スノーデン『日本への警告』を読んで(1)―「共謀罪」との関連で―
スノーデン氏の情報曝露に関しては、映画『スノーデン』を見た感想を、このブログの2017年2月11日と3月4日
の2回にわたって紹介しました。
スノーデンはCIA、NSA(国家安全保障局)、DIA(国防情報局)の職員を歴任した情報に関するプロであり、国家の
最高機密に接することができる、数少ない人物の一人です。
また、彼は日本の横田基地で2年間、スパイ活動に従事していましたので、日本の事情も良く知っています。
その彼が、アメリカ政府が行っている、理不尽な情報監視に疑問を抱き、2013年6月、大量の秘密文書を持ち出して
ロシアに亡命し、それをイギリスのジャーナリストに渡して機密文書を世界に曝露しました。
上記の映画『スノーデン』はそのブロセスは再現したもので、本人も登場します。
その後、NHKの「クローズアップ現代」で今年4月の24日と27日に、今まで公開されなかった、日本に関する
13の「スノーデンファイル」が公開されました。
24日には①アメリカが日本をスパイ活動に利用している、②アメリカが日本を監視対象に? の2点について、
27日には③大量監視プログラムを日本に提供? について紹介しています。
そして、NHKのスタッフは亡命中のスノーデンをモスクワに訪ねてインタビューもしています。
今回はこれらの映像も含めて、スノーデン著『日本への警告』(集英社、2017年5月)を読んだ感想を、とりわ
け「共謀罪」との関連で書いてみたいと思います。
『日本への警告』は2016年6月4日、東京大学本郷キャンパスで行われたシンポジウム「監視の“今”を考える」
を完全翻訳したものであり、スノーデン氏はインターネット画面を通じてこのシンポジウムに参加しています。
本書は二部構成となっており、一部は、スノーデン氏自身が登場して主催者の質問にスノーデン氏が答えるとい
う形の内容が収録されています。
二部は、それを基に日本側から4人のジャーナリスト(青木理)、弁護士(井桁大介、金昌浩)、憲法学者(宮
下紘)が、アメリカ側から、ニューヨークの人権団体のムスリム監視事件の弁護人(マリコ・ヒロセ)とスノー
デンの法律アドバイザー(ベン・ワイズナー)が、さまざま経験と観点から、スノーデンのメッセージとその意
義について討論しています。
まず、第一部、スノーデン自身が語っている内容を見てみましょう。
彼は、どのようにして情報の世界と関わるようになったか、という質問に次のように答えています。
彼は冒頭で、自分は真の意味で愛国者であること、しかし、NSAのスパイ活動を通じてアメリカという国家の民
主主義に強い危機感を抱くようになり、その実態を世界に知らせるために、極秘ファイルをもって亡命したこと
を語っています。
彼は、民主主義は政府が十分な情報を公開し、選挙で選ばれて初めて正当性を持ち得るのに、もし、政府の施策
について情報を隠し、嘘をついているとなれば、それは民主主義の根底が否定されることになる、と主張します。
政府の中にこのことに反対する人がいるとするならば、それがトップの安倍首相であれ、自衛隊や防衛
省の事務方であれ、地方自治体の職員であれ・・・・この民主主義の原理を信じていない人がいるなら
ば、そこから政府の腐敗ははじまるのです。
ここでは、日本の政府にも、断定的ではなく、“もし~ならば” という仮定の話として語っていますが、彼は
日本の実情をよく知ったうえで、話していると思われます。
彼自身が従事していた、スパイ活動の中で、NSAの監視プログラムについて概略を説明しています。
一つは、ターゲット・サーベイで、主に軍事的な組織を標的にし、相手リーダーの電話を監視することです。
次は、軍事ではなく外交的、経済的、政治的に優位に立つために行われる監視です。例えばアメリカは同盟国の
ドイツのメルケル首相の携帯電話を盗聴していました。
このほか、石油会社、NGO、ジャーナリストを監視対象とします。これが無差別・網羅的な監視です。
これを行うためアメリカ政府は、グーグル、フェイスブック、アップル、マイクロソフト、ヤフーなどのインター
ネット・サービス・プロバイダやネットワーク・コミュニケーションのシステムとインフラ、光ファイバー回線、
衛星などの設備を提供する、通信事業社などに協力させます。
政府はこれらの会社を経由する全ての通信情報にアクセスして盗聴できます。そして膨大な量のマス・データから
自分たちが求めている情報を選り分けて入手しています。
これをマス・サーベイランスと呼び、無差別のマス・サーベイランスは国際法上、多くの国では国内法上、許され
ない捜査となっています。
本来、アメリカでも、犯罪に関わった疑いの無い人や犯罪に手を染めていない人は、国に詮索されない権利を持っ
ていました。
しかし、スノーデンが経験し目撃したのは、この権利が侵害されている実態でした。
あらゆる場所であらゆる人を監視対象とするようになったのです。
スノーデンは、日本でいえば、スイカ、パスモ、携帯電話を使うたびにマス・データを作っていることになります。
また、グーグルの検索ボックスに入力した単語の記録は永遠に残ります。
問題は、こうしたデータを警察なり政府が自由に利用できるかどうか、とりわけ、日本の現状はどうなっているか、
です。
現在、ヨーロッパおアメリカ間は光ファイバーによってつなげられ、それは海底ケーブルによって伝達されますが、
ここを経由した情報は最終的にはアメリカを通ることになる。
アメリカの通信会社は、こうした情報に関してNSAにたいして無制限のアクセスを許可しています。つまり、国
家は全ての通信情報を傍受・盗聴できるのです。
日本とアメリカとでは情報収集と交換に関してどのような協定があるのか、との質問に対してスンーデンは直接
には答えませんでしたが、彼の経験で、NASが保管している情報には日本発のものが多数あったということです。
また、彼が横田基地でアメリカと日本の情報機関の橋渡しをする施設で働いていた時、アメリカの情報機関は、常
時、日本の情報機関と情報を交換していた、と語っています。
今や、アメリカもイギリスも人権活動家やジャーナリストを常時監視し情報を交換していることは周知の事実とな
っています。
彼は、日本における政府の情報監視に関して、次のように危機感を述べています。
ここ数年の日本をみると、残念ながら市民が政府を監視する力が低下しつつあるといわざるを得ません。
2013年には、政府がほとんどフリーハンドで情報を秘密にできる特定秘密保護法を、多数の反対に
もかかわらず制定されてしまいました。
このような秘密主義は、政治の意思決定のプロセスや官僚の質を変えてしまうから、ジャーナリスト、言い換えれ
ば国民は、それを知るべきである、と彼は言います。
政府が安全保障を理由として、政策の実施過程は説明せず、単に法律に従っていると説明するだけでとな
れば、・・・やがて政府による法律の濫用が始まるでしょう。政府からすれば、何をやっても伝えなくて
はよいという普遍的な正当性の盾をもっているとおもうわけですから。
スノーデンは、非常に柔らかい表現ではありますが、日本の現状、とりわけ政府による法律の濫用に危惧をいだい
ています。
彼は、日本でも全体主義が拡大していることに危惧を抱くと同時に、憲法9条を正規の法改正ではなく「裏口入学」
のような法解釈を行ってしまったことを問題視しています。
なぜなら、「これは世論、さらには政府に対する憲法の制約を意図的に破壊したといえます」と述べています。に
危惧を表明しています。
政府が「世論は関係ない」、「三分の二の国民が政策に反対しても関係ない」、「国民の支持がなくても
どうでもいい」と言い始めているのは、大変危険です。
こうした状況に対して、メディアも連帯して、政府の政策や活動を批判しないようプレッシャーを掛けてくる政府
に対抗する必要があるのに、日本の報道は危機的状況にある、というのがスノーデンの認識です。
これについては、次回に詳しく紹介したいと思います。
スノーデン氏の情報曝露に関しては、映画『スノーデン』を見た感想を、このブログの2017年2月11日と3月4日
の2回にわたって紹介しました。
スノーデンはCIA、NSA(国家安全保障局)、DIA(国防情報局)の職員を歴任した情報に関するプロであり、国家の
最高機密に接することができる、数少ない人物の一人です。
また、彼は日本の横田基地で2年間、スパイ活動に従事していましたので、日本の事情も良く知っています。
その彼が、アメリカ政府が行っている、理不尽な情報監視に疑問を抱き、2013年6月、大量の秘密文書を持ち出して
ロシアに亡命し、それをイギリスのジャーナリストに渡して機密文書を世界に曝露しました。
上記の映画『スノーデン』はそのブロセスは再現したもので、本人も登場します。
その後、NHKの「クローズアップ現代」で今年4月の24日と27日に、今まで公開されなかった、日本に関する
13の「スノーデンファイル」が公開されました。
24日には①アメリカが日本をスパイ活動に利用している、②アメリカが日本を監視対象に? の2点について、
27日には③大量監視プログラムを日本に提供? について紹介しています。
そして、NHKのスタッフは亡命中のスノーデンをモスクワに訪ねてインタビューもしています。
今回はこれらの映像も含めて、スノーデン著『日本への警告』(集英社、2017年5月)を読んだ感想を、とりわ
け「共謀罪」との関連で書いてみたいと思います。
『日本への警告』は2016年6月4日、東京大学本郷キャンパスで行われたシンポジウム「監視の“今”を考える」
を完全翻訳したものであり、スノーデン氏はインターネット画面を通じてこのシンポジウムに参加しています。
本書は二部構成となっており、一部は、スノーデン氏自身が登場して主催者の質問にスノーデン氏が答えるとい
う形の内容が収録されています。
二部は、それを基に日本側から4人のジャーナリスト(青木理)、弁護士(井桁大介、金昌浩)、憲法学者(宮
下紘)が、アメリカ側から、ニューヨークの人権団体のムスリム監視事件の弁護人(マリコ・ヒロセ)とスノー
デンの法律アドバイザー(ベン・ワイズナー)が、さまざま経験と観点から、スノーデンのメッセージとその意
義について討論しています。
まず、第一部、スノーデン自身が語っている内容を見てみましょう。
彼は、どのようにして情報の世界と関わるようになったか、という質問に次のように答えています。
彼は冒頭で、自分は真の意味で愛国者であること、しかし、NSAのスパイ活動を通じてアメリカという国家の民
主主義に強い危機感を抱くようになり、その実態を世界に知らせるために、極秘ファイルをもって亡命したこと
を語っています。
彼は、民主主義は政府が十分な情報を公開し、選挙で選ばれて初めて正当性を持ち得るのに、もし、政府の施策
について情報を隠し、嘘をついているとなれば、それは民主主義の根底が否定されることになる、と主張します。
政府の中にこのことに反対する人がいるとするならば、それがトップの安倍首相であれ、自衛隊や防衛
省の事務方であれ、地方自治体の職員であれ・・・・この民主主義の原理を信じていない人がいるなら
ば、そこから政府の腐敗ははじまるのです。
ここでは、日本の政府にも、断定的ではなく、“もし~ならば” という仮定の話として語っていますが、彼は
日本の実情をよく知ったうえで、話していると思われます。
彼自身が従事していた、スパイ活動の中で、NSAの監視プログラムについて概略を説明しています。
一つは、ターゲット・サーベイで、主に軍事的な組織を標的にし、相手リーダーの電話を監視することです。
次は、軍事ではなく外交的、経済的、政治的に優位に立つために行われる監視です。例えばアメリカは同盟国の
ドイツのメルケル首相の携帯電話を盗聴していました。
このほか、石油会社、NGO、ジャーナリストを監視対象とします。これが無差別・網羅的な監視です。
これを行うためアメリカ政府は、グーグル、フェイスブック、アップル、マイクロソフト、ヤフーなどのインター
ネット・サービス・プロバイダやネットワーク・コミュニケーションのシステムとインフラ、光ファイバー回線、
衛星などの設備を提供する、通信事業社などに協力させます。
政府はこれらの会社を経由する全ての通信情報にアクセスして盗聴できます。そして膨大な量のマス・データから
自分たちが求めている情報を選り分けて入手しています。
これをマス・サーベイランスと呼び、無差別のマス・サーベイランスは国際法上、多くの国では国内法上、許され
ない捜査となっています。
本来、アメリカでも、犯罪に関わった疑いの無い人や犯罪に手を染めていない人は、国に詮索されない権利を持っ
ていました。
しかし、スノーデンが経験し目撃したのは、この権利が侵害されている実態でした。
あらゆる場所であらゆる人を監視対象とするようになったのです。
スノーデンは、日本でいえば、スイカ、パスモ、携帯電話を使うたびにマス・データを作っていることになります。
また、グーグルの検索ボックスに入力した単語の記録は永遠に残ります。
問題は、こうしたデータを警察なり政府が自由に利用できるかどうか、とりわけ、日本の現状はどうなっているか、
です。
現在、ヨーロッパおアメリカ間は光ファイバーによってつなげられ、それは海底ケーブルによって伝達されますが、
ここを経由した情報は最終的にはアメリカを通ることになる。
アメリカの通信会社は、こうした情報に関してNSAにたいして無制限のアクセスを許可しています。つまり、国
家は全ての通信情報を傍受・盗聴できるのです。
日本とアメリカとでは情報収集と交換に関してどのような協定があるのか、との質問に対してスンーデンは直接
には答えませんでしたが、彼の経験で、NASが保管している情報には日本発のものが多数あったということです。
また、彼が横田基地でアメリカと日本の情報機関の橋渡しをする施設で働いていた時、アメリカの情報機関は、常
時、日本の情報機関と情報を交換していた、と語っています。
今や、アメリカもイギリスも人権活動家やジャーナリストを常時監視し情報を交換していることは周知の事実とな
っています。
彼は、日本における政府の情報監視に関して、次のように危機感を述べています。
ここ数年の日本をみると、残念ながら市民が政府を監視する力が低下しつつあるといわざるを得ません。
2013年には、政府がほとんどフリーハンドで情報を秘密にできる特定秘密保護法を、多数の反対に
もかかわらず制定されてしまいました。
このような秘密主義は、政治の意思決定のプロセスや官僚の質を変えてしまうから、ジャーナリスト、言い換えれ
ば国民は、それを知るべきである、と彼は言います。
政府が安全保障を理由として、政策の実施過程は説明せず、単に法律に従っていると説明するだけでとな
れば、・・・やがて政府による法律の濫用が始まるでしょう。政府からすれば、何をやっても伝えなくて
はよいという普遍的な正当性の盾をもっているとおもうわけですから。
スノーデンは、非常に柔らかい表現ではありますが、日本の現状、とりわけ政府による法律の濫用に危惧をいだい
ています。
彼は、日本でも全体主義が拡大していることに危惧を抱くと同時に、憲法9条を正規の法改正ではなく「裏口入学」
のような法解釈を行ってしまったことを問題視しています。
なぜなら、「これは世論、さらには政府に対する憲法の制約を意図的に破壊したといえます」と述べています。に
危惧を表明しています。
政府が「世論は関係ない」、「三分の二の国民が政策に反対しても関係ない」、「国民の支持がなくても
どうでもいい」と言い始めているのは、大変危険です。
こうした状況に対して、メディアも連帯して、政府の政策や活動を批判しないようプレッシャーを掛けてくる政府
に対抗する必要があるのに、日本の報道は危機的状況にある、というのがスノーデンの認識です。
これについては、次回に詳しく紹介したいと思います。