    https://www.kyodo.co.jp/release-news/2021-12-24_3657385/
(注4)加谷珪一『日本はもはや「後進国」』(秀和システム、2019)102~106ぺージ。
(注5)『全国保険医新聞』(2021年12月5日号より引用。
    https://hodanren.doc-net.or.jp/news/iryounews/211205_exdrg1.html
(注6)加谷珪一『日本はもはや「後進国」』前出書:3~4ページ。
(注7)テレビ朝日の「モーニングショー」(2022年6月20日)で紹介された、大和証
    券(株)の末広徹氏の試算
(注8)加谷珪一『貧乏国ニッポン―ますます転落する日本でどう暮らすか―』(幻冬舎新書、2020):108~109ページ。
(注9)加谷『日本はもはや「後進国」』前出書:203~204ページ。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

目を背けず、現実を見つめよう(2)―円安の奥に何が―

2022-07-04 15:22:43 | 経済
目を背けず、現実を見つめよう(2)―円安の奥に何が―

前回の、“目沿背けず、現実を見つめよう(1)”では、円安の実態をさまざまな角度から検討し、
その原因についても一部、ふれました。

たとえば、“ビッグマック指数”で比較すると、日本はアジア諸国と比べても安い方で、それは働き
手の賃金水準、家賃、その国の生活水準(所得水準)によって決まります。

さらに最近、テレビの情報番組で、さらに驚くべき円安の進行事情のニュースが流れてきました。

一つは、最近日本と韓国との旅行が一部解禁されたことにより、韓国からの訪日希望者が激増し
ているとのことでした。

日本にある韓国の旅行代理店によると、とりわけゴルファーの希望が殺到しているようです。と
いうのも、今、ソウル近郊のゴルフ場でゴルフを楽しむと、1日で4万円近くかかるからです。

ところが、日本では7500円からプレーできるので、交通費や旅費を含めても日本に来てゴル
フをした方がずっと安いのだそうです。

もうひとつは、今年はうなぎの値段が高騰するとのニュースです。中国ではもともとうなぎは高
級食材だったのですが、最近は特に人気が上昇し、国内消費が増加したのです。

農水省によれば、昨年(2021年)のうなぎの国内供給量は、62,926トン。うち輸入42,290ト
ン、国内養殖20,573トン、国内天然63トン(0.1%)です(注1)。

つまり、総供量の3分の2以上が輸入うなぎで、ほとんどが中国と台湾産です。これら両国でも
ウナギの養殖は盛んで、以前は日本向けに輸出していました。

しかし現在は、日本に売るよりも中国や台湾の国内に出荷した方が高値で売れるのだそうです。

このため、日本でのうなぎが品薄になり、国産であれ輸入物であれ、うなぎの価格は高騰してし
まうのです。

これらの事例は、一方で、“円安”の影響を反映していますが、別の面から見て韓国や中国・台湾
からみて日本は“安い国”になっていることがわかります。

かつて、日本人が開発途上国に行くと、全てが安く感じられましたが、それと同じことが、今や
外国化から見て日本の全てが安く感じられるようです。

この背景には、日本人の収入水準がこの30年間、ほとんど増えていないという現実があります。

ちなみに、最近米アップル社が従業員の最低時給を22ドルに引き上げた。1ドル135円換算
で2970円です。ヨーロッパでも、ドイツ政府は最低賃金9.8ユーロを、今年10月から12
ユーロ(約1700円)に引き上げる予定です。

これに比べて日本の動きはいかにも鈍いままです。全国の加重平均最低賃金額は930円。地方
では800円台の県もあります。

今月に公表された政府の「骨太の方針」でも「できる限り早期に1000円を目指す」だけで、具
体的な賃上げ時期は示されませんでした。

日本の最低賃金1000円という“目標値”でさえも、ドル換算で7.5ドルほど。先進国から見たら
かなり低い水準です。

古賀茂明氏は、このような状況になったのは自民党政権は財界の要請で1996年の「労働者派遣法」
の大幅改定によって、非正規雇用をそれまでの13業種から26業種へ拡大し、さらに2004年には
ついに、”聖域“だった製造業にまで拡大したからだ、と指摘しています(注2)。

実際、契約社員や年期付き雇用や臨時雇用、アルバイト契約など、低賃金で解雇し易い非正規雇用
を増やしてきました。

おそらく、自民党のスポンサーである財界の要請を受けて、こうした”労働形態の多様化“という、耳
障りの良い言葉で、実質的な低賃金が固定化されてしまいました。

日本の多くの企業は、一時的には低賃金のメリットで、コストを安く抑えることができて、大いに喜
んだかも知れません。しかし、これは非常に近視眼的な姿勢です。

したがって、回りまわって、国内市場を狭め、日本経済全体の沈滞をもたらしているのです。

つまり長期的には国民の多くの所得が低いままだと、国内の購買力が減少し、消費は伸びません。労
働者の低賃金→低い購買力→製品価格の低迷→企業利益の減少→労働者の低賃金、という「負のスパ
イラル」が完成してしまっています。

下の図(注3)は、OECD加盟35カ国(比較的豊かな国)のうち、日本はどのあたりに位置して
いるかを示したものです。
               
                   
                    



日本のGDPは確かにアメリカ、中国に次いで世界第三位ですが、労働者の平均賃金でみると、OE
CD加盟国35カ国中22番目。これが、偽らざる日本の実像です。

この図が意味するところは、国全体のGDPではなく、個々の日本人の賃金が世界の水準と比べてと
ても低いことです。

同じアジアの韓国には5年前に抜かれてしまっています。実数でいうと、2020年の年収で日本は韓国
より3445ドル少ない。これを2022年7月の1ドル=135円で換算すると、46万5000円も
少ない計算です。

政府による、低賃金政策と法人税の引き下げがあまりにも簡単に実施されてしまったので、企業はそ
れによる利益に甘んじてしまい、もっと本質的な生産性の向上のための技術革新や新規事業の開拓な
どに投資する意欲を失ってしまったかのようです。

その一方で、得た利益はひたすら「社内留保金」として貯め込んでしまい、働く人たちに配分するわ
けでもなく、かといってリスクを負って新たな事業に投資するわけでもありません。

もっとも、これは大手企業の場合であり、雇用全体の6割以上を占める中小企業では社内留保金を貯
め込む余裕などなく、多くの場合、大企業の下請け的立場で、生き残るためにさらなる人件費の削減に
追い込まれ、したがって低賃金が定着するというサイクルに陥っているというのが実情です。

安倍政権の下で、企業に地位上げをを要請しましたが、一向に賃金は上がりませんでした。岸田首相
も労働者の賃金を上げるよう企業に要請していますが、賃金を払うのは企業であり、政府が操作でき
るものではありません。

日本の企業の中でも、一部の輸出企業は円安によって巨額の為替差益が入るので、それに満足し、円
安政策を歓迎しています。

日本の平均賃金が低いのは、政府の政策やリスクを負いたくない企業の体質の他にもいくつかの理由
があります。それについては、次回にもう少し掘り下げて検討します。

(注1)農水省のホームページ https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0106/15.html
(注2)古賀繁明氏のコラム 『週刊プレイボーイ』デジタル版(2022年7月1日)
 https://wpb.shueisha.co.jp/news/politics/2022/07/01/116679/
(注2)DIAMOND ONLINE (2021 年8月2日 5:20)

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする