大木昌の雑記帳

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バイデン大統領の就任演説(1)―アメリカは分断を乗り越え団結を取り戻せるか―

2021-01-26 14:57:51 | 国際問題
バイデン大統領の就任演説(1)
―アメリカは分断を乗り越え団結を取り戻せるか―

2021年1月20日(日本時間21日深夜)、ジョー・バイデン氏が正式に第46第大統領
に就任しました。

就任式のオープニングにレディー・ガガは腰から下はたっぷりとした深紅のドレス、上半身
は黒という姿で登場し、国歌を熱唱しました。この時の様子はYou Tube で観ることができま
すので、是非アクセスしてみてください(注1)。

選挙運動中からバイデン支持を表明し集会で応援演説をしていた彼女にとって、この日はひ
ときわ感動的な1日となったことでしょう。彼女は歌いながら心の中で、喜びと感動で泣い
ていたのではないかと思います。それらの万感の思いを爆発させたその歌声に、確かなオー
ラを感じました。

今回の就任式は、6日のトランプ支持者による議事堂乱入という事態を受けて、ワシントン
の会場周辺を州兵が取り囲むなど、異常な状況で行われました。

熱狂的なトランプ支持者は今でも、選挙は不正で「盗まれた」と信じているし、アメリカは
邪悪な秘密結社によって乗っ取られる危機にあり、トランプはそれに立ち向かう救世主であ
る、という陰謀論を信じています。

私は、ありえないような陰謀論にすがるしか気持の持って行き場のない多くの人びとの不安
と絶望がいかに広く根深いものかをつくづく感じました。

国民の半分近くがトランプ支持者であるという現状、アメリカ社会に厳然として存在する深
い分断の闇をどのように克服してゆくのか、バイデン政権が担った課題はこれまでになく重
いと言えます。

その課題に挑もうとするバイデン氏の姿勢は就任演説で示されていますので、見てみましょ
う。なお、この演説は新聞各社で掲載されていますが、ここでは『東京新聞』(2021年1月
22日 朝刊)の全文・英和対訳を参考にします。

上記の新聞では、演説の順序に従って大きく6つのテーマに分けているので、ここでもそれ
に従ってみてゆきます。

6つのテーマとは、1 民主主義の勝利、2 団結に全霊注ぐ、3 全国民の大統領、
4 闘いに終止符を、5 国際関係を修復 6 偉大な国の物語 です。それぞれのテーマ
についての言葉には歴史的背景と重みがあり、これらすべてについて書くことはできません。
そこで今回は、「民主主義の勝利」と、「団結に全霊注ぐ」を取り上げます。

1 民主主義の勝利
演説は「今日は民主主義の日、歴史と希望、再生、決意の日だ」という言葉から始まりまし
た。そして、「われわれは民主主義は尊くもろいものだと改めて学んだ。諸君、民主主義は
今、勝利したのだ」と続きます。

この言葉の背景には、「何日か前、この神聖な場所で暴力が連邦議会議事堂の土台をゆるが
そうとした」事件があります。

正当に行われた選挙結果を覆そうと、トランプは腹心の副大統領のペンス氏に、議会で選挙
結果を認めないよう圧力をかけましたが、ペンス氏はこれを拒否しました。

共和党の、そしてアメリカの良心がかろうじて保たれた一瞬でした。そこでトランプ氏の支
持者たちは選挙結果を確定する議会に乗り込んで暴力的に阻止しようとしたのです。

民主主義は黙っていても保たれるわけではなく、常に努力して維持して、時には果敢に闘っ
てゆかなければ、たとえば暴力や陰謀論によって壊されてしまう「もろさ」をもっているこ
とをバイデン新大統領は訴えました。

就任式前に異常な暴力的事件があったとはいえ、就任演説で、まず民主主義の大切さを訴え
るというのは、アメリカの価値というのはやはり民主主義の体現者であることなのだと思い
ました。

もちろん、これまでアメリカがアジア・アフリカ・イスラム諸国、中南米で行ってきた、数
々の蛮行、武力行使や、国内に見られる人種差別を考えれば、個人的にはどちらかと言えば
批判的だし、単純に賞賛ばかりではありません。

しかし、それでも、就任の第一声で「われわれは候補者の勝利(つまり自分が大統領選に勝
利したこと)ではなく、大儀、民主主義の大義(the cause of democracy)をたたえる。人
々の意志が届き、聞き入れられたのだ」と宣言したのは、とても格調高く響きました。

日本の政治において、権力の座に就いた首相や与党の党首が、「民主主義の大義」を口にし
たことがあるでしょうか?

菅首相の就任演説においても、初めての所信表明においても、一度も「民主主義」という言
葉は発せられませんでした。

失礼ながら、バイデン新大統領が見ている世界と、携帯電話の通話料値下げとGo To キャン
ペーンにこだわる菅首相との落差に愕然とする思いです。

バイデンは、現在、アメリカには修復すべきものや回復すべきものもの、癒し、構築し、そ
して獲得すべきものが多くある、と説きます。

というのも、100年に1度のウイルスが1年で第二次大戦でのアメリカ人犠牲者と同じく
らいの命を奪い去ったこと、数百万もの雇用が失われたこと、多くの企業が倒産したことな
ど、米国史上これほど多くの難題に直面したことはないからです。

そして、次の一節で、彼の政治姿勢と決意を述べます。
    地球自身が生き残りを求めて叫びをあげている。これ以上に必死で明確な叫びはな
い。そして今、台頭する政治的過激主義や白人至上主義、国内テロに正面から立ち
向かい、打ち負かす。
これは、バイデンのトランプおよび暴力を肯定する過激な支持者への挑戦状でもあります。

しかも、議事堂への乱入者たちの中に、絞首刑のための装置を議事堂近くに用意し、「ペン
スの首を吊るせ」と叫んでいた極右過激派の存在を考えれば、バイデン氏は本当に殺される
かもしれない、命をかけての闘いを宣言したことになります。78才という高齢ではありま
すが、バイデン氏の精神的な強さは並外れています。

次に、2「団結に全霊注ぐ」についてみてみましょう。

アメリカが抱える困難を克服し、「米国の魂を回復し、将来を守るためには、・・民主主義
の中で最も得がたい(注2)ものを必要とする。団結・団結だ(Unity. Unity)。

バイデンが「団結」を強調するのは、今回の大統領選挙を通じて、バイデンとトランプ前大
統領の支持がほぼ真っ二つに分かれ、今まであまり目立たなかったアメリカ社会の分断が表
に噴出し、多くのメディアがアメリカ社会の分断を盛んに取り上げてきたからです。

しかしバイデンは、このような意味での分断だけを修復するために団結を呼びかけているわ
けではありません。

直面している敵と闘うために団結が必要だからです。それでは、バイデン氏は何を「敵」と
みなしているのでしょうか?

彼は、闘うべき「敵」は怒り、憤慨、憎悪、過激主義、無法状態、暴力、疾病、失業を挙げ
ています。

彼は、これらの分断をもたらす「敵」を団結によって克服し、引き裂かれたアメリカ社会に
おいて、「仕事に報酬を与え、中間層を再建し、人種間の平等をもたら」すことによって
「再び米国を世界のけん引役(leading force)にすることができる」と信じています。

人種間の平等は、この前の部分で、「400年求めてきた人種間の平等への渇望がわれわ
れを突き動かす」と述べており、「黒人の命も大切だ」(Black Lives Matter)という昨年の黒
人を白人警官が殺したことから沸き上がった反人種差別の動きを念頭に置いていると思われ
ます。

ところが、唐突に「中間層を再建する」という部分は、やや分かりにくいかもしれません。
しかし、ここはアメリカ社会を過去十数年にわたって蝕んできた深刻な病の克服を訴えてい
るのです。

一部のITや金融に携わる人たちが法外な利益を得ている反面、大部分のアメリカ国民、とり
わけ、歴史的にアメリカの民主主義を支えてきた最も重要な中間層は没落して貧困層に転落
してしまったからです。つまりアメリカ社会における貧富の格差が、あまりも大きく埋めが
たくなってしまったのです。

言い換えると、中間層こそがアメリカの民主主義を体現する人々で、彼らこそが国民の分断
をつなぎ、過激主義を抑え、社会の安定をもたらす「おもり」の役割を果たしてきたのです。
もし、中間層を再建できなければ、天秤はどちらか一方に傾いて、アメリカ社会はとてつも
ない混乱と不安定に陥ってしまうでしょう。

バイデンは分断の深刻さを熟知しています。「分断の力は深刻で、現実のものだ」、これま
でも多くの分断を経験してきたが、「われわれの良心が常に勝ち抜いてきた。そして今、わ
れわれにはそれができる。歴史、信念、そして理性は道を示す。団結への道だ」と訴えます。

「団結を口にすると、一部の人々には愚かな空想に聞こえる」かもしれないが、われわれに
はそれができる。なぜならわれわれは「互いに敵ではなく隣人としてみることができ、尊厳
と敬意をもって互いに接することができるからだ」。

バイデンは易しい言葉で語りかけます。この点、「アメリカを再び偉大に」とは「アメリカ
第一」という単語を激情的に発するトランプとは対照的です。

しかし静かな語り口の中に、バイデンが分断を克服し団結を取り戻すことに全霊を注ぐ覚悟
と強い決意が伝わってきます。

こんな政治家が日本にも欲しいな、とつくづく感じました。

(注1)いくつものサイトでレディ・ガガさんの国家を聞くことができますが、たとえば
 https://www.youtube.com/watch?v=lnSVSLvltpcにアクセスしてみてください。

(注2)「得がたい」の言語はelusive で、これwatchは、“つかまえどころがない、つかまえても、するりと抜けてしまう”
というほどの意味で使われます。それを訳者は「得がたい」と訳しています。“しっかりとつかまえておくことが難しい”と
も訳せます。


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新型コロナウイルス禍の意味論―「コロナと共に」とは?―

2021-01-18 13:23:29 | 健康・医療
新型コロナウイルス禍の意味論―「コロナと共に」とは?―

現在の新型コロナウイルス禍に関して、ずっと一つの疑問をもってきました。

それは、なぜ、今、世界中で新型コロナウイルスの感染者と死者が日々増え続けるコロナ禍
が発生しているのか、という疑問です。

もちろん、今回の新型コロナウイルスは、未知の新型ウイルスであるといえばそれまでです。

つまり、サーズやマーズのようにすぐに症状がでたり、エボラ出血熱のように感染者を直ち
に重症化させたり死に至らしめるタイプのウイルスならば、発症した患者とその周辺の人び
とを隔離してしまえば、比較的簡単に抑え込むことができます。

しかし新型コロナの場合、感染したばかりの数日は発症せず、したがって本人も周囲も無症
状のままで歩きまわり人と接触することで、ウイルスをまき散らしてしまいます。

そして、このウイルスの死亡率はそれほど高くはありません。このため、ヒトは少しみくび
って警戒心をゆるめてしまいます。

こうして時間を稼いでいる間に、ウイルスは、思う存分子孫を拡散することができることに
なります。

この意味で、新型ウイルスはヒトにとって、非常に皮肉で意地悪な性格の持ち主です。

ところで、武漢で大規模な新型コロナウイルスの大規模な発症が生じて1年経ちました。

この間、医者や科学者は総力を挙げてその正体を解明してきました。その結果、今では変異
したタイプも含めて、この新型ウイルスの遺伝子構造は完全ではないにしても、かなり解明
されつつあります。

しかし、問題は、正体は分かったが、ではコロナに感染した場合、どのように治療すればよ
いのか、その方法は今のところ見つかっていないことです。

すでにワクチンもいくつか開発され、緊急避難的に接種が始められていますが、その有効性
も安全性も十分に検証されていません。

もう一つの頼みは、治療薬です。今のところ有効かも知れないという程度の治療薬の候補は
いくつかありますが、まだ特効薬と言える決定打は出ていません。

そこで、「コロナと共に」あるいは「コロナとの共生・共存」(with corona)といった言葉が
時々メディアなどで見られます。

こういった言葉は、コロナウイルスは簡単に消滅することはないから、コロナとの共存を覚
悟しなければならない、という意味で使われる場合が多いと思います。

あるいは、「自然との共存」と同じ文脈で「コロナとの共存」という表現を使っているのか
もしれません。

コロナも人間も「自然」の一部ですから、「コロナとの共存」は間違いではないでしょう。

しかも、ウイルスという生物は、人類が登場するはるか昔からこの地球上に存在している、
いわば人類の大先輩、それに比べると人類は新参者です。

コロナウイルスに限らず、そもそもウイルスという生物がこの地球上に存在し続けていると
いうことは、そこで何らかの役割を果たしているからに違いありません。

たとえば、人間との関係でいえば、母体の中の胎児は父親の遺伝形質を半分もっており、母
親の免疫システム(リンパ球)はそれを“異物”と認識して攻撃してしまいます。そこで、こ
のリンパ球が胎児の血管に入り込むのを防いでいるのがウイルスでることが分かっています。

この他にも、このような例は無数にあるでしょう。もし、ウイルスが他の生物を攻撃し傷つ
けるだけなら、今日のように、無数の種類のウイルスは存在できないでしょう。

ここで、新型コロナウイルスを例に、ウイルスの立場に立って、彼らがどのようにして生き
残り、場合によっては増殖してきたのかを考えてみましょう。

まず、新型コロナウイルスも、生物として一定の環境の中で生存しています。この際、ウイ
ルスは、その生存を脅かす幾つもの“敵”との生存競争に勝たなければなりません。

その“敵”の一つは、同類のウイルスです。

コロナウイルスにはサーズ、マーズ、インフルエンザなどいくつかの種類があり、それらの
間での生存競争があります。今年はインフルエンザが例年の0.3%しか発生していません。こ
れは、新型コロナウイルスとの“闘い”でインフルエンザのウイルスが抑えられたからだと考
えられています。

さらに、新型コロナウイルスも、時間が経つにしたがって次々と変異してゆきます。しかし、
その中でも、環境に最も適応したタイプの変異種のウイルスだけが生存競争の“勝者”となっ
て、他のウイルスを駆逐してゆき、その時、その場所における支配的なウイルスとなってゆ
きます。

この「環境」の中には気温、湿度などの自然条件だけでなく、後に述べるように感染相手の
ヒトの免疫、医療(ウイルスに対する攻撃)、社会状況などあらゆる外部条件が含まれます。

以上を念頭に置いて、「コロナとの共存」という言葉の意味内容をもう一度考えてみたいと
思います。

ここまで見てきたように、ある生物が生き残るには、食うか食われるかの熾烈な自然界の闘
争に打ち勝たなければなりません。

今回の新型コロナウイルスも、一方でウイルス同士の戦いのほか、ヒトとの闘いにも勝たな
ければなりません。

ウイルスは自己増殖できないので、さまざまな障害を乗り越えてなんとかうまくヒトの体内
(細胞内)に入り込み、子孫の増殖を図らなければなりません。

まず、ウイルスがヒトの体内に入ると、免疫システムをすり抜けるために、細胞の入り口と
なる突起と自らの突起(いずれもタンパク質)を合わせてまんまと細胞内に入り込んでしま
います。

一旦、ヒトの細胞内に入り込むと、直ちに暴れまわるのではなく、しばらく無症状の状態を
続けるので、その間にヒトは感染に気が付かず動き回っている間に増殖します。

宿主となったヒトをすぐに死なせてしまうのは、そこで増殖が止まってしまうという意味で、
ウイルスの増殖戦略としては“失敗”なのです。

私は、かつて感染症の問題に関わっていたとき、エイズの専門家が、エイズ・ウイルスはヒ
トに感染してもすぐに殺さず、できる限り多くの人にウイルスを増殖させるという、とても
ずる賢い戦略で子孫を増やしている、と言った言葉を思い出します。

今回の新型コロナウイルスの場合、感染したヒトの多くは死なないまでも、さまざまな症状
に苦しめられます。その中で、体力や免疫力が弱まっている高齢者や基礎疾患を持っている
人が亡くなってしまいます。

今回の新型コロナウイルスの場合、まだ未知の部分があり、これまで人間はこれとの闘いで
絶対に打ち勝つ武器や方法を見出していません。

これからは、人間がワクチンとい武器を使ってウイルス退治に乗り出し始めているので、こ
れからがヒトとウイルスとの、もう一段階進んだ命を懸けた闘争となります。

その闘いがどれほどの期間続き、その結末がどうなるかは全く分かりません。ただ、結末の
一つの形は「共生」です。

たとえば、私たちの腸の中には無数の腸内細菌、たとえば大腸菌、がいます。今でこそ、こ
れらの細菌はヒトの体の一つのパーツとして、ヒトの生体を維持する上で一定の役割を果た
すようになっています。

しかし、ここに至るまでは、やはりヒトと大腸菌との間で食うか食われるかの闘争の歴史が
あって、長い時間をかけて徐々に妥協点を見つけ、お互いに殺すことなく共存する、共生関
係に落ち着いたのではないかと思われます。

私は「コロナとの共存」というのは、それほど簡単ではないと覚悟しています。

さて新型コロナウイルス禍の意味論という意味では、「なぜ、今?」という問いも重要です。

先ほど、ウイルスは生き残りをかけて、可能なら最大限の子孫繁栄のために与えられた環境
の中で最善の適応をする、と書きました。

その環境の中で、人間の側の変化も重要な要素です。たとえば、グローバリズムの中で人の
移動が地球規模で激しくなっていること、人口の増加、貧富の格差拡大、温暖化に表れる自
然環境の悪化、精神的な状況(特にストレス増加)、心臓病・糖尿病・脳・血管疾患・高血
圧など基礎疾患の増加、人間関係の変化、さらにヒトの基礎的な免疫力や抵抗力の変化(特
に低下)、などなど、さまざまな要因が関与しています。

現在、世界を覆っている暗い影、新型コロナウイルス禍の意味論を総合的に解読しようとす
るなら、これら人間社会のあらゆる場面を考える必要があるでしょう。

政府は、”人類がコロナに打ち勝った証として」オリンピックを何が何でも開催する勢いで、
無観客の競技も想定しているといいます。

しかし、もしコロナが消えていない場合には、”人類がコロナに敗北した証として無観客で
行う”、というブラック。ユーモアになってしまいます。


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トランプ大統領の断末魔―カルト集団化したトランプ支持者―

2021-01-11 11:44:45 | 国際問題
トランプ大統領の断末魔―カルト集団化したトランプ支持者―

2020年1月6日(日本時間7日)、トランプ支持者が大挙して連邦議会議事堂に乱入して暴れました。

この日は、米大統領選挙で各州に割り当てられた選挙人の投票結果が上下院の合同会議で確認され、次期
大統領を確定することになっていました。暴徒と化した群衆は、この確認、確定作業を妨害しようとした
のです。

この作業は通常、形式的な儀式で、今回は大差でバイデン候補の勝利が決まっていました。

この合同会議に先立って、ジョージア州の上院2議席を争っていた選挙で、トランプ支持の候補者二人が
民主党候補に敗れ、共和党はまさかの2議席を失うことが決まっていました。それは同時に、バイデン率
いる民主党が、上院・下院ともに多数を制したことを意味しました。

ジョージア州はこれまで共和党の地盤でしたから、この選挙はトランプ氏にとって、自分への支持が今で
も健在であることをアピールする最後の機会でした。

さらに、民主的な手続きによる選挙と、トランプ氏が起こしていた選挙の無効を訴えた60ほどの裁判で、
ほとんど敗北しました。共和党派が多数を占める最高裁においてもトランプ氏は敗れ、選挙結果を覆す合
法的な手段は全て封じられてしまいました。

トランプ氏が、最後に自分の力を誇示する方法が、議事堂での直接行動を支持者に促す(事実上、煽動す
る)ことでした。

この“議事堂乱入”という暴動が起こる前、トランプ氏は、首都ワシントンに集まって抵抗の意志を示すよ
う呼びかけていました。

トランプ氏はこの時まで、選挙ではトランプが圧倒的に勝っているのに、選挙に不正があり、「選挙は盗
まれた」、と語り敗北を認めませんでした。そして、6日にはホワイトハウス南側の広場で、「もっと強
硬に戦わなければならない」「弱腰ではこの国を取り戻すことはできない」、さらに合同会議の長を務め
るペンス副大統領の名を挙げて「彼は正しいことをしてくれる」と語り、彼に結果を覆すよう公然と要求
しました。

最後にトランプ氏は群衆に向かって、「ここにいる全員が連邦議会議事堂に行き、あなたたちの声を聞か
せるために行進することを知っている」と語った後、「皆で連邦議会まで行こう」と呼びかけました(
『朝日新聞』2021年1月8日)。

この呼びかけがきっかけとなって、集会に集まったトランプ支持者の群衆の一部は暴徒と化し、ガラスを
割って議事堂内と本会議場に乱入したのです。

その時の映像は、何度もテレビで映し出されましたが、私も、とても現実のこととは信じられませんでし
た。そして5人の死者と、議事堂内部の議会内の破壊を行った後、州兵により排除されました。

私は、なぜ、このような事態が発生したのか、乱入した群衆はどんな人たちなのか、そもそもこうした熱
狂的なトランプ支持者とはどんな人たちなのか、といった疑問を抱きました。

今回の議事度乱入に関しては、トランプ大統領が煽ったとして共和党内部からも批判が出ています。トラ
ンプ氏の側近中の側近であるペンス副大統領も再開された合同会議の冒頭で、
    アメリカ議会の歴史において暗黒の日になった。ここで起きた暴力を可能な限 り強い言葉で非
    難する。ここで大きな混乱を引き起こした人たち、あなたたちは勝利しなかった。暴力が勝利す
    ることはない。自由こそが勝つ。世界の国々は、我々の民主主義の回復力と強靭さを目の当たり
    にするだろう。
と話しました(注1)。ペンス氏は、トランプ氏の断末魔の絶叫の中で、かろうじて共和党の良心を示し
たといえるでしょう。

議事堂への乱入に対して、海外からも非難が寄せられました。欧州連合(EU)のミシェル大統領も早速
これを批判し、ドイツのメルケル首相は7日、議会乱入は「私を怒らせ、また悲しませた」とコメントし
たうえで「責任はトランプ氏にある」彼は「暴力的な出来事が起こりうる雰囲気を作り出した」と非難し
ました。つまり、この暴動はトランプ氏の煽動によるもので、その責任はトランプ氏にあるとしました。

そのほかフランスンのマクロン大統領、スペインのサンチェス首相、北大西洋条約機構(NATO)の事務
総長も「衝撃的な光景。民主的な選挙の結果は尊重されるべきだ」と投稿しました。

トランプ氏の盟友、イギリスのジョンソン首相も「米議会の恥ずべき光景だ。米国は世界の中の民主主義
を表象しており、平和的で秩序ある政権移行が重要だ」とコメントしました。

コロナ対策で成功したニュージーランドのアーダーン首相は「人々が投票し、その意見が公になり、決断
が平和的に支持されるという民主主義は、暴徒によって滅ぼされるべきでは決してない」と強調したうえ
で、「民主主義が打ち勝つことを信じて疑わない」と述べました。

アジアの国ではインドのモディ首相は長年トランプ政権と親密な関係を築いてきましたが、「民主主義の
手続きが不法な抗議で覆されることは許されない」と非難しました(『日本経済新聞』2021年1月8日:
『東京新聞』2021年1月8日)

さて、トランプ政権との蜜月関係を世界にアピールしてきた安倍元首相、及びそこで官房長官として仕え
てきた菅現首相は、今回の暴動対して世界に向けて何のメッセージも発していません。日米同盟が日本外
交の基軸というなら、何らかのメッセージを出すべきでしょう。

ところで、トランプ大統領の岩盤支持層とはどのような人たちなのだろうか?伝統的に、トランプ氏が属
する共和党の岩盤支持層は白人の富裕層と保守的キリスト教プロテスタント(福音派)の人びとでした。

もう一つ大きな支持層の塊は、グローバル化と自由貿易の進展で痛手をこうむってきた白人のブルーカラ
ー労働者です。つまり、輸入の増加により国内での製造業の労働者は仕事を失ってきました。さらに、企
業が海外に出てゆくことでも国内の失業と賃金の低下をもたらしてきました。加えて、1100万人とも
いわれる移民(特にヒスパニック系移民)によってこうした労働者は職を奪われていると感じてきました。

アメリカ第一主義、「アメリカ・ファースト」「アメリカを再び偉大な国に」というスローガンはとりわ
けこうしたブルーカラー層に強くアピールしたものと思われます。

共和党の執行部は新自由主義政策を推進し税制面で富裕層と大企業を優遇している反面、ブルーカラー層
は、熱烈な共和党支持者でありながら切り捨てられるという皮肉な立場に置かれています。

アメリカで高卒以下の白人労働者のトランプ支持は57%、大卒以上では40%です。トランプ支持層の
中には一部の富裕層と、膨大な数の白人貧困層という構成です。これらのうち、トランプ氏の集会に出た
熱狂的な支持者、今回議事堂に乱入した人たちは白人の貧困層のようです(注2)。

熱狂的なトランプ支持者にはさまざまなグループがあります。たとえば、プライド・ボーイーズ(極右の
過激派集団)、オースキーパーズ(極右武装集団)、ミリシア(市民武装集団)、白人至上主義のクーク
ラックス・クラウン(KKK)、ネオナチ集団、Qアノン(陰謀説を信じる人びと)などです。

これらの団体は、方法性に多少の差はありますが、白人至上主義(人種差別主義を含む)、反左翼(社会
主義・共産主義)、事実に基づかない陰謀論、熱烈な愛国主義(同時に、移民を排除しようとする排外主
義)などの傾向があり、しばしば武装し戦闘的な行動に出ます。

陰謀論でいえば、たとえば、ヒラリー・クリントン氏やバラク・オバマ前大統領、ジョン・ポデスタ氏、
(そしてなぜか)トム・ハンクスなど、民主党を代表する面々が実は児童売春組織の一味で、トランプ大
統領を狙った「ディープステート」なる大規模な陰謀計画を企てている、というような数々の陰謀論を信
じている、というような類のものです(注3)。

客観的には到底信じられない「作り話」を信じる人たちは、いまだにトランプ氏の勝利を信じ、敗北を認
めていません。

リーダーの言葉やメッセージをそのまま信じ、行動に出るという状況を、かつて日本のオウム真理教問題
に関わった江川紹子氏は、トランプ支持者が、危険なカルト集団化している、と指摘しています。(注4)

カルトにとらわれた人々は、リーダーの言うことを全面的に信じてしまうという意味で、とても危険です。
昨年の大統領選の際の集会で、トランプ氏の言葉に支持者が熱狂する光景をテレビで見て私は、まるでナ
チス台頭期にヒットラーやゲッペルスの演説に熱狂したかつてのドイツ国民の姿を思い出しました。この
時は共産主義とユダヤ人が標的になりました。

ところで、見逃せなのは、トランプ氏に忠誠を示して、選挙結果に異議を唱えた共和党議員が多かったこ
とです。彼らの言動もトランプ氏の暴走を許してきた重要な要因です。

今回の大統領選および議事堂への乱入を見てトランプ大統領の断末魔とアメリカ社会の病理を見た感じがし
します。後者の病理として、要約すれば社会内に生まれた埋めようの分断ということになりますが、二つだ
け挙げておきます。

一つは、よく言われる貧富の格差の拡大です。かつてのアメリカでは中産階級が社会中核を成し、アメリカ
的な自由と民主主義を体現していたと考えられます。しかし、グローバリズムは国内産業の衰退をもたらし、
ブルーカラー労働者が大量の失業と低賃金を生み出しました。現に平均的は労働者の30%が十分な貯蓄も持
っていません(注5)。彼らの将来に対する不安は限界まで高まりつつあります。そうした中で、共和党執
行部から疎外され、リベラルな民主党を受け入れることができない保守的なブルーカラー層がトランプ支持
者となっているのです。

この過程で、多くの中産階級の人々が貧困層へ転落していったことも見逃せません。これらの人びとは自尊
心と誇りを失い、何かに救いを見出そうとしています。

他方で、GAFAに象徴されるIT企業やその社員たち、あるいは金融取引によって途方もない富を手に入れて
いる人たちがいます。この埋めがたい貧富の格差に耐えられない人々にとって、トランプ氏の「アメリカを
再び偉大な国に」というメッセージは、希望を与えてくれる“魔法の言葉”として響いたと思われます。

二つは、ヒパニック系、アフリカ系アメリカ人、その他の有色人種の人口が将来的に白人を追い越してしま
うかもしれないことに対する恐怖です。これは一方で、人種差別や排外主義を生み、他方で白人の優越を擁
護するトランプ氏への共感を生みだいしていると考えられます。

こうした状況を、『東京新聞』(2021年1月9日)の社説は、次のように総括しています。
    分断が深まる米社会で幅を利かせるのは「トライバリズム(部族主義)」だ。人種、
    民族、政治信条などの違いに応じてできた集団に閉じこもり、異なる集団を許容しない。

議事堂に乱入した群衆や、熱狂的なトランプ支持者の多くは、この「トライバリズム」に閉じこもった人た
ちのようです。得票数をみると、バイデン氏8100万票に対してトランプ氏7400万票あったというこ
とは、アメリカ社会がほぼ二分されていることを示しています。これはアメリカ社会が抱えた深刻な分断で、
いつ暴発するかも知れない危険をはらんでいます。


                注
(注1) Yahoo ニュース/ HUFFPOST 1/7(木) 13:32 https://news.yahoo.co.jp/articles/e2389ff10668f942c67d441328ebd7d074ca5018
(注2)中岡望「トランプを支持しているのは誰か?アメリカ『極右化』の真実」https://ironna.jp/article/3874?; 
WEDGE Infinity 2020年11月5日 https://wedge.ismedia.jp/articles/- /21270
(注3)Yahoo News 2021年1月7日、19:07 ewshttps://news.yahoo.co.jp/articles/f566df033b95ea0ac0d6c6ee389d9fe42f48cbce
(注4)Yahoo ニュース 2021年1月8日、15:47
https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20210108-00216678/
(注5)(注2)の中岡望の論考参照。

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議事堂に突入するトランプ支持者                            議事堂内に乱入したトランプ支持者。牛の角の被り物を付けた、典型的なQアノンのメンバー
 
                         2021年1月7日  BBC NEWS Japan
                         https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/08/post-94270.php より転載


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戸部良一ほか著『失敗の本質―日本軍の組織論的研究―』から学ぶ(2)―政府のコロナ対策はなぜ失敗したのか―

2021-01-02 21:12:12 | 健康・医療
戸部良一ほか著『失敗の本質―日本軍の組織論的研究―』から学ぶ(2)
政府のコロナ対策はなぜ失敗したのか―

明けましておめでとうございます。

昨年はコロナで明け、コロナで終わった1年でした。今年は、このうっとうしい気分が晴
れることを皆様と共に祈ります。

昨年の12月には、ずっとコロン禍のことを書いてきて、もう、この暗いテーマは止めた
いと思いながらも、日に日に深刻化する事態を目の前にして、やはり今回もこの問題から
目を背けることはできないので、『失敗の本質』(2)を書くことにしました。

その前に、現状を確認しておきます。2020年12月31日時点で、新型コロナ陽性確
認者は23万8999人、重症者は716人、死亡4541人、退院19万3714人で
す(いずれも累計)。

日本におけるコロナウイルの発生源である東京都では、12月31日時点の陽性者はつい
に1377人と、これまでの最多を記録しています。これには、さすがに国民も東京都民
も衝撃を受けました。

日本医師会と東京医師会の会長が、年末には強い危機感を表明したことも当然でした。と
いうのも、現場ではすでに「医療崩壊寸前」ではなく、事実上「医療崩壊」が起きている
からです。

この事態は誰が見ても、安倍政権と、9月にそれを引き継いだ菅政権のコロナ対策の失敗
に他なりません。

前回の記事で旧日本軍の問題点について、著者たちの区分に従って、1.戦略的失敗要因
と、2.組織上の失敗要因に分けて整理しておきました。

今回は、これらの多数に及ぶ旧日本軍の失敗の要因と、具体的な戦闘作戦を念頭に置きつ
つ、安倍=菅政権のコロナ対策がなぜ失敗したのかを検証してみたいと思います。

『失敗の本質』の著作の中で、著者たちが指摘した戦略的問題一つは、短期決戦・奇襲作
戦が中心で長期的戦略を持っていなかったことです。

ハワイの真珠湾攻撃で日本軍は成功をおさめ、米軍の艦船に多大な損害を与えました。

この緒戦における成功体験により日本軍には、科学的・合理的な分析をすることなく慢心
と、戦う相手の能力を過小評価する楽観論を抱くようになりました。

その一方で、もし、相手(米国)が本格的に反撃出て、長期戦になった場合、日本はどう
対応するのかの長期戦略はありませんでした。

では、昨年の日本のコロナ対策はどうであったかを見てみましょう。

2020年1月、日本でクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス号」において、中国の武
漢発とみられる新型ウイルスの集団感染が発生しました。しかし、船という隔離された空
間での発生ということで、一般社会からの隔離がしやすかった、という状況に助けられて、
3月初めに一応の収束をみました。

しかし、この時、本当は新型コロナに対する長期的な戦略を立てておくべきでしたが、そ
の後、今日に至るまで、政府は長期的な戦略をもっていません。

これはコロナとの戦いにおける端緒、いわば“真珠湾攻撃”の成功にたとえられるます。

しかし、この成功体験は、次の大きな失敗の下地を作ってしまいました。3月になって首
相官邸はコロナ封じに自信を深めつつありました。国民の間にも、この新型ウイルスは大
した問題にはならないとの空気がただよい、「気のゆるみ」が蔓延していました。

実際、3月中旬まで、1日当たりの国内感染者は10~60人程度で推移していました。

当時官邸では、千人単位で感染者が出る日が相次いでいたイタリアなどヨーロッパの深刻
な事態は「対岸の火事」に映っていました。

官邸内の会合では「欧州はクラスター(感染者集団)対策が不十分。一体、何をしている
のかね」と、ヨーロッパ諸国での対応を揶揄する軽口も出ていまいた。

学生の卒業旅行などを通じたウイルスの侵入に対する警戒感は薄かったのです。

ところが、このころすでに、後に感染が急増するヨーロッパ経由とみられる「変異種」の
ウイルスがヒタヒと国内に侵入しはじめていたのです。

政府の中枢の「慢心」は国民に伝わり、3月20日からの三連休で全国の花見の名所は人
々でにぎわいました。この光景は何度もテレビで放送されました。花見客はもちろんマス
クをしていませんでした。

事態を心配した安倍首相は「緩んでいる」と周囲につぶやいていましたが、 菅官房長官
(当時)は「屋外は問題ない。花見はいいでしょう」と意に介していませんでした。

予想通り感染者は増え始めたため23日、小池東京都知事は「ロックダウン」(都市封鎖)
という言葉を発して注意を喚起しましたが、感染者は増え続けが末、3月27日には、1
日当たりの感染者は100人を超えるようになりました。

首相は緊急事態宣言の発令を考え始めましたが、菅官房長官と麻生副総理は、「人口から
すればたいしたことはない」と周囲に繰り返していました。「経済優先」を主張する政権
陣容の偏重が、裏目にでました。

ただし当時、政府にはまだ緊迫感はありませんでした。ある政府高官は、「4月直前まで
(緊急事態)宣言なんて考えてもみなかった。日本が世界で一番うまく対処していると思
っていた」と振り返ります(『東京新聞』2020年12月22日)。

しかし、感染は止まらず4月1日ころにピークに達する感染の「第一波」が首都圏を中心
に勃発しました。そこで政府はようやく4月7日、7都道府県に、そして16日には全国
に緊急事態を宣言しました。しかし、この時はすでに感染者は減少に転じていたのです。

そして、5月25日、この緊急事態宣言を終了させた日の夕方、安倍首相は記者会見で、
新型コロナウイルスについて「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で流行をほぼ収
束させることができた。日本モデルの力を示した」、と言い「すべての国民のご協力、こ
こまで根気よく辛抱してくださった皆さまに心より感謝申し上げます」と述べました。

安倍首相は自慢げに「日本モデルの力を示した」と世界に向かって宣言したのです。しか
し、この時、感染が減少した原因を徹底的に分析したわけではありませんし、「日本モデ
ル」とは何なのか、中身については言及しませんでした。

いずれにしても、この時の一時的「成功」が、第二の“真珠湾攻撃”の成功体験となって、
安倍首相にこのような言葉を言わせたのです。

ところがその後、有効なコロナ対策が講じられることなく、「第一波」から2か月後の7
月から8月にかけて「第二波」が、そして、11月後半からは「第三波」が燎原の火のよ
な勢いで全国に拡大しました。

この間、政府は感染抑制をしつつ「経済を回す」と言いつつ実際には感染抑制に対して何
ら有効な措置を講ずることなく、「経済を回す」ことに熱中し、Go To キャンペーンを年
末まで続行しました。

以上、今年の春からの状況を見てきましたが、ここまでの政府の対応策にはすでに、日本
軍の「失敗の本質」のかなりの部分が出そろっていいます。

まず、緒戦の真珠湾攻撃の成功体験が、軍部に相手の実力を過小評価させたように、第一
波の抑え込みの成功体験が、新型コロナの本当の怖さを過小評価させたことです。

日本軍が、真珠湾攻撃以降の大きな戦闘では全て負けたのに、同じ戦法で負けを繰り返し
ました。著者たちは、これは日本軍には長期的戦略がなく、失敗の反省や学習をせず、同
じパターンの戦闘を繰り返したからだと指摘しています。

この点では、安倍=菅政権でも同様で、長期的戦略がなく、一貫性を欠いた場当たり的な
政策を繰り返してきました。

日本軍で、攻撃に慎重論を唱える軍人を左遷し、積極派を重用したように、菅政権でも人
事面で、経済優先の政治家で閣僚を固め、異議を唱える官僚などは「飛ばす」「移動させ
る」と脅して、口を封じてきました。

また、『失敗の本質』は日本軍の本質的なの問題として、自分たちの過ちを認めること(
「自己否定」)をしないまま自己革新する能力を失っていたことを挙げています。

この点も安倍=菅政権は全く同じで、自らの過ちを認め、戦略的・組織的な革新を行うこ
となく今日に至っています。

その顕著な例は、コロナ感染を抑えつつ「経済を回す」という、ブレーキとアクセルを同
時に踏み、問題が発生すると小出しの政策でその場をしのごうとしている姿勢に顕著に表
れています。

これは、現実には無理であることは最初から分かっているのに、精神力で突破せよと号令
をかけて惨敗を続けた日本軍とよく似ています。

コロナ禍に対する政府の対応については、まだまだ書ききれない問題がたくさんあります
が、一旦ここで止めておきます。





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