大木昌の雑記帳

政治 経済 社会 文化 健康と医療に関する雑記帳

岸田首相の実像が見えてきた―「聞く力」はあるが、「答える力」は?―

2022-02-24 11:26:33 | 政治
岸田首相の実像が見えてきた―「聞く力」はあるが、「答える力」は?ー

岸田文雄首相は、自ら「聞く力」が強みだ、と折に触れて言ってきました。その、根拠として、
総裁選以来、カメラに向かって、聞いたことを書き留める手帳のようなものを見せています。

つまり「私は、国民の皆様の声をしっかりと書き留めていますよ」というパフォーマンスです。

確かに、首相に就任したばかりのころには、物腰が柔らかで、人の言葉に真摯に耳を傾けるよ
うな印象を与えていましたし、私もきたいしていました。

というのも、安倍元首相は、批判を受けると激高化し、相手を逆に攻撃したり、あるいは在任
当時、虚偽発言を120回以上も行ったり、話をそらしてまともに答えないことが多かったか
らです。

また菅元首相に至っては、批判に対しては冷たく無視し、最初からまともに答える姿勢があり
ませんでした。もっと言えば、語るべき「言葉」を持っていませんでした。

さすがに、これでは自民党内での支持さえ得られず、菅氏では選挙に勝てないという危機感を
もつ自民党議員が多く、総裁選への出馬を断念せざると得なかったのです。

これに対して岸田首相は、一応、人の話を聞く、というポーズをとっていましたので、多くの
日本人は、これで日本の政治も少しは変わるのかな、との期待をもちました。

しかし、その後の国会答弁やその他の場面で発言を注意して聞いていると、失望ばかりです。

たとえば、18歳以下の子育て世帯への一人当たり10万円の特別給付金問題の際、岸田首相
は当初、5万円を現金で、5万円をクーポンでという方針でした。

これは、おそらく公明党からの強い要請があったのかも知れません。

しかし、各自治体からは、現金なら1回の銀行振り込みで済むが、半分がクーポンとなると、
クーポン券の発行、郵送に莫大な費用がかかるし、受け取る人たちからは、断然、現金の方が
良い、との声が圧倒てきでした。

こうした自治体や国民の声に押されて、岸田首相は、県や市などの自治体が決めればよい、と
いうことに方針を変えました。

これにたいして、テレビの情報番組にコメンテータとして出場していたある芸能人が、“やはり
岸田首相は聞く耳を持っている”と持ち上げていました、これは少々、見当違いです。

巨額の税金を使うのですから、事前に自治体の意向、受給対象者の意向を調査し、ゆるぎない
方針を立てて実行すべきなのです。

というのも、5万円+5万円のクーポンという方法にたいしては、反対意見が出ることは分か
っていたからです。

だから、この方針転換は岸田首相の一貫性のなさ、確固たる政治思想のなさをいかんなく発揮
してしまった1件でした。

この後、ある自民党の議員は、“要するに見せ方だよ”と言ったそうです。つまり、政策がブレ
ることを、「聞く力」を発揮して柔軟に対応した、という風に見せればいいんだ、という意味
です。

岸田首相も自民党も、こんな方便で国民をだませると思っているとしたら、ずいぶん国民をな
めているな、と思いました。

岸田首相の発言を聞いていると、時には美辞麗句を連ねますが、その中身を冷静に分析すると
「空疎」な内容ばかりです。

元文部事務次官だった前川喜平氏は、岸田首相の発言をいくつか取り上げています。たとえば、
「政治の根幹である国民の信頼が崩れている。わが国の民主主義が危機に瀕している」(総裁
選中の発言)、と耳ざわりの良い言葉を発しました。

私も、“その通り よくぞ言ってくれた”、と思いましたが、その後、“その原因は何で”、“だか
ら私はどうする”、という政治家にとって根幹となる考えをついぞ聞いたことがありません。
これは、聞いているふりをして、実は、耳に痛いことは聞き流していることなのです。

また、本格的な論戦が国会で始まると、「丁寧な説明をしてゆく」「しっかりと検討してまい
りたい」との言葉の連発で、実は何もしていません。

これらの言葉にたいして前川氏は、「特に何もする気はありません」としか聞こえない、と皮
肉っています(『東京新聞』2022年2月22日)。同感です。


現在開会されている国会の発言に対して『東京新聞』(2022年2月22日)は、「首相、あい
まい答弁終始」というタイトルで、岸田首相の答弁に具体性がなく、「しっかり」と「検討」
などのあいまいな姿勢を批判しています。

私が岸田氏の政治思想や根幹となる理念にたいして深い疑念を抱いたのは、立憲民主党の玄葉
光一氏が、敵基地攻撃能力に関して「本質は何か」と尋ねたのにたいして、「国民の命や暮ら
しを守るための選択肢の一つとして、敵基地攻撃能力の議論がある」との答弁です。

この答弁は、何かを言っているようで、中身は何もありません。「答える力がないのです」。

同様に、岸田首相の看板理念である「新しい資本主義」とは何かを問われても、デジタルや気
候変動、経済安全保障など、「浮かび上がってきた課題を解決しながら成長と分配の好循環を
回していく」と、一般論、抽象論の説明に終始していました。

これを聞いて、何を言っているのか分かりますか?

以前、私の指導教官に、論文を読んでも分からないのは、書いている本人が本当には分かって
いないからだ、と常に忠告されました。

同じことは、スピーチについても言えます。聞いていて、何を言っているのか分からないのは、
実は話している本人が分かっていない可能性が高いのです。

しかも、岸田首相がひどいのは、相変わらず官僚が作成した作文を読み上げることです。

国際パフォーマンス研究所の代表、佐藤綾子氏は、「岸田さん『朗読家』を卒業なさい」と、
首相の演説力のなさを指摘しています(注1)。

佐藤氏によれば、話すときは、目はしっかりと前を向き、自分の言葉で語らなければ、聞い
ている方の心に響かないのです。

私が、岸田首相にリーダーとしての資質というか姿勢に大きな疑問を感じているのは、現在、
なかなか収束しない新型コロナウイルス問題にたいして、何の力強いメッセージを発してい
ないことです。

一国のリーダーは、国民に対して、今はこのような危機的状況にあるが、政府としてはこの
ように対応して行き、国民の健康と命を守ります、というメッセージを繰り返し発するべき
なのです。

これこそが首相に大きな役割なのです。しかし、岸田首相の姿も見えず、声も聞こえません。
実際、多くの国のリーダーは重要なポイントで国民に向かって、この危機に対する考えを発
しています。

ワクチンの目標もなかなか口にしなかった岸田首相が突然、2月7日に国会で「1日100
万回」と答弁しました。

正直、私は菅元首相がかつてワクチンを1日100万回打て、と盛んに叫んでしましたが、
岸田首相もそれを真似たかのか、と思いました。

ところが、どうやらこれには世論を意識した〝ウラ〟があったというのです。厚労省OBが
明かしました(注2)。

    首相がリーダーシップをとって目標として掲げたように見えますが、(厚労省の)
    後輩に聞いたところ、実はこの時期になって確実に1日100万回打てそうだと
    いう状態になったのです。それで、首相官邸と相談し、先にまず首相が100万回
    と言い、数日して『達成できた』というように、いかにも首相主導で実現したよう
    に見せようという戦略だったようです。

今や岸田首相は、たんに「聞く力」もなくし、大切な問題に対して「答える力」もなく、挙
句の果ては、上に見たように、トリック的な手法でその場その場を凌いでいます。

コロナ対策についていえば、ワクチンの手配と接種の準備が2か月も遅れてしまい、現在の
ような、蔓延と死者を含む犠牲者を増やしてしまったのです。

後手後手に回ったコロナ対策に対して謝罪もなく、自らの失政を認めず、もう「ピークアウ
ト」したかのような発言に失望します。

岸田首相の支持率が下がり続けていますが、国民もようやく岸田首相の実像に気が付き始め
たのではないでしょうか。

とはいっても、犠牲になるのはわれわれ国民です。今からでも政府ができることはたくさん
あります。

それについては、別の機会に書きたいと思います。


(注1)『毎日新聞』(経済プレミアム デジタル版 2022年2月16日) https://mainichi.jp/premier/business/articles/20220214/biz/00m/020/006000c?cx_fm=mailbiz&cx_ml=article&cx_mdate=20220222

(注2)『毎日新聞』デジタル版(2022年2月16日)
https://mainichi.jp/premier/business/articles/20220214/biz/00m/020/006000c?cx_fm=mailbiz&cx_ml=article&cx_mdate=20220222



  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

円安政策は日本経済を強くしたか―輸出は伸びず 家計は負担増―

2022-02-04 12:05:56 | 経済
円安政策は日本経済を強くしたか―輸出は伸びず、家計は負担増―

日本経済は、ここ20~30年、「失われた30年」とか「失われた20年」言われるように、
低迷を続けています。

これは、一部の企業を除いて生産性も収益、賃金も上がりません。日本経済は、あたかも不治
の病のような長期のデフレ状態に苛まされています。

安倍政権期に、いわゆる「アベノミクス」を導入し、「異次元の」金融緩和を行ってきました
が、事態は改善されていません。

今年、2022年1月、日銀の黒田東彦総裁は年頭の挨拶で、消費者物価の2パーセント上昇が達
成されるまで、今年も金融緩和を続ける、と明言しました。

ここで、「金融緩和」とは、日銀が行う金融政策のうち、金利の引き下げと、国債の引き受け
による市中へのお金(円)の供給量を増やすことが主な中身です。

金融緩和の目的は、景気刺激です。一つは、金利を下げることによって、企業が借り入れをし
て新たな投資を促進することです。

同時に、市中に大量のお金が供給されることによって、経済に活気が戻り、景気が上昇するこ
とが期待されます。

二つは、輸出の増加を促進することです。景気が上昇中で貨幣が不足している状況にあるなら
話は別ですが、日本経済は低迷し続けています。

こんな状況で国内に貨幣の供給だけが増えれば、日本の「円」がドルなどの海外の貨幣との価
値が相対的に下がること、つまり「円安」になることは必然です。

むしろ、安倍政権以降、政府は積極的に円安を誘導し、輸出促進を図ってきました。

円安になるということは、日本製品を買う側からすれば、安く買うことができることを意味し
ます。

たとえば1台200万円の車が、1ドルが100円の時には2万ドルしたものが、円安で1ド
ル150円になれば、1万3300ドルほどで買えることになります。

日本企業の従来のビジネスモデルは、良いものを安く作り・安く売ることで国際市場での競争
力を付け、業績を伸ばすというものでした。これは、「モノつくりニッポン」の真骨頂でした。

ドイツの戦略は日本と全く逆です。たとえば自動者を例にとると、ベンツやアウディなどは国
際競争力に自信があり、多少高くても買ってくれるという自信もあるので決して「安売り」は
しません。

いずれにしても、日本の古いビジネスモデルは、もはや過去のものになりつつあります。むし
ろ、過度の円安政策の弊害が現われてくるようになりました。

というのも、「円安は日本経済にプラス」といわれてきた構図は変わりつつあるからです。

その一つは、円安になると海外からの輸入品が高くなります。たとえば、1ドルが100円
であった場合、1ドルの商品は100円で買えますが、円安で1ドルが115円になると、
同一商品が115円に値上がりする、という具合です。

次に、円安の製造業へのデメリットをみてみましょう。スマートフォンや家電、衣料品など
身の回りの製品は、かつて日本の得意分野であった国産が普通でした。

しかし現在では、これらの製品やその部品などは輸入品の割合が増えています。たとえば、
日本の自動車産業は、東南アジア諸国から部品を調達するようになっています。

ところが、東南アジアにおけるコロナの流行で工場が閉鎖されて部品を調達できず、日本の
製造を中止せざるを得なくなりました。

また、従来は国産で賄っていた製品の輸入依存度が高まり、円安による物価高が家計を圧迫
するようになりました。

最新データの2021年7~9月期は1ドル=105円40銭程度と、4~6月期の101円ちょうど近辺か
ら4円ほど円安になりました。これは、日本は、わずか3か月の間に輸入額が4%ほど高騰
したことになります。

輸出価格と輸入価格を比べて貿易での稼ぎやすさを交易条件と言いますが、21年7~9月の交
易条件の悪化幅は遡れる05年以降で最大でした。つまり輸出採算が悪化したのです。

ほぼすべてを輸入に依存する原油など資源価格の上昇で、21年7~9月の企業間取引の輸入物
価指数は前年比で3割上昇し、同期間の輸出物価指数の上昇率(1割)を大きく上回りました。

つまり、原材料や部品の輸入価格の上昇のほうが、それを基にして製造した輸出品の価格上
昇より大きかったのです。

それでも、貿易で稼いできた日本では、円高は輸出に不利であるという固定観念から脱する
ことができず、円高が敬遠されてきました。

これには、2011年の東日本大震災などで市場が動揺し1ドル=75円台の最高値をつけました。
この時、企業は海外移転を加速すると同時に、政府も日銀に円高対応を求めました。

円高を避けつつ賃金も抑制して輸出産業を維持しようとする日本政府の政策には明らかに限
界もみえてきました。

規制緩和や働き手の技能向上などで付加価値が高い商品やサービスを生み出し、為替変動に
左右されにくい産業を育てなければ、日本の「貧困化」が加速しかねません。

それでは、円安は私たち消費者の家計にとってどんな影響をあたえているのでしょうか。

これまでの説明から明らかなように、今は円安による輸入物価高が家計の重荷となり円安の
デメリットが実感されるようになっています。

例えばデフレの象徴とされた衣料品。近年は実態が異なります。消費者物価指数の「洋服」
は過去10年間で9%上昇した。婦人用は13%で、とくにワンピースは17%値上がりした。

衣料品は輸入割合が98%で円安の影響を受けやすい商品です。輸入比率が6割の「エアコン」
も21%値上がりした。全品目の物価上昇率の4倍近くに上昇しています。

幅広い生活品目で輸入依存が進んでいます。国内消費に占める輸入品の比率をみると、家電
・家具などの耐久消費財は34%となり、10年ほど前の1.7倍に高まり、食品・衣料品などの
消費財も同1.4倍の25%に上昇しています。

国内経済は低成長で賃金が上がりません。その中での身近な品目の上昇は家計の重圧となっ
てきています(図を参照)。

図 輸入依存度とエンゲル係数の変化

(注1)

私は、食糧自給率が40%を切っている日本において、食費の高騰が大きな問題となること
を心配しています。

例えば家計消費に占める食費の割合を示すエンゲル係数をみると、2000~2010年には22%
を下回っていましたが、2021年1~11月は25%超と、1980年代半ば以来の水準に高まってし
まいました。
エンゲル係数は、生活実態を計る数値なので、これが高まることは、人びとの生活がますま
す「食べること」に限定されることを意味し、貧困化の指標ともなります。

2022年春には、食品メーカは、一斉に商品の値上げを発表しています。これは、食糧の輸入
価格が高騰しているからで、家計消費に占める食費の割合は、さらに上昇するでしょう。

筆者は、まず何よりも、日本の食糧は自国で充足すること主要な目標とすべきだと考えてい
ます。少なくとも、“先進国”を自称するなら、外国に食糧を依存している資格はありません。

冒頭でのべたように、日銀の黒田総裁は、円安について「基本的にプラスの効果が大きい」
との立場を崩していません。

しかし、円安が輸出を押し上げる力は失われつつあります。財務省によると過去10年間の輸
出数量指数は円安局面でも伸び悩んでいる。日銀自身も「円安が輸出数量を押し上げる効果
が弱まってきている」との分析を示しています。

結論を言えば、円安政策は輸出を増加させなかったし、家計の負担増をもたらした言えます。

円高を避けつつ賃金も抑制して輸出産業を維持しようとする政策には限界もみえてきた。規
制緩和や働き手の技能向上などで付加価値が高い商品やサービスを生み出し、為替変動に左
右されにくい産業を育てなければ、日本の「貧困化」が加速しかねません。

そして、輸出産業の保護のため、円安政策を続けることは、国民の家計を圧迫するだけでな
く、そのために赤字国債を発行して巨額のお金を市中に流した結果、将来、悪性インフレを
起こす危険性さえはらんでいます。

コロナに気を取られている間に、私たちの生活を圧迫する政策や事態に警戒する必要があり
ます。


(注1)『日経新聞』デジタル(チャートは語る)2022年1月30日 2:00
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2455T0U2A120C2000000/?n_cid=NMAIL007_20220130_A&unlock=1

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする